日生劇場での日本初演から3年、2022年2月、ミュージカル『笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-』が装いも新たに帝国劇場にて再演です! ミュージカル『笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-』は文豪ヴィクトル・ユゴーが自ら最高傑作と評する小説を原作とし、脚本・ロバート・ヨハンソン、音楽・フランク・ワイルドホーン、歌詞・ジャック・マーフィーで紡がれる壮大なミュージカル。日本版演出は初演に引き続き上田一豪が手掛ける。
真彩希帆さん、浦井健治さん、熊谷彩春さん
本作で、初演に続いて、幼き日に見世物として口を裂かれ、その奇怪な顔のために“笑う男”と呼ばれるグウィンプレンに扮する
浦井健治さん。少年グウィンプレンがあてもなく雪の中をさまよっていたときに見つけた赤ん坊で、ともに興行師ウルシュスに育てられる盲目のデア役Wキャストの
真彩希帆さん、
熊谷彩春さん。お三方をお迎えした取材会が行われました。再演にして、スケールはより大きく、届けられる物語はより深くなった『笑う男』に出会える予感いっぱいのお話の数々。開幕がますます楽しみになりました!
【盤石の布陣で挑む『笑う男』再演】
──ミュージカル『笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-』2022年公演に向けていよいよ始動です。全体での本読みを終えられたとのことですが、手応えは。浦井さん) 初演でたくさんのお客様に愛された『笑う男』が、今回、帝国劇場バージョンとして花開きます! 2月の開幕に向けて、カンパニー一丸となり気合を入れて挑んでいます。山口祐一郎さん、石川禅さんといった初演からご一緒している先輩方が子役、スタッフのみなさんも含めたカンパニーの隅々まで気を配ってくださり、みんなが過ごしやすい雰囲気を作ってくださっています。一同、大船に乗ったつもりで、役に、作品に向き合っています。
また、ここにいるデア役Wキャストのお二人をはじめとした、今回新たに参加されるみなさんも、最初の本読みの段階ですでにその実力を惜しみなく披露してくださっています。貴族チームの大塚千弘さん、吉野圭吾さんは「本読みの段階からどこまで役を膨らませるんだ!」と驚くほどですし、デアのお二人もすでに音楽監督が「歌唱については、もうなにも言うことはない。あとは自分たちのキャラクターを作ってくれれば」と太鼓判! 二人の歌声の個性、性質はまったく違うのですが、どちらも確かにデア。僕自身も、みなさんから大きな刺激をもらうとともに、安心して作品世界に飛び込んで役をまっとうできる環境に感謝しています。
──浦井さんにとっては数々の作品で共演されてきた頼もしい座組でもありますね。浦井さん) 『ダンス オブ ヴァンパイア』でご一緒した方が多いですよね(笑)。 技術面も含め、しっかりと準備をし、余力をもって挑まれる方が多いので、物語をきちんと咀嚼した上で役を作っていくことのできるカンパニーだと感じています。だからこそ役が決め打ちでなく、ある意味で“いかようにもなる”というような。それが心地よい稽古場の空気感を作っているのではないでしょうか。
──本作の物語について。浦井さん) 「貧富の差や権力、疫病などによる分断。悲しいかな、描かれる物語は初演時よりも一層、心に響いてくる。だからこそこの物語を今の時代に上演する意味を考えさせられる」──これは演出の上田一豪さんが稽古場でカンパニーを前に話してくれたことです。それに対して、誰も言葉にして発することはなかったけれど、カンパニー全体が共感していることが伝わってきました。その時、僕は、この物語をみんなで素直に紡ぐことができたら、きっと今回ならではのメッセージが届けられるという確信を持ちました。
──真彩さんはいかがですか。真彩さん) (はっ!とされ)思わず浦井さんのお話に聞き入ってしまいました!(笑) 私にとって(宝塚歌劇団を)退団後、2作品目となる『笑う男』で、幼いころから観客として訪れていた帝国劇場の舞台に立てることは感慨深いものがあります。そしてはじめてお会いした方ばかりにもかかわらず、とても温かい空気のカンパニーだと感じています。作品がそれを生み出しているのか、それぞれの方が醸し出していらっしゃるのか、私にはまだわからないのですが、歌稽古・本読みと進む中でいいエネルギーが満ちているので、ここからますます楽しみです。
浦井さん) デア二人の仲の良さもいいエネルギーになっていますよ。
真彩さん) 彩春ちゃん、カワイイので!
熊谷さん) 真彩さんにはお姉ちゃんみたいに優しくしてもらっています!! 私も再演から参加することもあり、右も左もわからずあたふたしていましたが、浦井さんをはじめとするみなさんが温かく包み込んでくださるので、私自身デアと同じような気持ちでいます。周りの方々に助けていただきながら、この作品をお届けできたらと思っています。
【本作ならではの“一座感”】
──浦井さんに伺います。初演でご苦労されたところ、楽しかったことなど思い出は。浦井さん) 苦労から言いますね(笑)。この作品の音楽を手掛けたのはフランク・ワイルドホーン氏。ご存じの通りワイルドホーンさん独特の節というのがあり、お客様はそれに感動し、エネルギーをもらうことができる天才的な作曲家です。ただ、その楽曲を歌うとなると、かなりの体力を要します。とくにグウィンプレン役はそんな楽曲の連続なので、ペース配分を間違えるとエネルギーが持たない! それは自分自身の初演の反省点でした。今回は、そういった技術的なことはしっかりと身体に落とし込み、楽曲を通して物語を伝えることにより重きをおきたいと思います。そして、楽しかったことは立ち稽古!
──(まだ本作立ち稽古は未体験の真彩さん、熊谷さんはちょっと驚きの表情!)浦井さん) それは、この作品では独特の“一座感”があるから。座組として、“ウルシュスの一座”という仲の良さが生まれるんです。だからこそ芝居をしていく中で、それぞれが「ああしてみよう」「こうしたらどうかな」とみんながフラットに提案していく。演劇創作の醍醐味が味わえて、とても楽しかった記憶があります。立ち稽古で特にそれを感じました。
そう思えるのは一豪さんの演出手腕によるところも大きいと思います。ご自身で劇団も主宰されているので、歌もダンスもできるプレイヤーでありながらスタッフワークにも精通している。演出家としてだけでなく、プレイヤー、スタッフとしての視点でも稽古場で起きていることを把握し、瞬時に理解してくれる。だから稽古が早い! そうして生まれた時間が有意義に使える。そうなると俳優は俄然生き生きとしてきて、みんなで作ろうという気持ちになる。そこまで計算されて演出されている方なので、一豪さんについて行けば大丈夫だと思っています。
──真彩さんは初演をご覧になったということですが。真彩さん) 大感動!大号泣!でした。一幕が終わり、休憩に入ってからも「ええっ!この先どうなるの!」と頭も心もぐるぐるぐるぐる。終演時には、あのラストシーンに「あああああ!」と。胸がぎゅっと苦しくなるのと、愛する人と一緒にいられるしあわせと、いろんな感情が押し寄せてきて「あああああ!」です(笑)。大好きな作品です!
浦井さん) アクションと感嘆詞が多い(笑)! 聞くところによると(ジョシュアナ公爵役でご出演されていた)朝夏まなとさんが「そんなに泣いて、どうしたの?」と尋ねるほどだったとか。
真彩さん) 終演後、楽屋にご挨拶に伺ったのですが、私のあまりの号泣ぶりに驚かれていました。デア役の(夢咲)ねねさんにも泣きながら感動をお伝えしたら、(ねねさん風に)「ありがとう!でも、そんなに~」って。さっきまでデアだったねねさんが、ほんわかしたいつものねねさんになっていて、なぜかそれにも泣きました(笑)。
浦井さん) 似てる!! ラストシーンは夢の中。唯一デアの目が見えるようになるシーンなのでグッとくる気持ちはわかります。
──熊谷さんはいかがですか。熊谷さん) 私は『天保十二年のシェイクスピア』で浦井さんとご一緒した際に
『笑う男』のCDをいただきました。楽曲を聴いて、この作品に恋に落ちました。まず音楽に魅了されたんです。何度も何度も繰り返し聴き、自分でも歌えるようになり、韓国版の動画もたくさん見ていた大好きな作品。まさか再演で、デアとして出演できるなんて、夢のようです。
浦井さん) 『天保~』に続いて、こうしてデアとグウィンプレンとしてまた共演できるとは、僕も嬉しい驚きです。
【グウィンプレンとデア】
──みなさんが現時点で思い描いているデア像は。真彩さん) 台本や譜面を通し、この作品、この役を内側から見ると、デアの柔らかさとともに彼女が持つエネルギーの強さが印象的です。人間の本質が見えている人間は、なんて強くて美しいのだろうと。それをどう表現するのかはまだわかりませんが、この作品が投げかける「大切なことは目に見えない。では、それは一体なんなのか」という問い。その答えは作品の中で、台本の中で明示されるのでなく、それぞれが見つけていくもの。それを私がデアとして、浦井さんのグウィンプレンやみなさんの中で見つけていければ、それが自ずと私のデアの表現に繋がると思っています。
熊谷さん) デアは、「見た目や富ではなく中身、本質、心と心の繋がりが美しい」という本作のテーマを象徴する存在だと思っています。目が見えず、心でものを見るデアだからこそ見えるものがある。デアを、真っ直ぐに演じていけたらと思っております。
浦井さん) デアと女性たちの♪涙は川に流して という楽曲・シーンがあります。あの生命力ほとばしる感じがこの作品の象徴。見ていて、「生きるってそういうことだよね!」と感じます。ファンタジー色が強いこの作品ですが、真実をすべて見抜いているデアには、そんな生々しいエネルギーも感じます。デアが理想郷として描いた着地点は、実は、かつてウルシュスが少年と赤ん坊を拾ってくれた出発点と結びつく。そして物語の中では、彼らを取り巻く世界や社会が描かれるのですが、結局、小説が書かれたあの時代から、人間って変わらないんです。『笑う男』が、ユゴーの傑作と言われるゆえんはその辺りにあるのではないでしょうか。
──浦井さんはグウィンプレンをどうとらえていますか。浦井さん) 物事に真っ直ぐに向き合うことができるヒーロー系、今風に言えば「鬼滅の刃」のような(笑)。その真っ直ぐさが共感を呼び、人を動かすのではないかと思っています。そこには彼自身の出自というものも影響していると思いますが、口を裂かれ、見せ物として扱われる、そんな厳しい状況下でも本来持っている資質を失わなかったのは、デアの存在によるところも大きかったのではないか。吹雪の中で亡くなった母親に抱きかかえられていた赤ん坊、それを抱き上げる口を裂かれた少年、そんな二人が出会うウルシュス。過酷な運命の中で、生き延びた二人。生きること自体が何かを提示し、十字架になってしまったグウィンプレンが説く「本当に大切なもの」とは。彼が議会で歌う♪Open Your Eyesという楽曲と、目の見えないデアを通して見た理想郷……。グウィンプレンの人生をたどることで、僕自身たくさんの学びがあります。
──では、デアとグウィンプレンの関係について。二人は単純な恋人関係ではないですよね。熊谷さん) 演出の一豪さんとも話していることですが、グウィンプレンはデアにとって、お兄さんであり、いろいろなことを教えてくれる先生であり、お父さんでもある。恋人という概念を超えた、魂で繋がっている運命の人。デアの人生において“いなくてはならない大切な存在”です。その深い絆をしっかりと作っていきたいと思います。
真彩さん) 作品の中でのデアの位置づけという考えはあるのですが、私自身が浦井さんと一緒にお芝居をし、歌う中で、果たして今、頭で考えている通りになるかというと、必ずしもそうはならないと思っています。そこでは二人がお互いを必要とするから存在できているということが、ひとつのカギになると思いますが、同時に、大切に思うからこそ「自分といて幸せなのだろうか?」という不安もある。実際に物語の中でデアとしてどう感じるのか、まだわからないことばかり。デアの気持ちを、私自身の気持ちと重ね合わせながら、関係性を築いていければと思います。なにかを押し付けるのではなく、お互いを思いやる気持ちが伝わればと思います。
──最後に2022年の抱負も含めてメッセージを!熊谷さん) ここ数年、コロナ禍で人との繋がりがより大事だと感じています。『笑う男』は、そんな家族や一座の心の繋がりもとても繊細に描かれている素敵な作品です。今、そばにいてくれる方に感謝しながら精一杯頑張りたいと思います。お客様には、この作品を通して大切な人を思う温かい気持ちを感じていただければうれしいです。
真彩さん) 私にとって、ミュージカルの世界に触れてからのテーマは「出会いを大切に生きる」ということ。出会いは尊いもの、出会えた一人ひとりと心を通わせていければと思います。『笑う男』との出会いにも、どこか使命感のようなものを覚えます。使命と言うとちょっと堅いですが、作品をお楽しみいただくのと同時に、朝起きて、夜寝る、そんな当たり前の日常のすばらしさ、近くにいる大切な家族、パートナー、そして自分自身に対しても温かい気持ちを持ち続けることの大切さ、そんな作品のメッセージをしっかりとお届けしたいと思います。
浦井さん) お二人の志が真っ直ぐで、素敵ですね。
コロナ禍で世の中は一変しました。格差や分断を感じる混沌とした世の中を生きる僕らに、この作品が投げかけるのは「人間ってこう生きたら一番素敵だよね」というメッセージです。シンプル・イズ・ザ・ベスト! この強力なメンバーだからこそお届けできる、ファンタジーの中にある真実。ミュージカルファンの方も、この作品が初ミュージカルという方もぜひ劇場へ足をお運びいただきたいと思います。今は、劇場へ来ることが怖いという方もいらっしゃるかもしれませんが、対策は徹底しておりますので、どうか足をお運びいただき、この時間だけでも一緒に夢を見て、グウィンプレンとデアの見た理想郷を一緒に思い描いていただきたいと思います。劇場でお待ちしています!
ものがたり(HPより)
1689年、イングランド、冬。
“子供買い”の異名を持つコンプラチコの手により、見世物として口を裂かれた醜悪な笑みを貼り付けられた少年、グウィンプレンは、一行の船から放り出され、一人あてもなく雪の中を彷徨う。そのさなか、凍え死んだ女性が抱える赤ん坊、後のデアを見つけ、道すがら偶然辿り着いた興行師、ウルシュスの元へ身を寄せた二人は彼と生活を共にすることになる。
時は経ち、青年となったグウィンプレンは、その奇怪な見た目で“笑う男”として話題を呼び、一躍有名人になっていた。盲目であるデアと共に自らの生い立ちを演じる興行で人気を博す二人は、いつしか互いを信頼し、愛し合う関係となる。
そこへ彼らの興行に興味を持ったジョシアナ公爵とその婚約者、デヴィッド・ディリー・ムーア卿が来訪する。醜くも魅惑的なグウィンプレンの姿に心を惹かれたジョシアナは、彼を自身の元へ呼びつけ誘惑する。突然の愛の言葉に動揺するグウィンプレンがウルシュスらの元に戻ると、突然牢獄に連行され、そこで王宮の使用人、フェドロより衝撃の事実が明かされる──。
本当に醜いのは、刻まれた貧者の笑顔か、それとも富める者の嘲笑か。運命に翻弄される“笑う男”が辿り着く先に待っているものとは──。
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)おけぴ管理人(撮影)