【ついに開幕】ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』観劇レポート



2020年の公演中止から3年、2023年新春についに観客のもとへミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』が届けられました。



ルネッサンスの夜明け──男は中世を破壊した。
争いに向かおうとする不穏な時代に、全ヨーロッパ統一という野望を抱いた男チェーザレ・ボルジアの若き日の物語を豊かな音楽と目くるめく展開で彩る歴史絵巻ミュージカル『チェーザレ』。
惣領冬実さんの大ヒット歴史漫画がミュージカルとして、創業150年を迎える明治座に登場!

教皇の座を巡る権力争いやルネッサンス期に花開く芸術文化、新時代へと導く哲学…そのドラマティックな歴史的背景もさることながら、そこで描かれるのはいつの世も変わらぬ人間の姿。民族、身分、信仰など異なる価値観を有する人々の分断とその統一に挑むチェーザレを丁寧に、誠実に、華麗に描き出しています。フォトコール写真を交えて公演の様子をレポートいたします。



ときは1491年、16歳のチェーザレが通うピサのサピエンツァ大学を舞台に繰り広げられる青春群像(とその裏に潜む大人たちの陰謀←ここがまた濃い!)

チェーザレと新入りの学生アンジェロの出会いで幕を開ける物語。

煌めく才智と美貌、スペインの名門貴族ボルジア家の庶子、主人公チェーザレには中川晃教さん。誰もが一目置き、ゆえに敵対する者からは警戒される──常人離れしたチェーザレの軽やかさと鋭さ。言い換えれば、若さと達観。中川さんは語るように歌い、歌うように語ることで説得力十分に作り上げます。



チェーザレ中川晃教さん!

歌い、踊り、大暴れするひと幕もある学生たちを演じるみなさんは個性豊か。
学内ではチェーザレ率いるスペイン団、メディチ家の次男ジョヴァンニ率いるフィオレンティーナ団、アンリ率いるフランス団など出身地によって組合を結成している。その対立は国の誇りをかけたぶつかり合いながらも、そこは学校。悪ガキたちの無邪気さも感じられる乱闘として軽快に描かれます。また、それぞれが秘かな劣等感を抱く中で、なんとか自らの道を見つけ出そうとする様子は、いつの世も変わらぬ若者の苦悩として心揺さぶられます。(現代を生きる私たちからしたら、その名だけでひれ伏したくなるメディチ家のジョヴァンニでさえ「貴族ではない」と家柄に悩むなど、その背負うもののスケール感は特大ですが)



アンジェロ(赤澤遼太郎さん)に殴りかかろうとするアンリ(稲垣成弥さん)
(スクアドラロッサ)

フィレンツェ出身者が集まるフィオレンティーナ団のメンバーは天使のようなアンジェロ・ダ・カノッサには山崎大輝さん/赤澤遼太郎さん。閣下と呼ばれる団のリーダーでありながら人の良さも感じさせる名門メディチ家の次男ジョヴァンニ・デ・メディチには風間由次郎さん/鍵本輝さん。No.2のドラギニャッツォには近藤頌利さん/本田礼生さん、面倒見のよいロベルトには木戸邑弥さん/健人さん。(それぞれWキャスト、ヴェルデ/ロッサ)



【スクアドラヴェルテチーム】
左から山崎大輝さん、風間由次郎さん、近藤頌利さん、木戸邑弥さん

【スクアドラロッサチーム】
左から健人さん、本田礼生さん、鍵本輝さん、赤澤遼太郎さん

拝見したスクアドラ ヴェルデでは、山崎大輝さんが世情や学内の人間関係には疎いけれど、その言葉には彼本来の純真さと優れた洞察力と経験に裏打ちされた真実が宿る──その眼差しと発言がきらりと光るアンジェロを好演(『ピアフ』でも見せた“天使な存在感”、それとはまた違う天然、もとい天使として降臨!)。その輝き、おそらく本人も無自覚な(そこがアンジェロ!)才覚をチェーザレは出会いの瞬間から感じ取る。そして、アンジェロのピンチにどこからともなく現れて救い出すヒーロー、チェーザレ様! そこにチェーザレの鋭さと人心掌握術を感じます。また、観客は特に序盤はアンジェロとともに物語をたどる、作品のキーパーソンです。

チェーザレの人となりを伝えるもう一人の人物のが、チェーザレに生涯忠誠を誓う腹心のミゲル。橘ケンチさんは舞台での居方がクールでミゲル・ダ・コレッラそのもの。常に少し離れたところからチェーザレを見守る、その絶妙な距離感と佇まいから醸し出す有能さ。内に秘めた情熱を表現するダンスにも注目。ユダヤの血を引くミゲルとの関係からチェーザレの価値観を感じ取ることのできる大切な存在です。



橘ケンチさん

フィオレンティーナ団を率いるジョヴァンニを演じる風間由次郎さんは育ちの良さと優秀さ、そして弱気で人のよさそうな人物像を体現。病を抱える父との関係や自らの在り方など人間味あふれるジョヴァンニです。彼に仕えるドラギニャッツォには近藤頌利さん。高身長とサラサラストレートの黒髪が印象的で、プライドの高さに見合った存在感を示します。新入りのアンジェロに学内でのあれこれを教えてくれる情報通のロベルトは木戸邑弥さん。同じ平民出身ということもありなにかと面倒を見てくれるロベルトの人懐っこさと優しさにアンジェロは助けられます。

フィオレンティーナ団、スペイン団と対立するフランス団を率いるのはアンリ(山沖勇輝さん/稲垣成弥さん)。大柄な山沖さんの迫力と躍動が巻き起こす騒動は学生たちの若さを象徴。なんだかんだで、いつもチェーザレに説き伏せられたり、投げ飛ばされたりし地団駄を踏むというのはご愛嬌。

一方、別所哲也さん演じるチェーザレの父・ロドリーゴ・ボルチアのふてぶてしさ、ジョヴァンニの父にして大富豪ロレンツォ・デ・メディチに今拓哉さんの柔らかさ(イタリア半島の平和の支柱、ぴったり)、両者と対立するジュリアーノ・デッラ・ローヴェレに岡幸二郎さんの圧。大人組のみなさまの重厚感たるや! ソロ、二重唱、三重唱…の歌声に、そしてその姿に圧倒されます。あれだけの衣裳に“着られる”ことのない内面からにじみ出る強さと豊かさ。登場するだけで、空気を変えるみなさんです。



別所哲也さん

岡幸二郎さん

今拓哉さん

次期教皇の座を争うロドリーゴvsジュリアーノの争いは激化。チェーザレは父を教皇につかせるために画策し、やがてその渦に多くの人が巻き込まれていくのですが、そこでチェーザレは“目的のためならば手段を選ばない”という厳しい一面を見せるのです。

そこに登場するのがピサの大司教ラファエーレ・リアーリオ、演じるのは丘山晴己さん。ジュリアーノと姻戚関係、それによりメディチ家とは因縁の関係という立場にありながら、ボルジア家のチェーザレに住まいを提供するとは、これいかに。教皇選挙の選挙権をもつ枢機卿のひとりでピサを治める人物です。複雑な立場ゆえの葛藤をにじませつつも、ワルツに乗せて展開する芸術、美を追求する麗しのラファエーレの場面はとても華やかで軽やか!



丘山晴己さん

さらには異なる時代を生きながらもチェーザレに大きな影響を与えるのが詩人ダンテ・アリギエーリ。演じるのは藤岡正明さん。そのダンテが理想の君主と崇めるハインリッヒ7世には横山だいすけさん。二人の登場で教皇に対する皇帝という存在が強調されることとなります。高らかにその思いを歌い上げるハインリッヒ7世の威厳に満ちた歌声、ダンテの高潔さと激しさを併せ持つ歌声、それは過去からの声でもあり、チェーザレの未来をさし示すものでもある。「あと一歩…」ダンテの声が耳に、心に残ります。学生たちにダンテの思想を説くランディーノ教授には武岡淳一さん。



藤岡正明さんと横山だいすけさん

このように主要登場人物をご紹介してまいりましたが、世界史はちょっと苦手で…という方もいらっしゃるかもしれません。確かに、名前が難しかったり、当時の教会の権力闘争(間近に迫る時の教皇の崩御とそれに伴う次期教皇の座を争う選挙)、貴族や商人、平民といった家柄の違いや家同士の因縁が複雑だったり、理解を深めるために事前に押さえておきたいポイントもあります(配布される人物相関図やあらすじをチェック!)。ただ、アンジェロが学内の勢力図や世情、ピサの街を知っていくように観客も物語の世界へと導かれる一幕。そこから事態が動き始め、スリリングな展開をみせる二幕となっていますし、各キャラクターが濃く、衣裳やメイクなど視覚的にもはっきりとしているところもあり、思ったよりは混乱することなく物語に没入できました。

また、全体を通して言葉を大切に届ける作品という印象を持ちました。言葉と音楽の融合はオリジナルミュージカルの強さではないでしょうか。“血”より“知”の戦いを前面に押し出すところも明治座さんの雰囲気にマッチしていたように思います。

本作の脚本を手掛けたのは荻田浩一さん。皆、腹の内を明かさずに画策する序盤、やがて各々が抱える苦悩や葛藤が明かされると「あの時のあの言葉の裏には…」「一瞬の視線の交わりにはそんな思いが!」と漫画なら思わずページをさかのぼって読み返したくなるという展開も巧み! 一度目ももちろん楽しめるのですが、二度目にはグッと深まった新しい景色が見えそうです。



チェーザレの学友たちの放つキラキラとともに、それぞれが背負う宿命やナイーブな年ごろゆえの葛藤を丁寧に描き出す演出は小山ゆうなさん。繊細に感情を積み上げているからこそ、Wキャストではその解釈や表現が(軸はブレずに)自ずと変わってくるでしょう。それによってチェーザレは、ミゲルは……、見比べもしてみたくなりました。またポップなものから大ナンバー、民族調、ロックなどなど豊かで多彩な音楽を手掛けたのは島健さん。キャラクターを表すナンバー、フレーズがちりばめられ、もっともっと聴き込みたくなります。なかでもチェーザレのナンバーは、パワーでぐいぐい引っ張るより(もちろんそのようなナンバーもあります)、常に抑制のきいた出力で惹きつけるという印象を受けました。そしてささやくような表現でも圧倒する中川さんの歌唱力。島さんがその魅力を知り尽くしているからこそ誕生したのではないでしょうか。




チェーザレが語る民を導く者に必要な資質。
混迷の時代に花開いた芸術・文化の尊さ。

15世紀のヨーロッパのお話ながら、今の世にも響くメッセージにあふれる本作。
さらには時代ものならではの重厚感のある衣裳、オーケストラ生演奏(明治座さんのオーケストラピット初稼働!14名編成のオケ!)、映し出される映像や照明の視覚効果、そして回る盆! 舞台・ミュージカルの醍醐味もたっぷり味わうことができるミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』をお見逃しなく。



~おまけ~
明治座さんのロビーにはフォトスポットや額装されたキャストのポートレートなど、観劇記念になるお楽しみも満載です!また、劇場前にはキャストのミニのぼりも!
中川さんのTwitterでも紹介されている原作無料公開も嬉しいですね。



どうぞご一緒に!

公演は2月5日(日)まで明治座にて!
公式HPはこちら
お見逃しなく!






おけぴ取材班:chiaki(文)、撮影・監修:おけぴ管理人

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