猿之助さん率いる新チームによる、新たなオグリ誕生! 新橋演舞場初となる左右同時両宙乗り。そして“ワンピース以上”の本水演出! 当代の猿之助さん率いる新チームが新たに立ち上げるスーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』が二ヶ月連続上演中です(10月6日初日~11月25日千穐楽、その後博多座、南座で上演)。
文武両道で美貌の若者・小栗判官(オグリ)が、理想を求めてたどる光と闇の旅路を、歌舞伎ならではのスペクタクルをふんだんに盛り込み描いた伝説のスーパー歌舞伎『オグリ』。
哲学者の梅原猛と三代目市川猿之助(現・市川猿翁)が生み出した“ロマンの病”の物語が、横内謙介さん(脚本)、杉原邦生さん(演出)、そして小栗判官役を交互出演で演じる市川猿之助さんと中村隼人さんほか、多彩な出演者たちによる新チームのもと“歓喜の物語”として生まれ変わります。
製作発表に先駆けて、猿之助さんが作品への思いを語りました。
◆【『オグリ』を選んだ理由】
今年亡くなった(原作の)梅原猛先生への追悼の思いに加え、元の物語がしっかりとしていて再演に耐えうる脚本であることなどを考慮して、今回『オグリ』を上演することにしました。前回の『オグリ』は“平成最初”の「スーパー歌舞伎」。今回は“令和最初”の「スーパー歌舞伎II」です。これもめぐり合わせかなと思っています。
物語はいわゆる貴種流離譚。高貴な人が落ちぶれて、また再生するという、日本人の心に強く訴えかける典型的な物語です。そこに梅原先生が大変興味深い解釈を加えていらっしゃることで、逆に今の僕らが自由に解釈し直すことができると考えました。テーマは梅原先生のおっしゃるところの「ロマンの病」。オグリは自分の理想を追求するために命をかける、そのためには周りの人が苦しんでもいい、と考える人間です。それが人生の艱難辛苦を乗り越えて、青年期から大人へと成長していく。今回はこの「オグリの成長」にクローズアップしています。目的を達成するためには周りを犠牲にしてもいいと思っているオグリが、いやそうじゃないんだと、周りも幸せでなくては意味がない、みんなで幸せになるのでなくては、真の意味での幸せではないんだと気がつく、というところに持っていこうと思っています。
前回上演時のオグリは「ロマンの病」ということで、女性をとっかえひっかえするという設定でした(笑)。でも現代では奔放な愛が「ロマン」とは結びつかないのではと考え、脚本の横内(謙介)さんとも相談して、現代版の「ロマンの病」は「刹那的な生き方」ではないかということになり脚本を変えました。
ラストは遊行上人の念仏踊りになるんですが、それは喜びがそのまま踊りになった、歓喜の念仏踊りです。みんなで踊って、劇場中が喜びに包まれたらいいなと思っています。そう、新板『オグリ』のテーマは歓喜! そこにどんな仕掛けができるだろうかと思案中です。(ワンピースで使った)タンバリンの在庫に「オグリ」とシールを貼って売ろうかな、なんて考えたけれど、それだと二番煎じになってしまうから(笑)。
【中村隼人さんとの交互出演について】
主役によって作品のテイストが変わってくると思います。彼がオグリのとき、僕は遊行上人役。「一粒で二度美味しい」を狙っているんです(笑)。隼人くんは若さ溢れているし、テレビドラマ(BS時代劇「大富豪同心」)にも主演中だし、若い世代のお客様には僕より彼の名前のほうが浸透しているんじゃないのかな? 僕は彼のファン層より、もうひとつ上の世代のみなさん担当、ということでがんばります(笑)。
同じ役を演じるといっても、それぞれ扮装も変えるし、役替わりもあるし、かなりおもしろい絡みになると思います。役の設定と役者の実人生が重なるのは隼人=オグリ。僕がオグリのときは芝居としてのリアリティを見せなくてはなりません。隼人くんが遊行上人のときはオグリと同じ立場で悩む坊さんになると思います。上人だって聖人君主ではないですから、オグリと並んで冒険するのもおもしろい思う。演じる者によって、解釈が変わってくるのではないでしょうか。
若手を抜擢することは、それこそ大冒険。若い世代を育てたいという思いと、あとは僕が楽をしたいという思いと(笑)。それは冗談としても、実際なにが起こるかわからないですからね。いろいろな意味を込めて、これからもダブルキャストというのは必要かなと考えています。
【新演出について】
演出は杉原(邦生)くん。一応僕も共同演出ということになっていますが、実際には彼のやりたいことを僕がサポートするというつもりでいます。演出家も育てるという意味での抜擢です。杉原くんが所属していた「木ノ下歌舞伎」は見た人ほとんど全員、100人いたら100人が「おもしろい」と言うんですよ。だからこれは間違いないだろうと。
演出の見どころは全部です。前回とはガラリと変えます。舞台の上で馬に乗っても、今のお客様はもう驚かないでしょう。前回は鏡張りの演出なども話題になりましたが、伯父(市川猿翁さん)は本当は舞台にテレビを敷き詰めて、全部を映像でやりたかったんです。ですが、それだと予算がかかりすぎるということで仕方なく鏡張りにした。今ならLEDを使って実現できますよね。伯父がやりたかったことに時代の技術が追いついてきたんです。今回はその技術を使ってどんな『オグリ』になるのか。杉原くんは地獄の場面を真っ白にしたいなんて言っています。普通、地獄って赤とか黒のイメージなんだけど、白にしたいと。閻魔様も真っ白にしたいそうです。でも公演期間が二ヶ月もあると、白は汚れが目立つからなあ(笑)。さあ実際にはどんなことになるのか、劇場で確かめてほしいですね。
今回の現場では若手も含めて、みんなが意見を出し合える環境というのを大切にしたいと思っています。僕はできるだけ何も言わないようにする(笑)。オグリと仲間たちも、“オグリと弟子たち”に見えてはだめなんです。あくまでも対等の立場の仲間。僕がトップに見えないように、おなじみの面々にはあて書きをしてもらっています。これはやっぱり『ワンピース』から続くチームの強さですね。オグリと照手姫の恋愛もありますが、そこだけをピックアップはしたくない。若者たちの群像劇にしたいんです。登場人物それぞれにしがらみがあって、人生を背負っている。絵空事ではなく、いまの時代の風潮を引き寄せたい。そして最後には“歓喜”! 劇場を出るときに嬉しくて踊りだしたくなるような幸せな芝居を作りたいですね。ラストは客席も一緒に踊りたいなあ。念仏踊りだと宗教的になってしまうので、そこはなにかうまい仕掛けを考えたいですね。
梅原先生の脚本は「どこを取っても崩れない堅牢な建物」のようだと、横内(謙介)さんがよく言っています。どこを取っても、どこをやっても成立する。そういう意味では梅原先生は“歌舞伎”だったんだなと思いますよね。ご存命中に上演許可を頂いた今回の『オグリ』は先生の遺言のようなものだと思い、気を引き締めています。
劇場にいらっしゃるみなさんも、日々社会の中でさまざまなストレスを抱えていらっしゃるだろうから、それを発散するようなつもりで。ストレス発散、デトックス! という気分で劇場にいらしてください。とはいえ、芝居を見て「こんな恋愛をしたい」と憧れるような展開はないですよ(笑)。照手姫なんて、辛い思いするばっかりなんだから、そんなところはお手本しないで、仲間たちと生きる歓喜を感じて、心の浄化に来ていただければ嬉しいですね。
◆ 理想と自由を求めて生きるオグリが目覚める隣人愛、そして人生の歓喜の瞬間とは? スーパー歌舞伎の精神を受け継ぐ当代猿之助さんの新たな挑戦! 『スーパー歌舞伎II(セカンド)新版オグリ』は新橋演舞場にて、11月25日まで上演中です。
猿之助さんに加え、中村隼人さん、脚本演出のスタッフ陣も登壇した製作発表レポはこちら♪
おけぴ取材班:hase(取材・撮影)、mamiko(文) 監修:おけぴ管理人