谷賢一<演出・上演台本>×志磨遼平(ドレスコーズ)<音楽監督>が20世紀の名作 ベルトルト・ブレヒト(作)×クルト・ヴァイル(音楽)の『三文オペラ』をKAATに立ち上げる!立ち上げるのだけれど、チラシには
「KAAT滅亡。」、それいかに?! 注目の公演の初日を前に、フォトコールと囲み取材が行われました。
劇場に足を踏み入れると、目の前に広がるのは廃墟のようなセット。舞台はセンターからファッションショー会場のランウェイのように客席へ伸びています。真紅の高級感溢れる客席へ突き刺さったナイフのようにも見えるそれは、傍観者たることを許さない挑発か、はたまた物語とお客さんを繋ぐ架け橋か。
そして、この公演の目玉の1つであるオールスタンディングエリアにはすでにみなさんがスタンバイ。P席と呼ばれる、舞台の左右のやや下がった場所は、劇中の「ピーチャム乞食商会」にちなみ、ピーチャム商会の一員としてライブで演劇に参加するみなさんがいるのです。開演の1時間前に集まり、レッスンを受けて臨むみなさんのご活躍は後述いたしますね!
【稀代のモテ男 マクヒィス】
一応説明しますと、この方↓、牢獄へ入れられています。地獄の沙汰も金次第?!牢獄でVIP扱いのマクヒィスが歌うのは♪資本主義の歌。
愛人いっぱいの色男“マック・ザ・ナイフ”でおなじみの
マクヒィスには松岡充さんはまり役?との声に
「ちょっと待ってくださいよ。そんなことない。マックはすごいモテますし、器用ですからああいうことが出来るのであって、僕は無理です(笑)」(松岡さん)
物語は、そんな若き盗賊王マクヒィスが偶然出会った少女ポリーに一目惚れし結婚することから動きだします。実は、ポリーは「乞食商会」社長ピーチャムの一人娘、やがて事態は大騒動に。
ルーシー(
峯岸みなみさん)、マクヒィス、ポリー(
吉本実憂さん)
マクヒィスの愛人の一人で警視総監タイガー・ブラウンの一人娘ルーシーとポリーがマクヒィスのいる牢獄で鉢合わせ!!
「ポリーのすべての行動の動機、エネルギーは“マックが好き”ただそれだけ。そこにどれだけエネルギーが使えるか。でも、根は純粋な女の子だと思います」(吉本さん)
吉本さんのポリーはあどけなさの中にも、ピーチャム譲りの才覚か……、強い目が印象的。
「(実憂ちゃんは)舞台の上だと本当に腹立つ!女優さんってすごいと思います」(峯岸さん)
峯岸さんのルーシーは自分こそ愛人No.1だという自負心が強く、ライバルは何としても蹴落とす!という生き抜く女の強さムンムンです。
彼は私のもの!!バッチバチの二人です。歌うは♪女はおそろしい
「ルーシーは女性として経験が豊富。マックのダメなところもわかっていながら許してしまうという女性像。そこは大人の女性が観たときに共感されるだろうし、マックと出会ったその日に結婚式を挙げ、ヴァージンも捧げるポリーの姿に初恋の初々しさを思い出していただけるんじゃないかな。芝居が進むにつれ、そんなポリーも変わっていき、ポリーとルーシーの仲も……」(松岡さん)
警視総監タイガー・ブラウン(高橋和也さん)、ピーチャム(白井晃さん) 【混沌と猥雑の渦に飲みこまれる】
娘を取り戻そう牢獄にやってきたのはピーチャム(白井晃さん)、彼は「マクヒィスを逮捕しなければ、戴冠式のパレードに乞食を集めてデモ行進をする」と警視総監タイガー・ブラウンを脅す。そうこうしている間にマクヒィスは脱獄し……。
♪あなたには が始まるころ、にわかに不気味な気配が漂ってくる……民衆の蠢き。気づくとみんなこちらを向いている!!(一瞬ゾクッとしました)そこからは「ぐいぐい」来ます!
それぞれの生き様を歌うような、この歌がカッコイイ!!やがて乞食たちもなだれ込んできて、混沌と猥雑な渦に劇場全体が飲みこまれます。P席のみなさんの演技や歌を超えた存在こそが力。生身の人間が発する気、その視線、そこから伝わるエネルギーにはちょっとおののきました。素晴らしい!
舞台上、そしてP席から、生きている人間の“気”が一気に押し寄せる!
もはや舞台上と客席はシームレス。このエネルギーの流入を止めることはできない!
中央は
ピーチャム夫人(村岡希美さん)例のランウェイにもぐいぐい進軍してきます!
櫓(のようなセット)の上には、マクヒィス、ルーシー、なじみの娼婦のジェニー
ジェニー(貴城けいさん) 「(フォトコールは)楽しかったです。P席や客席に人がいる(関係者・報道)ことははじめてだったので、こんな感じになるんだとつかめました」(松岡さん)
この高揚感、ちょっと怖いくらいの扇情的なシーン。松岡マクヒィスのカリスマ性が炸裂です!これは実際に体験するしかないっ!
そして、物語はいよいよ大詰めへ。マクヒィスの、ピーチャムの、女たちの思惑は錯綜、彼らの運命やいかに……最後に笑うのはだれでしょう。
ドレスコーズの演奏もカッコイイ!!
この作品に充満する野心や民衆の怒りは……なるほどロックですね!思わずこぶしを振り上げたくなります。
音楽監督を務める志磨遼平さんによる《三文オペラ》音源化も発表されました歌唱は志磨さんご自身♪【囲み取材より】
「谷さん、すごいことを考えるな!あっぱれです!」(松岡さん)
谷賢一さん(演出・上演台本)、峯岸みなみさん、松岡充さん、吉本実憂さん
──P席というのが斬新です!松岡さん: まず、
谷さん、すごいことを考えるな!と思いました。お芝居というのは、通常、客席と舞台の間には壁があり、そこに開いた穴から中(劇中)の人間模様を覗いているような作り。この公演ではその間にP席のみなさんがいますからね。お客様でありキャストでもある。その発想はあっぱれです!
谷さん: もともと演劇にお客さんを巻き込みたい、参加するような演劇が作れないかということをずっと考えていました。
民衆の力や貧しい人の怒りがテーマになっている『三文オペラ』ではいいトライができそうだと、バチッとはまりました。──松岡さんから見た印象松岡さん: 吉本さんは普段は本当にガキですよ(笑)。申し訳ないですけど。でも役になると本当に愛が伝わる。そのギャップがすごい、さすがこの国で一番の美少女!
峯岸さんはこれまでテレビなどで見ていて勝手に芸能人っぽいチャラさがあるのかと……、僕も良くそう言われますが(笑)。実際にはすごく真面目。周りの意見をどんどん吸い上げて、何回もトライしていく、一から積み上げていく努力家です。
──最後にメッセージを!吉本さん: これまで生きてきた中で経験した幸せや怒り、後悔の感情。思っていてもなかなか口には出せなかった感情のすべてをこの作品で出しているような感じです。台詞や歌詞にハッとすることも。みなさんの人生と重ね合わせながら観ると、よりお楽しみいただけると思います。
峯岸さん: 舞台を観るのが好きで、結構な数を観てきたと思いますが、その中でもこの『三文オペラ』はかなり上位、一位と言っても過言ではないくらいです。観たことがない、新しくて面白くてでも気持ち悪い、そんな舞台になっています。
松岡さん: 言いたいことはたくさんありますが、ひと言だけ。命をかけてやっています!それは観に来て頂ければわかると思います。ぜひご覧ください。
公演は2月4日(日)までKAAT神奈川芸術劇場<ホール>にて、その後、2月10日【札幌公演】あり。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人