「深窓の令嬢、だけど実はすごく面白い女性」
ミュージカル『紳士のための愛と殺人の手引き』でフィービー役を演じる【宮澤エマさん】
市村正親さんが8回殺される!? 2014年のトニー賞作品賞・脚本賞ほか四冠に輝いたブラックコメディの傑作がいよいよ日本上陸!
物語の舞台は1900年代初頭、エドワード朝時代のイギリス。伯爵位継承権8番目であることを告げられた男モンティ(ウエンツ瑛士さん・柿澤勇人さん/Wキャスト)が、邪魔者である大富豪の貴族たちを思わぬ方法で次々に手にかけていく…。
現伯爵を含め、銀行家、筋肉信奉の軍人、聖職者、慈善活動に熱心な婦人から女優まで、爵位継承権を持ちモンティに狙われる8役を演じるのは…
全員、市村正親さん! 4月に東京の日生劇場で上演。その後、大阪の梅田芸術劇場メインホールほか、福岡、愛知で上演される
ミュージカル「紳士のための愛と殺人の手引き」。
モンティと恋に落ちる深窓の令嬢・フィービー役を演じる
宮澤エマさんが、大阪にて合同取材会を行い、公演への意気込みを語ってくれました。
◆【音楽、芝居、英国階級社会──すべてにおいて“ギャップ”が大きなテーマ】
「内面を見てほしい、というフィービーの思いに共感します」
──役柄について。ご自身と重なるところもあるのでは? フィービーは郊外で暮らしている貴族の娘。日本風にいうなら“箱入り娘”です。あまり社会との関わりを持っていなかったけれど、実はすごく個性があって頭の良い女性。モンティと出会ったことで「ほんとうの自分を知ってほしい」と願うようになります。
私も祖父の肩書から先入観を持たれて、ものすごいお嬢様と思われてしまうこともあります。「内面を見てほしい」という彼女の思いには共感する部分があるかもしれません。
“主人公と恋に落ちる貴族の令嬢役”という設定から「こんな役だろうな」とみなさんが想像するのとはギャップのある役柄。衣装や立ち居振る舞いなどは確かにお嬢様なのですが、「あれ、こんな人だったの?」思っていただければ嬉しいですね。イメージと実際とのギャップを大事にすることでユーモラスな面白さが出てくるのではと思っています。
「英国階級社会の微妙な“クラス感”が作品のひとつのテーマでもあります」
──イギリス独特の階級社会の仕組みが、作品の重要な要素でもある? 貴族たちは社会のロールモデルであり、華やかで素敵に見えている人たちですよね。市村さんが演じられる8人も伯爵家の人間ですが、秘密の逢瀬を重ねている人がいたり、慈善事業に熱心だけど実はそれは自分のエゴのためだったり…と外面のイメージとのギャップがある。そのなかで、モンティが上を目指すのはなんのためなのか。それがこの作品の大事なポイントになると思います。
いわゆるUPPER CLASS(上流階級)の人々のお話ですが、主人公のモンティはUPPER MIDDLE CLASS(中流階級の上位層)という立場。底辺ではない、でも上流でもない。そこからちょっと上を目指すというお話です。その微妙な“クラス感”を日本のお客さまにどうお伝えしていくのか。これから1900年代初頭のイギリス貴族を描いた作品などを見てもっと勉強したいと思っています。
「人が殺されているのに、笑ってしまう…そんな自分に驚きました!」
──殺人が次々に起こる、と聞くと、ほんとうにコメディかなと思いますが… 「8人を次々に殺していく話」という設定が、どうコメディになっていくのか。そのギャップも見どころです。殺される8人はそれぞれに殺されるべき理由があるんですね。悪い人だからって殺されていいわけではないですが、悪人が退治される痛快さがあります。歌舞伎などでもそうですが、「悪い奴だからこそ、おもしろい」という感覚が日本人にもあると思います。「一番上で輝いている人が地に落ちるのを見てみたい」という願望もどこかにあるのでは。実際にはできないことだからこそ、お芝居で見るのが痛快なのではないでしょうか。
第一の殺人は、ある意外な方法で行われます。ブロードウェイで観劇したときも「こんなに簡単に人を殺せるなんて」と、それが一番の驚きでしたね。同時にそこで大笑いしている自分がいることにも驚きでした(笑)。そこがまずお客さまを引き込むフックになるかなと。市村正親さんが出演されていた『スウィーニー・トッド』のような生々しい殺し方ではないので、そこはあまり気にせずに楽しんでいただけると思います。
──フィービーのソロナンバーではかなりの高音に挑戦されるとか。作品の音楽的魅力についても教えて下さい。 最近のブロードウェイはポップス寄りの作品が多いんです。そのなかでこの作品の音楽はクラシカルな魅力がある。そこに新鮮さを感じました。ロマンチックな音楽に、過激でリアリティのある歌詞がのっている(笑)、そのギャップも魅力的です。
ブロードウェイでフィービー役を演じていたのはオペラの経験がある方で、ソロナンバーの高音が印象的でした。自分が演じることになってあらためて譜面を見たときは…なるほど、これはかなり挑戦し甲斐があるな、と(笑)。
『天使にラブソングを』ではゴスペルやR&B寄りの曲調、高音も地声で歌っていましたが、今回は裏声。これまであまり経験のない発声方法ですが、フィービーのキャラクターを感じていただける曲調、歌い方だと思いますので、これから歌稽古でビシビシしごいていただこうと。コーラスもすごく素敵です。でも歌うのは難しくて、みんなヒイヒイ言ってる(笑)。ソンドハイムの楽曲とはまた違って耳触りはいいのに、音の構造が複雑なんです。
フィービーのソロナンバーはなかでも特にクラシカルでロマンチックな美しい楽曲で、モンティが恋に落ちるのがわかる気がします。でも技術的にはすごく難しい。チャレンジですね。
「タイミングですべてが変わる、と歌うモンティとシベラとの三重唱は、それこそ絶妙なタイミングのズレでユーモアが生まれる歌。うまくいけばきっとお客さまに楽しんでもらえるはず!」
──初共演となる市村正親さん、そのほか共演者について 『ラ・マンチャの男』でご一緒した松本幸四郎さんもそうですが、大御所の方は稽古場で多くを語らずとも、その役、演技で何かを見せてくださることが多い。市村さんもきっと稽古場で何かを感じさせてくれるのではと今からとても楽しみにしています。
ダブルキャストのモンティ役、ウエンツ瑛士さんとはお互いに「初めましての気がしないよね」って(笑)。ハーフ同士で、出演するテレビ番組も似たテイストのものがあるからでしょうか。もうひとりのモンティ役の柿澤勇人さんとは、私の初舞台『メリリー・ウィー・ロール・アロング』でご一緒して以来。柿澤さんの役に片想いをして報われない関係でした。今回もシベラとの三角関係で「なかなかうまくいかないね」と(笑)。
殺人を繰り返すモンティですが、ふたりの女性がメロメロになってしまう魅力がある役。彼自身も貴族的な血と、カスティリアの情熱的な血が流れているハーフという設定です。モンティのなかにもギャップがあるんですね。ふたつの魅力をお二人がどう表現するのか、楽しみです。
◆ 出演はこのほかに、モンティをめぐって三角関係になる“ピンク大好き!”上昇志向の強い女性シベラ役にシルビア・グラブさん、モンティに爵位継承権があることを告げる謎の女性ミス・シングル役に春風ひとみさん。
そして次々に殺されていく貴族たちを演じるのは…すべて
市村正親さんです!
あまりにもバカバカしい殺され方に笑いが止まらない!?
貴族のイメージと現実のギャップ、美しい音楽と辛辣なセリフのギャップ、登場人物たちの外面と内心のギャップ…そしてもちろん、登場するたびに別の人物になり変わる市村正親さんの演技のギャップ!
ミュージカル『紳士のための愛と殺人の手引き』。クラシカルな印象を受けるそのタイトルと、実際の舞台にもギャップがあるかもしれません♪
【宮澤エマさんコメント映像】
取材:mamiko(文),hase(撮影) 監修:おけぴ管理人