【感想&舞台写真追記】かさなる視点―日本戯曲の力―vol.3『マリアの首-幻に長崎を想う曲-』稽古場レポート

現在上演中


 30代の気鋭の演出家3人が昭和30年代に書かれた秀作を演出する、新国立劇場 演劇2016-2017シーズン注目のシリーズ、「かさなる視点-日本の戯曲の力-」のラストを飾るのは作・田中千禾夫×演出・小川絵梨子の『マリアの首-幻に長崎を想う曲-』


【感想追記5/18】


◆20年代後半の長崎、原爆の後遺症に体や心を苛まれる登場人物達...戦後70年を過ぎた今では、理解するにはあまりに現代とかけ離れた風景や人々が、驚くほど目の前に迫ってくる舞台でした。
 正直、長崎弁の一部は聞き取れず、台詞の一部は詩的すぎて難解、そのため、登場人物のバックグラウンドなどは初見のみでは把握しきれませんでした。しかしそれをカバーするほどの情熱あふれる演技に、舞台にぐいぐいと引き込まれてゆきました。
 特に演出は素晴らしく、洗練されていて合理的で、登場人物の心情にフォーカスする手法に優れていたと思います。場面のつなぎ方や台詞が非常テンポよく、体感の舞台時間が短く感じました。素晴らしい舞台でした。

◆小川絵梨子さんの演出に興味があり観に行きましたが、鈴木杏さんの熱演にしびれました!
 戦後の長崎を舞台に、生きる意味を問い、抑圧されながら葛藤しながら生きた3人の女性。鈴木杏さん演じる鹿と伊勢佳世さん演じる忍からは抑圧されながら救いを求める力強いエネルギーの塊を感じ、峯村リエさん演じる静からは母性のような包容力を感じました。最後のシーンで救われました。

◆初演の渡辺美佐子さんや楠侑子さんは同時代性・メッセージ性を強く出していたと想像するのですが、鈴木杏さん、伊勢佳世さんは現代的で普遍的な問い掛けとして表現しているようです。好演と感じます。装置と照明もシンプルで、戦後の長崎に止まらない、惨禍の爪痕のように思える。前面に降る雪のカーテンが深刻なテーマを叙情的に包んで素敵です。

◆まず最初に鹿を演じた鈴木杏の演技は傑出していた。脇を固める俳優陣も素晴らしかった。特に忍役の伊勢佳世の説得力ある芝居は素晴らしかった。照明による陰と陽をデフォルメしているのが効果的であった。

◆まさに骨太の新劇。終戦から十数年経った長崎が舞台。浦上天主堂のマリア像を信仰を強くもった人達で持ちだそうとする。
 テーマが多く、難解なところもあったけれど、全てはわからなくていいのかなと感じた。鈴木杏さん、伊勢佳世さんの迫真の演技を観られてよかった。

◆ちょっと難解な言葉を多用する長セリフと、長崎弁が一緒になるので、聴き取りづらいです。目よりも、耳を大きく開く心づもり(笑)で臨んで下さい。
 最後の雪が降るシーンが綺麗でした。


【舞台写真が届きました】



鈴木杏さん(撮影:谷古宇正彦)


左から)伊勢佳世さん、鈴木杏さん、斉藤直樹さん(撮影:谷古宇正彦)


【稽古場レポート】



先ごろ発表された第24回読売演劇大賞で最優秀女優賞受賞の鈴木杏さん主演でも話題のこの作品!

 昭和30年代前半の長崎を舞台に、3人の女たちの生きざまを軸に「戦争」、「生きる」ことを描いた作品。
 原爆投下後、被爆した浦上天主堂を保存するか否かで物議を醸していたなかで、マリア像の残骸を秘密裏に拾い集める女たち。忘れようとする人たち、忘れまいとする人たち、さまざまな想いが交錯していきます。

 稽古場に入って、まず目に飛び込んできたのは木製のセット。それが回転することによって、街角、病院の一室、住居へと変わっていきます。舞台美術を手掛けるのは、第24回読売演劇大賞 大賞・最優秀スタッフ賞受賞の堀尾幸男さん。小川絵梨子さんをリーダーに、今の日本演劇界の才能が集結した、シリーズラストを飾るにふさわしい布陣です。(おけぴ公演NEWS


【めくるめくオープニング】



雑踏の中にたたずむ人々、その関係性はものがたりの中で解き明かされる…
それが見え隠れするドラマがギュギュっと詰まったオープニング


鹿・鈴木杏さん


義足の男・斉藤直樹さん、街角に立つ女たち岡崎さつきさん、西岡未央さん


親分次五郎・谷川昭一朗さん


船員風の男、チョウ・ヨンホさん


老人・山野史人さん、忍・伊勢佳世さん

 女たちに対して、男優さんは2役を演じます。その配役も、とても興味深いです(どなたがどの役かは見てのお楽しみ)!!


【長崎の街で暮らす3人の女たち】

 田中千禾夫が、このものがたりに鹿、忍、静という3人の女性を配したのはなぜなのか。それも舞台上で生きている3人を見ているとじわじわとわかってくるようです。それぞれの人物、それを演じる女優さんの競演もお楽しみに。



昼は看護婦として働き、夜はケロイドを包帯で隠して娼婦として働く鹿(鈴木杏さん)

 言葉と視線、耳も目も鈴木さんのお芝居にくぎ付けです!(お芝居については、また後ほど!)



病気の夫の詩集と薬を売りながら客引きをし、生計を立てている忍(伊勢佳世さん)

 夫の詩を語る忍の声、因縁の男と対峙したときの悲痛な叫びのような声、表情をあまり変えない忍を演じる伊勢さんの声と醸し出す“気”のお芝居にも惹きつけられます。



鹿と忍が働く病院で献身的に働く看護婦の静(峯村リエさん)
写真左は入院患者の矢張(亀田佳明さん)


 峯村さん演じる静のシーンはホッとする瞬間です。ミステリアスな矢張もこの時ばかりは軽口をたたき、二人のやりとりが絶妙のテンポで進みます。そこに、鹿が登場し、その後、義足の男が登場し…、そのたびに場の空気が一変します。彼なりの正義を持つ矢張の口調も大きく変化するのですが、人ってそんなものですよね。そんな面白さも感じます。


 事情のある女たち、そして彼女たちに関わる男たち。それぞれの人生の断片が組み合わさって、ひとつのドラマが浮かび上がります。すべてを事細かに描いていないことで、生々しい日常を描いていながら「幻」とついていることにも説得力を感じるのです。


【演出は小川絵梨子さん】

 演出を手がけるのは新国立劇場の次期演劇芸術監督への就任が決定している小川絵梨子さん。小川さんというと、これまでに翻訳劇を多く手がけられていますが、今回は日本の戯曲です!30代の小川さんが立ち上げるあの時代、あの土地のものがたりというだけでも楽しみですよね。
 


鹿たちが働く坂本病院の入院患者・矢張(亀田佳明さん)の病室でのシーンでの一コマ。


鹿の視線の先に、長崎の街の景色が、マリア像が見えるようです


 この日、数シーンを通して確認をしていく稽古のなかで印象的だったのは「実音で」という言葉です。台詞を発するときに、空気が入らない、ストレートに強く発するようにというリクエストです。
 それによって、鈴木杏さん演じる鹿の言葉がより一層の凄みを帯びます。マリアへ問いかけるシーンでしたが、美しいその顔にやけどの跡が残り、看護師でもあり娼婦でもある鹿。この強さは信仰によるものなのか、もともと彼女が持っていたものなのか…、最初は完全にその迫力に気圧され、ものすごい人だなと。でも、それはもしかしたらか弱さの裏返し、強くならざるを得なかった女性の祈りであり、叫びなのかもしれない。そう思った瞬間に、それまでとまた全く違う鹿の人生が見えた気がします。



 また、舞台上の動線や立ち位置から伝わるものを考察していく姿も、たびたび見受けられました。そんなときは、小川さん自らが舞台上で動いてみたり、役者さんと意見交換したり。「こう動いて」と伝えるより、一緒に考えていきます。ときには深く深く考え込む小川さんの姿も。そこで大切にされていたのが、お客様にクリアに伝わるようにということです。一瞬の中に多くの情報量が詰め込まれたシーンなどでは、同じセリフでも、立ち位置を変えたり、セットの高低差を利用して(物理的に)上から言うことで、より圧を強めるなど受け手(観客)に親切な芝居になっていきます。平坦で安易な親切とは一線を画す(笑)、伝えるべきことが伝わるセンスがきらりと光る親切です!


 ひとりひとりが複雑な想いを抱きながら「生きている」。そして、それを包み込むようなマリアの存在。稽古場で、「生きるたくましさ」を目の当たりにして、自分のひ弱さを痛感した取材班ですが、平和ボケした軟弱さと、ただ笑ってはいられないような今日この頃。
 30代のノリに乗った演出家が手がける昭和34年初演のこの作品、今を生きる観客がどう受け止めるのか、開幕が楽しみです。
 

【公演情報】
2016/2017シーズン かさなる視点―日本戯曲の力― Vol. 3
『マリアの首 -幻に長崎を想う曲-』
2017年5月10日(水)~28日(日)@新国立劇場小劇場

<スタッフ>
作:田中千禾夫
演出:小川絵梨子

美術:堀尾幸男
照明:服部 基
音楽:阿部海太郎
音響:福澤裕之
衣裳:中村洋一

<キャスト>
鈴木 杏/伊勢佳世/峯村リエ
山野史人/谷川昭一朗/斉藤直樹/亀田佳明/チョウ ヨンホ/西岡未央/岡崎さつき

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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