5月22日、23日に東京で、6月1日にソウルで開催される
安蘭けいチャリティーコンサート『A Piece Of Courage』。在日3世として日本で生まれ育った宝塚歌劇団元トップスターで現在は女優として活躍されている
安蘭けいさんに、日韓、そしてアジアの文化交流を深め、主に若い奨学生を支援するチャリティーコンサートご出演への思いをうかがいました。
──本コンサートの収益金は2001年に新大久保駅で日本人を助けようとして命を落とした韓国人留学生イ・スヒョン氏の遺志を継いで設立されたNPO法人「エルエスエイチアジア奨学会」へ贈られるとのことです。 今回のコンサート開催は、新井時賛(ときよし)先生との出会いから始まりました。数年前に初めてお目にかかり、私もなにか日韓交流のお手伝いをしたいという思いをお伝えしたところ、このような機会をくださいました。新井先生が理事長を務められる赤門会日本語学校にイ・スヒョンさんが通っていたこともあり、今でも学校には彼のレリーフが飾られています。それを見て、事故から18年が経ちましたが彼の勇気ある行動をいつまでも忘れたくないという思いを新たにしました。その意味でも、通常のコンサートとはまた違う思いを抱いて臨むコンサートになります。
──両国関係というものを考えた時、こうした文化交流から生まれる一歩の大きさ、力強さは確かにあると思います。 文化で繋がることができるというのは確かにありますよね。実際、韓国ドラマや韓国ミュージカル、映画や音楽をお好きな方もたくさんいらっしゃいます。そこで、まず私にできることはと考えたところ、やはり大好きな歌でなにかしたいと思ったのです。私は歌でこそ届けられる思いがあると信じています。
このコンサートは、私にとっても一つの大きなきっかけになるでしょう。今後の女優として、歌手としての自分に少なからず影響があると感じています。
──コンサートの趣旨に賛同された日韓の俳優さんがゲスト出演されます。 東京公演のゲストは、日本でも『レ・ミゼラブル』などにご出演されたヤン・ジュンモさん。とてもスペシャルなことだと思っています。そして、宝塚時代にトップコンビを組んだ遠野あすかさんも来てくれます。旧知の仲のあすかが居てくれることは心強いですね。
ソウル公演はソウル芸術団(韓国を代表する創作公演のパイオニア)のご協力のもと、素敵な3人の俳優さんがゲスト出演してくださいます。創作ミュージカルからの楽曲を披露していただくので、セットリストも東京公演とは変わります。みなさんご存知かと思いますが、韓国ではオリジナルミュージカルの創作も盛んで、最近ではその日本版の公演も数多く上演されていますよね。
──チェ・ウヒョクさんがアンリ/怪物役に抜擢された『フランケンシュタイン』、パク・ウンソクさんご出演の『SMOKE』などがそうですよね。そして、チェ・ジョンスさんの含めたお三方が共演した『ダーウィン・ヤング 悪の起源』からの楽曲が披露されるとか!短期間の上演で話題になった作品、韓国のファンにとっても嬉しいお三方揃い踏みでしょうね。 お三方をきっかけに足を運んでくださる韓国のみなさんにも、日韓交流というものを感じてもらうきっかけになればと思います。
──安蘭さんは、これまでにも韓国の舞台に立たれています。 宝塚歌劇団時代の宝塚星組、退団後は『アントニーとクレオパトラ』(蜷川幸雄演出)でソウルの舞台に立っています。その時、なにか不思議な感覚だったことを覚えています。私は日本で生まれ育っていますが、本籍は韓国にあります。父からの教えもあり、自分のルーツを大切にしたいという思いはずっと持っていました。ソウルでの公演に際して、「韓国人として誇りを持って」と言われてはいましたが、実際、韓国の方にどう受け止められるだろうか。私は韓国のことをどれだけ知っているのだろうか。さまざまな思いを抱えている自分がいました。その重みを感じながらの公演でした。
ましてや今回は作品の一部としてではなく、「安蘭けい」としてのコンサート。さらに気を引き締めて取り組まなければならないと思っています。これをきっかけに多くの人たちにいろんなことを考え、感じていただきたい。そこにはもちろん私自身も含まれます。
今、頑張っている奨学生へのチャリティーにとどまらず、日本と韓国、お互いにもっと身近に感じてもらえるようなコンサートにしたいと思います。
──続いては、少し具体的にコンサートの内容を。選曲のポイントは。 このような機会をいただいたので、韓国の歌は必ず入れたいと思いました。私は韓国語をしゃべれないので韓国語で歌える歌は限られてしまいますが、宝塚時代にも歌ったことのあるキム・ボムスさんの「逢いたい~ポゴシプタ~」を歌おうと思っています。韓国のドラマ『天国への階段』の主題歌としてもおなじみですね。あとは、「イムジン河」にも挑戦します。いつか自分のライブでも歌いたいと思っていたのですが、内包するものが非常に深い曲でもあるのでなかなか踏み出せずにいました。ただそこで描かれる“人の思い”を届けたいという思いで、今回一歩を踏み出そうと!
そして、もちろん!ジュンモさんもいらっしゃるのでみなさんもご期待されている『レ・ミゼラブル』からの楽曲も用意しています。また、ジュンモさんとあすかと私の共通点でもある『スカーレット・ピンパーネル』の楽曲も歌います。
──ジュンモさんはショーブラン、遠野さんマルグリット、そして安蘭さんはパーシーとマルグリットを演じられていますよね。 今回、マルグリットはあすかに任せて(笑)、私はこのコンサートのタイトルにもなっている「ひとかけらの勇気」を歌います。
──どちらの作品も日本でも韓国でも人気です。どちらの公演でも盛り上がるでしょうね!改めてミュージカル、歌は共通言語であることを感じます。 音楽って、そういうところがいいですよね。その可能性を信じています。
──韓国でも安蘭さんがパーシーの歌を歌われる。今の安蘭さんのお姿からは男役として活躍されていたことは驚かれるかもしれません。 世界中どこを探しても宝塚はないですからね。誰も信じてくれない!かつてパーシー、その後マルグリット、まるでビフォア/アフターのような……(笑)
──男役の歌を歌うと自然にスイッチが入るものですか。 正直に言うと「ひとかけらの勇気」は男役の歌というより、私の中でのスタンダードになっているので比較的自然に歌うことができます。スイッチが入ることを実感するのは、あすかと歌う時(笑)。女性同士のデュエットソングを歌うのですが、見つめ合うとどうしても男役になっちゃうんです。なんとも言えない、包容力のようなものがむくむくと湧いてくるんです(笑)。リハーサルを見ていたスタッフさんに言われたのは、あすかの雰囲気も変わるというか、素のしっかり者の顔から甘え顔になるって。それはこれからもずっと変わらないんでしょうね。
あすかはゲスト出演を快諾してくれましたが、ついつい「もう一曲!」とはじめて歌う歌を提案してしまって(笑)。無理強いしたかと思っていたら、「瞳子さんと一緒に歌うのなら」と言ってくれて。嬉しいですね。
──ずっとお二人を見続けているファンの方にとっても“はじめて”があるんですね。楽しみです。では、最後に今回こうして東京とソウルでのコンサートという形で一つ念願が叶います。その先は。 まだ具体的に見えているわけではないのですが、夢は日韓の架け橋になれるように私にできることをやり続けること。そのためにも、まずはこのコンサートをしっかりと成功させたいですね。そして、今後、形は変わるかもしれませんが続けていくことこそが大切だと思っています。私自身がまだ気づいていない「私にできること」もあると思うんです。いろんな方に出会うことで気づかされることもたくさんあります。このコンサートを通じての出会いを次に繋げていきたいと思います。
──今回のコンサート、これからの活動、どちらも楽しみにしています。【おまけ】
──韓国公演に向けて!おすすめスポット&グルメは。 韓国へ行った時に必ず食べるのはタッカンマリ。本当に昼も夜もイケるぐらい大好きなんです。焼肉はサムギョプサルが好きですね。あとはハンジュンマク、サウナでリフレッシュします。そして、忘れてはいけないのがミュージカル。歌の実力も半端ない!あの声の通り方はスカッとしますね。東大門でのショッピングも楽しいですし、ソウルを訪れた際には思いきり満喫してほしいですね。それも文化交流!
東京公演のおけぴ公演NEWSソウル公演のおけぴ公演NEWS
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人