ミュージカル『シークレット・ガーデン』石丸幹二さん取材会レポート



 1911年発表の世界的名作“秘密の花園”を原作に、1991年にブロードウェイで初演されたミュージカル『シークレット・ガーデン』がシアタークリエ10周年シーズンの今年、日本版として初上演されます。

 イギリス領インドで育ち、流行病で両親を亡くした少女メアリー、彼女を引き取ったイギリス・ヨークシャーに住む伯父アーチボルド、彼の息子コリン…傷を負い、心を閉ざした人々、家族の再生物語。メアリーを支えるメイドのマーサ、その弟ディコンらとともに、アーチボルドの亡き妻リリー、そして“ドリーマーズ”と呼ばれるメアリーの両親らインドで暮らしていたころの人々がメアリーを見守る。そんなミュージカルならではの劇構造で舞台上に立ち上がる本作で、愛する妻を亡くし大きな喪失感を抱えたミッセルスウェイト邸の主人アーチボルドを演じる石丸幹二さんにインタビューしました。




【ミュージカル『シークレット・ガーデン』出演には運命を感じます】




──『シークレット・ガーデン』とのファーストコンタクトは。

 私の周りの女性たちの多くは子どものころに文学作品“秘密の花園”として触れたようですが、私にはその経験がなく、新橋演舞場で上演された来日公演(1993年)が、まさに出会いです。ミュージカルとしての難易度の高さと深いテーマ性が印象的でした。子役たちが達者で、言葉の壁を越えて(英語上演、日本語字幕)台詞や歌が心に響いてきたことに驚きました。

 当時、私はミュージカルを始めて3年目、年齢は27、8歳。年齢的に自分が演じられそうな役は残念ながらありませんでしたが、出会えてよかったと思える作品でした。それから四半世紀のときを経て、この作品に関わり、今の私が大きなやりがいを感じられるアーチボルドという役に向き合えることに、運命を感じます。

──音楽の印象は。

 技術を伴った歌唱力なしでは太刀打ちできない難曲ぞろいですね。これまでやってきた中ではスティーブン・ソンドハイムやアンドリュー・ロイド=ウェバー作品に匹敵するくらいの難易度です。難しさの内容は、それらとはまた違うものなのですが。

──1月の『TENTH』でも本作楽曲を歌われましたが、実際に歌ってみていかがでしたか。

 ミュージカル俳優はさまざまな声を使い分けますが、この作品ではクラシカルな声が要求されます。一度自分の声をリセットして、声を作り直す必要がある、そんな作品です。大変ですが、やりがいがありますね。
 なんと言っても音楽を含めた劇構造が、本作の大きな魅力なので!

──時折現れるドリーマーズと呼ばれるメアリーの亡き両親らの重唱なども印象的です。

 インドチームですね(笑)。メアリーがインドで暮らしていた頃に一緒に過ごした人々が亡霊のようになって重唱で訴えかけてくるんですよ。この作りは画期的。ミュージカルならでは!簡単に言うと、現実世界とメアリーの精神世界が同時に舞台上に現れるのですが、テキストを読んでいるだけでは何が起こっているのか理解しがたいところがあります。でも、音で聴き、画で観ると、すっと腑に落ちるに違いない。つまり、客席に座って観ないとわからない世界が繰り広げられるだろうということです!

──楽曲のカラーも変わります。

 ドリーマーズの楽曲は、インドのテイストになっているので、音を耳にするだけでメアリーの心の中の描写が始まったことがわかります。われわれイギリスに住んでいる人間たちとは、次元が異なることがクリアに伝わる、それが音楽の妙です。今回、スタフォード・アリマさんの演出でどのように二つの世界が舞台上に立ち上がるのか。きっと経験したことのない作品世界に飛び込めるだろうと、私自身、稽古開始が楽しみでなりません。

──アリマさんとはお会いになりましたか。

 アンサンブルキャストのオーディションで来日されたときにご挨拶しました。まだじっくりと話をしたわけではないのですが、穏やかで自然体、とても親しみやすい印象を受けました。


【キャリアを積んだ今だからこそ挑める役】


──石丸さんが演じるアーチボルドという人物についてはどう感じていらっしゃいますか。



 アーチボルドは肉体的にハンディキャップがあり、妻を亡くして精神的にもダメージを受け、現実に向き合うことができないでいます。そんな彼がメアリーと出会い変化していく。役者としてある程度のキャリアを積んでいないと演じきれない人物だと思います。

──彼が抱える喪失感についてはどのようにとらえますか。

 稽古が始まっていないので、まだ説明できませんが、私は、幸いなことに身近な人間を失った経験がなく、彼の喪失感を嘘ではない感情として紡いでいかねばなりません。そのためにも、疑似体験を通して、自分の感情とじっくりと向き合い、探っていきます。私にとっては高い頂(いただき)ですが、少々癖のある役に向き合えるのはうれしいことです。

──そんなアーチボルドの重い心の扉を開くのが、亡き妻リリーの面影をたたえるメアリーです。

 彼女もインドからイギリスにやって来て、新しい現実に直面し葛藤し成長する。その中で、「受容=受け入れること」を学ぶのです。そんな彼女がコリン、さらにはアーチボルドに影響を与え、彼らの頑なな心を溶かす。それはもう魔法のようです。

 そして、亡き妻リリーの存在も特徴的です。繰り広げられる物語を上から見つめ、生きている人たちにイマジネーションを与えている。彼女からのメッセージが美しいメロディに乗って届けられるんです。リリーの存在は大きな見どころになると思います。

 ほかにもご覧になる方の年齢や状況によって、心を寄せるキャラクターが変わってくると思います。それほど魅力的な人々が多く登場します。

──リリーを演じる花總まりさんの印象をお聞かせください。これまでにも『モンテ・クリスト伯』『レディ・ベス』でご共演されています。



 過去2作品を振り返ると、『モンテ・クリスト伯』では彼女の純粋さやひたむきさ、美しい所作を活かしとても気品のある女性像を体現されていました。そしてドラマチックな演技をされる方だという印象を受けました。続く『レディ・ベス』では師弟という役どころでもあり、師としての目線で見てましたが(笑)、少女から成熟した女性としての心構えができるまでの成長を、とても緻密な演技で組み立てていらっしゃいました。とても振り幅のある、心の柔軟な役者さんだと思いました。

 今回のリリーは、宝塚で培ってこられた歌唱、美しく幻想的な佇まいなども含めた彼女のあらゆる魅力を発揮できる役だと思います。もちろん素敵なドレス姿も!『レディ・ベス』以降、多彩な役を経た花總さんとの再会できることはとてもうれしいです。

──石丸さんが来日公演で印象的だったという子役の活躍、日本版でも楽しみです。

 昨今、子供にウェイトがかかる作品が増えていますが、この作品もそうです。メアリー役とコリン役、物語の中では、お互いに思いっきりぶつかり合い、反発し合いながら、次第に理解し合っていく。子役と言われてはいますが、あくまでもいち俳優、女優。期待しています。
 さらに、今回のアンサンブルキャストも強力ですよ!5人がさまざまな役を演じます。そこも楽しみにしてください。

──これからお稽古という段階ですが、おススメのシーンなどはありますか。

 メイドのマーサの弟ディコンは動物と仲良くなれる優しい心を持った男の子です。彼が荒んだメアリーの心を溶かしていくシーンは音楽を聞いているだけでワクワクします。イギリスの民謡調の音楽にのせて彼の魅力が輝くかと思います。

──ご自身のシーンでは?

 そうですね。息子コリンの枕元でアーチボルドが胸の内を歌うシーンですね。

──ビッグナンバーです!(原題:Race You To the Top of the Morning)

 はい。しっかりと完成させてお届けしたいと思います。

──作品のタイトルにもある「ガーデン」に込められた意味も、大人になるとより一層重みを持って感じられるような気がします。

 草木の再生、成長はこの物語の象徴です。テキストには、読んでいて改めて思ったことですが、庭を再生させるために「死んだ根を取り除かなくてはならい」という教えが出てきます。ただ待っているのではなく、ときには決断し、手を入れなければならない。そこには痛みが伴う。それは植物だけでなく、だれの人生にも起こりうることですよね。

 ミュージカルというと、最後は悲劇的な結末を迎えたり、逆にものすごくハッピーになったりはっきりと決着のつくものが多いですよね。この作品はじんわりと温かくなり、物語の結末に向けて徐々に、音楽用語を借りるとクレッシェンドしていくような感じで進み、終演後、心が癒されているような。そんな展開も、緑、庭がもつ力に近いのかな。


【ミュージカルのすそ野を広げつつ、ミュージカル通をも唸らせるような作品に】


──ここでちょっと作品を離れた質問を。長きにわたりミュージカルシーンでご活躍されている石丸さんに、日本の現状はどのように映りますか。

 私がミュージカルを始めたころは、まだまだ作品もプロデューサーも劇場も、もちろん俳優の数ももっともっと分母を増やさなくてはならない状況でした。そこから数十年、大きな変貌を遂げ、現在では上演される作品数もお客様も増えてきました。まだ熟してはいないかもしれないけれど、とてもいい感じに実がなってきたところ。ここで言う「熟」は、ヨーロッパやアメリカのような無期限ロングラン、次々に新作が誕生するという状態。いずれはそこまで行きたいですね。

 もうひとつ私が感じているのは、東京だけでなく、劇場がある街に集う人々にはミュージカルというものが知られ、愛されている。でも、そこから少し離れると、ミュージカルを観たことがない人たちが多くいるんですね。だから私たち俳優は、もっともっと発信し続けなくてはならない。そのために映像の世界にも飛び込んでいます。そうして「この人、ミュージカルをやっているんだ」と知っていただく。それはひとつひとつ地道に灯をともしていくような作業ですが、興味を持って、劇場にたどり着いていただくような道を私たちが作っていかなくてはならない。そんな思いを抱いています。

──今、お話に出た劇場のある街の1つ、日比谷も変貌を遂げてきます!

 もともと日比谷という街は文化の発信地でした。その一角が新しくなり、このエリアに興味を持って訪れた方が、ふと劇場にも足を踏み入れてくれるとうれしいですね。そんなふうに新しいものを受け入れていく、風通しのいい場所であってほしいです。

──そして、本作はシアタークリエ10周年シーズンラインアップです。石丸さんにとってシアタークリエとは。

 『ニュー・ブレイン』出演に際し、プロデューサーから「ブロードウェイで言うとオフとかオフオフの規模の秀作を上演していく劇場です」と紹介されました。そういう劇場は、実はありそうでなかったので、出演する側としても、観る側としても素晴らしいと思いました。また、さきほどの分母の話で言うと、シアタークリエによってますます分母が大きくなることも期待しています。
 その劇場で『シークレット・ガーデン』が上演されるのは夢のようです。これからもこういう秀作をどんどん上演していってほしいですね。

──では、開幕を楽しみにされているみなさんにメッセージを。

 子供のころに読んだ“秘密の花園”が立体化して、みなさんの前に現れる!その感覚をお楽しみに。また、ミュージカルとしても非常に優れた作品ですので、私のように原作をご覧になったことのない方には物語との素晴らしい出会いになることでしょう。ご期待ください。




【ミュージカル『シークレット・ガーデン』おけぴ観劇会開催です】


 『シークレット・ガーデン』6月24日(日)12時公演<満席御礼>、27日(水)18時公演<残席わずか>にて、おけぴ観劇会開催です。



劇場でお待ちしています!




ミュージカル『シークレット・ガーデン』
2018年6月11(月)~7月11日(水)@シアタークリエ
<神奈川>7月14日(土)~16日(月・祝)@厚木市文化会館
<福岡>7月20日(金)~21日(土)@久留米シティプラザ ザ・グランドホール
<兵庫>7月24日(火)~25日(水)@兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

<スタッフ>
脚本・作詞:マーシャ・ノーマン
音楽:ルーシー・サイモン
原作:フランシス・ホジソン・バーネット 『秘密の花園』
演出:スタフォード・アリマ

<キャスト>
石丸幹二(アーチボルド)
花總まり(リリー)
石井一孝(ネヴィル)
昆夏美(マーサ)
松田凌(ディコン)
池田葵/上垣ひなた(メアリー※Wキャスト)
大東リッキー/鈴木葵椎(コリン※Wキャスト)

石鍋多加史(ベン)
笠松はる(ローズ)
上野哲也(アルバート)

大田翔/鎌田誠樹/鈴木結加里/堤梨菜/三木麻衣子

<ストーリー>
1900年代初頭。イギリス領インドで育った10歳の少女メアリーは、両親を流行病で亡くし、イギリス・ノースヨークシャーに住む伯父・アーチボルドに引き取られる。しかしアーチボルドは、最愛の妻・リリーを亡くして以来すっかり気難しくなってしまっていた。彼はリリーの面影を留めた息子とも距離を置き、屋敷にはすっかり沈んだ空気が漂っていた。
庭を散策していたメアリーはある日、「秘密の花園」の存在を知る。リリーが大切にしていた庭園で、彼女の死後にアーチボルドが鍵を掛けて閉ざしてしまったという。ふとした事からその鍵を見つけるが、肝心の扉が見つけられない―。
日々の暮らしの中でメイドのマーサやその弟ディコンをはじめとした使用人達と徐々に打ち解けていくメアリー。しかしその一方でアーチボルドは、どこかリリーに似ているメアリーを気に掛けながらも自身の殻から抜け出せずにいた。
アーチボルドの息子コリンは、叔父で医師のネヴィルの言いつけにより屋敷の部屋から出ずに暮らしており、足が不自由なひねくれた少年に育っていた。突然現れたメアリーにも始めは猛反発していたが、遠慮なくぶつかってくる彼女に次第に心を開いていく。
ある日、リリーの不思議な導きにより「秘密の花園」の扉を発見したメアリー。枯れてしまった庭を蘇らせようと、ディコン・庭師ベンと共に、アーチボルドには秘密で手入れを始め――。

公演公式サイト




おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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