【過去ログ】2012/07/05 華のん企画『ヘンリー六世 Ⅲ』稽古場レポ


2012年7月5日(木)15:00

華のん企画『ヘンリー六世 Ⅲ』稽古場レポ

7月14日に初日を迎える、華のん企画『ヘンリー六世 Ⅲ』&『リチャード三世』。

いよいよ本番まで10日を切った稽古場は、熱気と活気に溢れたシェイクスピアの異空間。

『ヘンリー六世 Ⅲ』の通し稽古を拝見してまいりました!

1995年から続く“子供のためのシェイクスピア”シリーズ、

今回は『ヘンリー六世 Ⅲ』と『リチャード三世』の2作を交互に上演。

お邪魔した稽古場では『ヘンリー六世 Ⅲ』の通し稽古が行われていました。

『ヘンリー六世』は15世紀のイングランド王ヘンリー6世を主人公とする3部作で、

今回はその第3部(『ヘンリー六世 Ⅲ』)の上演です。

そして、もう一本の『リチャード三世』は、

『ヘンリー六世 Ⅲ』にも登場するリチャードを主人公とし、彼のその後を描いた作品。

まるで続きものの大河ドラマのような2本、

イギリスの王位継承にまつわる戦いを描いた、シェイクスピア初期の傑作です!

さて、通し稽古がはじまりました。

子供のためのシェイクスピアとはどういうものなのか、興味津々で拝見しておりますと、

舞台に配置されているのは、テーブルと椅子のみで、

上写真では黒いコート、黒い帽子の一群が座っておりますが、

このシンプルでシックなデザインが華のん企画のシェイクスピア。

子供を子供扱いしない、この渋みにまずは驚かされ、同時に大変嬉しく思いました。

ところが、この静かなイメージはすぐに裏切られてしまいます。

テーブルと椅子は場面ごとに素早く配置を移動し、あらゆる空間に早変わり。

役者さんたちは複数の登場人物を目まぐるしく演じ分け、

縦横無尽の変幻自在、スピード感のある演出で、シェイクスピアの絢爛豪華な史劇が、

目の前に鮮やかに浮かび上がってくるのです。

役者さんは10人のみで、黒いコートの人物たちも各場面でそれぞれが演じます。

黒い人物たちは、主要キャスト以外の全ての役を演じつつ、

ある時は登場人物の心の声をつぶやき、ある時は舞台転換までやってしまい、

何者でもない彼らが何にでもなって、シェイクスピア絵巻の細部まで盛り上げます。

ヘンリー六世を演じるのは若松力さん。

権力抗争の激しい戦乱の中で、王冠に執着をしない、唯一「まとも」な人物かもしれません。

まともであっても、それが必ずしも正しいことにはならないのが世の常。

優しいがゆえに、返って混乱を招くことにもなります。哀しい王です。

この真っすぐな眼差し。じゃくじゃくとした佇まいと実直さ。

ほれぼれとする若松さんの演技!


(写真左:伊沢磨紀さん、写真右:佐藤真希さん)

出ました、マーガレット王妃!

ヘンリー六世の奥さんです。演じるのは、伊沢磨紀さん。

マーガレットの負けん気が問題を大きくし、火に油を大量に注ぐことになります。

伊沢さんの格好いい表情、声がビシビシと響いてきました。

しかし、強そうな態度の一方で、どこかお茶目な風味も感じます。

華のん企画のシェイクスピアでは、巧みな意訳が随所に飛び出します。

「ガミガミ女」と罵られるマーガレット王妃。

他にも、「ばっかじゃねえの?」「そんなことはじぇんじぇんない」「ヤン坊マー坊」などなど、

ぐっと砕けた台詞が散りばめてあって、それがシェイクスピア演劇の、

いわゆる硬派な演技の中に突然介入してくるのです。

ともすると堅苦しく思われがちなシェイクスピア戯曲、シェイクスピアの演技を、

そういった形で噛み砕いていて、

しかもそれが単なるおふざけではなくて、

要点をおさえた上での軽みになっていて、

この場面はこういうことである、この人はこういう人であるというのが、

笑いとともに明確になってきます。

シェイクスピアのエキスを抽出したような舞台。

もう、完全に引き込まれてしまいました!

佐藤誓さんが演じるのはエドワード。

王位奪取に燃えますが、政略を無視し勝手に結婚相手を決めてしまう

だらしのないところが、ちょっと魅力的でもあります。

佐藤さんの眼光が鋭く、目配せ一つで変わる場の空気!

大内めぐみさん。ここではエリザベスを演じています。

(他の出演者の方も皆さん、複数の役を演じます)

大内さんのエリザベスは、清楚で可愛く、慇懃無礼。。。

佐藤誓さんとの場面で、はっきりしっかり罵る姿に大いに笑わせていただきました!

佐藤真希さんの演じるボーナ姫は、フランス語を話しますが、

ここはあえてフランス語、喜劇的な要素の一つで使われます。

佐藤真希さんはこの後、皇太子役への早替えがあり、一瞬の場面転換で性別も転換!

それぞれが複数の役を演じるキャスト陣ですが、

これは闇雲に配役されているのではなく、

役と役のギャップや、相互関係が吟味されているように思いました。

姫と皇太子を一人が演じるだなんて、なんて粋な演出なのでしょう!


(写真左:佐藤誓さん、写真右:伊沢磨紀さん)

『ヘンリー六世 Ⅲ』はランカスター家とヨーク家による王権争いを描いたもので、

当然、戦闘の場面がふんだんに盛り込まれています。

出演者の皆さんの軽快な動きは必見です!

手前で、奥で、テーブルの上で、繰り広げられる殺陣。

生ぬるい殺陣ではありません。激しく、スピードがあり、見応え充分です!

華麗な殺陣で敏捷に跳び回っていた戸谷昌弘さん。

さすがジャパンアクションクラブのご出身、凄まじい動きでした。

戸谷さん演じるヨーク公はついに負傷します。

血のハンカチで涙を拭わせる場面は『ヘンリー六世 Ⅲ』の見せ場の一つ!


(写真左:チョウ ヨンホさん、写真右:山口雅義さん)

甲冑に身を包んで、戦乱の世に暴れる男たち。

山口雅義さん(写真右)演じるジョージは、兄弟が美人と結婚したことに、

あからさまに悔しがったりして、こういったところがシェイクスピアのおもしろいところで、

それをプッと笑えるように仕立ててあるのが、この舞台の魅力です!


(写真左:谷畑聡さん、写真右:チョウ ヨンホさん)

チョウ ヨンホさん(写真右)が演じるのはウォリック。

ウォリックは、とある恥ずかしい目に遭ってしまい、

それがもとで裏切りを敢行しますが・・・。

チョウさんのスッと伸びた姿勢と知的な台詞回しにもご注目下さい。


(写真左:谷畑聡さん、写真右:大内めぐみさん)

まるで羅漢像のような迫力、谷畑聡さん(写真左)が演じるクリフォード卿です。

ヨーク公のまだ幼い息子(写真右:大内めぐみさん)を殺害する場面ですが、

むごいはずのこの場面も笑える要素を入れてあります。

戦慄の殺害シーンへと一転し、そのバランスが素晴らしい場面、

谷畑聡さんの存在感が溢れかえっていました。


(写真左から、佐藤誓さん、戸谷昌弘さん、チョウ ヨンホさん、長本批呂士さん)

「脚本・演出、そしてリチャードを演じる山崎清介さんが、この日はご不在で、

アンダースタディ(代役)の長本批呂士さん(写真右端)がお稽古に参加されていました。

普段のお稽古では、山崎さんは演出席からお稽古を見つつ台詞を言い、

長本さんが代わりに舞台に立って演じていらっしゃるのだそうです。

山崎さんが演出と出演を兼ねる華のん企画では、

アンダースタディはとても大事な役目だと知りました。

長本さんが手にしている人形は、華のん企画のお芝居の重要な出演者!

リチャードは、今回並行して上演される『リチャード三世』の主人公のリチャードです。

身体に障害を抱えており、親に愛されなかったと感じている彼は、

リチャード三世となってから悪の限りを尽くします。

人形は、リチャードの障害そのものであり、また彼の心の中の言葉を

可愛い声で言い放つ、本音の装置でもあります。

リチャードの左手に宿る、彼の憎悪を集約した、空気を読まない、可愛い人形。

王位を巡って巻き起こる負の連鎖。復讐に復讐が重なり、とめどなく戦いが続きます。

一旦の結末を迎えはしますが、この悲劇がまだ続くことが予感されます。

気付くと、これが“子供のためのシェイクスピア”であることを忘れていました。

シェイクスピア史劇を見た充実感でいっぱいです。

全力で面白いお芝居をやることが、子供のためになるのだろうと思いました。

子供向けというのは、そういうことかもしれませんね。

真正面からシェイクスピアに取り組み、戯曲を整理し、要点を絞り込み、

安定感のある役者さんが適役を演じ、隙のないタイトで骨太な演出。

現代に通じる喜劇として再構築した『ヘンリー六世 Ⅲ』。

残念ながら、この日のお稽古は『ヘンリー六世 Ⅲ』のみでしたが、

『ヘンリー六世 Ⅲ』を観ると、その後を描いた『リチャード三世』がとても気になってくるのです!

池袋のあうるすぽっとでの二作交互上演、ぜひ両作品ともお見逃し無く!

2012年7月14日より7月22日迄 あうるすぽっとにて

<スタッフ>

作:ウィリアム・シェイクスピア(~小田島雄志翻訳による~)

脚本・演出:山崎清介

照明:山口暁

音響:角張正雄

衣裳:三大寺志保美

演出補:小笠原響

舞台監督:井上卓

プロデューサー:峰岸直子

企画・製作:華のん企画

<出演>

伊沢磨紀

佐藤誓

山口雅義

戸谷昌弘

若松力

大内めぐみ

谷畑聡

チョウ ヨンホ

佐藤真希

山崎清介

登場人物のそれぞれの思惑が絡み合って騒動は続きますが、ふと、

皆が欲しがるあの王冠に、一体何の意味があるのだろうと思わされました。

舞台を包む喜劇の気配は、この戦乱が何から何まで馬鹿馬鹿しいものであると、

伝えていたのかもしれませんね。



おけぴ取材班&撮影:yoshida 監修:おけぴ管理人

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