【中村屋兄弟が挑む、昼夜異なる魅力の花形歌舞伎!】
明治座「
三月花形歌舞伎」の製作発表が開催され、出演者の中村勘九郎さん、七之助さんが公演にかける意気込みを語りました。
江戸三座のうち中村座と市村座があり、芝居町として栄えた人形町(かつての堺町・葺屋町=二丁町)のほど近くに建つ明治座。
まもなく創業150年を迎える歴史ある劇場に、3年ぶりに“花形歌舞伎”が帰ってきます!
座の中心を担うのは、昨年のNHK大河ドラマ「いだてん」で主演をつとめた中村勘九郎さんと、弟の七之助さん。
昼公演はかつてふたりの父・勘三郎さんも演じた
「一本刀土俵入り(いっぽんがたな どひょういり)」の茂兵衛とお蔦役。それぞれに深まる演技が楽しみです。
夜公演は“超展開”が続く人気演目
「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」の清玄と釣鐘権助(勘九郎さん二役)、そして桜姫役に兄弟初共演で挑みます!
そのほか演目や配役など、詳細はこちらのおけぴ観劇会ページでもご紹介中!
(観劇会は満席となりました。ありがとうございました!)◆ 古典を大事にしてこそ、新しい型破りが生まれる── 勘三郎さんがのこした名言を踏まえ「花形歌舞伎は若い世代が古典の大役に挑戦できるありがたい機会」と語る松竹株式会社代表取締役副社長 演劇本部長の安孫子正さんに続いて、勘九郎さんから「若い力を結集してハートフルでドラマチックな舞台をお届けしたい」と挨拶が。続く質疑応答でも、演目と役の魅力についてたっぷりと語ってくれました。
──それぞれの役への意気込みを
勘九郎さん: 「一本刀土俵入り」の茂兵衛は祖父や父が大切につとめてきた役で、私にとっても父から教わった思い入れの深いお役です。長谷川伸先生の大変心温まる作品で、大好きな役のひとつ。3回目の茂兵衛役ですが(お蔦役の)七之助ともよく話し合って、新鮮な気持ちでつとめたいと思います。
夜の部の「桜姫東文章」は明治座さんがリクエストしてくださったとか。こんなにも早く、七之助とふたりでつとめさせていだけるとは思っていませんでした。七之助はコクーンで桜姫役(2009年コクーン歌舞伎「桜姫」)をやっていますが、私は初役です。出演のお話を聞いたときは「…清玄と権助か……(しばし沈黙)…うん、やってみようかな!」という感じで(笑)。ほんとうに“ぶっ飛んでいる”お話です。歌舞伎だけでなくさまざまな舞台で上演されていて、最近も阿佐ヶ谷スパイダースが上演した舞台(『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡~』)を拝見しましたが、見るたびになにか発見ができる、まだまだ出尽くしていない、掘り下げる要素がたくさんある芝居だと思います。鶴屋南北の世界観をおもしろく伝えることができればと思っています。
(大河ドラマが終わり、久しぶりに歌舞伎に戻ってきての感想を聞かれ)久しぶりといっても「1年ちょっとじゃんねー」(笑) もう30年以上歌舞伎をやっていますから久しぶりという気はあまりしませんね。
七之助さん: どちらの演目も若かりし頃に一度つとめているお役なので、そこから歌舞伎と向き合ってきた時間が(役への)アプローチをどう変えるのか楽しみです。コクーン歌舞伎では演出の串田和美さんの意向で誰にも教わらずに桜姫役を作りましたが、今回は(坂東)玉三郎のおじさまが監修で入ってくださいますので、一から教わるのを楽しみにしています。
──おふたりよりも若い世代も育ってきている。勘九郎さんの2人の息子さんも初舞台を終えたいま、あらためて花形歌舞伎に出演する思いは?
勘九郎さん: 若手が大作、初役をさせていただく機会が多い花形歌舞伎。勉強というとお客様に失礼になるかもしれませんが、こういう機会を与えていただけるのは私たちにとってほんとうにありがたいこと。先人の教えをしっかり身体に叩き込み、歌舞伎の魅力、作品のパワーをお客様にお届けできればと思います。その姿勢で舞台にのぞんでいた父や先輩方を子どもの頃に見て、かっこいいな、僕もこの役をやりたいな、と憧れていました。子どもたちの世代にも同じように思ってもらえれば。
七之助さん: 若手が大役をつとめさせていただける花形歌舞伎の機会は大切にしたいですし、役者から“花形”という字が消えても、一生ずっと、死ぬまで修行です。(花形の)心は変わりなく持ち続けるのが歌舞伎役者だと思います。先人たちが一生懸命に残したものを汚さないようにつとめたいと思います。
──演じる役について
勘九郎さん: 「一本刀土俵入り」の茂兵衛は力士になれなかった男。そんな彼が人の優しさに触れて、恩返しをする。いちばん忘れてはいけない感謝の気持ち、それをストレートに持っている人です。後にやくざ者になってからもその気持ちは忘れずにいる。優しさ、感謝の気持ち、そういうものを感じる作品です。
で、清玄。うん。これはもう本当に因果因縁といいますか、白菊丸と桜姫に翻弄されて、歯車がどんどんずれて、崩れていってしまう役。このような破壊、堕落していく役はこれまであまり演じたことがないので、楽しんでつとめたいと思います。
権助は、やはり男の色気ですよね。清玄とはまるでちがう、ムンムンと匂い立つような色気があるお役ですので、この二役をどう演じ分けることができるのか楽しみです。仁左衛門のおじさまに教えていただきます。
七之助さん: お蔦は人間味にあふれた女性。同時にいろいろな解釈ができるお役です。猿之助さんやほかの皆さんともよく話すのですが、茂兵衛を助けたことを覚えているのか、覚えていないのかについても、さまざまな解釈があると思います。水のように流れていく女性ですが、芯はしっかりしている。ぶっきらぼうだけど人生を捨ててはいない、生きていくパワーがあるところがすごく好きです。茂兵衛との出会いも、彼女にとってはさほど大きな事ではなかったのだけれど、その彼が後に助けてくれる。今の時代にもありえるような状況を描く、長谷川伸さんの素晴らしい作品です。初めて演じたときは、祖父(七世中村芝翫)の大切にしていた役ということで変な力が入っていたのですが、今回は良い意味で力の抜けた雰囲気が出せればいいなと思っています。
「桜姫~」はとにかく作品の前半が、よくぞここまでと言いたくなるくらい、南北の頭の中を覗いてみたくなるほどの、謎が謎を呼び運命の糸が絡み合ってぐわーっと展開するおもしろさなのですが、最後の権助の家の場あたりから、これまで構築してきたものは何だったんだろうという感じになるんですよね(笑)。権助が酔っ払って自分で正体を明かしてしまうとか…
勘九郎さん: 雑(笑)! でもこれ“南北あるある”です。ぜったい最後まで自分で書いてないと思う(笑)。
七之助さん: 何人かの合作で、一応、岩淵庵室の場から先も南北が書いたことになっていますが、なかなか雑な状況で(笑)。ここが演じていても難しいところです。コクーン歌舞伎では写実を求め、掘り下げるのですが、ここを掘り下げていくとどうしても辻褄があわなくなる。ただ古典歌舞伎の場合は、そのめちゃくちゃさこそが素晴らしいところで、演技や演出でなぜかお客様が納得してしまうんですね。今回はその“魔力”を勉強したいなと思っています。だって最後に幽霊が出てきて、実はこうだったと一人芝居で語ってしまうなんて、今までの一生懸命は何だったの?(笑) でもそれで作品を終わらせてしまう歌舞伎のパワーがある、そこが楽しみです。
──兄弟で夫婦役、恋人役を演じることについて。演じながら意識することは?
勘九郎さん: 夫婦、恋人役はこれまで何度も演じてきていますが、「桜姫~」ほど密な関係はやったことがない。美しく、色っぽく、艶(なま)めかしい感じでできたらいいなと。
七之助さん: きれいな中にどろっとした因縁めいたものが垣間見える、エロティックな要素もよく出ている作品です。お姫様でいるときとのギャップも楽しい作品なので、そのあたりも強調していければ。
勘九郎さん: 演じながら相手が兄弟だと意識することはありません。それよりも俳優としての方向性、見てきたもの、受けてきた教育も一緒なので、間や空間の使い方が同じで、お互いのコンディションもよくわかるし、なにかあってもすぐに修正できる。そういう意味でやりやすい相手ですね。
七之助さん: 観ている方は(兄弟だと)意識してしまうかもしれませんが、本人同士はほとんど、というか、全くゼロに近いくらいそういう気持ちはないです。
勘九郎さん: 特に「桜姫~」はそんな気持ちがあったら絶対に演じられない作品なので(笑)。そうとうな濡れ場があってエロティックな関係にもなりますし。いまでいうBL要素もある。若い方にもウケる作品だと思います。
◆ 3月2日から26日まで上演される明治座「三月花形歌舞伎」。出演はこのほか、坂東彦三郎さん、坂東巳之助さん、中村壱太郎さん、中村橋之助さんほか。
演目詳細、配役などは
公演公式サイト、
おけぴ観劇会ページもぜひ参照ください。
【取材こぼれ話♪】
2019年の大河ドラマ「いだてん」で日本初のオリンピック選手・金栗四三を演じるため、体重を絞り、体脂肪率9%にまで落としたという勘九郎さん。撮影終了後、そのままでは“舞台映え”しないということで、たくさん食べて体重を戻し「今が人生で一番(体重が)重い(笑)」とのこと。
「痩せるのは大変だけど、戻すのは簡単。苦痛の日々が、3日くらいで元に戻りました(笑)。食というのは大事なんだなと改めて感じました」(勘九郎さん)
おけぴ取材班:chiaki(撮影)、mamiko(文) 監修:おけぴ管理人