歌舞伎新世代の一端を担う成駒屋三兄弟!
大阪での襲名披露公演にむけて意気込みを語ってくれました。
写真中央:長男・橋之助さん(21歳)、写真左:次男・福之助さん(19歳)、写真右:三男・歌之助さん(15歳)
歌舞伎史上でも稀な親子4人同時襲名! 父・八代目中村芝翫さん(中村橋之助改め)とともに親子4人同時襲名をはたした“成駒屋三兄弟”こと中村橋之助さん(中村国生改め)、中村福之助さん(中村宗生改め)、中村歌之助さん(中村宜生改め)。
10月・11月の歌舞伎座での襲名披露公演に続いて、来年1月2日より大阪松竹座での襲名披露公演『壽初春大歌舞伎』に出演されます。
長年、“中村橋之助”の名前で映画やドラマなどにも出演し、歌舞伎ファン以外にも広く親しまれている父(新・芝翫さん)と、女優・歌手として活躍していた母・三田寛子さんの間に生まれた三兄弟。芸能一家に生まれ、子どもの頃から歌舞伎役者になるべく厳しく仕込まれて襲名の日を迎えたのかと思いきや、話を聞くとすこし想像と違っていたようで…
「うちの父は、僕たちを強制的に芝居に出すことはありませんでした。芝居に出たいなら出たらいいし、学校や部活が楽しいならそちらをがんばればいい、というスタンスだった」(橋之助さん)
「僕は中学、高校時代はほとんど(芝居に)出ていなかったんです」(福之助さん)
「僕の場合は、歌舞伎役者になる自分以外は想像できなかった」(歌之助さん)
それぞれに“自然な流れ”で襲名の日を迎えた三兄弟が「歌舞伎役者になる覚悟」をきめたきっかけとは?
昼の部、夜の部ともに歌舞伎鑑賞初心者でも楽しめる演目が揃った『壽初春大歌舞伎』。それぞれの役どころや見どころについてもお聞きしました。
◆【襲名で芽生えた「歌舞伎役者」としての自覚】
「襲名して、ほんとうの意味で成駒屋の一員になれた気がします」
長年、父が名乗ってきた名前を受け継いだ、新・橋之助さん。
役者としての覚悟、未来への希望を熱く語ってくれました!
──“歌舞伎”を本気でやっていこう、と思ったのはいつ頃でしたか? なにかきっかけはあったのでしょうか?橋之助) 子どもの頃から僕たち兄弟の遊びといえば“芝居ごっこ”。父が出ている芝居の真似をしたり、好きな演目を3人で演じてみたり。父がいて、祖父(七世中村芝翫)がいて、福助、勘三郎のおじがいて…と芝居一家でしたから、それが当たり前の環境でした。ただその頃は芝居以外のことも楽しかったし、当時僕はすごく太っていたこともあって(笑)、子役として舞台に出ることは少なかった。でも高校生の頃にあらためて歌舞伎がすごく好きになるきっかけがありました。それは平成中村座やコクーン歌舞伎で父や勘三郎のおじの背中を見たこと。役として熱を帯びた姿がすごくかっこよくて、「自分もあんなふうになりたい」と本気で思うようになりました。それで「本格的に歌舞伎をやりたい」と志願して、大学生になってからはできるだけ毎月芝居に出していただいています。
──福之助さんはいま大学1年生ですよね。福之助) はい。兄は高校生の頃から少しずつ芝居に出ていましたが、僕は中学、高校とほとんど舞台に上がっていません。もともと「大学生になったら歌舞伎役者としてがんばろう」と思っていましたが、ちょうどその年に襲名することになり、たくさんの舞台に出していただきました。2016年はこれまでの人生で一番大きな変化があった年になりました。
──歌舞伎一家に育ったとはいえ、急な変化で大変なこともあったのでは?福之助) 確かに不安な面もありました。最初はわからないことばかりで、正直「“むずい”な…」と(笑)。ただ父からは「できないことも多いだろうけど、それもチャンスだから」と言われています。できないなりに一生懸命やったことが経験値になると。襲名披露公演は来年の12月まで続きます。「難しかった」で終わったら、襲名が単なる“思い出”になってしまう。これから役者としてやっていくからには、1日、1日、いい方向ばかりでなくてもいいから変化していきなさいと。10・11月の歌舞伎座での公演は僕なりにその言葉を意識して勤められたと思っています。1月の大阪松竹座公演でも引き続き、少しでも変化していきたいです。
──15歳の歌之助さんは、お兄さんふたりに比べると若い年齢での襲名になります。歌之助) 僕の場合、「歌舞伎役者になりたい」という思いはずっと小さな頃からありました。生まれたときから歌舞伎が身近にありましたので、学校の同級生と将来の話になっても、役者以外の夢があまり思いつかない。歌舞伎役者になっている自分以外は想像できないんです。これまでは子役として舞台に出ていましたから、10・11月の歌舞伎座公演で、大人のお役や自分の好きなお役をさせていただいたのがすごく嬉しかった。変化、成長していかなくてはという思いももちろんありますが、大変さよりも楽しさのほうが大きかったですね。
──3人それぞれに自然の流れで襲名のタイミングがきたわけですね。お話をきいているとみなさんとても“自然体”な印象です。橋之助) 襲名して“自然体”から“覚悟”に変わった面もあります。子どもの頃から芝居が大好きでしたが、「本気で役者をやっていくのかどうか」とイエスかノーの二択を迫られる状況は初めてでした。もちろん自分のなかで「役者になる」気持ちは固まっていましたが、襲名したことであらためて成駒屋の一員になれた実感があります。「父・芝翫を盛り立てて、僕たちひとりひとりが戦力にならなくては」と思いますし、「成駒屋の看板に泥を塗るようなことはぜったいにあってはならない」という責任感も生まれました。“自然体”だった歌舞伎への思いが、より現実的になった気がしますね。
◆【“初めてづくし”の曽我狂言】
「長らく上演されていなかった復活狂言。
演じる僕たち次第でどうにでもなってしまう責任感がある」
と引き締まった表情で語ってくれた福之助さん。
──演目についても聞かせて下さい。まずは昼の部の『吉例寿曽我 鴫立澤対面の場』から。お正月恒例の「曽我狂言※」のなかでも、かなり“レア”な一幕とのことですが。※「曽我狂言」とは…父を工藤祐経に殺された曽我十郎と五郎兄弟の仇討ちを題材とした歌舞伎の演目のこと。江戸から明治時代にかけて大変人気があり、お正月には必ず曽我狂言の新作が各劇場で上演された。詳しく知りたい方は歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」内のこちらをチェック♪橋之助) 長らく上演されていなかった復活狂言ですが、ほぼ新作といっていいと思います。映像などの資料もほとんど残っておらず、話の筋から衣裳、道具までいろいろと相談して書き直していただきました。
──ご兄弟3人の意見も取り入れられているんですね。今回上演される鴫立澤対面の場はどのあたりが注目ポイントでしょうか。橋之助) 曽我兄弟の敵である工藤祐経本人ではなくて、その奥さんが出てきます。梛(なぎ)の葉というんですが、この役が登場するのがすごく珍しいんだそうです。
福之助) それから曽我五郎と十郎がまだ子どもで、箱王と一万という名前で出てきます。
橋之助) たぶん実年齢でいうと10歳と12歳くらいの設定じゃないかな。福之助や歌之助くらいの年齢で、実際より若い役をすることってなかなかないんですよ。いつもは自分より年上の役を背伸びして演じているので、若い役をどう演じるのかもぜひ見ていただきたいですね。
福之助) 僕は箱王(後の曽我五郎)のお役をさせていただきます。曽我物はこれまでにもたくさん見てきていますし、憧れの役でもあります。でも実際に芝居の要(かなめ)になる登場人物を演じるのは初めて。復活狂言でもありますし、自分たちの演じ方でどうにでもなってしまうという緊張感もあります。
歌之助) 僕は一万(後の曽我十郎)を演じるので、兄(福之助さん)と年齢が逆転するんです。ふだんはやっぱり福之助がお兄ちゃんなので、舞台の上で自分がどう兄になるのか。むずかしいです。
橋之助) 芝居の要となるお役を勤めるのは兄弟3人とも初めてです。同じ舞台で3人揃って“初めて”を経験できるのがとても嬉しいですね。なにより2017年の正月公演、それも昼の部最初の一幕で、ほぼ新作のなかの初役ですから、なにもかも“初めてづくし”です。ここまで“初”が重なることもそうないと思いますので、ぜひ歌舞伎が“初めて”のお客さまにも観ていただきたいと思います。
──夜の部の幕開け『鶴亀』は、坂田藤十郎さんとご兄弟3人による舞踊劇ですね。福之助) まだご一緒に稽古はしていませんが、藤十郎のおじさまと共演させていただける貴重な機会なのでしっかり勤めたいと思います。もともと踊りは好きですが、こんなに長い時間踊るのも初めてですし、緊張感とともに楽しみな気持ちがあります。
橋之助) 『鶴亀』は本来「松羽目物(まつばめもの)※」ですが、今回は襲名披露ということもあり、道具をちょっと派手にするなど趣向を変えています。藤十郎のおじさまも僕たち3人を率いて出てくださるので、もしかしたらいつもと少し違うことを考えていらっしゃるかもしれません。
※「松羽目物」とは…能や狂言の演目をもとにした歌舞伎の演目のこと。正面に大きく松の絵が描かれた板羽目の前で演じられる。詳しく知りたい方は歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」内のこちらをチェック♪──歌舞伎をよくご存知の方も、これまで見たことのない『鶴亀』に出会えるかもしれないということですね。華やかな一幕、とても楽しみです。 橋之助) 昼の部二幕目の『梶原平三誉石切』は父の襲名披露狂言。父が演じる梶原は歌舞伎のなかでも指折りの大きな役で、役者にとって教科書のような役。話の筋もむずかしくありませんし、大いに楽しんでいただけると思います。続く恋飛脚大和往来の『新口村』は、仁左衛門のおじさまが上方ならではの芝居をみせてくださいます。親子二役を演じられるのも見どころです。
◆【未来の僕たちも楽しみにしてほしい】
盛り上がる兄ふたりに、冷静にツッコミを入れる姿が大物の予感!?
これからどんな役者になっていくのか、可能性無限大!の歌之助さん(写真右手前)。
──新・芝翫さんは立役として活躍されていますが、みなさんのおじいさまにあたる七世芝翫さんは名女方として知られていました。今のところ橋之助さんは立役としていかれるのかなと思いますが、福之助さん、歌之助さんはいかがでしょう。立役、女方というのはご自分で決めるものなんですか? 目指す役者像などは?橋之助) 僕の場合は父や勘三郎のおじの背中を見ていたこともありますが、二代目の松緑のおじさまの存在が役者を目指す大きなきっかけでもあるので、自然と立役志望になりました。紀尾井町のおじさま(二世尾上松緑)は僕が生まれる前に亡くなっているのでお会いしたことはないですし、生の舞台を観たこともないのですが、ビデオテープで『毛抜』を見て「なんてかっこいいんだ」と心の底から感動して「こんな役者になりたい!」と思ったんです。あんなふうに男くさくて、線が太くて、男から見てかっこいい立役になりたい。それから自分は体格がいいのもあって女方はなかなか(笑)。弟ふたりは女方もいけるんじゃないかなと思いますが。
福之助) 女方もやってみたら、と周りにはよく言われます。僕としてはやっぱり父と勘三郎のおじを身近に見てきたこともあり、立役に憧れがありますが、今はとにかく教えられたことをしっかり、基本に忠実にこなしていくだけで精一杯です。もっとできるようになってきたら、立役なのか女方なのかということも含めて「こんな役者になりたい」とはっきり見えてくると思うのですが。この襲名披露公演の中でなにか見つけられたらいいなと思っています。
歌之助) 僕も父や勘三郎のおじ、あと三津五郎のおじさまの芸を間近で見ることが多かったので、時代物や世話物になじみがあり、ゆくゆくはそうした作品で中心の役を勤められる役者になりたいです。一番身近にいる役者が父ですので立役への憧れは強いです。もちろん女方も勉強させていただきたいとは思っていますが。
──橋之助さんは「男くさい立役」というしっかりした目標があるとのことですが、となると今回の『勧進帳』なんかは…橋之助) 『勧進帳』の弁慶、演じてみたいです! もう、ぜったいやってみたい役ですよね。
──これから花形歌舞伎などの若手公演で、そんな機会もあるかもしれません。橋之助) 父や勘三郎のおじたちが若手だった頃に「なにかおもしろいことをやろう」と大阪でいろいろと奮闘したそうなんです。そのときに大阪のお客さまに喜んでいただいたおかげで、この大阪松竹座で定期的に公演をさせていただけるようになったと聞いています。だから僕たちも大阪で若手公演をやってみたいという気持ちがすごく強いんです。そこで弁慶を演じることができたらすごく嬉しい。最高ですね。
弟たちふたりも「どんな役者になるんだろう」と思われていたのが、未来の若手公演が実現する頃には「あ、こっちの路線で行くのか」とか「襲名の頃に比べたらうまくなったな」と言っていただけるかもしれません。自分で言うのも変かもしれませんが、歌舞伎ってそういう将来への楽しみもあると思うんです。いつか僕が弁慶を演じることができたら、今回の公演を観たお客さまに「芝翫の弁慶を見たときに、橋之助が将来自分も弁慶を演じたいと言ってたな」と思っていただけるかもしれない。未来の僕たちのことも楽しみにしていただければ嬉しいですね。まずはぜひ1月の大阪松竹座にいらしていただきたいなと思います。
◆ 1月2日に初日の幕が上がる大阪松竹座『壽初春大歌舞伎』。八代目中村芝翫さんと、橋之助さん、福之助さん、歌之助さんの襲名披露に、坂田藤十郎さん、片岡仁左衛門さんら人気役者が華を添える豪華公演です。
初々しい三兄弟の“初めてづくし”の舞台から、明るく清々しい風を感じられそうです!
<こぼれ話♪>
東京で生まれ育った成駒屋三兄弟。
約1ヶ月にわたる大阪公演で「一番楽しみにしていること」をお聞きしてみました♪
橋之助:芝居やお役のことをあげたいところですが…僕はやっぱり中央軒の皿うどんとインデアンカレー(笑)。中央軒は昔の新歌舞伎座さん裏にある本店が一番好き。インデアンカレーは東京にも店舗があるらしいんですが、やっぱり大阪で食べたいなと。毎日お昼ごはんにどちらかを食べるのが楽しみなんです。インデアンカレーは卵入りで、辛さに耐える余裕がありそうなときはルー多め。中央軒の皿うどんはあのピンクの細長いかまぼこが好きなんです。
福之助:僕はたこ焼きとかお好み焼きが大好きなので、“粉もの”を食べるのが楽しみ。7月に大阪に来たときに食べたたこ焼きがめちゃくちゃおいしかった! 東京で食べるのとはまたぜんぜん違うんですよね。大阪ってどのお店でも、誰が焼いてもおいしいです。なんでだろう。
歌之助:僕は初の大阪公演で、地方公演そのものも初めてです。大阪のお客さまに見ていただくのも楽しみですし、観光もグルメも、時間が許す限り大阪全部を楽しみつくしたいです。
橋之助:そう、歌之助は初の大阪公演なんです。やっぱり“初めてづくし”ですね。ちなみに僕が初めて大阪に来たときはおいしいものを食べ過ぎて一ヶ月で10キロくらい太りました(笑)。東京から着てきたスーツが入らなくなって、帰りに新しいのを買ったんです。今はダイエットしたので、キープできるように気をつけながらグルメも楽しみたいです!
福之助:僕もそのとき4キロ増えた……。
歌之助:……僕はちゃんと考えて食べるので大丈夫です!(笑)
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おけぴ取材班:mamiko(文/撮影) 監修:おけぴ管理人