こまつ座 第115回公演『木の上の軍隊』稽古場レポート

これは“今”の話。
実話と寓話、二つの力が生み出す演劇の今日性を実感する稽古場取材でした。




写真左より)“上官”役:山西惇さん、“新兵”役:松下洸平さん

  ある南の島
  ガジュマルの木に逃げ込んだ兵士二人は、
  敗戦に気づかず、二年間も孤独な戦争を続けた──(HPより)



 戦争時、沖縄県・伊江島で、戦争が終わったのを知らぬまま、2年もの間、ガジュマルの木の上で生活をした2人の日本兵の実話をもとにした、井上ひさしさんの未完の作品『木の上の軍隊』。それを原案にして、蓬莱竜太さんが新たな戯曲を書下ろし、栗山民也さん演出で初演されたのが2013年。それから3年、山西惇さんは初演に続いてのご出演、新キャストに松下洸平さん普天間かおりさんを迎えて間もなく開幕するのは、2016年、こまつ座版『木の上の軍隊』。密度の濃いお稽古の様子をレポートいたします。




 稽古場へ足を踏み入れると、まず目にとびこんでくるのは舞台中央に抜群の存在感で鎮座するガジュマルの木(を模したセット)。近くで見るとかなり高くてかなり急斜面であることに、まず驚きます。

 この日は三場構成の戯曲の最後となる第三場のお稽古から。その少し前からラストまで通して、栗山さんを囲んでのフィードバック。再び三場を通す。続いて一場へ戻り…そんな流れで進みます。


 登場人物は本土出身の“上官”島出身の“新兵”、そしてガジュマルに棲みつく精霊“語る女”。敵の襲撃の中、木の上に潜伏した二人、潜伏はやがて生活になり…という第三場。

 お稽古スタートの声がかかり、それぞれの立ち位置へ移動する山西さんと松下さん。「はい!」とうなずき席についている普天間さん。すると、誰からともなく「あれ、普天間さんも…」の声に、ハッとして慌てて舞台へ向かう普天間さん。

 「あら、私も出ていましたね、ここ」普天間さん
 「基本的にずっと出ているから(笑)!」山西さん
 そんなやりとりにホッコリする稽古場。


写真手前)ガジュマルの木の精霊“語る女”:普天間かおりさん

 そこに象徴されるように(?!、すみませんたまたまその時だけだったかもしれませんが・笑)普天間さんのまとった空気というのが実にいい感じなのです!さらに、そこから一転、ひとたび語りだすと、そのまっすぐな眼差しと説得力を持ったはっきりとした言葉が客席に投げかけられるのです。

 歌手である普天間さんは、この作品が初舞台ということですが、とても魅力的。抗えない力と包み込むような柔らかさが共存していて、その声で届けられる琉歌(りゅうか)の響きは、舞台上に島の風を吹かせます。長い間そこに存在した木の精霊にぴったり!自然の普遍性を感じました。




 一方、木の上の様子はというと。松下さんが演じる新兵はその方言のほんわかした雰囲気もあり、なんというか“のほほん”くん。今回、松下さんのイメージで台本を読んでみましたが、違和感なくするすると読めることこの上なし。(初演も見ているので藤原さん好演の印象も強かったにもかかわらず!)そして、目の前で動く新兵さんをみたら、やっぱりイイ!

 上官がイラっとするほどの無垢な笑顔と真実を見透かしているような透き通った瞳。新兵が持つ圧倒的“陽”の部分とそこはかとなく漂う“悲しみ”がいい塩梅で、なんというか切なさがグッとこみ上げる瞬間がたびたびやってきました。(見るたびに新境地、新境地言っているような気もしますが、本当なんです・笑)松下さん史上でも、かなりのはまり役だと思いますよ!



 そして、初演に続いて“上官”を演じるのは山西惇さんです。なんと申しますか、山西さんと上官の境目がほぼない!といった感じ。(もちろんお芝居なのですが…)

 戦場での経験も豊富で本土から島へやってきた上官。ある種の極限状態、緊張状態の人間、超シリアスな状況に置かれて、ときに鬼気迫る上官。でも、山西さんが演じるとそれだけでなく、どこか可笑しみがある人物になるのです。

 だってもう…ここからは、ぜひ劇場で味わっていただきたいので書けませんが、「問題はそこですか~!?」というまさかの展開に、稽古場でも思わず声を出して笑ってしまうほど。滑稽で哀れ、でもそれが人間。だからこそ上官の姿を見て嫌悪もするし、自らの心が痛んだりもする。もちろんそれだけでなく、上官が抱えていたもの、抑え込んでいたものは大きく重くもあるのです。




 そんな二人が木の上で二年間にわたり生活をする。会話から独り言、うわ言…よくしゃべる二人。栗山さんのフィードバックで印象的だったのは、「(とある場面のセリフは)意味を伝えるためではなく、発語によって人間性を保とうとするためのもの」「潜伏しているがゆえに、抑制された発声で。それによって辛さを感じさせるように」というしゃべり方によって伝わる彼らの状況。

 さらに“もう、ぐちゃぐちゃなんです”というセリフについて、「言葉として伝わりすぎる。それよりもその時の状況(ぐちゃぐちゃ感)が伝わるように」、語る女のセリフには「言葉の実感を大切に、哲学的にはならないように」。

 こうして同じセリフでも、俳優さんの肉体を通して届けられることで伝わる力は無限に膨らんでいくのです。セリフ、言葉という点では、非常に印象に残ったのは「不理解」「信じる」「生き恥」「終わらない」「悲しくない」…。


 もうひとつ、見ていてとても惹かれたポイントは、多くの場面で、二人は木の上から島の様子、つまり外界を見ています。そして私たちは、そんな彼らを見ながら、彼らの目に映るもの見ている。この行ったり来たり、二人に反射させて世界を見ているような感覚の不思議さです。



 そして、忘れてはならないのがもう一人の出演者ともいえる、ヴィオラ奏者の有働皆美さん。二人の心のザワザワを音として増幅させて伝えるのがヴィオラの演奏なのです。セリフとはまた違う、神経にダイレクトに“来る”音です!

 最後にこちらも栗山さんがおっしゃっていたことですが「これは現代史だね」「『木になってしまおう』は井上さんの言葉なんだよね」ということ。劇中に描かれている不毛な争いがどこかで起こっている“今”、より一層の鋭さと悲しさをもって届けられる物語です。でも、それでもきっとある希望を信じたくなる物語です。

 ニュースで報道されるもの、報道されないもの様々な出来事を見ていると、なんだか現実のほうがこの作品に近づいてきているような気さえする今日この頃。今、ご覧いただきたい作品です。


<後記>
 初演時には、井上ひさしさんの未完の作品を上演するということに対して、ちょっと意地悪な気持ちで見ていたような気がします。心のどこかで井上さんじゃない!というような。それでも実際に観劇すると、ドスンと響く作品だったのですが、でもどこか…。(これはただただ人間的な小ささからくるものです)

 今回、稽古場で拝見して、驚くほどそれがありませんでした。人間を描くその目線が厳しくもあり優しくもある。観劇後、チクリと心が痛みながらも前を向こうとする自分がいる。これは自分が変わったからなのか、世の中が変わったからなのか、ただ時間がたったからなのか、それはわかりません。でも、すごくすごくこまつ座さんの作品だな、そう感じたのです。




<イベント情報も続々UP!>


【公演情報】
こまつ座 第115回公演『木の上の軍隊』
2016年11月10日(木)~27日(日)@新宿南口・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA(観劇map

<スタッフ>
原案:井上ひさし
作:蓬莱竜太
演出:栗山民也

<キャスト>
山西惇
松下洸平
普天間かおり

有働皆美(ヴィオラ)

公演HPはこちらから

写真提供:こまつ座
おけぴ取材班:chiaki(文) 監修:おけぴ管理人

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