2021年4月、スペインを代表する画家、フランシスコ・デ・ゴヤを題材に、“人間ゴヤ”に焦点を当てて描くオリジナルミュージカルが誕生します。
「裸のマハ」などで知られる画家・ゴヤ、人生の半ばで聴力を失いながらも、フランス革命、ナポレオン戦争の激動の時代を生き抜いた、その知られざる半生をドラマティックに描く『ゴヤ -GOYA-』、製作発表の様子をレポートいたします。
【オリジナルミュージカルの醍醐味】
「8年ほど前にゴヤの人生に魅せられたことが発端」と語るのは、原案・脚本・作詞を手掛けるG2さん。
原案・脚本・作詞:G2さん
G2さん)「何に魅せられたのか、自分でもよくわからない。(ゴヤは)ゴッホのようなピュアなアーティストではなく、まるで闘牛士のような闘う画家。スペイン動乱の時代、価値観が大きく変化していく世の中で“ロココ”という人間が作り出した調和の世界からだんだんはみ出していく。人生半ばで聴力を失い、ナポレオンの侵略を経て、この人の中に何が起きたのかが知りたい──そこから執筆が始まりました。エネルギッシュでスペインの血の匂いのする生き生きとした、ただキレイなだけでないざらざらとしたミュージカルになるような予感がしています」 G2さんが演出を託したのは、この方、鈴木裕美さん。
演出:鈴木裕美さん
鈴木裕美さん)
「昨今、新作ミュージカルというと漫画や小説、映画原作という、すでにとっかかりのあるものが比較的多いのですが、この作品は全くのゼロから作っています。産みの苦しみもありますが、稽古場はモノを作る喜びにあふれています。クリエイティブチームも、音楽がない状態でコンテンポラリーダンスが生まれ、それに対して清塚さんがその場で音楽を作っていく、するとフラメンコ振付の佐藤(浩希)さんが踊り出し、G2さんがそれに合わせて歌詞を変える──本物のコラボレーションが起こっています。否定的な言葉がなく、『だったらこうやろう』『僕はこうする』、浄化されるような打ち合わせでした」 次第にその口調にも熱を帯びていくところからも、セッションのように作り上げられていく新作オリジナル作品の醍醐味が伝わってきました。続いては、ミュージカル作品の作曲・音楽監督初挑戦という清塚信也さん。
作曲・音楽監督:清塚信也さん
清塚信也さん)
「時間を忘れて作品に没頭する、こんなにアーティスティックな時間を過ごすのは学生のころ以来かもしれません。そこに今井翼さんをはじめとするエキスパートたちが、それぞれのスキルを持ち寄って作り上げられる、すごいエンターテイメントになると思います」 ちなみに清塚さんをカンパニーに招き入れたのは鈴木さんとのこと、こうして夢のトリオが揃ったのです。
【作品を体現するキャスト】
この日の会見にはゴヤ役の今井翼さん、親友のサパテール役の小西遼生さん、妻・ホセーファ役の清水くるみさんが、劇中衣裳でご登壇されました。
フランシスコ・デ・ゴヤ役:今井翼さん
今井翼さん)
「日本の次に愛するスペインを舞台に、世界的な画家・ゴヤを演じられることをありがたく思っています。僕自身も病を経験し、おかげさまで今を迎えられることに大きな喜びを感じています。紆余曲折したゴヤの人生を、丁寧かつ大胆に、熱くエネルギッシュに演じたいと思います」 これまでにもスペイン、フラメンコが繋いでくれた縁を感じ、大切にされてきた今井さん、本作中もフラメンコを踊るシーンがあるそうです! 披露するのは今井さん曰く
「芝居から派生したフラメンコ」──その心は。
今井さん)
「フラメンコというのは怒り、喜び、悲しみ、そういった感情が身体の芯からわき上がってくる舞踊。踊りを若きゴヤのほとばしる野心や思いとしっかり連動させたいと思います。今回はコロナ禍でスペイン訪問か叶いませんでしたが、これまでにスペインで経験してきたことを今一度振り返り、その匂いや空気感を表現したいと思っています。また、初めてフラメンコを披露したときから15年にわたり支えていただいている佐藤先生が、カンパニーに参加されていることも心強く思っております」 フラメンコシーンにも期待が膨らみます。また、今井さんのダンスの原点でもあるジャズもあり、ふたつのダンスを芝居の中で表現できる喜びも感じられているとのことです!
ゴヤの親友サパテール役:小西遼生さん
小西遼生さん)
「G2さん、裕美さんは演劇愛の強い、深いお二人。さらに清塚さんの初ミュージカルとなる本作に参加できることをうれしく思います。ゴヤとは手紙でやり取りするシーンが多いのですが、実際、二人の手紙が多数残されています。ゴヤからサパテールに宛てて書かれた手紙には、まるでラブレターのような『君さえいればあとは何もいらない』というような熱い思いがしたためられています。絵を描くこと、出世することにあんなにも貪欲だった人間が、そんな思いを傾ける。親友という関係を超えた、見ようによっては危険なくらいに心の通い合った関係を作っていければと思います」ゴヤの妻・ホセーファ役:清水くるみさん
清水くるみさん)
「ゴヤとサパテールの関係性、愛情が深いゆえ、あまり愛されていない妻。ちょっとかわいそうな役なのですが、健気に支える女性です。本にもホセーファについてはあまり書き込まれていないのですが、今日、衣裳を着てみてインスピレーションがわいてきました。ここから稽古で深めていきたいと思います。(出演が決まった時は)初めて立たせていただく日生劇場、こんな大役をいただき、何かの間違いではと思うくらいビックリしました。素晴らしいみなさんに囲まれ、今もとても緊張しています」こちらがその衣裳!
衣裳デザインは前田文子さんです
お三方のほかにも、王妃マリアにはキムラ緑子さん、その側近のテバ伯爵に山路和弘さん、ゴヤの義兄に天宮良さんといったベテラン勢、ゴヤのパトロンで資産家のアルバ公爵夫人に仙名彩世さん、宰相ゴドイに塩田康平さんなど魅力的なキャストが名を連ねます!
【クリエイター、共演者が語る“今井翼さん演じるゴヤ”】
──今井さんのゴヤについて。鈴木さん)
「ミュージカルの主人公はテノール、声の高い方が多いのですが、今井さんは(低い)声が魅力的でゴヤにすごく合うというのが最初にお話したときに感じたことです。ゴヤという人は、社会、世界に向けて、慈しみの心も持ち合わせている者の、圧倒的に怒りの感情を強く持っている。そう感じさせる絵が多く残っています。今井さんに内在する“怒りの感情”を感じるので、とても似合っていると思います」清塚さん)
「主役を張る方で、ここまで低いレンジまで出る方はなかなかいない。ゴヤにピッタリなのはもちろん、音楽的にとても幅が広がるとときめいたことを覚えています。謙虚なところと頑固なところ、ほどよく鈍感なところ、可愛らしいところ…いろんな魅力が、このゴヤで出るのではないかと期待しています」今井さん)
「本当に鈍感なんですよね。よく言えば、マイペースということでよろしくお願いします(笑)」──稽古場での様子は。小西さん)
「物語の冒頭で、僕が演じるサパテールにパッと抱き着いてくるシーンがあります。翼くんは何のためらいもなく飛び込んできてくれる。すでにパコ(フランシスコの愛称)が翼くんの中にいるんです」──みなさんのコメントを受けて。今井さん)
「ゴヤというとどうしても晩年の作品、モノクロームな印象がありますが、今回は芸術家ではなく“人間ゴヤ”に焦点を当てた作品になっていますので、コミカルなシーンもあるんです。ゴヤの人間味あふれる熱い部分と、うねるような彼の人生、それと同じようなストーリー展開になっています。僕自身、こんなにもコミカルなお芝居って初めて。稽古場でエンジョイしながらお芝居させていただいています」 人間味あふれるゴヤ、今井さんの多面的な芝居に期待です!
【エンターテイメントの力を信じて】
──最後に今井さんよりご挨拶。今井さん)
「世界中が大変な状況の中、表現者として、思い入れのある日生劇場、そして初めての御園座の舞台に立てることをうれしく思います。こういった状況ですので、みなさんそれぞれにご都合や気持ちがあると思いますが、激動の時代にゴヤが病と向き合い、自分の足で希望に向かっていったエネルギーは時代を超えて人に訴えかけるポジティブなエネルギーがあると思います。みなさんにお楽しみいただき、そのエネルギーを分かち合えたらうれしく思います。僕もそうですが、やはりいい作品に巡り会った後、劇場を出たときの気持ちはなにか形容しがたい喜びがあります。エンターテイメントの力を信じていますので、みなさんにもご期待いただきたいと思います」 公演は4月8日に日生劇場にて開幕(~29日まで)、5月7日~9日は御園座にて上演されます。型にはまらない、新作ミュージカル誕生の予感です。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人