スタジオライフ『アドルフに告ぐ』 特別対談&製作発表会レポート


劇団スタジオライフ創立30周年・戦後70年企画として、
手塚治虫原作『アドルフに告ぐ』をリブート上演!



 今年創立30周年をむかえ、体制もあらたに意欲的な活動をつづける劇団スタジオライフ

 “男性だけの”という枕ことばは、もう必要ありませんよね!

 人気マンガから、世界の傑作文学、芝居の原点に立ち戻ったシェイクスピア劇まで、オールメールキャストならではの“演劇の力”を存分に感じさせてくれるスタジオライフ作品。

 『大いなる遺産』、音楽劇『夏の夜の夢』に続く30周年記念公演の第3弾は、“まんがの神様”手塚治虫の傑作を舞台化した『アドルフに告ぐ』の再演です。

 再演といっても、前回とまったくおなじものを上演するわけではなく、今回あらたに<日本編><ドイツ編><特別編>の3バージョン(&5パターンのキャスト!)として再構築する“リブート上演”というところが、いかにもスタジオライフらしいチャレンジです!

 昨年亡くなった前代表の河内喜一朗さんが、戦後70周年にあたる今年、2015年に再演することを熱望していたこの作品。
(その再演秘話は、レポ後半でご紹介♪)

 2015年のいま、なぜ再びこの作品に挑むのか。

 劇団員参加の製作発表会と、映画監督・コメンテーターの山本晋也さんを招いての「戦後70年、今『アドルフに告ぐ』を上演するということ」と題した特別対談が行われました。



作・演出を手がける倉田淳さん(写真左)と監督の出会いは、
日本ペンクラブ会合の休憩所だったとか。
監督の話があまりに興味深く「ぜひみなさんと共有したい」と思われたそうです。


<『アドルフに告ぐ』ストーリー>
1936年、ベルリンオリンピックの取材でドイツへ渡った峠草平は留学中の弟を何者かに殺される。やがて弟がヒットラーに関する重大な秘密を知ったことにより口封じで殺され、さらにその秘密の文書が日本へ向けて送られたことを知る。
一方、神戸ではドイツの総領事館員のカウフマンも本国からの指令を受け、文書の行方を追っていた。熱心なナチス党員である彼は、一人息子のアドルフを国粋主義者として育てようとするが、アドルフは強く反発する。同じ名を持つ親友のアドルフ・カミルが、ナチスドイツの忌み嫌うユダヤ人だったから。
時はヒットラーという独裁者が支配する暗黒の時代。
運命は2人の少年の澄んだ友情をも残酷に引き裂いてゆく――



昭和14年生まれ、今年で76歳になる山本晋也監督。
戦中・戦後の思い出、手塚治虫さんとの交流秘話など、
江戸っ子らしい歯切れのよさで、たっぷりと語ってくれました!


 東京・神田に生まれ、小学校入学の前年に終戦をむかえた山本監督。

 「3月10日の東京大空襲の直前に、父親が隅田川のむこうがわに“疎開”させてくれたこと」、「B-29でうめつくされた空を防空壕から見て、こわいとは思わなかったのに、奥歯だけがなぜかガタガタと震えたこと」、そして「戦後の繁華街で米兵とすれ違うと“アメリカの匂い”がして憧れたこと」など、戦中戦後のエピソードを、ときに笑いも交えつつ、べらんめえ口調で語る姿は、まるで高座の噺家さんのよう。

 それもそのはず。山本監督は落語立川流の一員でもあるとか!
※立川流には談志さんの弟子たちが所属するAコースと、有名人たちが入門するBコースがありました。高田文夫さんやビートたけしさんも入門されていましたね。

 立川流の顧問だった手塚治虫さんとも交流があり、「手塚さんはつねにベレー帽をかぶっていたから(からまれそうで)歌舞伎町に連れていけなかった」という“トゥナイト”的エピソードや、こどもの頃から読んでいた手塚作品についても熱く語りつつ(「映画『ロボコップ』は手塚さんの『ブラックジャック』に影響を受けているとおもう!」などなど)、肝心の『アドルフに告ぐ』については、なんと「話がちょっとまだるっこしいんだよね」と…! か、カントク! はたしてその真意は!?


山本監督)
「(『アドルフに告ぐ』は)子供用に作られた作品じゃないですよ。アドルフが何人も出てきて、ヒットラーの出生の秘密についての文書うんぬんっていうストーリー展開があるけど、ほんとうはそんなことはどうでもいいの。
手塚さんがこの作品で言いたかったのは、ラスト近く、もうひとりのアドルフと対峙したアドルフ・カウフマンのこのセリフに込められていると思う。

「俺の人生は一体なんだったんだろう。あちこちの国で正義というやつにつきあって。
そして何もかも失った…肉親も…友情も…俺自身まで…俺は愚かな人間なんだ。
だが、愚かな人間がゴマンといるから国は正義をふりかざせるんだろうな」


 このセリフが言いたくて、書かれた作品。
 政治的発言をすることはなかった手塚さんだけど、こうやって作品のなかにメッセージを込めているんです。
 アドルフ・ヒットラーはたしかに独裁者だけど、一応ちゃんとした選挙で選ばれているんですよ。つまり国民が独裁者を生み出したの。
 「国家という怪物が“正義”という呪文を唱えるから気をつけろ」手塚さんはこう言いたかったんだと思いますよ。
 もし戦争がおきて、たとえ勝ったとしても、子どもが全員兵隊にとられて死んでいたら誰も喜ばないでしょう。大切なのは個人が幸せであること。自分の家族、恋人、友人、ペットでも…親しい存在が死んでしまうことほど悲しいことはない。だから“正義の呪文”に操られないように気をつけろよ、と。
 『アドルフに告ぐ』というタイトル。いまこれを誰に“告ぐ”のか。日本国民かもしれないし、アメリカかもしれない、世界全体に告ぐのかもしれない。
 そのほかにもいろいろなことが込められている作品。それがなにかということは、舞台を作る側が探していかなくてはならない。観る側は楽しみだよね。
 日本人がでっかいドイツ人を演じるのもむずかしいよねえ(笑)。うまくできているのかどうか、ぜったいに観に行きますよ。みなさんもお楽しみに」






 作品作りへのハードルをグン! とあげるような山本晋也監督のトークのあと、作・演出の倉田淳さんと出演者が意気込みを語る【製作発表会】がおこなわれました。



「監督との対談で、いまこの作品を上演する意味をあらためて感じることができた」
作・演出を手がける、劇団唯一の女性・倉田淳さん。

「8年ぶりの上演となる『アドルフに告ぐ』。ただの再演ではありません。
<日本編><ドイツ編><特別編>と、3つの視点から描く、リブート上演です。
 5、6年ほど前に、河内(喜一朗)がぜったいに2015年に再演したいと強く希望しまして、彼が決定した最後のプログラムが今回の公演になります。
 作品に込められたハードなテーマにどう取り組んでいくのか。日々、戦争の足音が聞こえてくるような、そうなりつつある世界のなかで、この作品を上演する意味を噛みしめながら作っていきたい。
 「おれの人生はなんだったんだろう」というカウフマンのセリフ…そんな気持ちにいたる経験を誰にもしてほしくない。
 “アドルフ”は、わたしたち全員のなかに刻まれた名前のひとつである、という思いを、これからあとの世代にもつないでいきたいと思います。
 今回もまた3パターンで、それぞれ別キャストもありまして…一部ではやり方がアコギだとも言われていますが(笑)、それぞれ別の流れで描く物語で、3パターン観ていただくことで相互関係も構築されていきますので、ぜひ足をお運びいただければと思います」





松本慎也さん
<アドルフ・カウフマン役(日本編MJチーム・ドイツ編MGチーム)>

 
 「僕はもちろん戦争を知らない世代です。戦争を体験された方の話をきくことも少なくなってきたいま、手塚治虫先生のたくさんのメッセージが込められているこの作品を上演して、登場人物たちの生きざま、命を、魂を込めて真摯に演じきることで、平和への思いをすこしでも未来につなげていくことができればと思っています。
 …と、言葉にすると堅いイメージになりますが、純粋に演劇的エンターテイメント性にあふれた作品になっていますので、ぜひみなさんに楽しんでいただければと思います」





緒方和也さん
<アドルフ・カミル役(日本編MJチーム・ドイツ編MGチーム・特別編)>

 「2007年の初演時は、入団1年目の新人でした。
 今回またこの作品に参加できること、アドルフ・カミル役をさせていただくことに身が引き締まる思いです。たくさんの方に観ていただきたいと思っています」




仲原裕之さん
<アドルフ・カウフマン役(特別編)>

 「昨年、高校生向けの芸術鑑賞会で特別編を上演したときに、最初は興味なさそうにしていた高校生たちが、物語がすすむにつれ、身を乗り出すようにして観てくれたんです。手塚先生の作品の力、演劇の力を肌で感じることができました。
 今回もこの力を信じて、役者ひとりひとりの熱量をだしきって、作っていきたいです」




山本芳樹さん
<アドルフ・カウフマン役(日本編YJチーム・ドイツ編YGチーム)>

 「8年ぶりの再演。初演に引き続きアドルフ・カウフマンを演じます。
幼少期から演じるのですが、僕も初演から8つ歳をとったわけでして(笑)、はたしてカウフマン少年を無理なく演じることができるのか。これがひとつの課題だと思っています。
 無理はしなくちゃいけないけれど、無理をしすぎずに演じることが目標です。
8年の間にさまざまな経験を重ねて、たくさんの役も演じてきましたので、8年前の僕よりも先輩の俳優として、舞台に反映できればいいなと思っています。
 えー、とにかく無理なく演じることを目標に(笑)! がんばりたいと思います」





奥田努さん
<アドルフ・カミル役(日本編YJチーム・ドイツ編YGチーム)>

 「手塚治虫先生の作品を舞台化するということで、僕たち俳優が「生(ナマ)で演じる」ことが大事だと思っています。
 僕らは僕らにしかできないやりかたで、戦争への思いをお客さまに感じていただけるよう、がんばりたいと思います」




曽世海司さん(この日は司会もつとめていらっしゃいました)
<峠草平役(日本編YJ/MJチーム・ドイツ編YG/MGチーム)>


 「初演に引き続き、峠草平役を演じます。
 先ほど山本監督のお話を聞いていて、いまこの作品に取り組みながら、僕たちが突き進んでいるところに間違いはないであろうと、確信しました。
 初演のときには、自分たちが驚くほどの好評をいただいた記憶がございます。また、仲原の挨拶にもありましたが、特別編を上演した芸術鑑賞会では、ふだん演劇を観る習慣のない高校生たちから、ぐいぐいと来るものがあった、手応えを感じたと、出演者たちがいきいきとした表情で報告してくれたことを覚えております。
 今回はさらに3パターン、3つの視点からアドルフを語ることに意義があると思い、出演者一丸となってがんばっています。
 峠草平という役については、狂言まわしという役割はありますが、彼自身もとても魅力的な男です。演劇の力を借りながら、自分自身がこの8年間で培ったものをどれだけ役に投影できるかというチャレンジでもあります。より魅力的な役になるよう、精進していきたいと思います。
 …さきほど山本監督から、体の大きいドイツ人になりきるのは大変というお話がありましたが、我々は「演劇の力」を信じておりますので、ドイツ人役の役者はきっとドイツ人になれます! そして山本芳樹はきちんとカウフマン少年にも、大人のカウフマンにもなれます(笑)! 
 この“力”を使って、手塚先生がのこした大人のファンタジーを精一杯、演劇として作っていきたい、作れる、と信じています」




劇団代表をつとめる藤原啓児さん
<イザーク役(日本編YJ・MJチーム・ドイツ編YG・MGチーム・特別編)>

「(今回の再演、また栗山民也さん演出版が別カンパニーでほぼ同時期に上演されていることについて)
 これにはちょっとおもしろい経緯がありまして…。
 6年前、手塚プロダクションの担当者のところに、河内からいきなり電話がかかってきたそうなんです。電話に出ると一切の前置きもなく、開口一番「決めました!」と。続けて「2015年がなんの年かご存じですか? 戦後70年です。アドルフ再演、大丈夫ですか? これは劇団の使命でもあるんです!」と演説が始まったんだそうです(笑)。それぐらい河内にとって思い入れのある作品でした。
 先方の担当の方は、その迫力におされて、ただ「はい…はい…」と返事するしかなかったとか(笑)。そこに河内からたたみかけるように、「では、(再演許可の)念書をお願いします!」と言われたと。そのときには「手塚プロでは6年越しの念書を交わした前例がございません!」と叫ぶしかなかったそうでございます…(笑)。
 でもこのことがあって、手塚プロでも2015年=戦後70年ということを意識されるようになったそうなんです。
 その後、栗山民也さん演出版の上演許可依頼があったときも、わざわざこちらに「どうでしょう?」と確認してくださったのですが、河内はこの作品が別のカンパニーでも上演されることを大変喜んでおりました。戦後70年はぜったいに盛り上げていかなくてはならない。かならず盛り上がる、その自分の予想どおりになったことが嬉しかったようで。
 同じ原作をそれぞれどのように舞台化していくのか。いい意味で競いあえればと思っていたんだと思います。
 河内は「正義と悪の境界はない」というイデオロギーに対して深い考えをもっていました。そのあたりが『アドルフに告ぐ』を上演することに強い思い入れをもっていた理由だと思います。とくに“2015年再演”への思いは本当に強いものだったんです」







 スタジオライフ創立30周年記念公演第3弾『アドルフに告ぐ』。
 戦後70年のいま、多くの人の思いをのせ、7月11日から8月2日まで東京・紀伊国屋ホールにて上演されます!
(大阪公演は8月22日・23日)

 魅力的な登場人物たちを、3パターン上演で多面的に描き出すスタジオライフならではの“アドルフ”を、お見逃しなく!

【公演情報】
劇団スタジオライフ Studio Life 『アドルフに告ぐ』
2015年7月11日(土)-8月2日(日) 紀伊国屋ホール
2015年8月22日(土)・23日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

原作:手塚治虫 
脚本・演出:倉田淳

出演:
<日本篇>
山本芳樹(ダブルキャスト・YJ)/松本慎也(ダブルキャスト・MJ)/奥田努(ダブルキャスト・YJ)/緒方和也(ダブルキャスト・MJ)/曽世海司/船戸慎士/宇佐見輝/藤原啓児/大村浩司/久保優二/牧島進一/仲原裕之/鈴木智久/倉本徹 ほか

<ドイツ篇>
山本芳樹(ダブルキャスト・YG)/松本慎也(ダブルキャスト・MG)/奥田努(ダブルキャスト・YG)/緒方和也(ダブルキャスト・MG)/曽世海司/宇佐見輝/藤原啓児/久保優二/倉本徹/深山洋貴/甲斐政彦 ほか

<特別篇>
仲原裕之/緒方和也/藤波瞬平/船戸慎士/宇佐見輝/藤原啓児/大村浩司/久保優二/倉本徹 ほか

公演公式サイト


















おけぴ取材班:hase(撮影)、mamiko(文)   監修:おけぴ管理人

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