『hana-1970、コザが燃えた日-』会見レポート~僕が感じたものを、そのまま混ぜ物なしで届けたい(松山ケンイチ)~


 沖縄返還50年目の2022年に届けるのは、日本でもアメリカでもなかった“沖縄”から、今も続く物語。常に時代と向き合い演劇の力を信じて力強い作品を送り出している演出家・栗山民也が長年見つめてきた沖縄を題材に、作家・畑澤聖悟に書き下ろしを託した新作。会話劇初主演となる松山ケンイチと初タッグを組むことでも話題の『hana-1970、コザが燃えた日-』。



余 貴美子さん、松山ケンイチさん、岡山天音さん 撮影:宮川舞子

 本作の舞台となるのはコザ市ゲート通りにある米兵相手のパウンショップ(質屋)兼バー「hana」。アシバー(ヤクザ)となり勘当中の息子ハルオ役の松山ケンイチさん、沖縄県祖国復帰協議会の活動をしているアキオ役の岡山天音さん、血のつながらない二人の息子を育て「hana」を切り盛りするおかあ役の余貴美子さんのお三方がご登壇された会見が行われました。



みなさん本番衣装で登場、松山さんは会見で沖縄っぽいイントネーションが飛び出すなどどっぷりしっかり作品に浸っている様子。

──稽古に入る前に沖縄を訪れたという松山さん、岡山さん。そこで現地の方々とお話する中で感じたことは。


松山さん)
 日本に対する怒り、アメリカ人に対する怒り、ハルオに関しては自分自身にも怒りが向けられている。そういう一方向ではないいろんな角度から踏みにじられているということ。それに驚きましたし、今でも消化しきれていません。消化しきれないなにかを持ち続けながら稽古しています。

※ハルオは親も自分の名前もわからない状態で生き残り、自分が何者であるのかがわからない

岡山さん)
 実際にコザ騒動があった場所を歩き、渦中にいた方から、「ここでこういうことがあって」というお話を聞くことで(物語に)実感がわきました。それが稽古でも力になっています。

松山さん)
 何十年も前の話を、今起こったかのように話してくれる方もいる。今も、なにも変わってない部分があるからこそ、声をきちんと発してるんだと思うんです。そのパワーに僕らは圧倒されました。

──稽古をしていく中で感じていることは。

松山さん)
 先ほどお話したような、日本人に対しての怒りのような日本と沖縄のギャップは台本を読んだ時に驚いたことでもあります。僕がびっくりした、感じたものをそのまま混ぜ物なしでお客さんに届けたいと思っています。


岡山さん)
 今も続いてる沖縄や日本の実情を伝える作品であると同時に、出来事の説明や固有名詞をちゃんと人の声で発することで、“人間の生き様”が描かれた作品でもあると感じます。時代も場所も全然違いますが、根本は、今、東京で生きてる僕と、同じ“人間”なんだということ。

余さん)
 本当に。その時代のことも、沖縄の言葉も、相手がいて喋っていくうちに実感がわいてくるんです。口からこうやって発していくうちに。時代の熱も、ひとりで台本を読んでいるだけでは理解できなかったことがわかってくる。やっぱり頭の中だけではわからないなと思いました。


松山さん)
 一緒に稽古をしていて、おかあとハルオのやりとりのテンポ感に「昔っからこんな風に接してきてたんだなあ〜」「一緒に過ごしてきたんだんなあ〜」と実感できる。そういうところに、僕はすごく温かさや幸福感を感じ、救われるんです。


岡山さん)
 すごくチャーミングなおかあとハルオがそこにいて。そこをなんとか盗めないかと目を凝らしています。お二人の芝居を観ていると本当に楽しくてお客さんみたいな気持ちになっちゃいます(笑)。


余さん)
 演出の栗山さんからは、言葉の力を信じろと言われます。60年代後半から70年代辺りの時代を表現するには、正直に会話、対話をして人と関わっていくことが大切。考えること、ぶつかることを止めてしまったようなところのある今、この作品に出会えてよかったと思います。


──最後に、ずばり本作の見どころは!


余さん)
 剥き出しな会話、丁々発止の会話をワクワクしながら、お楽しみいただけると思います。どうか劇場へ足をお運びください。

岡山さん)
 モチーフになってるのは沖縄で実際あったコザ騒動。これまで史実に触れたことがなかったり、今沖縄に住んでいなくて全然関係ないところに住んでいる人たちにこそ観て欲しいと思います。それに加えてこの作品には、今の人たちが知らなかったり、どこかに置いてきてしまった人間の美しさみたいなものが描かれています。新年から、沖縄に生きる人々の濃いエネルギーを浴びにいらしてください。

松山さん)
 ひと言で言えるような作品ではないのですが。血が繋がってはいない疑似家族みたいな所に、アシバーという遊び人がいたり、教師がいたり、密貿易をやってるおじいちゃんがいたり、米兵がいたり、デモを熱心にやってる人たちがいたり。ものすごく多様性のあるキャラクターたちなんですよね。その多様性って、その当時は普通にあったもの。そうやってもともとあったものをなかったことに、平坦にしてきた。そこに改めて向き合っていくことが多様性を認め合うことなのではないか。そんなことを稽古を通して感じています。沖縄の問題に加えてもうひとつそんなテーマもある。そしてそれは今にも通じる部分。是非、観ていただきたいと思います。

血のつながりは、ない。でも彼らは、家族だった──

 返還直前の沖縄に生きる人々の様々な想いが爆発した、歴史的にも意義の大きな「コザ騒動」を背景に、沖縄、本土、アメリカ――戦後沖縄の縮図のようなバーでの一夜を描く物語。

 いびつな「偽の家族」が、心からぶつかり合いわだかまりを溶かしていく様子を通して、沖縄という土地が背負わされているもの、現在も変わらぬその業と見つめるべき未来を浮かび上がらせていく。




【稽古場映像ダイジェスト】

 ともに戦争で家族を亡くし、おかあ(余貴美子)に引き取られ、育てられたハルオ(松山ケンイチ)とアキオ(岡山天音)。自分の子どもたちに教育を受けさせ「まっとうな」仕事に就かせるために脇目も振らずに働いてきたおかあの思いに反し、ハルオは高校をドロップアウトしアシバー(ヤクザ)となり「hana」への出入り禁止と言い渡されている。

 久しぶりに「hana」へやってきたハルオ。沖縄県職員会の幹部として沖縄県祖国復帰協議会の活動をしているアキオと先輩の比嘉(櫻井章喜)、本土から取材に来ているルポライターの鈴木(金子岳憲)との会話で、本土と沖縄の温度差、溝が浮き彫りとなる。

 そして、この数年、顔を合わせることを避けていた息子たちと母親がそろった夜──

【公演情報】
『hana-1970、コザが燃えた日-』
2022年1月9日(日)~1月30日(日)@東京芸術劇場プレイハウス

<スタッフ>
作:畑澤聖悟
演出:栗山民也

<キャスト>
松山ケンイチ
岡山天音
神尾 佑
櫻井章喜
金子岳憲
玲央バルトナー
上原千果
余 貴美子

<ストーリー>
1970(昭和45)年12月20日(日)深夜。コザ市ゲート通りにある米兵相手のパウンショップ(質屋)兼バー「hana」では、看板の灯が落ちた店内で、おかあ(余 貴美子)、娘のナナコ(上原千果)、おかあのヒモのジラースー(神尾 佑)が三線を弾きながら歌っている。そこへ、アシバー(ヤクザ)となり家に寄り付かなくなった息子のハルオ(松山ケンイチ)が突然現れる。おかあが匿っていた米兵を見つけ、揉めていると、バーに客がやってくる。「毒ガス即時完全撤去を要求する県民大会」帰りの教員たちだ。その中には、息子のアキオ(岡山天音)もいた。この数年、顔を合わせることを避けていた息子たちと母親がそろった夜。ゲート通りでは歴史的な事件が起ころうとしていた。血のつながらないいびつな家族の中に横たわる、ある事実とは。

公演HPはこちらから

素材提供ホリプロ 撮影:宮川舞子
おけぴ取材班:chiaki(編集)監修:おけぴ管理人

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