OFF WEST ENDの舞台裏を覗いてみよう! ミュージカル「FROM UP HERE」レポート&演出 市川洋二郎さんインタビュー

こんにちは、おけぴロンドン支部特派員のマスギです。
日本、ロンドン、はたまたNYと国際的に活動する演出家市川洋二郎氏。
そんな彼の率いる
Théatre Lapis(テアトルラピス)がロンドンにやってきた〜!!
ということで、今回はThéatre Lapisのミュージカル「FROM UP HERE」の
レポートをお届けします!


やってきたのは、Leicester Square、そしてCovent Gardenからも程近い
Tristan Bates Theatre。
現代的な装いのビルですが、中に入ってすぐの待合室も兼ねたカフェは、
非常にまったりした懐かしい雰囲気。
いくらでも時間がつぶせそうです。


さて、肝心の舞台「FROM UP HERE」のお話。
脚本の舞台となるのは、NYのブルックリンブリッジという橋の上。
人生に迷う5人の男女が、この橋の上で出会い関わりあっていく中で、
自分にとっての大切な何かを見つけ、また再出発していくお話です。

舞台の重要な象徴となる橋は、写真のように白い紐1本で表されています。
その紐は役者の手により、時に意思を持ったかのように演者に絡み付き、
演者たちの揺れ続ける心情を客席に届けます。



楽曲も耳に心地よい繊細なものばかり。お気に入りはキャスト全員で歌う「Dream」
ピアノ一台とは思えない複雑な旋律とともにメロディアスに奏でられます。
夢と現実の狭間で苦しむ演者たちの葛藤が「I have this dream♪」の繰り返しの中で
切々と訴えられ、思わず涙腺はユルユルに。



シンプル、だからこそ役者が活きる、そして美しい。
日本人ならではの、シンプルだけど細部まで演出のいき届いた作品は
最近ウエストエンドではなかなかお目にかかれなかったものでした。

さて、ここでThéatre Lapis主宰・演出の市川洋二郎さんに色々
お話を聞いてみたいと思います!


おけぴ)
それではよろしくお願いいたします! まず、Théatre Lapisの活動について伺いたいのですが、NYで旗揚げされたんですよね?


市川)
はい。2010年から2012年にかけて、文化庁の在外研修員として
最初にロンドンに1年、次にNYに1年滞在していたんです。
ロンドンからNYに移るときに、必ずNYで芝居を1本打つと決めてました。

おけぴ)
それでThéatre Lapisを結成したわけですね。


市川)
最初のロンドンで年間250本くらい芝居を観たんですが、
その中で一番印象に残っていたのが「Ordinary Days」というミュージカルで
NYを舞台にした作品だったんです。
しかもNYでは、初演以来、再演されていなかった。
なので、せっかくだからそれをNYで上演してみようと。

おけぴ)
それがThéatre Lapisの旗揚げ公演になった、ということですね。Théatre Lapisとしては今後どういった活動をされたい、と思っていらっしゃいますか?


市川)
来年のエディンバラ・フェスティバルに
「FROM UP HERE」を持って行きたい、というのはあります。
加えて、エディンバラと、いくつかほかのフェスティバルにも出られたらいいですね。

日本、NY、ロンドンそれぞれの都市で演出を手がけてきた市川さん。ロンドンに来て「芝居は大劇場だけじゃない」「小劇場に舞台芸術の魂が宿る」というのを学んだ、と語られます。

おけぴ)
英国と米国、両方での舞台経験を通して何か演出の方法に違いは感じられますか?


市川)
大きく違います。「レ・ミゼラブル」演出のJohn Cairdさんにお会いして言われたのは
「アメリカや日本では演出家が稽古場で王様にならなければいけない。
 イギリスでは役者に正しい道を示してあげるのが演出家であって
 別に王様になる必要はない」という言葉。
舞台は役者と対等に向き合ってコミュニケーションする中で創っていくもの、
ということを教えてもらいました。
これは今でも自分が演出する時の一つのポリシーになっています。

おけぴ)
なるほど、他にご自身の演出方法に取り入れてることはありますか?


市川)
後はイギリスの手法として僕が凄く影響を受けたのは、
イギリスのストレートプレイの基本である「台本をしっかり読む」ということですね。
それは今の自分の演出のベースになっています。
イギリスで学んだストレートプレイの理論はそれまで自分がやってきたこととは
まるで違いましたが非常に勉強になりました。

おけぴ)
Théatre Lapisのコンセプトの一つにミュージカルとストレートプレイの融合、とありますね。それとも関係してきますか?


市川)
そうですね、僕が舞台を演出する時は、両方の技術を使います。
ストレートプレイを作るときはミュージカルの音楽の使い方を引っ張ってきます。
逆にミュージカルを作るときは、
ストレート的に中身を作る、ということをやります。
だから「いいとこ取り」ですね(笑)


市川さんは、自分はミュージカル/ストレートプレイ、西洋/東洋の間に位置する「いつも何かの間に立っている人間」であり、だからこそできることがあると語られます。けれども「何人か?」と問われれば、それは「日本人である」とのこと。

市川)
アメリカで生まれて、オーストラリア・日本と住んで今はまた海外にいて。
すごく日本的な部分もあれば、日本文化になじめない部分もあります。
でも海外に住んで、「日本人である」ということにとても誇りを感じるようになりました。
日本人の感覚がいかに美しく繊細なものであるか、ということに気づいたんです。
今回の舞台も色々なものを削ぎ落として創ったのは日本人的な感覚だし、
アクティングエリアを切り取ったのは能の舞台に着想を得ました。
そういう感覚って遺伝子のレベルで自分に入っているんだと思いますね。

おけぴ)
それでは、今回の「FROM UP HERE」もかなりオリジナルとは違う、市川さん独自の演出なんでしょうか?


市川)
全く違いますね。
オリジナルバージョンでは舞台セットでちゃんと橋が架かってるんです。

おけぴ)
今回は紐で橋に喩えているのが面白いですね。
これは市川さんのオリジナルのアイデアなんですね。


市川)
そうです。最初のコンセプトとして「人間と人間の繋がり」がありました。
で、橋というのは中間に存在して何かを繋ぐものですよね。
マンハッタンとブルックリン、パブリックとプライベート、
あるいは夢と現実であったり。
そういう色々なものを「繋ぐ」という意味を込めて
紐でやってみよう、ということになりました。

おけぴ)
そもそも、なぜこの「FROM UP HERE」を上演しようと思ったのでしょう?


市川)
元々、エディンバラ・フェスティバルで何かやりたい、と思って
小規模のミュージカルを探していたんです。
で、作品の一つのテーマである「人と人の繋がり」も上演の理由ではあるんですが、
お話の世界観や舞台が橋の上っていう開放感も好きで、この作品に決めました。
特に、場面の移り変わりの部分はかなりこだわって作りましたね。


おけぴ)
ではもう少し市川さんご本人の経歴について伺います。アメリカで生まれた、とのことですが最初の演劇体験もアメリカだったのですか?


市川)
いや、違います。
3歳で帰国してアメリカのことはあまり覚えてないんです。
でも母親が小さい頃から色々なものに触れさせてくれました。
例えばディズニー映画とか劇団飛行船さんの公演、とか。
だから芝居に歌が入ることに抵抗はなかったんです。
あとは映画の「オズの魔法使い」がすごく好きで。
小さい頃にコマ劇場での舞台公演に連れて行ってもらいましたね。
だから最初の舞台ミュージカル体験は「オズの魔法使い」かもしれません。

おけぴ)
では演劇を作るようになったきっかけはありますか?


市川)
元々演じるのが好きだったんです。子どもの頃一番好きな行事は学芸会でした。

おけぴ)
芝居の道を志すのも自然だったわけですね


市川)
ええ、でも中学高校と演劇部がなくて。だから芝居を観に行ってました。
月に一度自分の金で芝居を観に行く男子高校生ってなかなか異常でしょう?(笑)

おけぴ)
レアではありますね(笑)では演じるのが好きな市川さんがあえて演出家を志したのは何か理由があったのでしょうか?


市川)
一つには役者としての限界を感じたのもあります。
自分は大して踊れるわけではないし、
自分より綺麗でスタイルのいい人間はたくさんいるし。
それから僕は憑依型というか、
自分が演じるときはその役の声を聴いて具現化するんですが、
演出は一つの役だけじゃなくて、
ありとあらゆるものをその声に従って創れる、と思ったんですよ。
で、イギリスで勉強するまで「まず自分が演じてみて役者にそれを渡す」という
非常に感覚的な演出だったんですが、
イギリス演劇の理論的な台本の読み解き方を学んで
一つ一つの感情に理由付けができるようになりました。

おけぴ)
では今現在、ご自身の演出の核はどこにあるでしょうか?


市川)
やはりイギリスで学んだ「台本をしっかり読む」ということです。
いつでも、そこに立ち返るようにはしています。
あとは劇団四季にいた時に学んだ「言葉を大切に喋る」ということです。
自分の身体をしっかり制御しながらも
物語の流れを丁寧に届ける、ということを学びました。
音楽座で学んだ哲学というか命の向き合い方もそうですね。

おけぴ)
最後に、今後市川さんはどういうことをしていきたいですか?そして今後日本のミュージカルはどうあってほしいか、どうしていきたいか教えてください。


市川)
僕は東京とロンドンとNYを繋げる存在になりたい、
ぐるぐる廻りながら仕事をしたいです。
幸い各都市に知り合いがいて、お仕事もできるので。
人と人の繋がりを大事にして、
小さな繋がりがやがて大きな流れになって。
そんなことができる人間になりたいです。

そして、日本のミュージカルですが、今の形を否定したくはないです。
でも日本人だからできることがあるんですよ。
日本人だからできるミュージカル、
日本人だからできる形を模索していかなければならないと思います。
グローバライゼーションが進んで、技術的に世界が狭くなっていく中で、
自分の立ち位置を見極めることが大事だと思います。
そうやって、日本人だけにできることを模索していけたら、
また日本のミュージカルも変わるのではないでしょうか。

おけぴ)
今後のミュージカルを考える上で非常に重要なポイントが今の言葉に含まれていたと思います。色々お話いただきましてどうもありがとうございました! またぜひロンドンで公演をやっていただきたいです、お待ちしてます!


市川さんの詳しい経歴、今後の活動予定については以下のリンクからご覧ください!
Théatre Lapis 公式HP http://theatrelapis.org/


おけぴロンドン特派員:マスギ 監修:おけぴ管理人

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