新国立劇場2016/2017シーズン演劇のオープニングを飾るのは、アメリカのマサチューセッツ州の寂れた映画館“THE FLICK”を舞台に、アナログからデジタルに移りゆく時代に、「今をどのように生きなければいけないか」を問われる若者たちを描いた『フリック』。
「フリック=FLICK」とは「明滅する光=flicker」から派生した言葉で、“チカチカと輝くフィルム”を上映することから、映画館や映画を意味する。
ソニンさん、木村了さん、菅原永二さん
映画館を舞台にアナログな映写機で上映し…なんて聞くと、映画音痴のおけぴスタッフが何となく勝手に思い浮かべたのは『ニューシネマパラダイス』。ノスタルジックなあの世界かと思いきや、そんなに甘いものではなく。現代の乾いた空気とじめっとした感情と、独特の生きる温度を感じさせる戯曲は2014年ピュリッツァー賞受賞作。今を描いた作品をこのキャストで観られる幸せを感じましょう。幕切れのあの感じはたまらなく演劇なのです。
-あらすじ-(HPより)
マサチューセッツ州ウースター郡の古びた映画館。いつか映写係になることを夢見て働くサム。映画狂のエイヴリー。まだ35mmフィルムで映画を映写しているこの映画館だからこそ働きたい、とようやく働き口を見つけたにも関わらず、時代の波はデジタル化に向かい、フィルム映写機からデジタル映写機に移行するという話が持ち上がる。どうせ自分は下流階級に属しているからと卑屈になりながらも、与えられた仕事をそれなりに、けれど懸命にこなす従業員たちだったが、デジタル化が意味するものは、従業員の数を減らすという通告でもあった......。
【感想が届きました】
◆舞台上に客席があるってだけで、まずワクワク!従業員が客席を掃除しながらたわいのないおしゃべりをしているだけなのに、彼らの抱えている問題や、ひいてはアメリカの問題も浮かび上がってきます。
少しずつ、傷ついたり、寄り添ったりする心の動きが切ないです。
良い芝居を見たって満足感いっぱいになれますよ!
◆翻訳劇なのですが、それを感じさせない、例えば字幕付きでアメリカの映画を見ている感覚になりました。主な出演者3人が素晴らしく、舞台装置も細部まで凝っていて、作り手の拘りを感じました 。
◆オススメ情報ですが、
売店の「フリック特製ポップコーン」200円!すぐ食べ切れる量ですので幕間に是非!
◆面白かった。さびれた映画館で働く若者3人が、それぞれ何かの問題を抱え、それぞれの立場についての違いを抱え、ぶつかりあったり助け合ったりしながら、最後は少し切なく終わる。休憩込み3時間が一気に終わった印象である。
映画のタイトルや話題がいっぱい出てくるので、実は私は映画をほとんど観ないのだけれど、映画ファンならば更に面白く観られるだろうと思って、少し悔しかったかも…。
◆木村さん・菅原さん・ソニンさんという3人の人物造形が巧みなのだと思うし、アメリカの話なので実は人種などの問題も関わっているようだけれど、普遍性のある題材なので気にはならない。主人公はエイブリー(木村さん)だけれども、サム(菅原さん)の役割が重いと思う。
◆役者陣が本当に素晴らしい。主要登場人物3人みんなが愛おしくって、その会話が心地よい。3人の間に流れる沈黙を、視線を、ずっと眺めていたい。観劇後、多幸感でいっぱいになりました。
マキノさんが丁寧に、優しさを持って演出されているのがよく分かる舞台でした。
ぜひたくさんの方に見て頂きたいです。3時間あっという間です。
◆映画館でアルバイトする若者がとても丁寧に描かれています。
アメリカの話なので人種差別の微妙さなど、理解するのが難しいところもありますが、それ以外はほとんど違和感はありません。舞台セットがとても素敵です。
特にかまぼこ型の天井のれんがの雰囲気が良すぎて、逆に昔ながらの古びた映画館という設定が薄れてしまうほどです。映画館の中という設定で、椅子が奥まで並んでいて、新国立の小劇場の奥行きがこんなにあるとは、
思いませんでした。ただ丁寧に描かれているのはよいのですが、間がありすぎて、最初は退屈だった。途中で話が展開するので、ストーリーに気持ちが向いたが、でもやはり、テンポが遅いと感じてしまった。
◆本当に本当に最高でした。今のところ、下半期で1番です。戯曲欲しい。サムの「いい質問だ」「俺を愛してくれよ」という台詞がたまらなく好きです。
【囲み取材&フォトコール写真】
囲み取材より、それぞれの役どころについて
エイブリー役:木村了さん
木村さん:
「アフリカ系アメリカ人、二十歳の黒人青年です。
趣味は映画観賞。人との関わり合いが苦手、いわゆるコミュ障(コミュニケーション障害)です。そんなエイブリーが、この映画館で働くことになり…その成長が舞台の肝になります」ローズ役:ソニンさん
ソニンさん:
「私は白人、24歳。エイブリーとはまた違うパターンですが、ローズもある意味コミュ障だと思います。
現代女性の強がっているのだけど、どこか埋まりきっていない愛。愛情に欠けている女性という印象です。
映画館で映写係をやっています。基本的にやる気がない感じの女性です(笑)。経済的には、貧乏で、下級のほうだと思っています。あとは、この作品のテーマのひとつでもあるジェンダーの問題、LGBTのなかの何かに属している人間です」サム役:菅原永二さん
菅原さん:
「僕はロック好きで、パンキッシュな白人の35歳。二人とはやや年齢が離れていますが、いわゆる学歴もそんなにないプア・ホワイト、貧しい白人です。マサチューセッツ州の田舎町に、たぶん一生住み続けるであろう、夢も希望も特に持っていない。ただ日々を幸せに感じている、平々凡々とした暮らしの映写係希望の映画館勤務です(笑)。
そんな僕らの友情、愛情のお話です」ちなみにフォトコールではわからなかった、サムの御髪は…モヒカン!
このようにみなさんが役どころとして「人種」を口にするのは、それもまた物語において大きな意味合いをもつからなのです。がしかし!
新人アルバイトのエイブリーにTHE FLICKバイトの秘密のルールを説明中
木村さん:
「この戯曲は現代アメリカの社会情勢などが詰め込まれた作品ですが、日本で上演してもとても共感できる部分の多い作品です。どこかで「わかる、わかる!」となるんです」 映画ファンにはたまらないケヴィン・ベーコン・ゲーム!に興じるふたり
そこで語られるのは「生きていく」ということ…
映写室にいるローズ
ソニンさん:
「映画がメインの話なので映画好きな方には、役者や作品、ちょっとしたフレーズなどにさらなる楽しみがあると思います」木村さん:
「また、客席から舞台をご覧いただくとお分かりになると思いますが、スクリーン側から映画館を見ているようなセットです。なんていうか、マジックミラーで映画館のバイトを見ているような不思議な感覚を楽しんでください」 そして、これ!ここでなんと写真が撮れるんです。写真を撮ってSNSでどしどし拡散しましょう!
マスコットもローズ仕様
なんとなく勝手に思い浮かべたのはもう一つ。ピュリッツァー賞とソニンさんというと、どうしてもミュージカル『RENT』が思い出されます(すみません、短絡的で・笑)。さらには若者たち、LGBTなども共通するワードだったりして。
1989年から90年のNYを描き、1996年にピュリッツァー賞を受賞した『RENT』と21世紀も10年が経とうとしているころに、この『フリック』の世界を生きるマサチューセッツ州の若者たちを取り巻く社会はどう違うのか、その本質は変わらないのか…。そんな視点でこの作品を見てみる面白さがあるかもしれませんね。2016年の東京であなたは何を感じるのか…。公演は10月30日まで、新国立劇場小劇場にて。
ローズのグリーンの髪と鼻ピのインパクトも大!!
新国立劇場『フリック』で“映画オタク”青年役に挑む! 木村了さんインタビュー新国立劇場『フリック』稽古場レポート