新国立劇場 シリーズ【未来につなぐもの】第3弾『楽園』稽古場レポート



シリーズ【未来につなぐもの】第3弾は、□字ック主宰・山田佳奈さんの書き下ろし新作『楽園』。演出は、劇団俳優座に所属し、ミュージカル、オペラなど外部作品でも幅広く活躍する眞鍋卓嗣さんという注目のタッグ! 山田さんが実際に沖縄県の離島を取材し、見聞きしたことをもとにした、架空の島でのある1日を描く濃密な会話劇。そこに集結した俳優は多彩な顔触れ! 静かに熱い、稽古場の様子をレポートいたします。




年代もバックグラウンドも異なる7人の女性たちが登場する『楽園』。
登場人物が姓名ではなく、神職の「司さま」、島のダイビングショップに嫁いで来た「若い子」、取材で島を訪れた「東京の人」、「村長の娘」というように立場、関係性で表されるところが特徴的です。これが物語を読み進めていくうえでわかりやすい! 我が身を振り返り、相対的な人間関係で相手を捉えがちだな……なんて思うことも。

この日は物語の後半、3場~4場にかけての稽古が行われました。
物語の舞台となるのは村の拝所(うがみじょ)。この日は年に一度の女性の手で執り行われる神事の日、そこに村長選挙も重なって……。

まず登場するのは、世話役の「おばさん」と出戻りの「娘」。「スマホばっかり見て!」「しょうがないでしょ!」、なんだかこの親子の日常をのぞき見しているような印象です。そして二人のやり取りは、ときおり耳が痛くなるような「うわぁ、親子~」という感じ。さらにはちょっとした愚痴から一気に人生の話に展開しヒートアップ。



おばさん:中原三千代さん 娘:西尾まりさん
親子だからこそのズケズケしたもの言いがリアル!
短い会話からもわかる島の高齢化……


役名は「おばさん」「娘」と抽象的ですが、そこにいるのは過去もあり、今現在の生活で様々な事情も抱える一人の人間です。それはこの後に登場する人物すべてに言えること。そう思えるほど中身の詰まった女性たちなのです。だからこそぶつかり合いも熱い。

また、関西で暮らしていた娘から時々こぼれる関西イントネーションと沖縄のイントネーションの違い、さらには「東京の人」のそれなど、それぞれがしゃべる言葉も象徴的。




このシーンではバチバチのお二人でしたが、稽古中は充実の笑顔!


「娘」が去り、それを追いかけようとする「おばさん」。そこに登場するのは「東京の人」。



「東京の人」:土居志央梨さん
島の外からの視点というだけでなく、内面の複雑さをもつ「東京の人」

神事の取材をしてもらうことで村が活性化すると考える「区長の嫁」、取材なんてとんでもない!と認めない「村長の娘」、選挙でも対立する二人の間に立たされる「東京の人」、彼女もまた葛藤を抱えている。

島の人々にとってはいずれにしても外からの“お客さん”な「東京の人」。彼女の伝統的な祭祀への「へぇ~」という第三者的な視点は観客のそれと重なるのですが、本作は彼女の目を通した物語というわけではなく、「東京の人」にも彼女の物語がしっかりとあるのです。ちょっと後ろめたいことも抱える「東京の人」を演じるにあたり、「どのくらいそれを見せるか」……お客様に伝わり、リアルにも見える絶妙な芝居のラインを土居さん、眞鍋さん、そしてみなさんで探っていきます。



演出:眞鍋卓嗣さん

演出のは眞鍋さんは、俳優の芝居を見て感じた、どこかノッキングしている、言いづらそうにしている部分を一つずつ丁寧につぶしていきます。そこにある感情、「なぜこの人はこの言葉を発するのか」いわゆる“行間”を読み解くだけでなく、山田さんと相談しながら、場合によっては意図を明確にするために言葉を足す、言い換えることも。
また、すべてに整合性をとっていくだけでなく、あえて矛盾を残していくところも。日常会話って、そんなに理路整然としていないですからね。それによって会話がいきいきと、生々しくなります。



ミッフィーちゃんね!

「東京の人」の登場によって、「おばさん」の口調も変わります。口うるさい母親から島の事情に明るく、いろいろと教えてくれる世話焼きの女性。いろんな面があるのも人のリアル。外の人が触媒になって生まれる変化もありますよね。


そして拝所では、「東京の人」の“ある物”を巡り、思いがけない展開が! 祭祀とともに、この土地の間近に迫るビッグイベントである村長選挙。女性が執り行う祭祀、有力候補が現職と区長、二人の男性という対比も。舞台上には登場しないのですが、男性の声で「最後のお願い」の選挙演説が何度も響きます。




切羽詰まった場面なのですが、だからこそ生まれる緊張と笑い。どうなるの?どうなるの?と若干野次馬感覚で物語に前のめりに。



「村長の娘」:清水直子さん
キリっとした厳しさ、必死ゆえの滑稽さを見せる「村長の娘」


「村長の娘」にとってはこの選挙は絶対に負けられない戦い。その必死さが生む行動のすべてには賛同できないのですが、でもその根底にあるのは一生懸命さなのです。


ときが経ち、「司さま」をはじめとする一団が島にある6つの拝所を周り終えて中心となるこの拝所へ戻ってきます。




厳かな雰囲気


「司さま」:増子倭文江さん
淡々と神事を執り行う「司さま」にもドラマが。
「司さま」だからか、増子さんだからか、言葉の説得力がすごい!

「司さま」の御願(グイス、祝詞)に込められた願い。沖縄の言葉、独特の言い回しで唱えられるのですが、その内容は自然、選挙、経済……島のあらゆる人の生活、幸せを願う言葉です。それをBGMのようにして(ダメなんですけどね(笑))、島の女性たちは。



地域の業務を担う“区長”を支える「区長の嫁」:深谷美歩さん
深谷さんのグッと落ち着いた声が「区長の嫁」の強さを印象づけます。

観光など、村の活性化をはかり変化をもたらそうとする考えは、保守的な村長派と対立するのは当然のこと。「区長の嫁」の覚悟を決めた潔さ、強さを感じます。




「村長の娘」が選挙の対立勢力「区長の嫁」へ向けて発した言葉をきっかけに……一人ひとりが抱えている問題が噴出します。



そこはこっちサイドですよね!

“共闘”と思いきや


今度はここが対立⁈


「若い子」:豊原江理佳さん
外からの移住者で、島のダイビングショップに嫁いできた「若い子」

なにかと正論をぶつける「若い子」。なんならちょっと顎上げ気味にしゃべるようなキャラクター、これまで見たことのない豊原さんです。「若い子」もまた、夫の家族とのいろいろ、また、村の閉塞感や考え方の古さなどには思うところもたっぷりとあることでしょう。そしてそれでもここに嫁いだのは、と思いを巡らせてしまいます。

あちこちで火花バチバチ、これはいったいどうなるの?と、ここからは劇場でお楽しみいただくとして。



「司さま」が静かに歩みを進め


!!

個人的な感覚では、ここまで言ったらもう永遠に決裂というラインを……越えていますよね?と思うのですが、それでも次の瞬間には団結! というような展開もある本作。なんだか不思議な人間関係のように思いますが、狭い社会で生きていくなかで人間が身に着けた術なのかもしれません。そしてなんだかんだ言って、村に伝わる神事は行っていくという身体に染みついた、土地に染みついた習慣。「やる」ってことに意味があるのかな。そんなことを感じました。

ここからの展開は、「司さま」と「東京の人」「若い子」という“一番遠い立場”のような組み合わせの会話。台本を読むと、それまでは目の前で起こることを肌で感じ、ダイレクトに「うわぁ」とか、「えー」とか、どこか他人事として味わっていたのが、そこからはググっと自らの頭に訴えかけられるような感覚。本番を見たら、どう感じるのか楽しみです。

不妊や介護、過疎化、高齢化……登場人物の一人ひとりが抱える問題は、現代の日本が抱える社会問題でもある。それをまさに渦中にいる、体温のある人間同士の会話で浮き彫りにする『楽園』。そこに生きる人々は“役割”と“自分自身”の隔たりに疑問を感じつつも、そうすることで社会が回ることを優先させる、それもまたこの島に限らず、あらゆる社会で起こっていること。それぞれの役の“その人”にしか見えない信頼の俳優たちの生きた言葉とその裏にある感情、ちょっとした表情の変化が訴えかけるもの……とても演劇的な作品になる。そう感じる稽古場でした。



「会話=相手の言うことを聞いた反応でわき上がるものを大切にしていきましょう」(眞鍋さん)

本番までにさらに熱量を増しそうな『楽園』は、6月8日に開幕です!


新国立劇場『楽園』豊原江理佳さんおけぴインタビューはこちらから!
【公演情報】
新国立劇場 2022/2023シーズン 演劇『楽園』
2023年6月8日(木)~25日(日)@新国立劇場 小劇場


作:山田佳奈
演出:眞鍋卓嗣
キャスト:豊原江理佳 土居志央梨 西尾まり 清水直子 深谷美歩 中原三千代 増子倭文江

https://www.nntt.jac.go.jp/play/blissful-land/

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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