写真左から:中村萬太郎さん、市川月乃助さん、
中村獅童さん、尾上松也さん、中村梅枝さん
オオカミとヤギ。喰う者と、喰われる者という宿命を越えて「ひみつのともだち」になった二匹の物語。
絵本からアニメ、ゲーム、映画…と広がった
『あらしのよるに』がついに歌舞伎に!
スーパー歌舞伎、歌舞伎NEXT、六本木歌舞伎と、意欲的な挑戦が続くなか、今回あえて『新作歌舞伎』とシンプルに定義した思いとは?
オオカミの“がぶ”役を演じる中村獅童さん、ヤギの“めい”役の尾上松也さんほか出演者の皆様が集まった製作発表会の模様をお届けいたします。
「大好きな松也くんと芝居ができるのがうれしい」(獅童さん)
「どんな舞台にも命がけで挑戦されている姿に、こちらも一所懸命についていきたくなる」(松也さん)
脚本を手がけるのは
「私はヤギをすぐに喰ってしまうオオカミのようなタイプなので、この作品は自分の任ではないなと思っていた(笑)」という今井豊茂さん。
『NINAGAWA十二夜』『陰陽師』など、
新作歌舞伎の脚本を多数手がける今井豊茂さん。
「私に依頼をいただいたということは、古典歌舞伎のような懐かしさと同時に新しさも感じさせることを求められているのかなと思いますので、“温故知新”の雰囲気がただよう作品を目指します。
主人公は森の動物たちですが、“人間でもこういうことってよくあるよね”と思っていただけるよう、そして歌舞伎であることを実感していただける作品になるよう、演出の藤間勘十郎さん、そして出演者たちと相談して作っていきたいと思います」このほかにも
「長唄、竹本といったいわゆる“邦楽”を使う」、
「“お家騒動”“お白州”など歌舞伎らしい場面を取り入れ、原作にはないキャラクターも登場する」、さらに衣装やメイクを含めたビジュアルデザインを
ひびのこづえさんが担当されることなどが明かされました。
「いわゆる“子供向けの着ぐるみ芝居”にはしません!」
アツく抱負を語る獅童さん。
歌舞伎ならではのメルヘン・感動・エンターテイメントを見せたい! と意気込む獅童さん。
NHKで放送された『教育てれび絵本 あらしのよるに』のナレーション&全キャラクターの声をつとめ、さらに2005年の映画版『あらしのよるに』で主人公ガブを演じたきっかけになったのが、
『義経千本桜』の“四の切”で狐を演じる獅童さんを番組プロデューサーが見たことだったとか。
「『四の切』には子が親を慕う気持ち、『あらしのよるに』には友情という普遍的なテーマがあります。
(動物が主人公ということで)一歩間違えれば子供向けの喜劇になってしまいそうなところを、大人も感動するエンターテイメントとして成立させられる、これが歌舞伎の持つ魅力だと思います」“新作歌舞伎”の枠組みのなかで上演することについても、
「今回は歌舞伎ならではの演技法、演出法、音楽にこだわって、“あらしのよるに”が歌舞伎になるとこうなるんだよ、ということをお見せしたい。歌舞伎ならではの“がぶ”を作ります」と宣言。
藤間勘十郎さん演出ということで、
オリジナルの舞踊シーンにも期待ができそうです!
昨年亡くなった獅童さんのお母さまが大好きだったという『あらしのよるに』。
今回ついに歌舞伎としての上演されることについては…
「私のような不良少年が、NHKの番組で子どもたちへの読み聞かせのお仕事をさせてもらえることを母は喜んでいました。
今回こうして歌舞伎としてひとつの形になること、そして母が育った京都の南座で芝居をさせていただけることに胸がいっぱいになる思いです」獅童さんの思いが、南座の舞台で花開きます!
“がぶ”との友情のため、ある選択をする“めい”役・尾上松也さん
「僕が演じる“めい”は、一見おとなしそうですが、じつは“がぶ”より気が強いところもある役です。つっころばしの若衆のような、なよなよとした風貌だけど、ほんとうは気が強い─、歌舞伎ではあまりない役柄です。“めい”という役の性根がどういうものなのか、原作を読んで、しっかりと腹のなかに入れたいと思います。
獅童さんたっての思いがある『あらしのよるに』。いまは“新作歌舞伎”ですが、将来これが“古典歌舞伎”と呼ばれるような作品になるように、一所懸命ついていきたいと思います」ヤギの国のお姫さま“みい姫”を演じる中村梅枝さん。
歌舞伎版ならではのキャラクター設定にご注目ください!
「歌舞伎には多種多様なお姫さまが出てきます。今回の役は品があって、おしとやかだけれど心のなかは非常に情熱的。これはまさに歌舞伎のお姫さまのイメージですので、そこを大事に作っていきたいです」“めい”の幼なじみ・ヤギの“たぶ”を演じる中村萬太郎さん
「時代ものの作りになるかと思いますが、僕の役は原作に出てきますので、本をよく読み込んで役を作っていきたいと思います」
裏切り者を許さないオオカミのボス・“ギロ”を演じる市川月乃助さん
「歌舞伎には動物を擬人化するお芝居、舞踊がたくさんあります。それを成立させられるのが歌舞伎の演出法の素晴らしいところです。
初めて歌舞伎を見たとき、これはライブ、生で体感できるアニメーションだなと感じました。メイクなどのビジュアルの魅力にとても惹かれたことが、歌舞伎役者になるきっかけのひとつでもあります。今回はその歌舞伎の素晴らしい演出法を駆使して作っていければと思っています」
今回の役と自分との共通点は?という質問に…
獅童さん)オオカミと共通点? ないですよ!
でもがぶってオオカミなんだけどお人好し。僕もお人好しなのかなあ(笑)。
松也さん)共通点というか憧れですが、めいの「相手に対する固定概念を捨てて向き合える心」、
これは僕もこれから人として成長するなかで持っていられたらなと思いますね。
それでは最後に、原作者のきむらゆういちさんから寄せられたメッセージをどうぞ。
「現代作家の絵本が歌舞伎になるのは初めてだそうです。
いったい歌舞伎の世界でガブやメイはどんなふうに演じられるのだろうかと今からワクワクしています。今から20年程前にファミレスの片隅で生まれた原稿が、まさか将来歌舞伎になるなんて、書いた時は思ってもいませんでした。
本当に嬉しい限りです。
ボク自身も獅童さんに出会うまで、あまり歌舞伎と縁がなかったのですが、今では歌舞伎大好き人間です。今度の作品でより多くの大人や子供が歌舞伎大好き人間になってくれることを願っています」
300万部を超える
ベストセラー絵本が新作歌舞伎に。
「ほんとうのともだち」とは? そして
「生きること」とは…?
南座の舞台で繰り広げられる、
“がぶ”と“めい”の物語をお見逃しなく!
おけぴ取材班:hase、mamiko 監修:おけぴ管理人