1月13日(土)より東劇ほかの映画館にて全国公開されるシネマ歌舞伎『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』。新春にピッタリな華やかな演目と、しっとりじっくり味わう演目の組み合わせの妙にも唸ります。
俳優さんのコメントや支度場の様子を交えドキュメンタリータッチで届けられる『京鹿子娘五人道成寺』。ドキュメンタリーと聞くと、舞台の熱はどうなるのだろうと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、歌舞伎を、道成寺を知りつくした玉三郎さんの手腕で、非常にドラマティックな仕上がりになっています!一転、『二人椀久』はド直球で勝負。そのコントラストにも心揺さぶられます。
公開が待ち遠しくなる玉三郎さんの取材会レポートをお届けします。
【作品ご紹介】
歌舞伎舞踊の屈指の大曲『京鹿子娘道成寺』を、五人で踊り分けるという演出が話題を呼んだ『京鹿子娘五人道成寺』。美しい衣裳を纏った花子が時に代わる代わる、時に五人一緒に、花笠や鞨鼓(かっこ)、手踊りなどで華やかに踊りつぐ、見どころいっぱいの舞台。現代の女方最高峰 坂東玉三郎さんと、中村勘九郎さん、中村七之助さん、中村梅枝さん、中村児太郎さんという勢いのある花形俳優たちが魅了します。
さらに、玉三郎さんと勘九郎さんによる、情感豊かで幻想的な舞踊『二人椀久』との趣の異なる豪華二本立てで上演!
【取材会レポート】
<『京鹿子娘五人道成寺』『二人椀久』がシネマ歌舞伎に!> ──『京鹿子娘五人道成寺』上演のきっかけ、上演に際しての思いは。 歌舞伎座閉場式で五人の娘道成寺をやったとき、お客様が「華やかで楽しい」とおっしゃってくださいました。『京鹿子娘道成寺』あるいは能楽の『道成寺』に比べると比較的軽いお楽しみのものになりますが、喜んでいただけたのなら、一日限りだったあれをもう一度やりましょうということがはじまりです。また、歌舞伎役者として、後輩たちと一緒に舞台に立つことで伝わるものがあるという思いで、このような上演になりました。
──同時上映される『二人椀久』、実際の公演でもこの組み合わせで上演されていましたが、作品の持つ雰囲気だけでなく、シネマとしての見せ方も対照的になっています。 『京鹿子娘五人道成寺』がドキュメンタリータッチの仕上がりになっているので、『二人椀久』はオーソドックスに繋ぎました。すると五人道成寺で盛り上がり、椀久の清涼感をもって終わるのが心地よく、この順番で上映することになりました。そして、勘九郎さんが花子を終え、「五人道成寺に一緒に出られて幸せでした」と言った余韻の中で、即座に椀久で出てくることでお客様もハッとされるでしょう。それがシネマならでは、モンタージュの面白さでもあります。
<『京鹿子娘五人道成寺』編集秘話> ──先ほどのお話の通り、合間に俳優さんのコメントや支度の様子を交えドキュメンタリータッチのシネマ歌舞伎となった『京鹿子娘五人道成寺』。そこに至るお話をうかがえますか。 実は、画面で観たとき、同じ鬘、同じ衣裳でさっと切り替わると誰が誰かわからなかったんです。舞台では、それぞれの個性がありお客様は選び、見分けることが出来るのですが……これは誤算でした(笑)。それが二次元になるということなのですね。それだったらと、ドキュメンタリー風になりますが、それぞれが踊る曲の前に道成寺への思いを語り、その思いの中で踊りを見せるのはどうだろうかと今回の構成になりました。
『京鹿子娘道成寺』はひとりで踊っていると一つのものですが、編集してみることでいくつかの短編が連なった青春群像のような側面もあることがわかりました。
また、本来はお見せするべきではないところですが、シネマだからこそ、変な意味での種明かしのようにはならないように舞台裏もお見せしています。裏で五人が並んで支度をしている様子が壮観だったので、映像ではそういうところもお見せしたいと思いまして。五人が一堂に会して真剣に支度をしている姿を通して、舞台上ではもちろん、裏でも一挙手一投足に油断のできない時間であることをご覧いだければと。そして、床山さん、衣裳さん、小道具さんなど、裏でたくさんの人が働いていればこそ五人の花子が表で踊ることが出来るということも映像から伝わると思います。
もうひとつ、支度場の実音を入れるか入れないかについても考えました。結果として入れていません。それは、実音が入ると本当のドキュメンタリーになってしまうからです。ここでは、あくまでもお客様が憧れを抱く夢のような舞台裏ということを大切にしました。
──若手の四人、勘九郎さん、七之助さん、梅枝さん、児太郎さんにはどのようなアドバイスをされましたか。それぞれの個性についてもお聞かせください。 みんな若くエネルギーがあるので、どうしても力任せになり花子という役の枠をはみ出してしまう、そこをずっと言っていました。ですから、個性については、はみ出してしまうそれぞれの個性をどうやって五人で揃えるかに終始していたというのが正直なところです。
──玉三郎さんから見て若手同士がお互いに意識し合うようなところはありましたか。 それは“競争”という意味でしょうか。そんなことは何も考えず、ひたすら自分のところをちゃんとやろうと、虚心坦懐に道成寺に向かっていたと、僕は思います。あの世代はとても明るい世代で、誰かを出し抜こうという思いを持っている人は一人もいませんよ。
──勘九郎さんがインタビューの中で、日々変わっていったことを感じたとお話しされています。日々成長されていたということでしょうか。 それはあるでしょうね。ただし、それぞれが何を学んだかは言葉で説明することはできません。その説明できないことが伝わることが大事、簡単に結果で話すことではなく、作品の中から見えてくるもの、それをご覧いただきたいと思います。
少し話が逸れますが、収録したインタビューを聞いてうれしかったことは、みんなが私の言葉の奥を理解してくれていたこと。たとえば丹田というか芯(内側)が動で外側が静ということを、七之助さんが「毬のように」という彼なりの言葉で話している。そう理解しているんだ、そんな言い方があるんだなと思いました。勘九郎さんの「道成寺をやりたい人は星の数ほどいる」という言葉からは、自分が長いことやっているために忘れかけていたことを思い出しました。梅枝さんも、児太郎さんも、みんな一生懸命に言葉を選んで、素敵なことを言ってくれています。
<シネマ歌舞伎について> ──本作は玉三郎さんがご出演されたシネマ歌舞伎の13作目となります。シネマ歌舞伎についての思いをお聞かせください。 歌舞伎座での公演が、ただ映像になっているのではない、シネマとしてどうあるべきかを常に考えています。でも、シネマになったときのお客様の反応は、良くも悪くも予想がつきませんね(笑)。
編集で一番大切なことは“目を冷ます”ということ。一度編集したものを時間と場所をずらして確認することによって、客観性を持てるようになります。上演してから少し時間を置き編集し、編集してからまた時間を置いて見直すのがちょうどよい、10年以上やってきてわかりました。
<こぼれ話1> 取材会で明かした微笑ましい?!見どころをひとつご紹介いたします!
「裏で拵え中にひそひそとしゃべっているところも収録されています。私が勘九郎さんに何か言うと、最初は「はい、わかりました」と返し、もう一回言うと「はい、はい、わかりました」、三回目に言うと「わかりました!」という顔をしているのね。わかったかなと思って、大丈夫ねと言ったら、そういう顔を。その様子も入れておきましたので、そんなところもご覧ください(笑)」(玉三郎さん) <こぼれ話2> 取材会は和やかに進み、五人の次は七人?!という話題から、華やかな道成寺の原体験についてもお話してくださいました。
「幼い頃に東京体育館での俳優祭で観た、四つの花道を使った道成寺が忘れられないんです。歌舞伎役者や新派の女優さんが花道から四人登場して四方を客席が囲む舞台を周って顔見世しながら踊り、入れ替わりにまた四人が出てきて踊るのがとても華やかでした。ショーとしての歌舞伎の素晴らしさを感じました。それが(もともと複数の登場人物によるにぎやかな)『元禄花見踊』でなく、『京鹿子娘道成寺』という花子(一人)の分身たちという形だったからこそ面白かったのかもしれませんね」(玉三郎さん) ※こちら、第一回俳優祭(昭和32年7月)@東京体育館での『京鹿子娘道成寺』の様子は
日本俳優協会HP にご紹介されています(一番下)。小さいですが舞台のお写真も!
写真提供:松竹株式会社 撮影:岡本隆史
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人