歌舞伎NEXT 『阿弖流為』 製作発表会 レポート


写真左から:中島かずきさん、中村七之助さん、
市川染五郎さん、中村勘九郎さん、いのうえひでのりさん


市川染五郎さんが劇団☆新感線とタッグを組み大ヒットした 舞台『アテルイ』が、13年の時を経てついに歌舞伎化!

古代の日本を舞台に、北方の民・蝦夷(えみし)の英雄「阿弖流為(あてるい)」と、彼に奇妙な友情を感じながら征夷大将軍として対立する立場になる坂上田村麻呂との関係を軸に、蝦夷の戦いと運命を描いた『アテルイ』。

両花道をつかった演出や、ド迫力の立ち回りなど、「いまでもあの時の衝撃が忘れられない」という方も多いはず! 

岸田國士戯曲賞受賞作でもある2002年版を「より深く、よりドラマチックに全面改訂(by 中島かずきさん)」して、さらに“かっこ良くなる”という歌舞伎NEXT 『阿弖流為』。いったいどんな“歌舞伎”をみせてくれるのか、期待は高まるばかり。
「新しい歌舞伎、新しい演劇のスタートにしたい」と意気込む市川染五郎さんほか、坂上田村麻呂を演じる中村勘九郎さん、ドラマのキーポイントとなる女性二役を演じる中村七之助さん、作者の中島かずきさん、演出のいのうえひでのりさんが出席した、歌舞伎NEXT 『阿弖流為』製作発表会の模様をお届けいたします。







ふたたび阿弖流為(アテルイ)役に挑む、市川染五郎さん。

市川染五郎さん)
キーワードのひとつは「混ぜる」です。
歌舞伎の引き出しをたくさん、いのうえさんにお渡しして新しい演劇を作っていただくと同時に、歌舞伎400年の歴史を紐解き、その“わざ”を混ぜていければ、と。
これまでにも新しいものを取り入れ、織り交ぜた新作歌舞伎はありましたが、今回の“歌舞伎NEXT”では、歌舞伎の伝統と新しい手法とを混ぜあわせて、化学反応によって新しいものが生まれることを目指しております。
たとえば今回は戦ものですから、立ち回りがあります。昔の歌舞伎には「軽業師」という立ち回りの専門集団がいました。そのテクニックなども含め、(歌舞伎の)歴史を改めて掘り起こし、それをいのうえさんに料理していただきたいと思っております。
“歌舞伎NEXT”という新しい演劇が誕生する、そのスタートが今日だったんだと、あとになって思われるような、そんな作品になればと思っております。




脚本も全面改訂! 中島かずきさん。

中島かずきさん)
「ほんとうにこんな日が来るんだ」とおどろいています。いつかは自分たちの作品が歌舞伎になれば、と思っておりました。最高のキャストとともに歌舞伎を作れるということで作家冥利に尽きます。
13年前の『アテルイ』には、ずいぶんくだらないシーンやギャグも多くて、ああ自分も若かったんだなと(笑)、若気の至りに思いを馳せつつ、歌舞伎バージョンに全面的に書きなおしました。そのことで、よりいっそうドラマチックに、(ここにいる)お三方の関係も深いものになったと思っております。どんな仕上がりになるのか今から楽しみです。歌舞伎として何度も再演される作品になるといいなと、個人的には願っております。



演出を手がける、いのうえひでのりさん。

いのうえひでのりさん)
初演の『アテルイ』は、僕らが“いのうえ歌舞伎”と呼んでいる手法で、ロック音楽をガンガン流しながらやる芝居でした。それを先代の猿之助さん(現・猿翁さん)がご覧になって「これはギャグの部分を抜いたらそのまま歌舞伎になるよ」とおっしゃてくださったんです。ちょうど「歌舞伎ってどうやって作るんだろう」と逡巡していたときだったので、その言葉をいただき、とても心強い思いでした。
この「アテルイ」という題材は、もともと染五郎くんが「いつか歌舞伎に」と思っていたものを横取りする形で上演が実現した企画なものですから(笑)、それが今回、新しい形の歌舞伎になるということで、いろいろな意味で嬉しく、ワクワクしています。
そして、中村勘三郎さんともいつか一緒に作品を作りたいという思いがありました。そのときにはもちろん勘九郎くん、七之助くんも一緒にと考えていましたので、今回このふたりと一緒にやれるということも、非常に嬉しく思っています。



坂上田村麻呂を演じる、中村勘九郎さん。

中村勘九郎さん)
嬉しいです! 今の気持ちは「嬉しい」ただひとことです。いまここに中島さんといのうえさんがいらっしゃるから言うわけではありませんが、私はおふたりの作品が大好きでして、いつか劇団☆新感線の舞台に出演したいと思っていたところ、この歌舞伎バージョンの『阿弖流為』に参加させていただくことになり…感無量です。
2002年の『アテルイ』を観劇した感想は、とにかく染五郎さんがかっこ良かった! その染五郎さん、阿弖流為と日々闘えることを誇りに思い、一生懸命つとめます。
先ほど「ギャグを抜いたら歌舞伎になる」というお話がありましたが、私は劇団☆新感線の“ネタもの”が大好きでして、もし今回ちょっとでも「勘九郎いいな」と思っていただけましたら、ぜひ次回の“ネタもの”に呼んでいただければと思います(笑)。 



立烏帽子、そして鈴鹿の二役を演じる、中村七之助さん。

中村七之助さん)
兄は楽しみだと言っておりますが、僕はいま怖さでいっぱいです。劇団☆新感線の舞台を拝見していて、よくこんなすごい人たちのなかで芝居ができるなと、染五郎の兄さまを尊敬しておりました。
『アテルイ』も当時観劇していて、すごい! と思っていました。その伝説の舞台がまさか歌舞伎になり、自分が出演させていただけるなんて、夢のようで…どうしようかと。
「歌舞伎に直さなくても良かったんじゃないの」とお客様に思われないように、一生懸命がんばりたいと思います。



――阿弖流為への思い

染五郎さん)
2002年に『アテルイ』として上演する10年ほど前から、いつか歌舞伎にしたいと温めていた題材でした。友人と台本を書いたり、阿弖流為の里に行ったり、資料を集めたりもしていました。
(松竹と劇団☆新感線の)コラボ第二弾のときに、劇団☆新感線さんのテイストに阿弖流為が乗っかったらカッコいいのでは、と提案してみましたら、それが実現しまして。舞台稽古のときに、舞台上に“アテルイ”という文字がパッと出て、「ああ阿弖流為が世に出たな」と、そんな感じがいたしました。もちろん歴史上の人物ではあるのですが、それほど知られていなかった阿弖流為の存在を皆さまに知っていただけたと。
あれから13年たち、「“あの”阿弖流為が歌舞伎に」と言っていただけて、ひとつのブランドになったかなと感慨深く思っています。


――なぜ阿弖流為という人物に注目したのか?

染五郎さん)
『まんが日本の歴史』という本がありまして、そのなかに阿弖流為が処刑されたことを聞いて征夷大将軍の坂上田村麻呂が一筋の涙を流すというひとコマがあったんです。能の『田村』などでも田村麻呂の蝦夷征伐について語られていますが、阿弖流為は国に歯向かう存在、賊、鬼として描かれています。だからといって、それ(阿弖流為)が処刑されることになにも感情はないのか、と。でも(「まんが日本の歴史」にあったように)敵同士ではありますが、男と男の間になにか通じるもの、ドラマがあったんじゃないかと。阿弖流為を人間として描いたら、阿弖流為の側から物語を書いてみたらおもしろいのでは、新しい芝居ができるのでは、と思ったのが阿弖流為という人物に心を寄せたきっかけですね。


――“新作”に挑む理由は?

染五郎さん)
新作をやるのは…「新しいものをやりたいから」それだけですかね(笑)。
これ、僕がカッコいいということを前提にお話ししていますけれど、僕と勘九郎が両花道に立って、その間に七之助がいて…という場面。これ僕も(客席から)一番観たいです。だってカッコいいでしょう(笑)? それまでも散々闘いぬいてきた阿弖流為が、最後に田村麻呂と一騎討ちする…これカッコいいですよ! 観たい! カッコいいと言われるんじゃないかな、という…妄想ですね(笑)。


――新しい“歌舞伎”への挑戦について

勘九郎さん)
400年の歴史を紐解いて、歌舞伎の知識がつまった宝物のようなもの、そのほんの一部でも表現できればいいなと思います。

七之助さん)
(「歌舞伎NEXT」、「スーパー歌舞伎」など)いろいろな名称がありますが、根本にあるのは「お客様に楽しんでいただきたい」という気持ち。これからも大先輩たちが作り上げてきたものを受け継ぎ、また、ただ受け継ぐだけではなく、自分の中で考えて、歌舞伎というものを広げていけたらと思っております。


――音楽、演出、脚本などについて

いのうえひでのりさん)
「歌舞伎」と「いのうえ歌舞伎」と、なにがちがうのか。まず歌舞伎役者というのは1800人入る歌舞伎座のいちばんうしろまで声を届かせることができる、そういう技術、スキルを持った人たち。生(ナマ)の、アナログの魅力がありますよね。劇団☆新感線では電気で増幅させる、amplifyする芝居が多いのですが、今回はまずアナログ、生の声が届くような芝居、そしてそれに付随するような音楽を考えています。(ガツンと)行くときには行きますけど(笑)、芝居全編を通して音楽がガンガン鳴りっぱなしの、いつものうるさい(笑)「いのうえ歌舞伎」とはちがったものになります。
演出的にはあまり詳しくは言えないのですが「あ、これは歌舞伎のあの演目へのオマージュね」と感じていただけるようなところもあるかなと。歌舞伎ならではの手法、見せ方を織り込んでいきたいと思います。ダブル花道も使います。
「歌舞伎」ってなんだろう? といろいろ考えましたが、最終的に歌舞伎役者が演じれば「歌舞伎」になるのではないかと。もともと劇団☆新感線の芝居にも、見栄をしたり、ヒーローが出てきたりと歌舞伎っぽい要素があるので、もうこの3人にお任せしておけば歌舞伎になる、大丈夫じゃないかと。染さんと勘九郎くんが両花道で見得をするときはシビれると思います。いまから楽しみです。

中島かずきさん)
田村麻呂の年齢を前回より若い設定にしています。若いゆえに間違えることもあるし、田村麻呂自身のドラマも増えています。
それから前回は女優さんおふたりに演じていただいた二役を、七之助さんおひとりに演じていただきます。このあたりはかなり書き換えているところで、新しい見せ場もありますので楽しみにしていただければと思います。


――それぞれの役柄について

染五郎さん)
ブレない人物。「ここにいるために戦う」というセリフがあるのですが、自分がここにいる、生きていくためになにをするのかということをわかっている、そういう人物だと思います。孤独な男ではありますが、阿弖流為が人間として描かれている初めての作品だと思いますので、人として生き抜く男として演じたいと思います。
…根拠はないんですけど、すごいものになるという確信があります。前回から13年経っていますが、前より若いんじゃないか、カッコいいんじゃないかと言われることを妄想しております(笑)。

勘九郎さん)
一本気で、情に厚く、漢(おとこ)のなかの漢。これは初演を観たときから感じていました。それに加えて今回は若さゆえの、というところが出てきますで、その哀しみや粗(あら)のような部分もおみせできるのでは。すごく等身大の田村麻呂になっていると思います。

七之助さん)
二役することを話題にしていただいているということで、プレッシャーを感じています(笑)。
前回は素晴らしい女優さんおふたりが演じた役を、一人二役で演じさせていただくということに、ちゃんと意味を持たせたいと思っています。初演を観たときにも、違う方が演じている役なのに、最後の場面でどちらかわからない女性が立っているということにすごく感じるものがあったので、今回の一人二役にも意味を持たせて、つとめたいと思います。







歌舞伎としてよみがえる、反逆のヒーロー「阿弖流為(あてるい)」。

前作の持つ大胆なエンターテイメント性はそのままに、歌舞伎ならではの技と伝統を盛り込み、ドカーンと打ち上げられる夏の大花火に今からワクワク!
「新しい歌舞伎」、「新しい演劇」が生まれる瞬間を、ぜひ劇場で一緒に目撃いたしましょう!





【公演情報】
松竹創業120周年
歌舞伎NEXT
阿弖流為(あてるい)
新橋演舞場 平成27年7月5日(日)~27日(月)

<あらすじ>
古き時代、日の国――。大和朝廷は帝による国家統一のため、帝人(みかどびと)軍を北の地に送り、そこに住むまつとわぬ民、蝦夷(えみし)に戦を仕掛けていた。その頃、都では、蝦夷の“立烏帽子(たてえぼし)党”と名のる盗賊一味が人々を襲っていた。それを止める一人の踊り女。彼女こそ立烏帽子。女だてらの立烏帽子党の頭目だった。町を襲う盗賊が自分たちの名を騙る偽者であること暴くため変装していたのだ。そこに都の若き役人、坂上田村麻呂もかけつける。さらに“北の狼”と名のる男も現れ、偽立烏帽子党を捕える。この事件をきっかけに北の狼と田村麻呂は、互いに相手に一目置くようになる。だが、北の狼と立烏帽子は、蝦夷が信じる荒覇吐(あらはばき)神の怒りを買い、故郷を追放された男女だった。
 北の狼の本当の名前は、阿弖流為(アテルイ)。故郷を守り帝人軍と戦うため、立烏帽子と二人、蝦夷の里に戻ることにする。荒覇吐神の怒りをおさめた阿弖流為は、蝦夷の兵を率い、帝人軍と戦う。彼の帰還を快く思わぬ蝦夷の男、蛮甲の裏切りにあいながらも、胆沢の砦を取り戻した彼は、いつしか蝦夷の新しい長として一族を率いていく。
 一方、田村麻呂も、帝の巫女である姉、御霊御前(みたまごぜん)や右大臣藤原稀継(ふじわらのまれつぐ)らの推挙により、蝦夷大将軍として、蝦夷との戦いに赴くことになってしまう。阿弖流為と田村麻呂、互いに認め合う二人の英傑が、抗えぬ運命によって、雌雄を決する時が来ようとしていた。

歌舞伎美人・公演詳細


おけぴ取材班:hase (取材・撮影)、 mamiko(文)   監修:おけぴ管理人

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