『タージマハルの衛兵』稽古場レポート【衝撃的な物語、幸せな創造現場】

 

 新国立劇場「ことぜん」シリーズ(※)第三弾は、演劇芸術監督の小川絵梨子さん自身が演出を手がける二人芝居タージマハルの衛兵

 ※ことぜん、とは「個と全」のこと。個人と国家、個人と社会構造、個人と集団の持つイデオロギーなど、ひとりの人間とひとつの集団の関わり合いをテーマに3つの作品が上演される新国立劇場2019/2020シーズン最初のシリーズです。

 
成河さん亀田佳明さん共演の“寓話性を持ったダークコメディ”(小川さんコメントより)、プレビュー公演が約1週間後にせまった稽古場にお邪魔してまいりました。



 物語の時代背景は17世紀半ば、インド・ムガル帝国の最盛期。舞台に登場するのは、建設中のタージマハルを警備する二人の男です。

 皇帝シャー・ジャハーンが、亡き愛后のために16年かけて建設中の霊廟タージマハル。その塀の外で中を見ることも許されず警備を続ける二人は幼馴染で、互いを「バーイー(兄弟)」と呼び合う間柄。

 創作現場の一員として翻訳作業の段階から参加したというキャストは、ストレートプレイからミュージカルまで硬軟とりまぜどんな作品でも“演劇”“演技”を深く掘り下げる俳優・成河さんと、小川絵梨子さん演出『マリアの首 ―幻に長崎を想う曲―』ほか『三文オペラ』『るつぼ』など新国立劇場作品でもおなじみの亀田佳明さん(文学座)。この夏上演された文学座本公演『ガラスの動物園』ではトム役に抜擢されました。


警備隊の最高指導者である父への畏怖の念を持つフマーユーン。四角四面、真面目一徹、規律に縛られた男。とはいえ、もちろん彼にも葛藤があり…


自由奔放で夢想家。子供っぽいようで、真実をつく発言を繰り返すバーブル。美を愛する男。彼の衝動的な発言から物語は思わぬ展開に…
 
 劇場公式サイトに掲載された小川絵梨子さんと小田島創志さん(翻訳)の対談記事によれば、出演者お二人がどちらの役を演じるのかを決めないまま稽古が始まったとのことですが、この日の稽古場の様子からは、成河さんがフマーユーン、亀田さんがバーブル役を演じるよう。


 「建設中期間中は誰もタージマハルを見てはならない」、そして「タージマハルに並ぶ美しい建造物を今後決して生み出してはならない」

 皇帝の命令で、タージマハル建造に関わった2万人の手を切り落とすフマーユーンとバーブル。設定を聞くと、陰惨な展開を想像しますが、戯曲内で繰り広げられるのは、どこかとぼけたような二人の会話。性格の違う二人、でもどちらも愛すべきキャラクター。お互いの信頼感の上に成り立つオモシロ会話を劇場で聞くのが楽しみです♪

 …というのも、この日の取材で拝見したのは、物語のクライマックスともいえる終盤、まさに衝撃的でシリアスな場面だったから。

 「2万人の手を切り落とす」“ひでえ仕事”以上に、とんでもない状況に追い込まれる二人。

 体制側の意向に背けないフマーユーンと、事の重大性を次第に理解するバーブル。セリフのやりとり、生まれる感情、そして動く身体。ネタバレになるため、詳細はぜひ劇場でお確かめいただきたいのですが、目の前にいる俳優の演技そのものをダイナミックに楽しめる(…というと語弊のある場面ですが…)、スリリングな場面になっています。


「ありがとう、いい方向だと思う。ありがとう!」
俳優を労いながら舞台に近づき、同じ目線で話し始める小川絵梨子さん。

「この切り替えを、より丁寧に」
「いくらでも間があいていいので、相手を信じて、だんだん気持ちが切り替わる…」
「ここで思考が止まる感じ」

テクニカルな問題もクリアしつつ、緻密な演技を確認する小川さん。小川さんとディスカッションしながら台本にメモを書き込む成河さん。

小川さんの言葉を聞きながら、じっと考える亀田さん。

具体的な提案、ディスカッションを経て、演技が確実に変化します。
演出家と演者がフラットな立場で向き合い、作品を良くするために知恵を絞る。なんて幸せな創作現場!

 アメリカ在住の劇作家ラジヴ・ジョセフ(『バグダッド動物園のベンガルタイガー』)が、2015年に初演。小田島創志さんによる翻訳、小川絵梨子さんの演出で日本初演となる『タージマハルの衛兵』。

 17世紀のインドが舞台ですが、登場する二人は現代の若者のようであり、彼らが置かれる立場は、少し見方を変えれば、この舞台の観客である私たちにも覚えがある状況でもあります。


 思考停止する人と、想像力を自由に羽ばたかせる人。あなたはどっち? 長いものには巻かれろ? もしこの状況だったらどうする? 国家と個人、そして美の関係とは?  

 きっとこの舞台を見たあとには、自分と自分がいま生きている現代社会と重ねて考えざるを得ないし、それを誰かと話し合いたくなる、そんな予感がひしひしと。

 ユーモアのある会話のなかに、たくさんの問いをしのばせた戯曲。同時に、俳優の演技そのもの、演劇だからこその魅力を楽しむ快感も大いにありそうな『タージマハルの衛兵』は、12月2日、3日にプレビュー公演が行われ、12月7日に初日を迎えます。

新国立劇場公式サイトにて、小川絵梨子さん[演出]×小田島創志さん[翻訳]の対談が公開されています
成河さん、亀田佳明さん対談も公開されました!(新国立劇場公式サイト)


【公演情報】
新国立劇場 シリーズ「ことぜん」Vol.3
『タージマハルの衛兵』
2019年12月7日(土)-23日(月)
プレビュー公演 12月2日(月)・3日(火) 新国立劇場小劇場

作:ラジヴ・ジョセフ
翻訳:小田島創志
演出:小川絵梨子

出演:成河、亀田佳明

<ものがたり>
1648年、ムガル帝国のアグラ。建設中のタージマハルの前。「建設期間中は誰もタージマハルを見てはならない」と、皇帝からのお達しがあった頃。
ついにタージマハルのお披露目の日の前日、夜通しで警備についている、フマーユーンとバーブル。二人は幼い頃からの親友であり、現在は軍に入隊をしている。警備中はタージマハルに背を向け、沈黙のまま直立不動でなくてはならない。だが、空想家のバーブルは黙っていられなくなり、律儀に立ち続けるフマーユーンに話しかけてしまう。
二人の会話はまるで『ゴドーを待ちながら』の二人のように、もしくは『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』の二人のように、とりとめのない言葉の応酬のようでありながら、二人の人間の差を描き出して行く。
やがて二人は、バーブルが不用意に発した一言を発端に、あまりにも理不尽で悲劇的な状況に追い込まれていく。その先にあるのは......。

※ご注意※
本作品の一部に、流血表現がございます。

公演公式サイト

おけぴ取材班:chiaki(撮影)、mamiko(文)   監修:おけぴ管理人

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