人間が持つ想像力が生み出すエンターテインメント作品『人間風車』。1997年に後藤ひろひとさんが「遊気舎」に書き下ろし上演、その後2000年、2003年にはG2さん演出版と繰り返し上演されてきた作品が、14年ぶりに満を持して上演!
主人公の売れない童話作家の平川役に成河さん、ヒロイン・アキラ役にはミムラさん、物語のカギを握る青年・サム役に加藤諒さん。そして、演出は2003年版でサムを演じた河原雅彦さん。2017年の『人間風車』は…。ゲネプロの様子を囲み取材コメントを織り交ぜながらレポートいたします。
【登場人物たちが生きる現実の世界】
売れない童話作家の平川は、近所の公演で子供たちを相手に作品を披露している。毎度大うけで平川は子供たちには「作家!作家!」と呼ばれる人気者。一方で保護者からは“教育上よろしくない”ということで猛烈な抗議を受けてしまう…。
「平川はとても振り幅の大きな役。最後は人間の業を背負うような部分まで描かれています。演じる上では、自分にとって嘘にならいことを心がけています。“見世物”になりすぎない、自分にとって本当のことであれば、観ている人にもそうであるだろう。そうであったらいいな。それは大変なことですが、やりがいを感じています」(成河さん・写真右)
子供たちのリーダー則明は平川の大ファン!次のお話が待ちきれない気持ちがあふれ出ています。
「お芝居の作り方について学ぶことが多く、河原さんと成河さん、ミムラさん、諒くんが役柄について話している時など、すごくうらやましくもあり悔しくもあり…。いつか自分も河原さんとあんな風に話ができるようになりたいという思いが駆り立てられました。素敵な先輩たちに恵まれた、とても刺激的な稽古場でした」(松田凌さん・写真左)
こちらはテレビ局のディレクターの小杉、平川の友人。何かと眉をしかめたくなる人物(ぜひご覧ください!)。でも気がつくと「あ、でた~、小杉!やっぱりサイテー!」と小杉の出番を待っている自分も…そしてそれを裏切らない小杉っち(笑)。
「僕ら若手に対しても河原さんは丁寧にご指導くださいました。そして先輩方の芝居を観ていてもすごく勉強になるので、若手にとってはこんな幸せな現場はないなという稽古場でした」(矢崎広さん)
平川は小杉を訪ねて行ったテレビ局でレポーターのアキラと出会う。やがて芽生える恋心…。それが平川に変化を生みます。ミムラさんが演じるアキラの空元気のような明るさの裏にある悲しみは。
「(作者の)後藤さんが思ったことがポンと口から出てしまうのがアキラと仰ったんです。基本的には明るくはつらつとチャーミングに!そこから透けて見えてくる裏側、抱えている背景が見えたらいいな」(ミムラさん)
このシーンが好き!
平川の友人・国尾は“売れる童話”を書いている割り切った童話作家。
(この国尾の平川へのアドバイスを反芻してしまうおけぴスタッフ…物語の展開とは別に)「こういった(タイプの)戯曲も国尾役も僕にとっては挑戦。稽古では誰よりも河原さんにお世話になった気がします。それを支えてくれたのが成河さん。役の関係としては逆ですが。稽古で得たものを舞台上でお返しできるように頑張ります」(良知真次さん・写真右)
物語のカギを握るともいえるのが、不思議な青年サム。童話の再現度が半端ないのです!加藤さんの放つファンタジックな雰囲気が役にピッタリ。そして凄みも。
「平川さんが話す童話を聞くと、その主人公になってしまうという役です。(童話の世界も含め)6役の演じ分けが必要です。そこに演じ甲斐を感じています」(加藤諒さん・写真左)
ほかにも公演で遊ぶ子供たちと保護者のペアリング(?!)など、さまざまなお楽しみが潜んでいますので、観るたびに発見がありそう!
このように登場するのは市井の人々。でも…。
(囲み取材より)
「僕らの衣裳、私服みたいでしょう(笑)。どこのストイックな会話劇かという感じですが、(この扮装は)リアルな世界観のほう。舞台ではリアルな世界から、飛び出す絵本のような童話の世界を行ったり来たりします。童話の世界ではハチャメチャで、思いっきり笑えるところがたくさんあります。そんな演劇的な仕掛けが豊かな劇場でこそ味わってほしい、演劇の醍醐味がいっぱい詰まった作品です」(成河さん)
というわけで、ここからは平川のちょっとシュールでへんてこな童話の世界をチラ見せ!
平川によって子供たちは物語の世界へ誘われます。お客様もぜひご一緒にジャンプ!
【童話の世界】
するとこんな面白い人が…!この後はあえて説明しません、悪しからず(笑)!
こうして別次元だと思っていた二つの世界が、ふとしたきっかけで交わったとき…
なんだかんだで、堀部圭亮さんが演じる山際刑事の言葉が一番ゾーッときました。
豊かな空想の世界と現実が織りなす物語が浮き彫りにする『人間』。物語は終わり、現実は続く、どこか観劇体験にも似たような後味も感じました。
さあ、あなたも物語が作り出す「夢」の世界へ…。
最後に成河さんからのメッセージを
「14年ぶりの上演に際し、現代劇として14年のブランクをどう埋めるか、そこを後藤さんも含めてたくさん考えました。今、生きている僕らにとって嘘がないことが、お客様にとっても嘘がない。それによってこの作品の本質、普遍的なテーマに近づけると信じ、5週間、河原さんのもと役柄の繊細な部分までディスカッションしながら粘り強く粘り強く稽古をしました。かけてきた時間と仲間を信じて、本番でもっともっと成長したいと思います」
おまけの囲み取材写真番外編!
【ワイワイ囲み取材】
「今までは受けの役が多かったのですが、今回は攻めて攻めて攻めていくぞという感じなので、加藤の攻めが見所です」(加藤さん)
「加藤くん、稽古着がだいぶ攻めていましたね。そういうことだったのか…(笑)」(矢崎さん)
「それは攻め間違ってた?!(笑)」(成河さん)
前にご紹介したように成河さんら先輩への憧れを語る松田さんに…
「松田くん、完ぺきだから」(成河さん)ん?照れ隠し?!
「もう、本当にやめてください!!」(松田さん)
すごくいいカンパニーですね!!楽しそう!
公演は10月9日(月・祝)まで東京芸術劇場プレイハウスにて、その後、高知、福岡、大阪、新潟、長野、仙台にて上演です!
「ホラー」という言葉の響きのためでしょうか、残虐なの?という不安の声が聞かれる本作
(もちろんそういうシーンもないわけではない)。でも、もしそれだけで観ないというのはちょっともったいないなと思うおけぴ取材班でした。
そして、キャストには平成生まれも名を連ねています。これまでは、後藤作品を体現する名うての方がキャスティングされたものを観ることが多かったので、それも新鮮でした。言葉のチョイスなどで、ふとした瞬間に、あ、後藤作品だわ!と気づくような感覚。また、後藤さんで童話(絵本)というと『パコと魔法の絵本』が有名ですよね。表裏というと言い過ぎかもしれませんが、なにかその関係も深堀りしたくなるのです。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人