大阪松竹座にそろってご出演となるのは、実に8年ぶりという猿之助さん、勘九郎さん、七之助さんが、
松竹座『五月花形歌舞伎』取材会にて意気込みを語りました。
中村七之助さん、市川猿之助さん、中村勘九郎さん
【ごあいさつ】
猿之助) 勘九郎さん、七之助さんとがっぷり組むのは浅草歌舞伎を一緒にやっていたころ以来です。この頃は単品で売られることが多くて(笑)。ようやく(ご一緒)できるというよろこびでいっぱいです。狂言(演目)も昼夜とも
それぞれの家が得意としているものですので、楽しみにしていただきたいと思います。
夜の部の早く終わるものですので、東京からも日帰りできますよ。
勘九郎) 猿之助さんと大阪でね。
浅草で一緒にやった時間というのは、私にとって宝物です。こうしてみんなおじさんになって(笑)、また、大阪へ行けるのがうれしいです。
七之助) 純粋に、この三人で芝居ができることが懐かしいですね。もう(芝居の)
呼吸はわかっておりますので楽しみです。大阪のみなさん、待っていてください!
【澤瀉屋と中村屋、互いに認め合う素敵な関係】
──久しぶりの競演となる五月花形歌舞伎、今はそれぞれの家を背負って立つみなさんです。
猿之助) 澤瀉屋と中村屋って、お互い尊敬しているからあまり近くなりすぎない。とってもいい関係だと思うんです。勘三郎のお兄さんとはあまりご一緒したことはなかったのですが、熱く語り合ったことを覚えています。うれしかったのは、「あんたは(舞台に)出た途端、お客様に魔法の粉をかけるんだよね」って言われたこと。
中村屋からそう言われたことは一生の誇り。一生大切にしたい言葉です。だから僕は魔法の粉を振り続けていきたい。勘九郎) そのときのことは覚えていますよ。すぐ電話がかかってきましたから!
「すごいよ、俺に似てるよ!」って(笑)。
猿之助) え、そういうことなの(笑)!
勘九郎) 自分基準かよって(笑)
場内笑! 勘九郎) その(中村屋の)作品に僕が出るというのは、今だからこそ面白いよね。別々に修行してきて、今、だからこそお客様も楽しみにしてくれるんじゃないかな。
──みなさんの浅草チームが松竹座で公演をしたのは2009年が最後です。あの頃を思い返すと。勘九郎) あの頃の、
あのパワーは一生忘れないと思います。
三人)序幕が『毛抜』、『鷺娘』、『女殺油地獄』、夜が『吹雪峠』、『実盛』、『蜘蛛絲梓弦』(…演目がスラスラと)
──すると、一枚のチラシが(みなさんがご覧になっているのは
平成21年松竹座『二月花形歌舞伎』のちらし)
うわぁ、懐かし!
猿之助) 今は楽しかったと振り返るけれど、
あの頃は余裕がなかったよね。今も大余裕ということはないけど、やっぱりあの頃より楽しめると思う。
七之助) プライベートで一緒に飲みに行ったとかは一切なかったんです。でも、
やっていることに充実感がありましたし、お客様の熱もすごかったです。
猿之助) あの頃は、
一年に一回会うのが当たり前でしたからね。
勘九郎) 浅草が
一年のはじまりであり、一年間何をしてきたのかをぶつけ合う締めくくりでした。
続いては、久々の顔合わせとなる今回の演目についてのコメントをご紹介いたします。
【演目について】
■昼の部■<戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)> 浪花っ子の次郎作(勘九郎)と江戸っ子の与四郎(歌昇)二人の駕籠の担ぎ手が、互いのお国自慢、東西の廓の自慢話をはじめて…という人気舞踊。
勘九郎) 歌昇さんとご一緒するのが楽しみです。魅力はばかばかしさじゃないですか(笑)。こういうばかばかしさ、大らかさも歌舞伎の魅力だと思います。
<三代猿之助四十八撰の内 金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)> 四世鶴屋南北の絶筆となった作品。
猿之助) 四十八撰の中でもお芝居、舞踊の両方が入っていて、スペクタクル性もある作品です。今回は忠文と清姫のくだりに絞って上演します。そこは嫉妬、現代にも通じるわかりやすさがある。そして、道成寺のパロディでもあります。
ただ、私がふた月続けて「道成寺」なんです。(来月、歌舞伎座『四月大歌舞伎』夜の部にて「奴道成寺」)恰好も全く一緒、三つ面も使いますし。ですので、双面(ふたおもて)のほうを短くしようかと思っています。
──両作品を見比べるのも面白そうです!そして、スペクタクル性という意味では猿之助さんの宙乗りもお楽しみですね。猿之助さんは5月16日の公演で、宙乗り1000回を達成されます!
猿之助) 1000回はあっという間でした。こうして浅草のメンバーとの公演中に迎えられるのはうれしいですね。でも、猿翁の記録までにはあと4000回はしないと(笑)。
──ちなみに猿翁さんは宙乗り5844回とのこと!勘九郎) 最初は?
猿之助) 小学校5年生のとき『雙生隅田川』でした。(最年少での宙乗りと話題に!)
七之助) それ、映像で見ました!
──1000回の公演では、なにかスペシャルな演出が?猿之助) 何かしたほうが話題にはなるでしょうけど、ただ、楽しい演目じゃないから…。怨念になって飛んでいくときに「1000か~い」っていうのもね。ワンピースとかだったら違うんでしょうけど(笑)。
「1000か~い!」はちょっとね(笑)
──宙乗りだけでなく、早替えもあるこの作品、四役と体力的にもハードそうですが。猿之助) 四役では堪えないようになりました。人間慣れるものですね(笑)。どの舞台でもそうですが、やればやるほど無駄な力が抜けていくんです。普通は若い頃のほうが楽だと思われるのですが、歳を重ねたほうが楽になるんです。
ただ、この宙乗りや早替えが趣向に終わってはいけないと思います。忠文も清姫も短い場面でそれぞれの人物像を見せておかないと、双面の面白さがなくなってしまします。また、猿翁のおじは“人にあらざる者”が非常によかった。だから(僕にとっては)狂言師升六の中性的な雰囲気で出てくるところが難しいですね。僕はどうしても女形をやっていたので、立役が弱いんです。そこを克服したいです。
■夜の部■<野崎村> 大坂の東、野崎村にある百姓久作の家。娘のお光とこの家で育てられた久松、久松が奉公する油屋の娘お染、若い三人のせつない恋の結末は…。さらに、若者たちの恋の行方を案じる父親久作の情愛などが細やかに描かれた世話物の名作。
七之助) 歌舞伎座で父の追善でやらせてもらったときは、おっかさんが出る演出でしたが、今回は出ません。でも、おっかさんがいる心持ちでやらせてもらいます。名優たちが演じてきたこの役、しっかりとした義太夫狂言の名作をきちっとやり、その中でより深く心情が乗るように誠実に勤めていきたいと思います。
猿之助) 『野崎村』には思い出があるんです。神谷町のおじ様(七代目中村芝翫)が大事にされていた役でね。手とり足とり教えていただきました。今回、その お光役をたかちゃん(七之助さん)がやるのが楽しみ。
勘九郎) あのときは、僕らがお染をダブルキャストでやらせてもらいましたね。
猿之助) ダブル?僕、たかちゃんは覚えているけど…。
松竹座) はい、ダブルキャストでした。
勘九郎) でしょ。ヒドイ!!
場内笑!!<怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)> 三遊亭円朝の口演をもとにした怪談噺。早替りをはじめ、本水を使った滝壺での大立廻りなど見せ場のあふれる芝居。
勘九郎) うちの父( 勘三郎)も滝の(シーンの)後についてはいろいろと試行錯誤した作品です。今回は、猿之助さんが浪江ということで、大詰めをやりたいんです。猿之助さんのお知恵をお借りして、面白いことになればいいなと思っています。
こういう形で、猿之助さんと悪役-悪役で一緒に出るのはあまりないですよね。
猿之助) 僕は四十八撰以外では、悪い人はあまりやったことがないんですよ。だからよそのお家のもので悪役ということ自体が珍しい。
勘九郎) すごく楽しみですね。
さきほど猿之助さんがおっしゃったように、この演目も趣向に終わってはいけないと思いながらやっています。また、父が上演するときは必ず延若のおじ様(この作品を復活上演させた上方の歌舞伎役者三世實川延若)の名を入れると言っていたので、今回も入れました。江戸の話ですが、もともと大阪の匂いがあるこの演目を大阪で出来ることをうれしく思います。
「また浅草で一緒にやっていたみんなでやりたいね」とおっしゃっていましたが、それぞれに大活躍にみなさんですので、それは夢のようなお話。こうしてお三方の揃い踏みというだけでも大変レアな公演になりそうですね。久しぶりの競演が激熱な舞台を生み出しそうな予感いっぱいの取材班でした。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人