地人会新社『豚小屋』稽古場レポート

 第二次世界大戦中、旧ソ連軍から脱走し、41年もの間 豚小屋で生きていた実在の人物にインスパイアされ、南アフリカ共和国の劇作家アソル・フガードが描いた『豚小屋』



写真左より)田畑智子さん、北村有起哉さん

あらすじ
  軍を脱走して10年。パーヴェル・イワーノヴィッチ(北村有起哉さん)は湿っぽくうすら寒い家畜小屋で、豚と隣り合わせに暮らしている。戦勝記念の日、式典に出て自分の存在を明らかにしようと演説の準備をするパーヴェル。しかし、彼の中にふとよぎる恐怖。そして、妻・プラスコーヴィア(田畑智子さん)に未亡人として出席するよう頼む。


 “豚小屋”を舞台にした夫婦の物語。夫役・北村有起哉さん、妻役・田畑智子さん、そして演出の栗山民也さんによる濃密なお稽古が行われている現場へ潜入!

 栗山さんといえば、11月には、戦争が終わったことを知らぬまま、2年もの間、ガジュマルの木の上で生活をした2人の日本兵の実話をもとにした寓話『木の上の軍隊』が記憶に新しいですよね(素晴らしかったー!!)。 どこか似ているような状況だなという好奇心、状況からして…かなり過酷なお話だろうなというドキドキ、その両方を携えて向かった稽古場。

 この日は、前半部分のお稽古が行われていました。



パーヴェル(北村有起哉さん)



 「ブヒブヒ」、「ガタガタ」、「ゴソゴソ」と豚の生活音が容赦ない豚小屋、そこで、必死に演説の練習をしているのがパーヴェル。戦勝記念日を祝う式典で、自らの存在を明らかにし、そこでする演説を準備している彼の声は力強い!が…、ふと弱気も顔をのぞかせる。

 はじめに台本を読んだ時は、(この時点ですでに)10年、豚小屋に籠っている男に対して、もっと頑なな印象を持っていました。でも、北村さんの演じるパーヴェルは、どこにでもいそうな男。でも、ちょっと小心者。もちろんずっと息をひそめていたので、どこか神経を張り詰めた感じはありますが、それも含めて目の前にいる“この人”に何があったんだろうと、すごく気になる存在です。



プラスコーヴィア(田畑智子さん)



 パーヴェルに呼ばれ、豚小屋に姿を現すのは妻のプラスコーヴィア。彼女は、戦地から脱走してきた夫を豚小屋に匿いながら、未亡人として暮らしています。これまた田畑さんの声がすごくいい感じなのです。優しく接しながら、ときどきプスッと突き刺さるようなところがあるのです。彼女は、一人で養豚業を営み、でも、後ろめたさや恐怖から極力家に引きこもっている妻。でも、どこかドライというか。パーヴェルの言う諸々を、それはそうだけど…、日常の諸々で押しのけるような強さのあるプラスコーヴィアです。

 未亡人として式典に参列したプラスコーヴィア、そこではなんとパーヴェルに勲章が与えられるのです。世間的には戦死したことになっている彼が勲章をもらい、実際には豚小屋で豚に囲まれて生きている。なんでしょうね、これは。悶々とします。


 こうして第一場を通したあとは、栗山さんのフィードバックタイム!戯曲に向き合い、ときには実際に動いて見せながら丁寧に作り上げられていきます。





 「夫婦、わかり合った二人なんだよね。たとえば「おい」という言葉ひとつで、その裏側の心理が伝わるような関係性」、そのやりとりが二人芝居の醍醐味とお話しされていたのが印象的でした。「“どこへ行くんだ?”と言っていても、それを知りたいのではなく、“俺を独りにしないで”ってことだよね」と。こうして、ひと通りおさらいをして、もう一度、一場を通します。すると、グッとセリフの間が変わり、ギリギリの状況下なのに日常という不思議な劇空間により一層引き込まれます。





 会話が見事にかみ合うだけでなく、無情なまでにスルーしたり、されたり…そんなところも、わかり合った夫婦だからこそのリアリティであり、面白さでもあります。

 続いて第二場。パーヴェルの隠匿生活もさらに時が経過し、すさんだ日常へ…。そこへ一筋の光のように現れたのが“蝶”。






 そんな平和なひとときも長くは続かず、パーヴェルは生きること、尊厳とは…と、プラスコーヴィアに強い口調で問うのです。でも、そんな時でも、“夕飯の支度”がその会話を終わらせ、パーヴェルも日常モードに戻る。決して長いシーンではないのですが、この二場の余韻というのは、何とも言えないものがあります。(ぜひぜひ劇場で味わっていただきたい!!)
 自問自答や不安、恐怖といった不安定と、日々の営みの安定を行ったり来たり、豚小屋で安定!?と思いますが、でも、やっぱり日常もそこにあるのです。生活って不思議なものです。

 お稽古の中で、栗山さんはこの戯曲の魅力を「(これまでに)何があったかを、具体的な台詞ではなく会話で表現していく、そこに時代性というのもしっかりと描かれているんだよね」とお話しされていました。 なるほど! 説明、説明ではなく、二人の会話、そして、さきほどの“蝶”もそうですし、ほかにも“スリッパ”、“軍服”などを介しながら、パーヴェルの人生がしっかりと伝わってきます。と、ここでお稽古終了。

 こうして長きにわたり豚小屋で生活してきた二人に、新たな展開が訪れる後半。それは見てのお楽しみ!

外の空気が吸いたい!パーヴェルは女装し、二人は夜中の町に出る。風・大地の匂い・満天の星・コオロギさえも二人にとっては感動なのだ。
そしてもっと先まで…あのポプラの木の先に…(HPより)

 パーヴェルとプラスコーヴィアがたどり着くのは…。夫婦の絆と人間としての誇りを描いた『豚小屋』。二場の二度目の通しが終わった瞬間、栗山さんがぽつりつぶやいた「うん、二場もいいね!」に、深く頷いた取材班でした。
 フガードが描いた世界が、北村さん、田畑さんの芝居、栗山さんの演出で届けられる!早く本番が見たいな。そう思いながら稽古場を後にしました。

【公演情報】
地人会新社第6回公演『豚小屋』@新国立劇場小劇場
2017年 1月 7日(土)~15日(日)

<スタッフ>
作:アソル・フガード
翻訳・演出:栗山民也

<キャスト>
北村有起哉/田畑智子

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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