大ヒット映画『ゴースト/ニューヨークの幻』がミュージカルとなって蘇る!
2018年の日本初演から2年半、スタイリッシュでありながら温もりも感じるミュージカル『ゴースト』が待望の再演です。 1990年公開の映画『ゴースト/ニューヨークの幻』、ライチャス・ブラザーズが歌う主題歌「アンチェインド・メロディ」に乗せて描かれるラブストーリーに涙されたという方も多くいらっしゃるでしょう。 そのミュージカル版となる本作の脚本・歌詞を手掛けたのは、映画の脚本を手掛け、同作にて第63回アカデミー賞脚本賞を受賞したブルース・ジョエル・ルービン。そこに音楽・歌詞のデイヴ・スチュワートとグレン・バラードが紡ぐ切なくも激しいメロディが加わり、ミュージカル『ゴースト』は世界各地で新たな感動を呼びました。
2018年、ダレン・ヤップ氏による日本オリジナル演出で上演された日本版初演から約2年半の年月を経て、再び、あの感動がシアタークリエの舞台に蘇ります。3月5日の初日に向けてお稽古に励むキャストのみなさんがご登壇され会見が行われました。みなさんの思いの詰まったひととき、会見の様子をレポートいたします。
サム役の浦井健治さん、その恋人のモリー役Wキャストの咲妃みゆさん、桜井玲香さん、サムの同僚で親友カール役の水田航生さん、物語のキーパーソンである霊媒師オダ・メイ役の森公美子さんがお衣裳で登場、一気に初演の記憶がよみがえる中で始まった会見。桜井さん、水田さんは再演からのご出演となります。
──今回の公演に向けて、どのように取り組まれているかお聞かせください。森さん)
私は再演組ですが、前回はセリフもいっぱいいっぱいでしたが、今回は少し余裕があるので踊りにも参加させていただいておりまして。踊る霊媒師になっております(笑)。
水田さん)
初演で作り上げられたすばらしさを踏襲しながらも、自分なりのカール像を表現し、突き詰めていきたい。それが再演から参加する者の役目でもあると思っています。
桜井さん)
初演でひとつの完成形を作り上げたみなさんが、(今回から参加の)私の考え、意見をとても尊重してくださっています。作り上げられた形にとらわれずに、のびのびと自分らしく演じたいと思います。
咲妃さん)
約2年半ぶりの『ゴースト』への挑戦。初演時の頑張り、そこで培ったものを大切にしながらも、新たな気持ちで作品に向き合うことを大事にしています。
浦井さん)
まずは、こうして再演できることを光栄に思います。初演チームは、すでに自然体でお稽古ができていますし、オダ・メイとまたコンビを組んで楽しめるぞという嬉しい気持ちもあります。また、二人のモリーのナンバー♪With Youはとても深化していますし、カールも前回は弟的だった平間壮一くんから水田くんに変わり、対等な男と男の友情という新たな関係性が築けています。実は、実際にサムとカールが目を合わせるのはワンシーンしかなく、その後は会話もないのですが、二人の関係性をしっかりと表現する。そこは自分の中でもお芝居のしどころだなと思っています。
──初演からご出演の浦井さん、咲妃さん、森さんに伺います。初演時に印象的だった出来事、エピソードなどございましたらお聞かせください。森さん)
とにかく浦井健治さんのズボンがよく壊れるという(笑)。1か月の公演で5本くらい?
浦井さん)
申し訳ございません。幽霊という役柄上、“人”とは違う動きをしているもので──というのは言い訳です(笑)。
森さん)
確かに膝をついたりスライディングをしたり、よく動いていますからね。
咲妃さん)
開演前にみんなで円陣を組んで「今日も心を一つに舞台をお届けしましょう」と誓う、一種の儀式がありました。このご時世では難しいかもしれませんが、ダレンさんが「繋がりを大事に」と言い続けてくださったことが、すごく印象的でした。
浦井さん)
初演時もカンパニー全体でしっかりと絆が築けたという自負はあります。そして、それを今の稽古場でも感じています。自分の中ではこの作品はみんなが主役だと思っています。実際、ゴーストがたくさん出てきますし、その一人ひとりがタイトルロール! みんなの目を見ていると、それをしっかりと共有できていることがわかり、すごく幸せです。
──今、お話にも出た稽古の様子についてお聞かせください。桜井さん)
ソーシャルディスタンスをとっている分、コミュニケーションをとるのが難しい状況です。心の距離が近づくことで芝居が深まっていくと思うので、(物理的距離は)遠いながらも心を通わせられるように、日々考えて取り組んでいます。
水田さん)
ダレンさん、浦井さんのおかげでとても明るい雰囲気でお稽古をしています。ソーシャルディスタンスをとり、マスク着用、常に換気という環境ですが、文字通り“風通しのいい”稽古場です。
森さん)
感染予防に細心の注意を払う稽古場。入室の際も新しいマスクに替えて、検温、消毒、コート類も別室に置き、はじめて稽古場に入ることができます。それがお客様の、カンパニーの安心・安全に繋がるならばと、一同、徹底しております。
浦井さん)
コロナの影響で言うと、演出のダレンが今回はリモートでの参加となりました。でも、離れていてもこうしてまたダレンと仕事ができることに喜びを感じています。また、稽古場の演出家の席には振付の桜木涼介さんが座り、助手の方とともに通常の何十倍もの仕事をこなしています。そしてそれを制作スタッフのみなさんが支えている。まさに一丸となって稽古に励んでいます。
咲妃さん)
毎日のように、ダレンさん、(装置・衣裳の)ジェームズさんがリモートでお稽古に参加してくださっているので、日本とオーストラリアという離れた場所にいても不思議と心の距離は近く感じます。すぐそばで一緒に見守ってくださっているような安心感の中で稽古しています。また、玲香や水田さんをはじめとする今回から参加するキャストのみなさんも率先して意見を出してくださるので、とても濃厚な稽古になっています。日々学びの多い稽古場にいられることをありがたいと思います。
浦井さん)
本当にそれぞれが意見を出し合っているよね。だからこそ、二人のモリーが違うカラーでありながら、どちらも作品の中にしっかりと存在する芯の強いキャラクターになっています。“芯が強い”、それはただ強いだけでなく、優しさがあったり包容力があったり。それを歌や芝居といった表現、自分の持っている技術を惜しみなくさらけ出す二人です。それに刺激されて僕や水田くんも頑張らなきゃ!となり、サム、モリー、カールがいい三角関係になっています。
水田さん)
いい三角関係ですね。浦井さんとも、はじめて芝居をしたときから、親友のような長い付き合いをしてきたような感覚がありました。
桜井さん)
本来はモリーのほうがサムをリードするような関係なのだろうと頭ではわかっているのですが、やっぱりまだ浦井さんに頼ってしまうところが多くて。たくさん助けていただいています。立ち位置とかも、もっと前に出なければいけないときなど、そっと後ろから教えてくださったり。
森さん)
あと一番大変なのは、我々には見えていないはずのサムを見てしまった瞬間。目が合ったりしようものなら(笑)。
咲妃さん)
目が合うと動揺しちゃうんです(笑)。
浦井さん)
そうそう! モリーは(サムが)見えないし聞こえない、オダ・メイには見えないけれど声だけは聞こえる。そこが難しい!
──コロナ禍、劇場に来られない方も含め演劇ファンにメッセージを。浦井さん)
世界中が大変な状況。社会の一員として、三密を避ける、それぞれの判断で行動を自粛する、それは当然のことだと思います。僕自身も、医療関係者のみなさんが頑張っている姿を見ると様々な思いを抱きます。だから、「劇場に来てください!」と声を大にしていうことに心苦さを感じるなど自分の中でもいろんな思いが渦巻いています。ただ、きっと音楽、ミュージカル、エンターテイメントは人の心を元気づけたり、勇気づけたり、明日への希望となったり──人生にとってかけがえのないもの、体験になる。だからこそ人はそれを捨てなかった、そして待ち望んでくださっていると信じています。そう思えるのは、舞台上から見たお客様の表情、それはたとえマスク越しでも感じることができます。
それぞれが違う環境、状況にいる中で、お客様一人ひとりのタイミング、行ってみようと思った日がその日だと思います。そして、劇場に来てくださったからにはそれに見合った価値のあるギフトをしっかりとお届けしよう。より一層、伝えるべき作品のメッセージを大切にできるようになりました。
森さん)
ニューヨークもロンドンも劇場がクローズする中、日本で、何かのために誰かのためにという考え、そして演劇というエンターテイメントの灯を消してはいけないという思いのもと上演させていただきます。命懸けで来てくださった方には、生きる希望、心の潤いを受け取っていただけるように、私たちは誠心誠意、公演を務めます。また、公演中に3月11日を迎えますが、10年前、その日を境に私たちを取り巻く環境は一変しました、これからどうなってしまうのだろうという状況に置かれ、やるべきか否か。私は『レ・ミゼラブル』の稽古中でしたが、稽古より、すぐにでも誰かを助けに行かなくてはいけないのではないか、そう思いながらも幕を上げました。そこには、私たちにできることは誰かの“心”を助けること、この職業ではそれができるのではないかという考えで公演を続けたという経緯があります。
今もコロナ禍、大きな困難に直面しておりますが、私たちも感染予防を徹底することで公演を実施し、お客様に少しでも安心して足を運んでいただけるように努める。そして、お客様の笑顔を糧に頑張っていけるのです。演劇の灯は消さない。ただ、お客様におかれましてはくれぐれも無理をなさらずに。そんな気持ちです。
咲妃さん)
観劇も大好きな“いち演劇ファン”として、私自身、劇場に足を運ぶ機会も増えてきました。観劇すると元気をいただけるんですよね。はじめは身構えていたのが、観ることができてよかった、来てよかった、明日からも頑張ろうと純粋に思える自分がいます。その気持ちをひとりでも多くの方に味わっていただける、そんなお仕事に携われていることを誇りに思う気持ちを心の支えにして頑張っています。無理にとは申しません。浦井さんがおっしゃるようにみなさんがここだと思うタイミングで足をお運びいただければと思います。私たちは気長にお待ちしております。
桜井さん)
今は、なにが正解なのかもわからなくなってきています。ただ確かなことは、劇場に行けない方、その方の演劇への愛も私たちには届いるということ。劇場にいらっしゃる方からも、いらっしゃれない方からもパワーをもらっています。それがあるから、私たちは舞台に立つことができています。この時期に、この作品を上演するという機会をいただいているということ、それを自分の使命だと受け止めてしっかり最後まで演じていきたいと思います。どこにいても、どんな状況でも、私たちとみなさんは繋がっているということを忘れないでいたいですし、どうかみなさんも忘れないでください。
水田さん)
みなさんのおっしゃる通り。僕も森さんと同じように、311のときに感じたことは、物を作ったり、家を建てたりすることはできないけれど、エンターテイメントは心を豊かにすることができるということです。そんな職業に就けたことに誇りをもって、それを信じてここまで10年間やってきました。今また大きな困難に直面し、そのことを再確認しています。僕自身、エンターテイメントへの感謝の思いを持ちながら、その素晴らしさを届けられるようにしっかりと準備したいと思います。今は、目の前のこと一つひとつに愚直なまでにとことん取組み、舞台上でその成果を発揮したい。それを受け取っていただければ幸いです。
──みなさんのおすすめシーンは。水田さん)
オダ・メイのシーンが大好きです。曲もカッコイイですし、モリクミさんが出てくるだけでワクワクします。もちろん、モリクミさんが踊るというのも今回の見どころのひとつです!
森さん)
やっぱり『ゴースト』と言ったらあのシーン、映画でもおなじみのろくろのシーンです。モリーはちゃんとろくろを回して作っているんですよ。初演をご覧になっていない方には、「あのシーンもしっかりありますよ!」とお伝えしたいです。
──実際に作られるというお話がありましたが、練習も?桜井さん)
先日の陶芸の練習は惨敗でした(笑)。本当に難しくて、本番ではあれをあの時間内にできるのだろうかという不安を残したままです。
咲妃さん)
いえいえ、玲香ちゃんはめきめき上達しています。実際にやってみると、公演毎に全然違う形が生まれるというのは新鮮な体験でした。その時の心情で形が変わるんです。ただ、あのシーンはとても印象的なシーンですし、モリーとしてもサムとの大切な時間を思う瞬間でもあるのでお芝居もとても重要です。あまり陶芸に没頭しすぎないように気をつけないと(笑)。
浦井さん)
僕が思うのは、ゴースト一人ひとりの人生、生きてきた証。彼らの表情や佇まいも大きな見どころだということです。また、先ほどもお話しましたが、とにかく二人のモリーのナンバー♪With Youが絶品!芝居歌をぜひともお楽しみに。本当に素敵なんです。
──最後に作品への思いを改めてお聞かせください。 森さん)
誰かを思う心、大切な人がそばで見守ってくれているよというのがテーマの作品です。そして、生きるというメッセージ、心のエネルギーをもらえるミュージカルだと信じています。2019年に亡くなった母は、「この作品を観ておばあちゃんを思い出した」と話していました。泣きじゃくって、でも、この作品との出会えたことをとても喜んでくれました。母のそんな言葉を、そして母のことを思い出し、心がちょっと強くなる瞬間がある作品なんです。
水田さん)
身体的な接触や繋がりが難しい今だからこそ、この作品を通して人と人との繋がり、心が繋がっているということの大切さ、尊さを感じていただけると思います。僕自身も、体調に気をつけて本番を迎えたいと思います。
桜井さん)
この作品は甘いラブストーリーというだけでなく、テンポよくストーリーが展開していきますし、サスペンスタッチなところもあり、ハラハラワクワクするうちに、最後にはなにかあたたかいものに包まれたような穏やかな気持ちになれます。きっと劇場が、いろんな人の思いが交わる場所になるのではないか。みなさんの思いを受け止めながら日々進化していけるように精一杯頑張りたいと思います。
咲妃さん)
2018年の初演を経て、2021年版の『ゴースト』はよりブラッシュアップされたものになると感じています。舞台に立てることが当たり前ではないと痛感する毎日。一日一日、お稽古を重ねていること、今、こうして皆様の前で会見させていただけている瞬間も尊い。すべてのことに感謝しながら、みなさんに劇場でお目にかかれるよう、私も健康第一で稽古に励みます。みなさまもお身体をお大事になさってください!劇場でお待ちしています。
浦井さん)
初演の際に、装置のプランナーの方から日本版のセットは宝石箱のような、ガラス細工のような中に魂がこもっているイメージを目指したというお話を伺いました。壮大な宇宙の中心には、きっと心と心の繋がりがある。そう信じるに値する“赦し”、“癒し”が存在する世界に生きているのだという作品のテーマはセットにも宿っているのです。実は、自分も19年に父親を亡くしました。仲間や諸先輩が亡くなるということもありました。『ゴースト』は、それでも我々はその先を生きていこう、その歩みの中ではきっと素敵なことに巡り会えるということを感じていただける作品です。
↓こちらは『GHOST』PV 咲妃みゆさん歌唱ver! 浦井さんから絶品と太鼓判の♪With Youも~
◆ 浦井さんのカンパニーへ向けられた頼もしくあたたかいまなざしとリーダーシップ、みなさんの前の発言者とかぶらない内容をと努めるコメントリレーの様子、細かなやり取りからもチームワークの良さが伝わる会見でした。公演は3月5日より日比谷・シアタークリエにて開幕、23日までの上演となります。その後、愛知県芸術劇場大ホール、新歌舞伎座へ!
3月11日夜公演は『ゴースト』おけぴ観劇会開催です。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人