松たか子×森山未來×串田和美 シアターコクーン・オンレパートリー2016『メトロポリス』取材会&稽古場レポ

「頭脳(支配者)と手(労働者)を仲介するのは心でなくてはいけない」

 ディストピア未来都市を描いたSF映画の原点にして頂点『メトロポリス』を強力キャストで舞台化!シアターコクーン・オンレパートリー2016『メトロポリス』取材会が行われました。





 1927年公開、アンドロイドが登場し、機械が支配する未来を描いた映画『メトロポリス』。ビルの上層階で優雅に暮らす支配者たちと地下深くに押し込められた労働者階級に分かれる超階級社会。その歪んだ社会の行きつく果ては…。およそ100年前に創られたSF無声映画の傑作を舞台化するという壮大な企画に集結した精鋭たちの稽古場は各々が自由に動きつつ一つのコミュニティを形成している、まさに社会の縮図のよう。





 キャストの松たか子さん森山未來さん、演出・美術・出演の串田和美さんによる会見の様子を稽古場写真を交えてご紹介いたします。


──個性的な役者が揃いました。それぞれの印象についてお聞かせください。

森山さん:NYの摩天楼を見たときの衝撃から作られた映画が原作です。その建物の壮観さやそこで働く労働者たちの数の多さとか、すごく“規模を見せる作品”です。それを舞台の上でそのままやるのは不可能。そこで、ひとりしかいないけれどそこには群衆が群れている。その描写をどうやって見せるか、お客さんと僕らで想像力をお互いに刺激し合えるような方法を模索している状態です。脚本もそうなっているように感じます。そのためには、ひとりひとりの居方とか、存在の強さは大事だと思っています。





──久しぶりの共演になる松さんの印象は。



森山さん:松さんはマリアとアンドロイドの2役、この作品、この都市に君臨しています。チラシそのままです。松さんって、すごく柔らかいんですけど、ずっしりしているんですよ。



松さん:触りながら言わないでっ!


森山さん:象徴として、彼女がそこにいくれること。僕らが動き彼女がいる、その存在に対する説得力を日々感じています。





松さん:稽古を進める中で感じるのは、みなさん“掘るのが似合う人”。ふわふわした人たちでなく、ずんって(笑)。地に足の着いたというか、とことん掘っていくことができる人たちです。




松さん:その中で趣里ちゃんは掘る人だけど、なんか“ほじくる”タイプだなとか(笑)。そうやって、みんながひとところに向かって掘り進められるタイプ。もちろんその中でそれぞれに個性はあります。飴屋さんみたいに立っているだけで…。

森山さん:沈んでる?!

松さん:(笑)。立ってるだけで(何かを)発していて、突然、怒りだしたら…なんて思ったらとても優しく、穏やかな方がいたり、未来をはじめ身体能力など具体的に優れた能力を見せてくれる人もいたり、なにがあっても絶対になんとかするという頼もしく元気な先輩がたがいたり。私はそれをすごいなと思っているような日々です。それぞれの人を見ているだけでも面白いんです。


森山さんの動きには目が惹きつけられます!!雄弁な肉体!


ふわりと宙を舞うような趣里さんは物語のキーパーソンとなる少女カムロを演じます


フレーダー(森山さん)が謎の六道衆(大石継太さん、さとうこうじさん、内田紳一郎さん、真那胡敬二さん、大森博史さん、大方斐紗子さん)によって「我らが都市にようこそ!」と迎えられるシーン。六道衆、たしかに頼りになりそうなみなさんです!

オープニングの人々のうごめき、言葉を発することなく展開するシーンから一転、こちらは言葉、言葉、言葉!また、暗転/明転のスイッチも独特で不思議な世界へ誘われます。





串田:本当にみんなが自由に掘っているよね(笑)。『メトロポリス』を本にする時に加藤直さんに完成図ではなく、出発点の本を書いて欲しいとお願いしました。ガイドブックだとすると、富士山に登りましょうというとき、それに従っていくと頂上につける、それが台本ですが、どこに行くかとかわからずに、どこに集合くらいのことしか書いていない本。そうなるとだれがそこに集合するかがとても大事になるのです。みんなであっちだ!こっちだ!いいながら作れたらいいなと。
 そうなると自然に役割も決まってきて、社会ってこうだよなと感じています。



個性的な面々が、一様に空を見上げる振りつけの場面


「ふと見上げてほしいんだよね。普段ダンスをやっている人は特に、自分が一番カッコイイ姿で止まる傾向にあるので」との串田さんの言葉に、稽古場に笑いが。


──壮大な原作、個性的な多様な俳優、それは魅力ですが、だからこそ何が起こるのか想像がつかなくてなかなかチケットをポチッと買えないという現実もあります。
想像がつかないからこその魅力、見る価値について。


森山:お客さんって演劇を見るにあたって何を求めるんですかね。(串田さんに)そのあたりの感覚って今と昔で変化を感じますか。

串田:昔、中世のころは、グリム童話も意外に支離滅裂だし、歌舞伎とか日本の芸能ももっと破天荒だった。いろんなものがあって、わけがわからないところでゲタゲタ笑って、あとで勝手なことを考えるようなことが多かったんですよね。それが近代になると整合性とか起承転結に重きが置かれるようになった。でも、人間って、生きているって、もっとわけがわからないこと。自然もね。

 「知りたい、わかりたい」だから地震が起きたときに地盤がどうのうこうのって調べるんだけど、知ったからといって地震がなくなるわけじゃない。それは止めようがない。もちそん知りたいということは人間の本能だから否定はしません。だけど、どうして知りたいか、どういう風に知りたいか、そう考えると、現代はすこし「納得したい」が先走っている気がします。
 事件が起きても、その犯人の生い立ちや状況を知って、そうだったんだ、だからやったんだと納得して終わりというような。

 「わからない」ことに対して、それを魅力として楽しむ。見たことないくらい美しい夕陽を見たときに感じる不思議、それに負けない演劇をどうすれば作れるかを考えているんです。コミュニケーションってわかろうとする人たちと、一生懸命伝えようとする人たちのコンビネーションだからね。



森山:夕陽の話で思い出したのは。今の人が、秘境の奥地で雄大な景色を見たときに感じることはMacのデスクトップ画面。いわゆるCG、テクノロジーの風景とリアルが地続きなんですよね。『メトロポリス』が書かれたのは、摩天楼を見たらスゴイ、ロボットができたらスゴイ!今の時代ではそれはスゴイとはなりませんよね。
 そういう時代に生きている自分たちがどうやるのか。でも、だからこそ今の僕たちの肉体と頭で『メトロポリス』をやることの意味は発せられていると思うので、それを拾ってくれたら面白いんじゃいかな。




松さん:私は、“そこで人がやっている”ということに感動するタイプです。それは映像とは全く違う、チャンネルも変えられませんし(笑)。そこに居合わす、目撃する感覚は舞台ならではです。すごい興味ある人たちだけでなく、なにか気になるなくらいでもいいと思うんです、最初はみんなバラバラで最後にみんなの体温が少しだけ近くなる。演じている私たちもそんな感じなので。何か気になったらぜひポチッと。安くないチケットではありますが(笑)。



若い衆(わかいし)役の佐野岳さんは所狭しと駆け巡り、バック転や女性のリフトなど大活躍!振付の山田さんとも細かなディスカッションを重ねます。


 みなさんの言葉、稽古の写真、原作…なにか気になるポイントがあったら、ぜひ!
 お写真をご覧になりお気づきかと思いますが、注目の飴屋法水さんは不在の稽古場でしたが、飴屋さんの役名は「どこにもイヌ丸」。なんて想像力を掻き立てられる役名なのでしょう!!!

 こうしてお話をうかがって、小説に描かれたディストピア、空想的未来が不思議な不気味な現実味を帯びつつある現在、上演する側にとっても、それを見て感じる観客にとっても、より一層深い意味を持つ作品の予感です!




-あらすじ-(HPより)
 メトロポリスの支配者フレーデルセン(大森博史)の息子フレーダー(森山未來)は、労働者階級の娘マリア(松たか子)と出会い、恋に落ちる。彼女を追って地下へと向かい、そこでメトロポリスを動かす巨大な機械と、過酷な労働を強いられる労働者を初めて見たフレーダーは、社会の矛盾に気付く。一方マリアは密かに集会を開き、労働者たちに忍耐と希望を説いていた。「頭脳(支配者)と手(労働者)を仲介するのは心でなくてはいけない。仲介者は必ず現れる」と。
 それを知ったフレーデルセンは、旧知の科学者ロートヴァング(真那胡敬二)にマリアを誘拐し、製作中のアンドロイドをマリアそっくりの顔にして、労働者たちの間に送り込み、彼らを混乱させろと命じる。アンドロイドは見事にその役割を果たし、労働者は暴徒と化して機械を破壊、メトロポリスも音を立てて崩れ始める。そのために労働者が住む地下の町は洪水に見舞われて…。フレーダーは、最初に出会った労働者の若者や、父が解雇した元秘書などの助けを借りて、マリアと地下の町を救うべく立ち上がる。


【公演情報】
2016年11月7日(月)~30日(水)@Bunkamuraシアターコクーン

<スタッフ>
原作:テア・フォン・ハルボウ 『新訳 メトロポリス』(中公文庫)
演出・美術:串田和美
原作翻訳:酒寄進一 潤色:加藤直 台本協力:木内宏昌 照明:齋藤茂男 音楽:平田ナオキ 音響:武田安記 衣裳:堂本教子 ヘアメイク:中井正人 振付:山田うん 映像:栗山聡之 演出助手:長町多寿子 技術監督:櫻綴 舞台監督:大垣敏朗

<キャスト>
松たか子、森山未來、飴屋法水、佐野岳、大石継太、趣里、さとうこうじ、内田紳一郎、真那胡敬二、大森博史、大方斐紗子、串田和美

伊藤壮太郎、島田惇平、浅沼圭、坂梨磨弥、髙原伸子、摩耶リサ、安澤千草

【ミュージシャン】
平田ナオキ、エミ・エレオノーラ、青木タイセイ、熊谷太輔

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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