古くて新しい“ネオかぶき”! 花組芝居『桐一葉』稽古場レポート


裏切り者として描かれることが多い豊臣家臣【片桐且元】が、本作では最高にかっこいい英雄に!
(且元役は、花組芝居旗揚げメンバーでもある原川浩明さん)



まるでシェイクスピアの歴史劇? それとも大河ドラマ『真田丸』!?
 

 花組芝居、約1年ぶりの本公演となる『桐一葉(きりひとは)』が9月30日から東京池袋の劇場 あうるすぽっと で上演されます。

 時は関が原の戦い直後、秀吉亡き後、豊臣と徳川の対立が深まる中で描かれる、忠臣の苦悩、政敵の策略、男女の恋、親子の情愛…そして、歴史は動いた!?

 折しも 大河ドラマ『真田丸』が九度山エピソードに突入する9月終わりに初日を迎える『桐一葉』の見どころを、花組芝居座長の【加納幸和さん】に語っていただきました。

 劇場入り直前・通し稽古の模様とあわせてお届けいたします。



「歌舞伎の知識がない方のほうが(花組芝居の世界に)すっと入れるかもしれません」
座長・加納幸和さんが演じるのは狂乱一歩手前(?)の淀君。
美しい所作、小劇場的ギャグ展開、なんでもござれの花組芝居ワールド、今回も炸裂です!






 「難しく高尚なものとされがちな“歌舞伎”を、誰もが楽しめるエンターテインメントに」


 そんな志を掲げて来年結成30周年を迎える、男性だけの“ネオかぶき集団”花組芝居。

 2015年公演・実験浄瑠璃劇『毛皮のマリー』から約1年ぶりとなる本公演は、“古くて新しい”歌舞伎への原点回帰となる意欲作です。

 主役は現在放映中の大河ドラマ『真田丸』にも登場する豊臣の家臣【片桐且元(かたぎり かつもと)】。

 明治27年に『早稲田文学』に発表され、37年に当時神田に存在した歌舞伎劇場・東京座で初演された坪内逍遥作の“新歌舞伎”『桐一葉』を、約50年ぶりに全段上演するという試み(部分上演としても約24年ぶりとのこと!)に、歌舞伎ファンならずとも期待は高まるばかり!


 加納さん)
 大河ドラマ『真田丸』の出演者、特に片桐且元を演じる小林隆さんにはこの『桐一葉』と、その元になった『難波戦記』が課題図書として指定されたんだそうです。脚本の三谷(幸喜)くんもこの2冊をかなり意識して(『真田丸』を)書いていると思いますね。
 いま大河ドラマを楽しんで見ていらっしゃる方に「100年前の日本人も、こんなにおもしろいホンを書いているんですよ」とお伝えしたい。日本の芝居のおもしろさをこの機会にぜひ再確認していただきたいんです。
 日本の演劇史のなかには、そういうきっかけになるような作品がゴロゴロ転がっています。今回はそれを掘り起こす第一歩として、まずは食わず嫌いせず、『真田丸』つながりでも見ていただきたいなと思いますね。




おや、この桐紋は…? 
夢か現か、演劇的ファンタジーを楽しめる場面もたっぷりです♪
(写真左から松原綾央さん、八代進一さん、秋葉陽司さん)






「坪内逍遥はシェイクスピア作品、特に『ハムレット』を強く意識して『桐一葉』を書いている」



 一般的なイメージとは異なる視点が新鮮な『桐一葉』。

 豊臣を思うがゆえに苦悩する且元の姿に加え、彼を取り巻く人々のエピソードも多数盛り込み、シリアスな中に笑いを、笑いの中に狂気を浮かび上がらせ、その狂気の中に歴史のダイナミックな動きまで感じさせる、まるでシェイクスピアの歴史劇のような「食べごたえあり!」の“フルコース”演劇です。



父・且元の身を案じる、娘・蜻蛉(かげろう)を演じる二瓶拓也さん
「蜻蛉は完全にオフィーリアのダブルですよね」(加納さん)


加納さん)
 『真田丸』ではすごく小市民なイメージの且元ですが、この作品では豊臣のために尽くす英雄というスタンスで描かれています。戯曲の発表当時も「あんな裏切り者を英雄のように書きやがって」と菊池寛らには随分批判されたみたいですね(笑)。裏切り者、汚い男とされていた且元を、苦しみぬく忠臣として描くことは当時としても斬新な視点だったと思います。
 そして悩む且元をハムレットに見立てているのが、この作品のもうひとつの大きなポイント。坪内逍遥はシェイクスピア、特に『ハムレット』を強く意識してこの本を書いているんです。たとえば(登場人物のひとり)銀之丞が入水するところや、蜻蛉のたどる運命はオフィーリア、茶坊主の珍柏が思わぬ最期を遂げる場面はポローニアス、それから淀君はまるっきりマクベス夫人(笑)。
 そういったオマージュや遊び心を発見して楽しんでいただきたいですね。歌舞伎に詳しくなくても、シェイクスピアは見たことがあるという方、そういう方のほうがもしかしたらおもしろく感じるかもしれません。




この写真ではなにやら楽しそう(?)な蜻蛉と、銀之丞(谷山知宏さん)、珍柏(丸川敬之さん)ですが…


悲しみのあまり、見えないはずの人物に呼びかけて…
ちょっと頭の足りない銀之丞と、母・正栄尼(秋葉さん)、乳母・お虎(北沢洋さん)の関係も色濃く描かれます。







「淀君の演技は、もう…力業!(笑)」



ヒステリーを起こしながら、舞台の上を自由に駆け巡る淀君。
女形・加納幸和さんのファンの方にはお馴染み、初めて花組芝居を見る方はそのフリーダムな魅力に驚くかも!


加納さん)
 初演では五代目中村歌右衛門(当時の名は五代目中村芝翫)がこの役をつとめたんですけれど、とにかく今までにない役柄だというんで悩んだようです。役作りのために精神病院に見学に訪れたという有名なエピソードがあるんですよ。新しい時代の歌舞伎を作ろうと、若い歌右衛門たちも力が入っていたんでしょうね。その甲斐あって、気が狂いながらも気品のある淀君だと評価され当たり役になりました。
 今回は歌右衛門よりも弾けた役作りで(笑)、でも凛としたところも大事に演じられればと思います。修理亮(しゅりのすけ/寵臣・大野治長)との色模様もありますから、そこは色っぽく見せなくちゃならないし…とにかくたくさんの顔を見せる役です。長い戯曲をきゅーっと短く詰めてディティールを省いているところもありますから、場面ごとに変化をつけていかなくちゃならない。昔からこういう振れ幅の大きい役は好きですが(笑)、今回はもうあっちへ飛んで、こっちへ飛んで…と常人じゃないような切り替えが必要。これからまだまだ煮詰めていかなくてはいけませんね。久しぶりに自分のお稽古を誰かに見てほしい、という気持ちになっています(笑)。




出てくるたびに印象が変わる、つかみどころのない淀君の“狂気”。
それがそのまま、滅びゆく豊臣家の運命と重なるようで…
ちなみに、こちらは治長(押田健史さん)との艶っぽいシーン…ではなく!
花組芝居的遊び心炸裂♪の小ネタ場面です。
(家康…)


加納さん)
 この作品の後編とされている『沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)』では、淀君はもっと頭がおかしくなっている、錯乱している状態なんです。『桐一葉』はその前段階で、うっすらと狂い始めているところ。豊臣一族の滅びの序章を感じさせる、そこをなんとかうまく演じなくちゃならない…もうね、力業(ちからわざ)!(笑) 力業で演じている感覚がすごくありますね。







「感情に流されない“芝居力”が必要な逍遥戯曲。そして、なんでもありだった歌舞伎への“原点回帰”」



「セリフが難しいので楽しんでいただけるか心配でした…」(劇団スタッフさん)
いいえ、その心配無用です!
確かに、セリフを100%理解はできていなかったかもしれません。
が、しかし! 
役の感情、関係性をきっちりみせる“技術”でグイグイと伝わってくる“芝居的快感”!!
(写真左は木村重成役の美斉津恵友さん)


 加納さん)
 『桐一葉』のセリフは七五調ではあるんですが、歌舞伎で聞き慣れている七五調とは少しちがいます。いわゆる歌舞伎風の常套句がほとんど出てこない。ムードに引っ張られるようなエロキューション(※)では伝わらないんです。言葉の裏にある役の気持ちをどう押し出すか。それが今回、全員の課題ですね。現代演劇風にリアルな感情だけでやっても、せっかくのセリフの重みが消えちゃうし。気持ちが入れば入るほど、精神的な圧力で言葉を押して行かなくてはならない。そうでないと芝居の流れがわからなくなるし、格調も消えちゃうし…って、ほんとうに、もう…気が抜けません(笑)。


※エロキューション…発声技術/発声法/朗読法



且元と対立、しかし…な、石川貞政役は桂憲一さん(写真中央)。
この役がまたそうとうな、ぶっ飛びキャラクター!
バシッと見得を切るところのかっこよさもさすがです♪


加納さん)
 今回の上演では、いま歌舞伎で使われている台本ではなく、逍遥が最初に(桐一葉を)『早稲田文学』に発表したときの文体に寄せています。逍遥は江戸時代の歌舞音曲のエンターテインメント性を取り入れながらも、新しい時代の歌舞伎を作りたいと意気込んでいたのですが、実際に書き上がったものはかなり江戸時代寄りだったみたいで(笑)、発表当時は「古くさい」と森鴎外らに散々批判されたんですって。それで実際に劇場にかかるときはかなりモダンに書き直したんです。
 でも僕は古い歌舞伎のほうが前衛的でおもしろいと思っています。ザラッとした手触りで、粗野な感じで…。三島由紀夫や岸田劉生もその泥臭さこそが本来の芝居であると言っていますね。三島は古い歌舞伎のことを“クサヤの干物”って言っているんですよ(笑)。臭くて臭くてたまったもんじゃない、でも食べるとうまい。芝居とは本来そういうものである、と。
 僕らも花組芝居を始めた頃は舞台の上でドッタンバッタンと好き放題、わけもわからずやっていましたけど、それを土俗的でおもしろいねと早稲田の郡司正勝先生(※)に褒めていただいたりして。劇団としても、芝居作りにおいても「原点回帰」の思いが常にあるものですから、明治時代には批判の的になった古くささを取り戻して(笑)、いまの歌舞伎ではここまでやらないっていうくらいのダイナミックさと繊細さを同時に感じていただけるような芝居にできれば嬉しいですね。


※郡司正勝…舞踊・歌舞伎研究家、演劇評論家、演出家、早稲田大学名誉教授 1998年没





 座長・加納幸和さん演じる淀君の錯乱、そして且元役の原川浩明さんの重厚な芝居、そのほか劇団中心メンバーの熱演、快演、怪演! …と見どころ満載で「歌舞伎は気になるけれど難しそう…」「花組芝居って聞いたことはあるけど観たことがない」という方にもオススメの舞台『桐一葉』。いよいよ9月30日に初日を迎えます。
 
 「歴史物」「歌舞伎」といっても構える必要は全くございません!

 花組芝居の魅力、そして歴史エンターテイメントの魅力にはまってしまうかもしれない『桐一葉』全段上演。

 熟成された「ネオかぶき」その真髄を堪能できる舞台をお見逃しなく。




♪おまけ ひとくちメモ
物語の舞台は関ヶ原の戦いの少し後。秀吉亡きあとの豊臣家がじわりじわりと家康に追いつめられていくあたりのお話でございます。
歴史好きの方にはお馴染みすぎる時代背景ですが、「日本史は苦手」という方でも大丈夫!
豊臣が寺に納めた「鐘」、そこに彫られた文言が徳川を呪っている!と家康がイチャモンをつけた「方広寺(ほうこうじ)鐘銘事件」。
物語の発端となるこの事件さえ押さえておけば、あとはもう舞台の流れに身を任せて桐一葉の世界を楽しめるはず!
「いや、役の関係性までしっかり把握してから観劇したい!」という方は、インターネット上で『桐一葉』のあらすじも検索できますので、そちらで予習するのもいいかもしれませんね。

追記:公演ブログに相関図&詳細あらすじが追加されました!→こちら


♪おまけ ひとくちメモその2
花組芝居の人気者【植本潤さん】大河ドラマ『真田丸』第40話にご出演(祝)。
しかも!!
『方広寺鐘銘事件」の“例の文言”を決めた僧侶役(驚)!
ちなみにこの第40話、片桐且元が大活躍!の予定だそうです。
植本さん、残念ながら『桐一葉』には出演されませんが、舞台と大河ドラマのリンクは必見です♪
(放送予定はちょうど千秋楽1日前の10月9日)
NHK大河ドラマ『真田丸』公式サイト





【公演情報】
花組芝居 全七段通し上演『桐一葉』
2016年9月30日(金)-10月10日(月・祝) あうるすぽっと

原作:坪内逍遥
脚本・演出:加納幸和

出演:
片桐市ノ正(いちのかみ)且元(かつもと):原川浩明
淀君:加納幸和
奥女中 梶の葉/仮面の甲奴 実ハ佐々(さっさ)成政(なりまさ)/十河(そごう)十兵衛:山下禎啓
渡辺内蔵介(くらのすけ)糺(ただす)/乳母 お虎:北沢洋
腰元 錦木/木村長門守(ながとのかみ)重成:美斉津恵友
腰元 花野/正栄尼(しょうえいに):秋葉陽司
腰元 椋鳥(むくどり)/豊臣右大臣秀頼:大井靖彦
野呂利(のろり)珍柏(ちんぱく):丸川敬之
渡辺銀之丞:谷山知宏
娘 蜻蛉(かげろう):二瓶拓也
饗庭(あえばの)局/織田入道常真(じょうしん):横道毅
石川伊豆守貞政:桂憲一
大野修理亮(しゅりのすけ)治長:押田健史
大野入道道軒(どうけん)/片桐主膳正(しゅぜんのかみ)貞隆(さだたか):磯村智彦
大蔵卿(おおくらきょうの)局:松原綾央
仮面の乙奴 実ハ豊太閤 実ハ関白秀次の亡霊:小林大介
豊太閤 実ハ石田三成/一葉(ひとはの)前:八代進一

あらすじ:
天下分け目の“関ヶ原の戦い”後の大坂城。
豊臣家を滅ぼそうと画策する徳川家康は、方広寺の鐘銘にあった文字に難癖をつけ、三ヶ条の難題を押し付ける。
淀君をはじめとする豊臣家の人々は憤慨するが、徳川との交渉役を勤める片桐且元は条件を呑むべきと主張。
“交渉に時間をかけ、高齢の家康の死を待つ”が、彼の秘策。
しかし反且元の大野道軒一派は、『且元は内通者だ』との噂を流し、城内にて且元暗殺の計画が持ち上がる…。

花組芝居公式サイト

おけぴ取材班:mamiko(文/撮影)  監修:おけぴ管理人

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