劇団スタジオライフ『はみだしっ子』製作発表レポート

 いまもなお読み継がれる伝説的漫画『はみだしっ子』が初舞台化! 



 家族を捨てて放浪する4人の少年たちの魂の物語。劇団スタジオライフ2017年秋の新作、舞台版『はみだしっ子』製作発表会レポートが行われました。



 『トーマの心臓』(原作・萩尾望都)、『アドルフに告ぐ』(原作・手塚治虫)など、これまでも数々の漫画作品を舞台化してきたスタジオライフ。今回取り上げるのは、1995年に42歳で亡くなった【三原順さん】の代表作『はみだしっ子』です。

 1975年から81年まで雑誌『花とゆめ』に連載された『はみだしっ子』。主人公はグレアム(初登場時7歳)、アンジー(同7歳)、サーニン(同5歳)、マックス(同5歳)の4人の子どもたちです。虐待、育児放棄…それぞれの事情で、家族から離れ、いつしか身を寄せ合い、放浪するようになった4人組。その心の内面が、膨大なネームとともに繊細に描かれた物語を、どう舞台で表現するのか? (そして、5才児を大人の男性がどう演じるのか!? 性別年齢変幻自在のスタジオライフのみなさんにとってはお手のもの?)

 トリプルチーム上演となる本作で4人の子どもたちを演じるキャストの意気込み、そして脚本・演出を手がける【倉田淳さん】と、三原順さんと同期デビューした元漫画家で、引退後はファンのひとりとして絶版作の復刊活動などを行う【笹生那実】さんとの特別対談の模様をお届けいたします。


【倉田淳×笹生那実 特別対談】



笹生那実さん

倉田)
 まず三原順さんとの出会いからお話しいただけますか。

笹生)
 初めて会ったのは、別冊マーガレットの漫画スクールの投稿者たちが集まる勉強会。北海道に住んでいた三原さんが編集部に来たときに、投稿者たちの刺激になるからとその場に呼ばれていらしたんです。場所は横浜の大桟橋。デビュー直後の73年でした。当時、三原さんはまだ20歳だったんですけど、とても礼儀正しくて大人っぽくて、まるでグレアムのような人だった。でも外見は小柄で可愛らしくて、サーニンとマックスを混ぜたような(笑)。とにかく絵がうまくて、みんなの憧れの存在、アイドルでした。
 その投稿者たちのなかに くらもちふさこさんがいらして、三原さんとくらもちさんがすぐに仲良くなって。私はもともと、くらもちさんと同年齢で親しくしていたので、ついでに仲良くならせてもらったんです。三原さんが東京に来るときは、くらもちさんがご家族と住んでいる家に泊まったりしていて、私も遊びに呼ばれたりしていました。

倉田)
 『はみだしっ子』の魅力はどんなところにあると思われますか?

笹生)
 「子どもたちが主人公」というのが当時としても特異でした。三原さんは子どもの鬱屈した思いを忘れないでいた人だったと思います。どんなに恵まれた環境で、明るく過ごしている子どもでも、辛いことは辛い。なぜなら彼らはとても視野が狭くて、経験が少ないですから。子どもって、ほんの小さいなことでも、ものすごく落ち込んだりしますよね。ましてや『はみだしっ子』で描かれているのは親から虐待を受けるなど、ほんとうに辛い環境にある子どもの物語。それをごく普通に育った人でも共感できるように、深いところを描いているのが普遍的だし、作品の魅力だなと思います。あとは単純に4人の少年たちのキャラクターの描き分けがすごく魅力的だなと。

倉田)
 グレアム、アンジー、サーニン、マックス、みんなすごい個性ですよね。対談の前に三原さんはアンジーみたいだったなんてお話もありましたが。

笹生)
 とても礼儀正しい方だったので、最初はグレアムっぽいなと思うですけど、つき合ってみるとアンジーのような人の悪さもあって(笑)。作中の落書きで「ふーちゃん(くらもちさん)、なおちゃん(笹生さん)◯◯」とか悪口が書いてあったりして(笑)。




倉田)
 (笑)。本編ではとにかく心をえぐられるような言葉がたくさん出てきます。『はみだしっ子語録』という本が出版されるくらい、三原さんは漫画家であると同時に詩人でもあったのかなと感じます。

笹生)
 詩人、哲学者のような人でしたね。

倉田)
 『はみだしっ子』から広がる他作品も含めて、三原順ワールドの魅力は?

笹生)
 当時はとにかく大人気作家で、『はみだしっ子』の連載中は三原ブームでした。まず最初に惹きつけられるのは絵の美しさ、可愛らしさ。それでいて内容はものすごく深い。後期になると重厚な長編が増えてきます。『Sons』なんてとてもひとことでは説明できないほど読み応えがある。ラストも素晴らしくて、さまざまな苦難がある人生そのものを経験させられるような作品です。それから『はみだしっ子』を気に入った方にぜひ読んでいただきたいのが『ロング アゴー』ですね。『はみだしっ子』のスピンオフ的作品ですが、単独で読んでも素晴らしいし、初めて読む三原作品としてもおすすめです。彼女は短編の名手でもあって、元漫画家の目から見ても「うまいなあ…」と。魅力は語り尽くせません。
 
倉田)
 スタジオライフでは2001年に『Sons』を舞台化しています。当時からもちろん『はみだしっ子』のことは知っていましたが、小さなこどもたち、ましてや5歳のマックスまでを演じる自信がなくて、まずは『Sons』に挑戦させていただいたんです。あの作品も10代の少年がたどる運命の、山の高さ、谷の深さが凄まじくて、可愛い子どもを谷に突き落として這い上がってくるのを見ているような作家の意図さえ感じるくらい。凄絶ですよね。よくあそこまで書くな、と。

笹生) 
 絵もすごいですし。容赦ないです。

倉田)
 あそこまで人間、人生を見つめる目を、三原さんはどこで培われたのでしょうか。

笹生)
 持って生まれたものだと思います。ちょっと他の人には真似できない。借り物ではない、魂の底から出てきたような感じがしましたね。

倉田)
 魂からの言葉、ほんとうにそう思います。それだけに舞台化する怖さも感じます。三原作品が今の私たちにも必要であること、その意味をどう思われますか?

笹生)
 三原作品は人間社会の闇の部分まで教えてくれる。読むだけで社会の荒波に揉まれるのと同じ効果があります(笑)。子どもたちが実際にひどい目に遭わなくても、世の中にはこんなこともあるんだと、読むだけで知ることができる。それは単純に「大人の世界ってこんなに汚いんだぜ」ということではないんです。子どもたちの描写も容赦ない。社会の真実を読ませてくれるんです。「アダルトチルドレン」なんて言葉が生まれる前から三原さんはそういう物語を書き続けていた。三原作品を読んで救われる人もたくさんいると思います。

倉田)
 いま劇団員たちも原作漫画にアプローチし始めているのですが、グレアムたちの抱える孤独や痛みにシンパシーを感じずにはいられないと言っています。大人でも生きていれば辛いことがいっぱいあるわけで、いい年をした私が読んでも「グレアムにこの言葉をかけてもらったから、私は大丈夫」と思えるんです。スタジオライフでの舞台化によせて、なにか言葉をいただけますか?

笹生)
 原作のファンの方のなかには、5才児を大人の男性がどう演じるのかと不安に思っている方もいるかもしれません。でも私は、漫画は漫画、舞台は舞台として別物として受け止めるのがいいのではと思うんです。実際に5歳の子役がやるのではない、そこがかえって良いところだなと。以前、アニメ化の企画があったこともあるんですが、そのときは漫画とアニメが似ているだけにちょっと嫌だなと(笑)。舞台は漫画とは別物として、でも作品の魂は受け継いで表現してくださるので、とても楽しみにしています。
(2.5次元舞台と絡めての記者の質問に) いわゆる2.5次元舞台は、ビジュアル的に元の作品に近いものを目指していますが、スタジオライフだと、たとえば女の子の役も大人の男性─おじさんが演じるわけで、あ、おじさんって言っちゃった(笑)ごめんなさい。でもそれだけに、観る側が頭のなかでイメージする、作り上げるおもしろさがあると思います。スタジオライフさんの舞台はセットもシンプルでセンスがいい。情景も頭のなかで作ることができる、それがいいところだと思います。

倉田)
 あまりにも高い山で怖さもありますが、作品に散りばめられている三原さんの魂の言葉に、我々がついていって、なおかつ埋められるように作っていきたい。笹生さんに言っていただいたようにシンプルが信条ですので、あまり欲張らずに。作品のダイジェスト版にだけはしたくないので。観客の皆さんと一緒にイメージして、子どもたちの心の奥底に入っていけるような舞台を作りたいと思っています。



倉田淳さん



【演出家・キャストコメント】


【脚本・演出 倉田淳さん】
三原ワールドファンの熱い思いを絶対に裏切ってはいけないと思っています。スタジオライフと漫画作品との出会いは萩尾望都さんの『トーマの心臓』。同じく萩尾さん原作の『訪問者』に登場するオスカーという少年は「許される子ども」になりたいという思いを抱いています。『はみだしっ子』に出会ったときにも、グレアムたちはみんな「許される子ども」になりたがっているんだと感じ、どんどん彼らに心が傾いていきました。痛さはあるけれど、その痛さこそが作品の魅力。彼らの痛みに真摯に向き合っていきたい。現在も子どもへの虐待などの悲しいニュースは絶えません。微力ながらも、舞台を通して、子どもたちが感じていること、求めていることを考えていただく小さな入り口になれば、いまこの作品を上演する意味につながると思います。



【TBCチーム・グレアム役 仲原裕之さん】
 この高い山を僕たちが体現すると思うと不安もありますが、同時に役者冥利に尽きるな、と。ここにいるメンバー全員で取り組んでいかないと三原先生の思いには届かない。血よりも濃い絆がある劇団だからこそ、その思いを見せられると思っています。グレアムの過去に何があったのか、それを大事にアプローチしていきたい。彼はなぜ家を出なくてはならなかったのか。なぜ重い十字架を背負い、傷を抱えて旅をしなくてはいけなかったのか。原作の漫画を擦り切れるまで読んで、グレアムの記憶が自分の記憶になるまで、高めて演じたいと思います。


【BUSチーム・グレアム役 久保優二さん】
 今回、三原先生の作品を初めて読みました。原作を読んで感じたことを大事に稽古に取り組みたい。他のみんなとのコミュニケーション、関係性も今まで以上に大切になると思っています。


【TBCチーム・アンジー役 松本慎也さん】
 原作を読み、哲学的な、悲痛で奥深い、生の人間ドラマが描かれていると思いました。アンジーはとても魅力的なキャラクター。彼の抱える心の闇、他の3人との固い絆、彼らの心の叫びを生身の人間として舞台の上にのせ、実際に心をぶつけ合い表現していくことで、三原先生が描いた思いを少しでもみなさまと共通できればと思います。演劇作品としてきちんと楽しんでいただける舞台になるよう取り組んでいきたいです。


【BUSチーム・アンジー役 宇佐見輝さん】
 とても深い、えぐるような表現がある素敵な作品。メンバー一丸となって取り組んでいきます。


【TRKチーム・サーニン役 緒方和也さん】
 御覧頂いてわかるように、(サーニン役の3人のなかで)僕が一番おじさんでして(笑)。他の二人はとてもかわいらしい顔をしているんで、これからどうやってかわいくなろうかな、と。不安もありますが、がんばります!


【BUSチーム・サーニン役 澤井俊輝さん】
 心のかさぶたを剥がされて、ヒリヒリするような作品です。サーニンという役に寄り添って、その痛みを真摯に丁寧に演じたいと思います。


【TBCチーム・サーニン役 千葉健玖さん】
 素敵な言葉だけでなくて絵が伝えてくるものもたくさんある作品。絵から受けた印象を、舞台から伝えられればと思います。


【BUSチーム・マックス役 若林健吾さん】
 僕にはない、深いものを抱えている役。原作の絵、時、言葉を大切にやっていきたい。


【TRKチーム・マックス役 田中俊裕さん】
 原作を読んで感じたのは「この子(マックス)はほんとうに甘ったれだな!」ということ。でも読み進めていくうちに、他者から愛されたい、他者を愛したいと願う子どもの素直な気持ちを突き詰めていくとこうなるんだなと感じた。その思いを体現できるよう務めていきたい。


【TBCチーム・マックス役 伊藤清之さん】
 マックスと同じで、僕も劇団の一番下っぱです(笑)。人生経験も少ないですが、頼りになるお兄ちゃんたちが11人も揃っているので、精一杯がんばりたいと思います。





【スタジオライフを初めて観る『はみだしっ子』ファンのみなさんへメッセージ】

松本慎也さん)
 まず僕たち自身が三原順先生のファンであること、その作品を愛していて、リスペクトしていることを知っていただいて、ぜひ怖がらずに(笑)劇場で思いを共有していただければと思います。ファンの皆さまと同じ熱意を持って舞台を作っています。僕たちは女性役も演じますし、5才児にも7歳児にもなりますが、皆さまの想像力と、僕たちの団結力を信じて、観に来ていただければと思っています。





 劇団スタジオライフ公演『はみだしっ子』は10月20日から11月5日まで、東京芸術劇場シアターウェストにて上演されます。



※この日の製作発表会には、TRKチーム・グレアム役の岩崎大さん、アンジー役の山本芳樹さんは欠席でした。

【公演情報】
劇団スタジオライフ公演 舞台版『はみだしっ子』
2017年10月20日(金)-11月5日(日) 東京芸術劇場シアターウェスト

原作:三原順
脚本・演出:倉田淳

キャスト:
TRKチーム グレアム:岩崎大/アンジー:山本芳樹/サーニン:緒方和也/マックス:田中俊裕
TBCチーム グレアム:仲原裕之/アンジー:松本慎也/サーニン:千葉健玖/マックス:伊藤清之
BUSチーム グレアム:久保優二/アンジー:宇佐見輝/サーニン:澤井俊輝/マックス:若林健吾

曽世海司/船戸慎士/吉成奨人/牛島祥太/鈴木宏明/前木健太郎/藤原啓児


ストーリー:
いつの間にか寄り添い、旅をするようになった個性の違う4人の仲間、グレアム、アンジー、サーニン、マックス。
親に見捨てられた子どもたちの早過ぎる孤独は、彼らをこの世のはみだしっ子にしていた。
傷ついた過去を癒やしてくれる誰かがきっとどこかにいるはず!
愛を探すそれぞれの心が今、血の絆を超え深く結ばれる……


劇団公式サイト











 




おけぴ取材班:hase(撮影)、mamiko(文)  監修:おけぴ管理人

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