新国立劇場『赤道の下のマクベス』鄭義信さん&池内博之さんインタビュー



 新国立劇場『赤道の下のマクベス』にて初顔合わせが実現する鄭義信さん(作・演出)と主人公の朴南星(パク・ナムソン)役の池内博之さんにお話を伺いました。互いの印象を「やっぱりさわやかな人だなぁ」(鄭さん)、「優しくて愛にあふれた人、戯曲から受けた印象そのもの」(池内さん)とすでにイイ関係を築き始めているお二人です!



池内博之さん、鄭義信さん

あらすじ(HPより抜粋)
1947年夏、シンガポール、チャンギ刑務所。

死刑囚が収容される監獄・Pホールは、演劇にあこがれ、ぼろぼろになるまでシェイクスピアの『マクベス』を読んでいた朴南星(パク・ナムソン)、戦犯となった自分の身を嘆いてはめそめそ泣く李文平(イ・ムンピョン)、一度無罪で釈放されたにも関わらず、再び捕まり二度目の死刑判決を受けるはめになった金春吉(キム・チュンギル)など朝鮮人の元捕虜監視員と、元日本軍人の山形や黒田、小西など、複雑なメンバーで構成されていた。

ただただ死刑執行を待つ日々......そして、ついにその日が訪れた時......。


──池内さん演じるナムソンは演劇好きという設定です。

鄭さん)
 『赤道の下のマクベス』というタイトルを決めたときから、『マクベス』の一節をやろうと思っていました。ナムソンが演劇好き、『マクベス』好きというところから、劇中でも『マクベス』の一節を劇中劇のような形でやります。

池内さん)
 実は、すでに一人稽古をしています(笑)!『マクベス』を見たことがなかったのでDVDを借りて見ましたが、戯曲に出てくるシーンを見て「あ、こういうことか」と。戯曲を読んだときにはどういうことなのだろうと思っていたところが、少しクリアになったような気がします。


鄭さん)
 ナムソンはマクベス役でもないですからね。

池内さん)
 そうなんですよね。そして、彼自身が本当に上手かったのかというと…なので(笑)。その辺は鄭さんが面白く演出をつけてくれると思うので稽古が楽しみです。


──池内さんはこれまでに新国立劇場で『るつぼ』『三文オペラ』にご出演されていますが、それら翻訳劇と異なり、今回は作者ご本人が目の前にいらっしゃいます。

池内さん)
 わからないことがあったら何でも聞けるので、安心ですね。でも、そう話したら、なぜか「僕には聞かないでください」と言われてしまいました(笑)。




鄭さん)
 僕には理解できませんからって(笑)。稽古場では役者がどうしたいのか、どう演じるのかを話合ったり、彼らのアイデアを拾ったりしながら進めていくので。

──それが戯曲に影響することも?

鄭さん)
 カットしたり、書き換えたりもしますね。作家が一番嫌がることを平気でやります(笑)。作家は自分が一生懸命書いた台詞を簡単にカットされたら、ふざけんなって思うだろうし、実際にそういうことをされたときはカンカンに怒りました。「あの台詞、どこへ行ったんだよ」って(笑)。それはまぁ、世間の演出家にとってはたいしたことではないんですよね。「作家として」と「演出家として」、そこは結構明確ですね。

──トークショーで池内さんはナムソンとご自身のギャップについてお話しされていました。池内さんからもタフな印象を受けますが。

池内さん)
 ナムソンの精神性、あの強さは僕にはないなと。たぶん彼自身も突き詰めると弱いんだと思うんです、人間そんなに強くないですからね。でも、過酷な状況の中で生きていくために、弱さを押し殺す強さを持つ。僕だったら、あの状況ではムンピョンのようにおいおい泣いてしまうだろうな。ナムソンを演じながら自分自身を叱咤激励出来るような気がしています。


──演じる俳優さんから受け取るものも多そうです。

鄭さん)
 いっぱいありますよ。僕は、方向性さえ間違えなければ、何をやろうがOK!OK!なんです。さらに僕はときどきむちゃぶりをする、たとえば笑かすためだけに変な動きをやれとか(笑)、そこについて来られない人も……。

池内さん)
 僕はついていきますよ!




──頼もしいですね。続いては戯曲について伺います。韓国での初演から大幅に改定され、新たな登場人物も加わるとのことですが。

鄭さん)
 日本人のキャラクターが増えます。バランス的にもう一人ぐらい日本人が入ったほうがいいかなと。その人は最後まで自分が死刑になることを認めることが出来ない、自分の今の境遇が信じられない日本人。彼を入れることによって、もう少し日本人にも幅を持たせたかったんです。

──日本人にもいろんな人がいる。

鄭さん)
 そう、日本人にもいろんな人がいて、朝鮮人にもいろんな人がいるということです。

──現代パートと過去パートが交互に出てくる構成も、過去パートのみに再編成されたとのこと。

鄭さん)
 現代の部分は過去を照らし出すための説明が多かったんです。それと同時に過去の話の厳しさのクッションにもなっていました。でも、彼らがなぜそこにいるのかの説明を飛ばしても、話の本質は伝わるだろうと過去の現実をストレートに投げかけることにしました。

──確かに厳しいですが、厳しさの中に笑いもあり、ふと彼らのおかれている状況の過酷さを忘れてしまうことも。

鄭さん)
 笑いはどうしても入れたくなるんです。シリアスをとことんやって落とし込める作家もいるだろうけど、僕はやっぱり笑かして、最後にはチラッとでもいいから希望がほしいんです。

──シリアスの中の笑い、池内さんは戯曲をお読みになっていかがですか。

池内さん)
 あの状況の中でも笑う、そこにも人間の強さを感じます。最初から最後までシリアスなままの役が多いんですが、今回はちょっと違うので僕にとっても挑戦です。なぜかシリアスばかりで。


鄭さん)
 シリアス顔なんじゃないですか(笑)。



池内さん)
 シリアス顔ですか!!(笑)でも、今回はナムソンとして、ちょっと軽い表現になってしまいますが、パッと明るく生きます!


鄭さん)
 池内さんの役は、とくに明るさが要求される役です。そのためにはパワーとかテンションがいるので疲れると思うのですが、そこが作品の中心核なのでね。頑張ってもらうしかない!

池内さん)
 はい!


──池内さん演じるナムソンとともに核となるのは、平田満さん演じる黒田。黒田の即興芝居のようなシーンも心を揺さぶられます。

鄭さん)
 あそこは芝居というか黒田の本心、疑似家族ですがナムソンのことを愛していたんだという瞬間です。劇中劇とは違う、芝居の名を借りた真実。それは死を前にして暮らしてきた者同士の民族を超えた共感。戯曲は4か月ほどの話ですが、その間ずっと、いつ自分の名前を呼ばれるか(=死刑執行)という恐怖の中で濃密な時間を共有することで生まれる疑似家族のような関係。ナムソンもナムソンなりに(弟分のような)ムンピョンをからかいつつも慰めていたわけですし、それを見ている方が微笑ましく思ってくださればいいかなと。

──鄭さんは、先日シンガポールを訪問されたそうですが、改めて肌で感じたことはありましたか。やはり暑かったですか?

鄭さん)
 暑かったですね。あと印象深かったのはジャングル。シンガポールはすごく近代化しビルが立ち並んでいますが、やっぱり熱帯ですから公園などは森林状態です。スコールもものすごい。それを見ていると、この中を行軍したり、線路を作ったり、その挙句に刑務所へ入れられて。病気にもなるだろうし、目の前で人が死んでいったりしたら気が狂わんばかりになるだろうと。自分がその状況におかれたら、もう大変だ…、それを実感しました。それくらい過酷な…。
 あ、でも、過酷、過酷いうと観に来てもらえなくなるかな。

──いえ、そんなことは。その中で見える人間の美しさも描かれていますので。死を前にしたナムソンの言葉も美しく響きます。

池内さん)
 死んだら朝鮮人も日本人もない。国が対立し、戦争が起き、結果的にあの状況におかれたナムソンの「そんなこと、なくなったらいい」という思いがストレートに刺さります。戯曲の中には、実在の方が遺された言葉もあるんですよね。


鄭さん)
 夜空の星を見上げて言う台詞など、「世紀の遺書」(巣鴨遺書編纂会)に綴られたチョウ・ムンサンさんが死の直前まで描いていた文章の言葉を戯曲の中にいくつかちりばめています。
 それらの言葉はとても美しくて聡明な文章です。なぜこの人が死刑判決を受けたのだろうと。実際、誰がどうしてどうなったのかは誰もわからないこと。おそらく彼ら自身も捕虜監視員として採用されただけで、結果戦犯の憂き目にあうとは思わなかったでしょう。もっと上の責任者たちはさっさと逃げているわけですし、そんな戦争という不条理さはどうしようもなくあるもの。彼の遺書では、それも受け止めつつ死を静かに迎えようとしている。遺された言葉から受ける印象通り、チョウ・ムンサンさんはとても聡明な方だったそうです。

──戦争という不条理に翻弄され、死を受け入れられないのも、死を受け止められるのも、どちらも人間。まさに「記録する演劇」の真髄がそこにあるような気がします。日本初演の幕が上がる日がますます楽しみになりました。

【公演情報】
新国立劇場『赤道の下のマクベス』
2018年3月6日(火)~25日(日)@新国立劇場 小劇場

<スタッフ>
作・演出:鄭 義信
美術:池田ともゆき
照明:笠原俊幸
音楽:久米大作

<出演>
池内博之/浅野雅博/尾上寛之/丸山厚人/平田満
木津誠之/チョウ ヨンホ/岩男海史/中西良介

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文・撮影) 監修:おけぴ管理人

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