新国立劇場『パッション』井上芳雄さんインタビュー

「ただ愛すること」が愛なのか?「ひたすらに愛されること」が愛なのか?

19世紀のイタリアを舞台に男女の奇妙な三角関係を描く、“ミスター・ミュージカル”スティーブン・ソンドハイムの傑作ミュージカル『パッション』に出演する井上芳雄さんにお話をうかがいました。


~ものがたり~
19世紀のイタリア。騎兵隊の兵士ジョルジオは、美しい恋人クララとの情熱的な逢瀬に夢中になっている。しかし、ほどなくして彼は、ミラノから辺鄙な田舎への転勤を命じられ、その地で病気療養をする上官の従姉妹フォスカに出会う。病に冒されているフォスカは、ジョルジオを一目見て恋に落ち、執拗なまでに彼を追いかけるようになる。クララへの愛に忠誠を誓い、フォスカの愛を受け入れないばかりか、冷たくあしらうジョルジオだった...。


--まずは気になる役どころからお聞かせください。

イタリア人の軍人ジョルジオを演じます。イタリア人役は初めてかな。
設定としては、美しい青年ということで(笑)、素敵な美しい恋人クララもいて、仕事もうまくいっている。すべてを兼ね備えている順風満帆な青年です。その彼が赴任先でフォスカという女性と出会い、クララとフォスカの間で揺れながら、何が本当の愛なのかを知っていくという話になります。

--和音美桜さん演じる美しい恋人クララ、シルビア・グラブさん演じる病に冒され、執拗なまでにジョルジオを追いかけるフォスカ。二人のヒロインの対比も独特ですよね。


ブロードウェイで上演されたときも、主演(ダブルヒロインのひとり)の女優さんの役柄が醜いという設定は話題になったと聞いています。でも、それを表現するのに特殊メイクを施すのではなく、表情や心持ち、芝居で醜く見えたり、ふとした時に美しく見えてきたりしたそうです。それって演劇的にすごく面白いですよね。

シチュエーションとしては 逆『オペラ座の怪人』だなって思うんです。男性が傷を負っていたり、醜かったりというのは実は結構あるんですよ、『ノートルダムの鐘』もそうだし。

--確かにそうですね。

ちなみに、僕は、何の役をやりたいかって、オペラ座の怪人をやりたいんですよ。
今回の役は、立ち位置としてはクリスティーヌ側ですけど(笑)。
でも、実際にやるとなると、実はクリスティーヌやラウルのほうが難しいところがあるなと思うんです。明らかに何かを背負っている人より、何の問題もなく生きてきた人が疑問をぶつけられ、さまざまな変化をしていく。この台本を読んだ時も、そこが非常にドラマティックに描かれていたので、そこを演じることは難しくもあり、それだけにやりがいがあると思っています。

--井上さん演じるジョルジオの変化がどう表現されるのか楽しみです。テーマはずばり愛ですよね。


僕が演じるジョルジオが好対照な二人の女性と出会い、愛とは何かを見つけ出していく。
それには正解がなくて、彼が見つけた愛はこれだったという話なので、それが正しいということではありません。最後、観客のみなさんがどう感じるのかはわからないですが、それぞれが違うんじゃないかな、そしてそれが面白いんですよね。僕らはそれくらい不確かな愛の定義の中で生きているのではないかと思うんです。

演じる上でも、素敵なお二人の女優さんの愛の芝居をどう受けるのか、楽しみですね。
クララは、ある意味で和音さんのイメージを覆すと思いますし、シルビアさんのフォスカは、迫りくるところなどは『レベッカ』のダンヴァース夫人的要素も少しあるのかな、すごそうですよね(笑)。


--続いては、音楽についてうかがいます。
「難解」といわれることの多いソンドハイム作品初挑戦ですね。



はい、ソンドハイム作品は初めてです。
彼の音楽の印象は、キャッチーではないですよね。何回聞いても覚えられないような、そしてみなさん難しいとおっしゃる(笑)。
実際、メロディラインも「こう進むだろうな」という予想を裏切るようなところがありますが、“生きる、生きている”ということもそうだと思うんです。
単純でないところが、人間の心の深さや機微を非常によく表している。ソンドハイムが玄人受けする理由はそこにあるんじゃないかな。

--念願かなってのご出演ですか。

いつかは!とは思っていました。
でも、僕は『キャッツ』、『オペラ座の怪人』、『レ・ミゼラブル』などで育ったようなところがあり、キャリアの中でもクンツェ&リーヴァイ作品に代表されるような、どちらかというとドラマティックメガミュージカル世代ですからね(笑)。
ソンドハイム作品は、もちろん何作品か見たことはありますが、正直あまり知らないんです。
ただ、業界内人気がすごいなというのは感じていたので(笑)、いつかはやらせていただきたいという気持ちはありましたね。

--これまでにもコンサートなどではソンドハイム氏の楽曲を歌われていますが、歌ってみていかがでしたか。


20代後半からソンドハイムの中では比較的メロディアスなものを歌っているのですが、歌った手ごたえは全くなかったです(笑)。
やっぱり難しいんですよ。音域がものすごく広いとか、そういう難しさではなくて、とにかく手ごわいのは歌の中で伝えている内容の奥深さなんです。たとえば♪Being Aliveなどは、さまざまな葛藤の果てに自分が生きていることを表現する楽曲です。歌っての盛り上がりはある程度ありましたが、内容は伴っているだろうか、自分にはこの曲のメッセージを歌いきるだけのものがあるだろうか、そういったところに難しさを感じました。
今、この作品のお話をいただいて、そろそろ僕もソンドハイムを歌ってもいいんじゃないかなと信じて挑もうと思います。

--そしてそれが新国立劇場さんからのオファーで、しかも演出は宮田慶子芸術監督です。

こういったお芝居の要素が強いミュージカルで宮田さんとご一緒できることはとても楽しみです。しっかりと人間関係を演出してくださると思うので、濃密に丁寧に作りあげたいと思います。
そして、この作品はあまり商業的な作品ではなく、ブロードウェイでもトニー賞を受賞したけれどあまりロングランはしていないんですよね。これまで日本で上演されなかった理由もその辺りにあると思います。それを上演できるのは新国立劇場だからこそとも思います。僕自身、かならずしも商業的なものを追いかけるだけではなく、上演する意味、意義を感じるものをやっていきたいと思うので、その意味でもこの作品を成功させたいですね。


--演劇的要素が強い作品、では、なぜそれをミュージカルにしたのか。今の時点でどのように思われますか。


ソンドハイム作品って結構そういう題材が多いですよね。これから稽古をしていく中でわかっていくことが多いと思いますが、そこにはやはりミュージカルでしかできないことがあると思うんです。
例えば、同じメロディをリフレインすることで感情が深まっていったり、別空間にいる3人が同時に歌うことで、それぞれの気持ちを重ねたりというのはミュージカルにしかできないことだと思います。
そしてこの作品のもつ独特の雰囲気、ラブストーリーではありますが、ただのラブストーリーではなく、ちょっと心理的に「怖っ」みたいなところもあります。
タイプは違いますが『オペラ座の怪人』のように、その作品にしかないムードを音楽が作っていると思いますし、そこにもミュージカルである意味はあると思いますね。
またこの作品に限らず、今年トニー賞をとった『ファン・ホーム』も、原作を読む限り、これ絶対ミュージカルにはならないだろうというものをミュージカル化して成功しています。ミュージカルにはそれほどの可能性があるということにもつながると思います。

--そして、この話題も外せません!…チラシも非常に情熱的ですよね。ドキリとしました。


撮影の時は、全然そんなつもりなく行ったんですけど、脱いでいくような展開になって、3人で絡み合ってね(笑)。
今やっているトート(『エリザベート』)もセクシー系ですし、今年はセクシーに特化していこうかなと(笑)。
チラシだけでなく、オープニングナンバーから刺激的ですよ。
日本ミュージカル界の歴史を塗り替えるような・・・オープニングから脱いでいるという。どこまでやるかはこれから宮田さんと相談します(笑)。


撮影:熊谷仁男


--ではここからは井上さんご自身についてうかがいます。タイトルの『パッション』にちなみ、井上さんの中で歳を重ねるごとにパッションに変化はありますか。

僕も30代後半になり、自分より若い世代がたくさん出てきました。若い人は若い人なりのエネルギーがあり、あきらかに自分のそれとは違うなと。
それを僕らが受け止める必要性も感じています。じゃあ自分たちの情熱がなくなったのかというと、そういうことではなくて、ちゃんとあるんです。でも、より静かに燃えるみたいな(笑)。
そして、舞台上で表現するときにすべて爆発させ、本番後にはワイワイ大人数の飲み会より、まったりと少人数がいいな。そんなエネルギーの使い方になっています。なんというか、ようやく諸先輩方の気持ちがわかってきたというか(笑)。
でも、それって全然いやな感じじゃなくて、「自分も大人に、プロっぽくなってきたな」と思うようにしています。

--デビューから15年、そういう立場になってきたということですかね。


いつの間にかね(笑)。
最近では若い共演者から「芳雄さんのCD聞いていました」と言われたり、『エリザベート』でご一緒しているLE VELVETSの佐藤隆紀くんからは「芳雄さんがいたから、僕も音大からミュージカルの世界へ進もうと思いました」と言われたり。とてもうれしいんですけど、そうなると、僕は期待を裏切らない素敵な先輩でいなきゃ!という思いを常に持つようになるんですよね、立場は確実に変わっています。
反対に、僕も若い彼らを見ていて「若くていいな」と思うところもある一方で、「そんなんじゃだめだぞ」、「僕らがちゃんと教えていかなくては」という若年寄みたいな頭にもなってきて。今までそんなこと思ったことなかったんですけどね。年をとるってこういうことなんですね(笑)。

あとは被害妄想なんでしょうが、「井上さんの歌い方ってさー、お芝居ってさー、古いよね」と言われているんじゃないかと思うことも(笑)。
そうやって目指す対象にもなり、いやいやあの人たちと違うことをしたいと思われる対象にもなっているんじゃないかと思います。どこか上を否定しながら、新しいことをやろうと、僕自身もそう思ってやってきましたからね。
複雑な気持ちもありますが、世の中はそうやって回っていると思うので、僕自身もまだまだ上も見つつ、若い後輩を挑発し続けるような仕事をしていきたいです。
「井上さんはこんなこともするんだ、なかなか追いつけないな」と思われるような存在でいたいと思います。

--この作品、ぴったりですね。


だからオープニングナンバーで思い切り脱いで、「やるなー」と思わせたいですよね!(笑)
でも、本当にこれからも若手俳優、そしてもちろんお客様も驚かせていきたいです。

--では最後に、11月3日の『パッション』おけぴ観劇会にむけてメッセージをいただけますか!

『パッション』という作品は、日本初演ですし、みなさんにとってはまだよくわからないものかと思います。決してキャッチーな作品とは言えませんが、ミュージカルの大きな魅力である“お芝居を音楽に乗せて届ける”ということを存分に味わえる作品です。おけぴ会員のみなさんは本当に演劇をお好きな方が多いと思いますので、それをみなさんに見に来ていただけるのはとてもうれしいです。その期待に応えられるように、というか、多分みなさんが思われているのとは全然違う世界が繰り広げられていると思うので、びっくりしてもらえると思います。

ミュージカルをお好きな方がこの作品についてどんな感想を持たれるのかも興味があります。僕、基本的にいい感想はいつでもお待ちしていますし(笑)。
そして、自分のファンクラブのイベントなどでもよく言っていることですが、観劇好きという共通点で横のつながりができていくことは素晴らしいことだと思います。隣の席のひとに話しかけてみるとか、いろんな意味で楽しい時間、観劇会にしましょう。

11/3の観劇会はおかげさまで満席となりました。お申込みありがとうございました


お待ちしています!



【公演情報】
ミュージカル『パッション』 日本初演
2015年10月16日(金)~11月8日(日)@新国立劇場 中劇場
★おけぴ観劇会★
2015年11月3日(火・祝)13:00公演

観劇会はおかげさまで満席となりました。お申込みありがとうございました

<スタッフ>
作曲・作詞:スティーブン・ソンドハイム
台本:ジェームス・ラパイン
翻訳:浦辺千鶴
訳詞:竜 真知子
音楽監督:島 健
演出:宮田慶子

<キャスト>
井上芳雄 和音美桜 シルビア・グラブ 福井貴一
佐山陽規 藤浦功一 KENTARO 原 慎一郎
中村美貴 内藤大希 伊藤達人 鈴木結加里
東山竜彦 吉永秀平 一倉千夏 谷本充弘
白石拓也 小南竜平 岩橋 大 荒田至法

公演HPはこちらから

おけぴ取材班 chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影)

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