2013/10/17 『CHESS in concert』演出家・荻田浩一さんインタビュー

2012年のコンサートを経て、『CHESS in concert セカンドヴァージョン』の上演が決定!
前回に引き続き演出・訳詞をされる荻田浩一さんにお話を伺いました。




-『CHESS in concert セカンドヴァージョン』にワクワクしています。
まずは、『CHESS』という作品について、初演からの流れなどお聞かせください。

荻田)
『CHESS』は楽曲的にも、作品(物語)的にも
日本での上演が難しいと言われていた作品です。
実際、ものすごく美しい曲、名曲の宝庫なんですけど、
やってみるとやっぱり難しいんですよね(笑)。

そして物語の背景も非常に複雑です。
東西冷戦から年月も経ち、知らないということはないにしても、
そのリアリティは薄れつつあります。
また、チェスというゲームについても、
日本での競技人口はそんなに多くはないですよね。

そんな中でこの物語をどのように日本のお客様に紹介すればいいか、
悩み、苦労しました。コンサート形式といえども、
やっぱり作品全体がどんなものなのかをわかっていただいた方が
『CHESS』という作品をお借りして上演する意味があると思っていましたから。

-ご苦労は訳詞の面でも?



荻田)
はい。歌詞、シチュエーションともにですね。
チェスのゲームになぞらえた展開や歌詞がいっぱいあるんですよ。
おそらくそれをそのまま訳したのでは、
日本のお客様にはいろいろと “?(疑問符)” が付いたままで、
作品の面白さを味わえなくなる。
そういった、とてももったいないことが起こりそうでしたので、
そこら辺はごめんなさいですけど(笑)、かなり割愛したり、まとめたりしました。

-そうだったのですね。

荻田)
正直、英語の歌詞はやっぱり英語で聴いた方がいいんですよね(笑)。
ティム・ライスさんが書かれた英語の歌詞はとてもユニークで魅力的なので、
絶対これは英語のほうがいいんじゃないかと思うところもいっぱいあって。
当然、それを直訳しても日本語としてあんまり魅力がないのです。
ですので、ティム・ライスさんが言いたかったことをなんとなく踏まえたうえで、
日本語の音律に合っていて、なおかつ、
あまりベタにならないような日本語を選ぼうというタイプの訳詞にしました。

-前回拝見し、すんなりと人間関係や展開が理解できました!
その裏にはそのような秘密が隠されていたのですね。
この場を借りてお礼を申し上げたいです(笑)。



荻田)
もちろんそこには、島 健さんをはじめとする音楽スタッフの力、
そしてキャストのみなさんがそういうところも含んで
歌いこなしてくれたことも大きいです。
前回の公演を終えたとき、「今の日本のプロダクションでも、
これだけ歌える人を揃えて重厚にこの音楽の世界を創り上げることができるんだ」
という実感と自信を持ちました。
コンサート形式でありながら、『CHESS』という作品の核、
一番重要なところはある程度出せたのかなという気はしています。
まだまだいろんな魅力があるんですけどね。

-更なる魅力!『CHESS』奥深いですね。
そのあたりは “セカンドヴァージョン” で味わえると期待してよろしいでしょうか!

荻田)
はい。
これまでお話してきたように、前回は『CHESS』という作品と音楽を
“紹介” するために腐心し、
まだまだその全貌をつまびらかにしたわけではなかったですからね。
そこから少しずつ濃度を高めていければいいなという思いで、
“再演” ではなく“セカンドヴァージョン”としました。
より複雑なところの表現に挑戦してみようかな、
けれど大変かなぁというのが今の状況です(笑)。


-では、今回のヴァージョンについて少し具体的に伺います。
音楽面、物語面でそれぞれどのように変わりそうですか。

荻田)
楽曲については、前回、既に大きな旋律は出尽くしているんです。
いわゆる有名どころは全部使っとけみたいな(笑)。
あとはそれが複雑にハーモライズしてきて・・・という部分を復活させる予定です。

物語としては、今回新たに登場するキャラクター、
戸井勝海さん演じるウォルターの存在が大きいですね。
この作品の登場人物は大きくソ連側、アメリカ側に分かれますが、
そのアメリカ側の代表フレディ(中川晃教さん)に付いているのが
フローレンス(安蘭けいさん)と、このウォルターです。
ウォルターは明確なソロはないんですが、実はCIAの人間で・・・という、
よりスパイゲーム的な要素を醸し出すトリッキーな存在なのです。

前回はフレディ、フローレンス、アナトリー(石井一孝さん)の三角関係に
焦点を絞りましたが、今回はその周りに渦巻いている政治劇的な部分も
しっかりとお見せしたいと思います。
戸井さんには全体を仕切っているフィクサー的な役割を担っていただきます。

-仕切っている=アービター(チェスの審判)というイメージでしたが。

荻田)
アービター(マテ・カマラスさん)はまたちょっと違って、
チェスゲームのイデア、いわば “天上の人・ルール” という存在。
それに対して “地上で” 差配している、暗躍しているのがウォルターです。
そして彼の存在によって当時のソ連の締め付けの強さ、
自由のなさが表現され、それがソ連側のチャンピオン・アナトリーのキャラクターに
より色濃く反映されればいいなと思っています。

-より立体的な物語になりそうですね。
続いてはキャストについて、戸井さんとともにマテ・カマラスさんも
今回初参加です。
マテさんは前回の浦井健治さんのアービターとはまた違うイメージになりそうですが。

荻田)
マテさんは日本という国、文化、そして日本の舞台事情にもとても理解のある方です。
でも、外国の方ですよね。まずヴィジュアルが明らかに違います(笑)。
それがこのチェス大会がワールドワイドなものであるということを示すためにも、
すごく良いことなのではと思っています。

アービターという役は元の台本でも若干抽象的なんですよね。
“こうあるべき” という限定がそんなになく、実際に過去に上演された公演を見ても、
アービターは様々なヴァージョンがあります。
非常にまじめな役人のおじさんヴァージョンから、半分裸のロックスターまで(笑)。
前回はロンドン発のミュージカルということもありグラムロック風、
デビッドボウイっぽくしてもいいのではと、あのヴィジュアルに立ち上げたのですが、
マテさんはよりゴシック調に・・・なるかなぁ。
ちょっと時空を超越したような存在感を見せていただければと思っています。
ですから良くも悪くも浮いた存在になっていただける気がします(笑)。




-楽しみです!
そして、引き続きご出演のみなさんも大変魅力的な顔ぶれですよね!!
2012年の公演に向けたインタビューで「荻田さんから芯の強い、
決して折れない、倒れない、たとえ倒れても起き上がる役を
付けていただくことが多いですね(笑)。」とお話しされていた安蘭さんですが。

荻田)
安蘭さんは踏まれても踏まれても、どんなにつらい目にあっても
きっと勝ち残っていくであろうと予感させる、
そう予感したいと思わせる風情を持った方です。
彼女の持つ芯の強さは、最後の希望に繋がるのです。

-中川フレディ、石井アナトリーも素晴らしかったですね。



荻田)
お二人は似ていないようで似ているところがあるんですよね。
非常に集中力が高いというか、自分の世界に入られていくというか、
突っ走っていくというか(笑)、そんな熱い感じが!
お二人とも、どんどんマニアックにこの作品にのめり込んでいただいており、
とてもありがたいです。

石井さん、中川さん、もちろん安蘭さんもそうですが、
自分たちが関わって日本初演を遂げた『CHESS』という作品に
愛情を持ってくださっています。
ですので、続投するキャストの “前回よりもいいものにしたい、
もっと完成度を上げたい” という思いは非常に強いです。
そのキャストたちの思いも含めて、
ただの再演じゃなくて “セカンドヴァージョン” にステージを
上げていきたいなと思っております。

-そして、夢は膨らみいつかミュージカル公演として・・・?

荻田)
そのためにもセカンドヴァージョンをより興味を持ってお客様に
ご覧いただいき、受け入れていただくことが大切だと思っています。

-セカンドヴァージョンでの飛躍、楽しみにしています!


では、ここからはせっかくなので荻田さんに聞いてみよう♪のコーナー

-いわゆる “荻田ワールド” と称されるその世界観はいったいどうやって
生まれるのでしょうか。



荻田)
自分が特殊なことをやっているという気持ちは全くなく、
普通に思いついたことをやっているだけなんですよ(笑)。
僕がよくやるスタイルというのは、
一番最初に美術スタッフと打ち合わせすることです。イメージは砂場です。
どの大きさの砂場になるかによって、その中でどう遊んでいいのかを考えるのです。
つまり、まずは “どういうところで僕は遊べるのかな”
というところをセットデザイナー、衣裳デザイナーと話し、
材料がそろったところで役者さんという要素が入ってくるのです。

なんとなくそこまでは頭の中で想像し、あとは実際に役者さんがいらっしゃって、
その方たちが動いて、しゃべって初めて見えてくるものがあるんです。
もちろんある程度準備はするんですけどね。
人って絶対自分と同じ考え方しないじゃないですか(笑)。
“あ、そういう風にとるんだ” というのが面白いんですよね。
たとえば、僕は絶対上手から出ると思ったんだけど、
この人は下手から出たいんだとか。
そうなると景色が変わるから、今度はこっちを動かそうという
連鎖反応が起こっていったりするんですよ。

あと、僕は集中力がないので、こっちで何かやっている時に
(全く別の)あっちの方を見ちゃったりして。
うっかり見た先に何もないと寂しいから、あっちの方でも何かしてもらおうとか(笑)。
そんな風にして創り上げていきます。


とても無邪気に語る荻田さんが印象的でした!


-では、最後に荻田さんが演出をされる上で一番大切にされていることは。

荻田)
舞台上にいる人が素敵に見えることです。
舞台上の人を好きにならないとお客さんは作品を好きになれないですよね。
僕が出演者の好きな部分を見つけて、
それをお客様に “この人のこういうところがいいでしょ” とちょっと押し売り(笑)
しようと思うことが一番のポイントです。
役者を愛することと作品を愛することは僕の中ではほぼ同義語です。

-なんて素敵なお言葉なのでしょう!!そして、納得!!
この言葉をうかがったとき、これまでの荻田さんの作品のいくつかが
走馬灯のように頭をよぎりました。
そして、その一つは紛れもなく2012年の『CHESS in concert』!
さらに深められた『CHESS in concert セカンドヴァージョン』、
期待せずにはいられません。

【公演情報】
『CHESS in concert』
2013/12/12(木) ~ 2013/12/15(日)@東京国際フォーラムホールC
2013/12/20(金) ~ 2013/12/22(日)@梅田芸術劇場メインホール

<スタッフ>
作曲・作詞:ベニー・アンダーソン/ビョルン・ウルヴァース
原案・作詞:ティム・ライス
演出・訳詞:荻田浩一
音楽監督:島 健

<キャスト>
安蘭けい 石井一孝 中川晃教 マテ・カマラス
AKANE LIV 戸井勝海
池谷京子 角川裕明 田村雄一 ひのあらた 横関咲栄 / 大野幸人

<みどころ>
コンサートは、チェスの世界王者を賭けて闘う男たちの物語を軸に展開する。
片やNO!といえる国アメリカ代表の傍若無人な天才肌・フレディ(中川晃教)。
片や秘密警察(!)がセコンドにつくなど、監視と束縛の中、
国の威信を背負うソビエト連邦代表の慎重派・アナトリー(石井一孝)。
置かれた状況も勝負スタイルも真逆なふたりが、1人の女性を巡り激突する。
運命のヒロインに、両親を亡くした孤独な女性フローレンス(安蘭けい)。
フレディのセコンド役でありながら、敵側のアナトリーに心を奪われる禁断の三角関係。
しかもアナトリーには祖国で待つ妻と子供がいた。
一見小難しそうな米ソ冷戦という時代背景が、じわじわとドラマのスパイスとなって効いてくる。
実際の亡命劇をモチーフとしたリアリティのある展開と、
キャラクターたちの揺れ動く心情を巧みに表現した楽曲、
さらにそれらを体現する役者たちの歌声が渾然一体となり、観る者をグイグイ物語へと引き込んでいく。
果たして、命がけの恋と、国の威信を賭けた戦いの結末とは……!?

作品公式HP 

『CHESS in Concert』公式Twitter 

<初演のおけぴレポ>

CHESS in concert 2012年公開舞台稽古レポ

CHESS in concert 安蘭けいさん、中川晃教さんインタビュー(2012年公演に向けて)

CHESS in concert 石井一孝さん、浦井健治さんインタビュー(2012年公演に向けて)




おけぴ取材班:おけぴ管理人(撮影)chiaki(文)

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