「この芝居を観ると生きることが上手になる」こまつ座第119回公演『円生と志ん生』開幕レポート



「(この芝居は)中ソ国境から中朝国境の話。そこでの敗戦体験、終戦体験を経て円生と志ん生は芸が深くなった。つまりこの芝居をするとみんな芝居がうまくなる。ということで、乞うご期待。

 さらには、この芝居を観ると生きることが上手になる

 そうならないと(彼らが)満州を経験した意味がない。それを再現する意味がない。強気で言うとそんな感じです」(演出:鵜山仁さん)



 昭和の名人、噺家の六代目三遊亭円生と五代目古今亭志ん生を描いたこまつ座『円生と志ん生』、東京公演上演中!ご覧になったみなさんからの感想と舞台写真で綴る開幕レポートをお届けします。
 日本語、笑い、市井の人々…井上ひさしさんの“愛”が詰まった本作へ寄せられた感想も愛に溢れています。(レポ後半には初日前囲み取材のミニレポも!)



◆悲惨な状況やエピソードをユーモラスに語って見せる井上ひさしさんのお芝居は、逆に当事者たちが感じていただろう不安や心細さを際立たせるように思います。
 それでも希望は持ち続けるヒトの強さも感じます。キャストの皆さんがとても素晴らしかったです。

◆まず主役のお二人が本当に噺家の志ん生と円生かくありやという役創りで、舞台の世界に入り込みやすかったです。どんな状況になってもその状況を噺家の視点で見つめて肥やしにして、息をするように噺のことを考えて…落語が自分の体の中にあることが自然とき延びる糧となっていたと感じました。
 そして、そういう二人の姿が周りの女性の生きる力にもなっていました。女性陣がしっかりと演じる方々でさらに舞台が根の這ったものになっていたと思いました。

◆辛くて悲惨な体験こそを軽妙な音楽で表現する、演者の小気味よい芝居と節回しに思わずクスリとなってしまうが、同時に登場人物の目に映る状況は、決して笑みが洩れるようなものではないだろうと思うと、戸惑ってしまう。
 噺家二人を取り巻く女性4人の関わり方がなんとも柔らかくて、ほっこりさせられた。



左から)池谷のぶえさん、太田緑ロランスさん、ラサール石井さん、大森博史さん、大空ゆうひさん、前田亜季さん

◆男性と女性とで「生き残りやすさ」の差がある状況にもかかわらず、女性たちの明るさ、伸びやかさが美しく、せつない気持ちになりました。
 円生さんは噺や言葉を自身の外に置いて、客観的に見ることができて、それによって芸の幅を広げたのだと思いました。対して、志ん生さんは、内から湧き出る噺や言葉を自身と切り離せず苦しみながらも、その苦しみを芸に昇華させる熱量を持ち合わせていた人なのだと思いました。

◆4つの全く違う役柄を溌剌と演じた大空ゆうひ、前田亜季、太田緑ロランス、池谷のぶえの女優陣が舞台に深みと奥行きを与え、特に修道院の場面のコメディエンヌぶりには爆笑の連続だった。
 また4人が(たまに石井と大森も交えて)歌う数々の曲も楽しく感動的。
 そして当然随所に盛り込まれる落語ネタは好き者には堪らんくすぐりポイントだった!



◆ひと言で言うなら面白い!馴染みの薄い落語を身近に感じ、人を笑わせる噺家さんの江戸弁と義理人情がまさかのリンク!井上ひさしワールドならではの平和と歌と人類愛に触れ大人も子供も居心地良く客席からは笑い声。いいもの観ちゃった♪

◆戦中戦後の大連で振り回される庶民の姿を、ロードムービーのように描いた舞台。
 テキトーなようで大真面目にたくましく生きた円生と志ん生。
 ラサールさんと大森さん、好演です。何役もやられる女優さん4人が華やかに盛り上げて、素敵でした。

◆落語心中の菊比古と助六のモデルはこの方たちだったのかぁ!と。※モテるのは菊比古に当たる円生ばかり。今月21日昼の回が雲田はるこ先生のトーク付なので、落語心中ファンなら、それに行ってみるのもお勧めです。



◆落語家コンビのとてもテンポのよいセリフの応酬が、かなり過酷な状況のはずなのに辛いことも笑いに変換して「涙の谷」をたくましく生きていく二人をイキイキ描いていて、終演後も明るい前向きな気持ちで劇場をあとにできます。
 女優チームでは池谷さんの女学生役が最高です(笑)!

◆実は重い背景、設定の中で、辛い現実をいかに素敵な苦労として笑いを身近に添わせながら生き抜くか…軽妙な演出で、観た後に何となくホッコリともさせてくれる舞台でした

◆噺家の話と言うだけで、この劇を見ない理由にはならない。
 落語が今もなお人気があり、若者にも受入られている理由が少しわかるる気がします。
 全ての人間の行動の本質が落語にあり、戦争と言う時代の一片を涙あり笑いありと言うおまけまでつけて別世界へ連れ出してくれたこの劇を一度観てみてはいかがでしょうか?
 この話を作り上げた井上ひさしに会って見たくなることうけあい。



◆円生と志ん生のこと、落語のこと、よく知らなくても楽しめますっ(私がそうでした)!戦争中の話で暗い気持ちになるのでは…との心配は要りませんっ!たくさん笑って、でもあとからじんわりと 人の強さや温かさを感じる、そんなステキな作品でした!

◆落語は道具もいらず広い場所もいらない。身一つで演じることができる芸だなーと強く思いました。
 大連へ慰問に行ってそのまま終戦。数年間いつ帰れるともわからない中でも、出会った人を笑わせることができる。日本の地を二度と踏めるかわからない中でも、この経験が芸に生きるかも(?)という思いが大変な中での希望となっていたようでした。
 史実として生きて戻って来られて、落語を演じることになるのはわかっていたのですが、最後までハラハラしました。

◆音楽劇、まさに音楽劇でした。戦時中という暗い日常の中で噺家二人と4人の女性たちの掛け合いで心の中の動きがわかり、
 真剣あり笑いありで観終わった時は頬が緩んでいました。



左から)大森博史さん、ラサール石井さん


【初日前囲み取材レポート】



──みなさんのコメントをご紹介いたします。

「(円生は)貧乏を笑い飛ばす、人情に支えられた、人と生きていくことを実感として持った人。この作品には、そんな現代に生きるための知恵がちりばめられている。役者冥利に尽きる役です!」(大森さん)

「志ん生師匠を演じるということは芸人として大変恐れ多いことです。そして井上ひさしさんには学生時代から憧れていました。これほど初日が怖いことは長い芸歴の中で初めてです」(ラサールさん)


「師匠二人と過ごす愛おしい時間を楽しみたい」(大空さん)

「その時代の女性たちをリスペクトして演じたい」(池谷さん)

「笑いの力を信じて精一杯演じたい」(前田さん)

「この時代を生きた何十人、何百人を代表して演じている思いです」(太田さん)


──鵜山さんが感じる井上戯曲の魅力。

「僕が井上さんとご一緒するようになってから、井上作品には比較的いい人ばかり出てくる。それまでは悪漢が出ていたのにどうしてだろうと、ちょっと斜に観ているようなところがありました。
 すると井上さんは周りの状況が厳しいから、(人間の)良さ、明るさを書きたいとおっしゃったんです。ここへきて僕自身、それをひしひしと感じています。
 だいぶ前に書かれた作品ですが、それに頼っていないとやっていられないだけでなく、正気を保っていられないかもしれない。この作品だけでなく、井上作品からはそういうリアリティを感じます。
 この明るいほうを向くエネルギーをよほど大事にしていかないとと改めて感じています」
(鵜山さん)



 東京公演は24日まで、その後ツアー公演です♪みなさま、“円生と志ん生”の命懸けの珍道中をお見逃しなく!



【スペシャルトークショー】

終了★9月11日(月) 1:30公演後 樋口陽一(比較憲法学者)― 井上ひさしにとっての笑い ―
終了★9月14日(木) 1:30公演後 大空ゆうひ・前田亜季・太田緑ロランス・池谷のぶえ
終了★9月17日(日) 1:30公演後 大森博史・ラサール石井

★9月21日(木) 1:30公演後 雲田はるこ(漫画家)―『昭和元禄落語心中』ができるまで ―

※アフタートークショーは開催日以外の『円生と志ん生』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。ただし、満席になり次第ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。


【公演情報】
こまつ座第119回公演『円生と志ん生』
2017年9月8日(金)~24日(日)@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
2017年9月30日(日)~10月1日(日)@兵庫県立芸術文化センター
2017年10月8日(日)@日立システムズホール仙台 シアターホール
2017年10月14日(土)@川西町フレンドリープラザ
※上演時間:3時間予定(休憩含む)

<スタッフ>
作:井上ひさし
演出:鵜山仁

<キャスト>
大森博史、大空ゆうひ、前田亜季、太田緑ロランス、池谷のぶえ、ラサール石井/演奏・朴勝哲

公演HPはこちらから

舞台写真提供:こまつ座 感想:おけぴ会員のみなさま
おけぴ取材班:chiaki(編集) 監修:おけぴ管理人

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