世界最高峰のメトロポリタン・オペラの最新公演を映画館の大スクリーンで楽しむ MET ライブビューイング。過去の上映作品より選りすぐりの人気作を一挙に上映する<アンコール2017>が東劇にて上映中です。そして、《トゥーランドット》の上映を記念して、ミュージカル・舞台で活躍中の俳優/テノール歌手田代万里生さんによるトークイベントが開催されました。
オペラ愛に溢れた田代さんご登壇のトークショーの様子をご紹介いたします!(司会はフリーアナウンサーの朝岡聡さん)
【田代万里生さんとオペラ、MET】
おけぴレポをご覧のみなさまはご存知かと思いますが、田代さんは音楽一家育ち。そのお名前「万里生」さんの由来となったのは、“黄金のトランペット”と称された20世紀の名テノール「マリオ・デル・モナコ」。オペラ歌手のお父様の憧れの歌手でもあったそうです。
田代さん) 高校時代に声楽を始め、CDを聴いたり、学校にあったレーザーディスクを観たりする中で、METでの指揮ジェイムズ・レヴァイン、プラシド・ドミンゴがカラフを歌った、ゼフィレッリ版の映像に出会いました。それが大好きで、大好きで。先ほど伺ったら、このプロダクション(演出、衣裳、セットなど)はちょうど30年前にMETで上演されたそうです。
そして、20代のころNYを訪れることが決まった時にちょうどMET(メトロポリタン歌劇場)で大好きなバージョンが上演されると知り、慌ててチケットを探しました。ギリギリ手に入れたのは、3階席一枚3万5千円!遠~くから観ましたね。
ちなみに、ライブビューイングでは3千円くらいでドアップで観られます!
(演目などによって多少前後します)また、通常はMETライブビューイングでは、上演されてすぐのものを高画質高音質でお届け!なのですが、この<アンコール上映>では、田代さんが大好きなそのバージョンが上演されているのです♪(おけぴスタッフ独り言)朝岡さん) メトロポリタン歌劇場で、大好きなオペラを観た!その時のお気持ちは。
田代さん) 第一印象はとにかく大きい(笑)。例えばミラノのスカラ座やウィーンのオペラハウスは2000席程度なので、日本で言うと帝国劇場くらいの広さです。パリのオペラ座は少し大きな2800席。メトロポリタン歌劇場はというと、3800席、立ち見を入れると4000を超えるそうです。
4000人の観客に向け、オーケストラ、アンサンブル、合唱団も100人とかいる中で、ひとりの歌手がそれを飛び越えて声を届けるということにも感動しました。
お客様もすごく素敵でしたね。1階席を見下ろすとタキシードやドレスを着ている方がたくさんいらっしゃいましたね。
そして、全て人力であるということも素晴らしいです。1幕と2幕の間の舞台転換も結構時間がかかるのですが、なんとライブビューイングではその様子も観ることができるんです。
朝岡さん) そう、ライブビューイングで観られるのは本編だけではないんです。休憩中の舞台転換もそうですが、さらに驚くのは主役の歌手のインタビューがあるんです。「こういうところが難しい」「この役はこんな風に楽しい!」自由に楽しく話す姿も、みなさんスターなんですよね。
田代さん) すごく貴重ですよね!
朝岡さん) このようにオペラの表だけではなく、その裏側、あるいは(歌手の)心の中まで見られる、これが素晴らしいのです。
【トゥーランドットのお話】
朝岡さん) お集まりいただいたマリリアン(万里生さんのファン?!)のみなさまに、簡単に《トゥーランドット》のお話を説明しますと。
この《トゥーランドット》というのはお姫様の名前です。とても美しいのですが、氷のように冷たい心を持ったお姫様です。求婚者にクイズを出して、答えられないと首をはねるという…。そこにカラフ王子が登場し、3問のクイズすべてに正解!ついにお姫様は結婚しなくてはならなくなります。
そんな姫に、王子は「もし明朝までに私の名前がわかったら、私の命を差し上げましょう」と申し出る。お姫様は北京の街に「誰も寝てはならぬ!あの王子の名前がわかるまでは」とお触れを出す。その声を聴きながら王子は星を観ている。「僕の名前は絶対にわからない。僕の名前は明日僕の口づけで伝える。僕の愛は貴方に勝つのです」その歌が<誰も寝てはならぬ>です。
そこに王子への愛のために、自分の命を投げ出す女性も登場したり。
田代さん) そのリューという女性が、姫と対照的な、どちらかというと日本人女性が共感してしまうような自己犠牲の精神を持つ健気さ。作曲者のプッチーニは、リューが自害するところを書き上げたところで、自らも筆を置いて亡くなった。それほど想いを込めて書いた役、作品。そして、《トゥーランドット》はプッチーニの遺作でもあるのです。
朝岡さん) ほかにもお姫様に仕える3人の大臣ピン・ポン・パンというコミカルなキャラクターも登場します。田代さんは演じられたことがあるんですよね。
田代さん) パン役をやったことがあります。20代前半の頃、老けメイクをしておじいちゃんになりました。ほかにも大学時代に、神奈川フィルハーモニーのコンサートバージョンの《トゥーランドット》で合唱でも参加したことがあります。合唱の見どころ、聴きどころもたくさんありますよ。
【プッチーニとシェーンベルクの素敵な関係】
田代さん) プッチーニがアジア、遥か遠くの国(設定は伝説の国)の音楽を聴いてそれを作品《トゥーランドット》にした。「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」のあの力強い、特に金管パートの音はどこか《トゥーランドット》の音に似ていると思うんです。
実はレミゼやサイゴンの作曲家のクロード=ミシェル・シェーンベルク氏はフランス人ですが、元はハンガリー・オーストリア帝国をルーツに持ち、氏の大叔父(アルノルト・シェーンベルク)はクラシック音楽を書いている有名な作曲家でした。なんとプッチーニはその大叔父さんの音楽技巧を参考にしていたそうなんです。そんな風に、巡り巡って点と点が繋がって線になる!オペラもミュージカルも繋がっていると実感しますね。
ミュージカルファンにはおなじみですが、「ミス・サイゴン」は《蝶々夫人》と、「RENT」は《ラ・ボエーム》と深いつながりがありますしね!!
わぁ、やっぱり田代さんの口からハンガリー・オーストリア帝国という言葉を聞くと、テンション上がります(おけぴスタッフ独り言)朝岡さん) プッチーニやR・シュトラウスが出てきて、20世紀のオペラは一区切りとなり、ミュージカルの時代に入る。お互いに音楽や表現の仕方が影響し合ってきたのですね。
【演者の魅力】
田代さん) 僕が学生時代の時に観た映像の《トゥーランドット》は、カラフをドミンゴが演じていて本当にかっこいいんですよ。ハリウッド俳優みたいな仕草もあり、ジェントルマンで…そこに惹かれました。
朝岡さん) 今日これからご覧いただく《トゥーランドット》ではカラフはM・ジョルダーニ、氷のようなトゥーランドット姫はM・グレギーナが演じます。素晴らしい歌声です!
田代さん) トゥーランドット姫を演じる方は強い声が求められるので、リュー役や、別作品ですが《蝶々夫人》とはまた別格の声です。さらに美しいというね。
朝岡さん) 声でねじ伏せられてしまいますよね。それからリューはM・ポプラフスカヤ、この方も美しく繊細なんです。
田代さん) そして、指揮は今年も来日の予定のあるアンドリス・ネルソンス。調べたら当時30歳くらい、今の僕(33歳)より若い方がMETでこのゼフィレッリ版の《トゥーランドット》を振っていたということです。皇帝役では80歳を超えた大ベテランのテノールも出てきて、歳の差50歳以上ですよね。そんな若いメンバーも育ちつつ、ベテランの方も一緒になって作っているのもいいなと思いました。
朝岡さん) では最後に、改めて田代さんが感じるMETライブビューイングの魅力は。
田代さん) ヨーロッパ発祥のオペラなのに、NYに最高のメンバーが集結し、4000人規模の大きな劇場で世界最高峰のオペラをみせてくれる。METの公演は芸術を愛する方々の寄付にも支えられ、チケット代(チケット収益)だけでは観られない水準の公演です。しかも、劇場は座る場所によって音が違って聞こえますが、今日の音は極上!こうして最高水準のオペラを映像でも観られるのが魅力です。本音を言うと生でも観て、映像でも観るのが最高です!
朝岡さん) みなさん、物語とメトロポリタン歌劇場、ぜひその両方をお楽しみください。
METライブビューイング 東劇アンコール2017 9月29日(金)まで絶賛上映中!
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素材提供:松竹株式会社
おけぴ取材班:chiaki(編集) 監修:おけぴ管理人