【観劇レポート『焼肉ドラゴン』感激観劇~劇場、演劇が好き!を実感する舞台~】
1970年代、そこに生きた人々と笑いと涙を共有する観劇タイム。
作品のエネルギーを表すと…「どーーーん!」という感じです。そしてそれを全身で受け止めようとする自分。その結果、カーテンコール時の心地がどこか違い、それはどうやら自分だけでなく…何といえばいいのか、独特の一体感がありました。
役者さんの好演、熱演に対する拍手の前に、あのアボジとオモニ、ファミリーの人生にエールという気持ちで拍手してしまうほど、愛おしい登場人物たちなのです。もちろんそこまで引き込む脚本やお芝居があってのこと、素晴らしい!
(左より)大沢 健、チョン・ヘソン、中村ゆり、ハ・ソングァン、櫻井章喜、キム・ウヌ、ナム・ミジョン、ユウ・ヨンウク
(左より)大沢 健、ハ・ソングァン、中村ゆり、高橋 努、ユウ・ヨンウク、馬渕英里何、櫻井章喜、チョン・へソン、朴 勝哲
物語終盤の舞台写真はレポ末に!!
【稽古場レポート】
切なくて、愛おしくて、そしてたくましい。
“生きる”エネルギーに胸が熱くなる『焼肉ドラゴン』、間もなく開幕!本番と同じ舞台セットが組まれた稽古場
大道具、小道具、それぞれの質感が昭和の空気を醸し出します
時代を記録する三つの名舞台「鄭義信 三部作」連続上演、まず、登場するのは、初演時に読売演劇大賞 大賞および最優秀作品賞、朝日舞台芸術賞グランプリなど数々の賞に輝いた
『焼肉ドラゴン』です。
1970年代、高度経済成長期へと向かう日本。空港建設が進む関西の地方都市を舞台に、焼肉店を営む在日コリアン家族の悲喜こもごもを描く本作は、鄭義信さん曰く「裏・三丁目の夕日」。稽古場取材へ伺った日は、二幕冒頭、物語が大きなうねりをみせる場面をじっくりと作りあげていました。日韓俳優陣が全力で高みを目指す、熱気あふれる稽古風景をレポートいたします。
焼肉屋「焼肉ドラゴン」を営む家族、父(=アボジ)の龍吉(ハ・ソングァンさん)と母(=オモニ)の英順(ナム・ミジョンさん)は再婚同士。父の連れ子、長女の静花(馬渕英里何さん)、次女の梨花(中村ゆりさん)、母の連れ子の三女の美花(チョン・ヘソンさん)、そして龍吉と英順の子、長男の時生(大窪人衛さん)、そこに店の常連さんをはじめとした人々がやって来て…ドラマが繰り広げられます。
写真左より)静花(馬渕さん)、韓国人青年大樹(キム・ウヌさん)
このシーンは家族の祝い事から一転、修羅場へ。姉妹を含む三角、四角関係というなかなかディープな恋愛模様の果てに…という怒涛の展開をみせます。そこで感じることは、なんと言うか、登場人物それぞれの“うっぷん”がリアル!
高度成長の勢いにのる世間、それに対して在日であることが壁となり思い通りにならない生活、このコミュニティを出たい…。そんな行き場のない怒りがそれぞれの身体、声、表情から湯気のように立ち上っている場面です。
写真左)梨花の夫 哲男(高橋努さん)は招かれざる客?!
高まる緊張
そしてついに!!
写真奥)血の繋がりはなくとも大きなオモニの愛で娘を見つめるナム・ミジョンさん
馬渕英里何さん演じる長女・静花は悲しみを内に秘めた女性、一方、中村ゆりさん演じる次女・梨花ははっきりとした物言いをする女性。そんな姉妹の間で揺れるのは、高橋努さんが演じる口も悪く、粗野な男、でも、どこか憎めない大きなヤンチャ小僧のような哲男。3人の関係が煮詰まったときに、ついに噴き出すむき出しの感情、その迫力たるや。馬渕さんのグッと堪えに堪えた末の爆発、中村さんの細い身体のどこからそんな声が!というほどのパンチの効いた台詞まわしに心拍数が上がりまくりでした。
写真右)梨花(中村ゆりさん)
でも、そんな修羅場を経ても不思議なことに次の場面では何事もなかったかのように、また、店に集うのです。彼らはその土地から離れる事はできない、やはりそこに暮らすしかないのです。そこにもリアリティを感じさせる義信さんの脚本と演出。
もう一つの魅力は絶妙にちりばめられた笑い。シリアスが極まるタイミングでふと可笑しみがこみ上げてくるような緩急が心地よいのです。
三女 美花(チョン・ヘソンさん)
ご紹介が遅れましたが、三女の美花はクラブ歌手、「焼肉ドラゴン」のムードメーカーです!歌ったり踊ったり、チャチャを入れたり(笑)。その場がパッと明るくなるようなヘソンさんの笑顔です。 そんな美花にも悩みは…、でも、オモニの娘ですからね!
作・演出 鄭義信さん
こちらは先ほどの修羅場の後、ついにお父ちゃん=アボジ(ハ・ソングァンさん)の登場です!アボジと一緒に学校から帰ってきたのは末っ子長男・時生(大窪人衛さん)。
日本の進学校へ通う時生は学校になじめず…
日本で生きていくのだから日本の学校へ、無理をさせなくても、父と母それぞれの愛情で息子の行く末を案じる龍吉と英順。二人の人生は、子供らのため、働いて働いて…働きづめだった。そのエネルギーというのは、子供たちの世代ともまたちょっと違う強さやたくましさを感じさせます。
写真左より)龍吉(ハ・ソングァンさん)、英順(ナム・ミジョンさん)
明るくバイタリティに溢れたオモニ、ナム・ミジョンさんのお芝居はその場で起きたことひとつひとつへの反応、ビックリしたら…
うわっ!!とビビットに反応!
とあるシーン、さまざまな芝居を試している中での「今、起きたことに対して、母親としてどう反応するかがまだ整理できていない」という言葉が印象的でした。感情が子供に向かう中、夫の姿が目に入ったとき、英順の心と身体はどう動くのか。日本語の台詞という大きな挑戦の中でも、最後には心の動きが芝居を、見ている者の心を動かすことを再認識しました。それほどまでに、オモニのキャラクターの大きさを感じるミジョンさんのお芝居なのです。必見ですよ!
それに対して、龍吉のハ・ソングァンさんは強く厳しいアボジの愛。この日、登場シーンは多くなかったのですが、佇まいやふとした表情に引き込まれ、本番がますます楽しみになりました。
状況はつらく厳しい、でも、とにかく生きる、生き抜いていく夫婦とその家族の物語。一人ひとりの登場人物を、そこに生きた人として愛おしいと思え、彼らの来し方と行く末、その延長に今があるということを自然に感じさせる芝居。そして何があっても止まることのない時、春夏秋冬、めぐる季節。
義信さんの「記録する演劇」、その意味をかみしめる帰り道でした。
三部作制作発表会見で宮田慶子芸術監督がおっしゃっていた「1950、60、70年代、戦後の庶民を描いた作品を、今、やらせていただくことに意義を見いだしております。
戦後70年を過ぎた時期に、もう一度、お客様とともに楽しみ、悦び、泣き、そしてたくさんのことを考えるような作品にしたい」という言葉。まさにその狙い通りの、シリーズ開幕を迎えそうです。『焼肉ドラゴン』開幕はもうすぐそこです!
(左より)ハ・ソングァン、ナム・ミジョン、馬渕英里何、中村ゆり、チョン・ヘソン、大沢 健、ユウ・ヨンウク、高橋 努
(右より)ナム・ミジョン、ハ・ソングァン、大窪人衛
(右より)ナム・ミジョン、ハ・ソングァン
おけぴ取材班:chiaki(文・撮影) 監修:おけぴ取材班