こまつ座
「戦後"命"の三部作」の最後を飾る、戦後のナガサキを舞台にした母と息子のファンタジー作品『母と暮せば』がいよいよ開幕!
初日を前に会場の紀伊國屋ホールで行なわれた、
富田靖子さん、
松下洸平さんの囲み取材にお邪魔してきました。さっそく公演をご覧になったおけぴ会員の皆さまの感想も最後に掲載しています。こまつ座から届いた舞台写真と共にご覧ください!
***初日を前にして
松下栗山さんからいただいた言葉と、こんなに素敵な本を書いてくださった畑澤さんの思い、そしてこの一ヶ月にあったことのすべてを僕と富田さんで引き受けて、あとはお客さまに届けるだけ。
日々違う公演になるのが舞台の楽しみですし、お客さまが入ることによって変わることもたくさんあると思います。僕たちもこの作品を通して、『母と暮せば』をより大きなものにしていければと思います。
富田台本をいただいてから1ヶ月半、二人芝居がとても大変だったということに気づき、そして栗山さんや畑澤さんからたくさんの言葉をいただいて…ようやく明日、初日を迎えられることが本当にうれしいです。お稽古どおりにいくのだろうかという“どきどき”もちょっとありますが…。
この一ヶ月半、この台本と暮らしてきて、いま(息子に対して)
「生まれてきてくれてありがとう」と、そんなことを考えています。結果的にうちの息子は亡くなってしまうのですが、最後に思ったのは“うちの息子に会えてよかったな”ということ。そういう私の1ヶ月半のさまざまな思いも、ちょっと添えて届けられたらなと思ってます。
共演者として「お互いの印象」
松下もうとにかく、優しくて、きれいで、こんな母親がいたら、(富田さん「ほめていただけるんですね!ありがとうございます」)照れますね(笑)。
女優さんとしてもとてもリスペクトしています。ずっと拝見していましたので、富田さんとご一緒させていただくことは本当に光栄です。いい意味で壁のない方で、すごくやりやすかった。こういう
母と息子のあたたかい絆を描けたのは、富田さんのおかげです。ありがとうございます。
富田私は本当に久しぶりの舞台で、戸惑うことも多くて、台本を見ながら、自分のセリフが何ページあるのか、ああいっぱい……とかいいながらのたうち回っていました。稽古中も、うう、どうしよう……ということがいくつかあって、松下さんに相談したら
「(今まで作ってきたものを)一回打ち壊すときが来たんですよ」とおっしゃってくださった。「それはいいことなんですよ」って。そういうことがさらっと言えて、的確なアドバイスをしてくれる、本当に頼もしい息子に出会えたことがすごくありがたかったです。
長崎弁を習得する苦労
富田(長崎弁の)先生がずっとついていてくださって、直接教えていただいたり、あとはCDに吹き込んでいただいたので、それを聴きました。
松下でも
正解がわからないんですよね。もちろん正解の音はあって、わりと標準語に近い音も多いんです。語尾だけ上がるとか、最後(文末)は標準語のイントネーションで大丈夫とか。だから、ふだん標準語で喋っている我々にとっては頭が混乱することもありました。いまだに僕たちが喋っている長崎弁が完璧かどうか、自分たちでもわかっていないという…。
富田でも「どういう気持ちで言いたいですか」って(先生が)必ず聞いてくれて、「それだとこの音のほうが近いです」という作業を一個一個のセリフについてやってきたので、たぶん、いいんだと思います!
死者を演じる/死者を相手に演じるということ
松下もちろん難しさはありましたが、栗山さんの言葉一つひとつが的確で、
「自分が死んでいるということを認めざるを得ない」「死んでいるからこそ言える言葉がある」という二つのことがはっきりしていたんですね。
例えば、町子がほかの男と結婚するということは、認めざるを得ないことですよね。逆に、母が自分の人生をあきらめかけているときにかける言葉は、自分が死んだことを受け入れた上で返す言葉。栗山さんがそのあたりをわかりやすく導いてくださったので、なんとなくですが、気持ちが理解できるようになっていきました。
富田「つい出すぎちゃった愛情ばい」「よかよか、大歓迎ばい」というセリフが大好き。幽霊でもなんでもいいです、出てきてくれれば。ただ、
(息子が)生まれてきたことを後悔していないか、自分が産んでよかったのかということを知りたいんだと思います。(あの時代の母親が)「自分が生まれなければこの子も産まないでよかったかもしれない」と、自分の生きていることも否定していたのかもしれないと考えると、本当に、一回一回の公演を大切にやらなきゃ、と思っています。
この作品をいまいちばん誰に見せたい?
富田男の子のお母さまたちにぜひ観ていただけたら。すごく共感できると思うので。私は舞台の上で芝居をしていますけど、ぜひ観に来て思いを共有していただきたいと思います。
松下若い方々にたくさん観に来ていただきたいですね。戦争を扱った題材なので、悲劇を描いたシーンももちろんありますが、それを知るということが僕たちの世代には大切なことのような気がします。
僕自身も、
あの日、そしてあの日以降、長崎でどんなことがあったのか、この作品を通して知ることができました。(若い方たちが)あの日何があったのかという共通意識を持ち続けるきっかけになればと思います。
『母と暮せば』をさっそく観劇した
おけぴ会員の皆さまの感想をご紹介!
2人芝居なので非常に濃厚な名優の演技の掛け合いが観れます。
母と子がテーマですがより母親の方に焦点が当てられ、敗戦後の戦争被害の中で語られる生命賛歌が感動的でした。
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男の子を持つ親として とても心揺さぶられる舞台でした。
二人舞台でしたが、他の人物も見えてくるようで、思い出して涙が出そうです。
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富田靖子と松下洸平の幅のある演技力が素晴らしいと思います。
あと、演出効果が素晴らしく意匠の効いた演出が想像力をかき立てます。
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原爆投下は神の摂理などではない。
人間の仕業だ!と叫んだ母の言葉がずしんと胸に響きました。
大切な人を想う心の深さに涙が止まりませんでした。
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ひとつの部屋のセットで話が展開されているのに、二人の会話で外で起こっていたこと(原爆、親族の死、偏見など)の光景が目の前に浮かんできました。
90分の二人芝居でとても濃く深い内容を、暗くなりすぎず、親子の愛情や時に笑いありで、楽しませていただきました。もう一度見たくなる作品でした。
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ほっこりする母と息子の会話もあれば、偏見や差別、神は本当にいるのか?被爆者のぶつけようのない心の内が丁寧に描かれていました。
演者のお二人の熱演にも脱帽です。
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子供を思う気持ち、親を思う気持ち、どちらも身に染みます。
戦後73年、平成最後の今、観るべき作品だと思いますし、普遍なもの=思いをしみじみ感じました。
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母と息子、登場するのはその2人だけ。
なのに、1時間半、飽きることなく見つめてしまいました。
2人の会話から“あの日”以前の日常が浮かび上がるからこそ、悲しみが突き刺さります。
こんな時代にこの作品が見られたことに感謝したいです。
おけぴ取材班:hase(文/写真) 監修:おけぴ管理人