◎翻訳 小田島創志さんからのメッセージ
ラジヴ・ジョセフ『タージマハルの衛兵』は、「いま」を映し出す物語だ。たしかにこの芝居の舞台は1648年のインドだが、登場人物の2人、ムガル帝国の警備兵フマーユーンとバーブルか抱える葛藤は、地域や時代に限定されない普遍性を帯びている。完成間近のタージマハルを警備する彼らは、現代の若者のようで、どこにでもいそうな(しかし魅力にあふれた)キャラクターだ。そんな幼馴染2人組に下された、帝国からのとんでもない指令。それを前にした2人の言動の違いは、「組織」にどう向き合うかという悩ましい問いを、いまを生きる我々に突きつけてくる。家族や国家といった「組織」のなかで「個」は摩耗して、交換可能な機械の部品のようになっていく。しかし、その現状から抜け出したくても抜けられない。「個」と「組織」は切っても切れない関係にある。◎演出 小川絵梨子さんからのメッセージ
「ことぜん」シリーズの第三弾としてお届けする本作は、寓話性を持ったダークコメディです。〈作品〉
新国立劇場で2015 年12 月に上演された『バグダッド動物園のベンガルタイガー』の作家であるラジヴ・ジョセフが同年6 月に初演した『タージマハルの衛兵』を、ことぜんシリーズの第3弾として日本初演いたします。
タージマハル建設中のムガル帝国。その完成前夜から始まる物語の登場人物は、フマーユーンとバーブル、たった2 人。タージマハルの建設現場で夜通し警備をする、幼馴染でもあるふたりの会話からは、美と権力、支配者とレジスタンス、国への忠誠と個人の尊厳など、多くの問題をはらみ、時間が経つにつれて次第にスリリングになっていきます。ある枠組みの中に生きる人間が抱える、普遍的な葛藤を描く物語。
〈あらすじ〉
1648 年、ムガル帝国のアグラ。建設中のタージマハルの前。「建設期間中は誰もタージマハルを見てはならない」と、皇帝からのお達しがあった頃。
ついにタージマハルのお披露目の日の前日、夜通しで警備についている、フマーユーンとバーブル。二人は幼い頃からの親友であり、現在は軍に入隊をしている。警備中はタージマハルに背を向け、沈黙のまま直立不動でなくてはならない。だが、空想家のバーブルは黙っていられなくなり、律儀に立ち続けるフマーユーンに話しかけてしまう。二人の会話はまるで「ゴドーを待ちながら」の二人のように、もしくは「ローゼンクランツとギルデンスターン」の二人のように、とりとめのない言葉の応酬のようでありながら、二人の人間の差を描き出して行く。やがて二人は、バーブルが不用意に発した一言を発端に、あまりにも理不尽で悲劇的な状況に追い込まれていく……。