中村獅童、中村勘九郎、中村七之助、そして中村扇雀ら豪華俳優の競演で実現した
誰も観たことのない『四谷怪談』がスクリーンで甦る。コクーン歌舞伎『四谷怪談』、キャストは中村獅童、中村勘九郎、中村七之助、そして中村扇雀に加え、歌舞伎界きっての個性派片岡亀蔵、実力派俳優笹野高史、世界的バレエダンサー首藤康之ほか、個性豊かな面々が集結しました。(敬称略)
昨年、コクーン歌舞伎第15弾作品として上演された『四谷怪談』で美術・演出を手がけ、NEWシネマ歌舞伎では監督を務められた串田和美さんの取材会が行われました。
【「いまを生きる現代劇としての歌舞伎」を模索してきたコクーン歌舞伎】
串田和美監督
「20年以上前にね、勘三郎さん(当時は勘九郎さん)とコクーン歌舞伎というものをやろうとなって、その第一作目が『東海道四谷怪談』(1994年)でした。最初のうちは抵抗があったり、ナーバスにもなったけれど、そこから現代劇の俳優が出たり、現代の音楽を用いたりして。今では当たり前になりましたよね。最初の『四谷怪談』からずいぶんと変わったなと思います」 2006年には『東海道四谷怪談(南番・北番)』を上演、そして昨年2016年に上演した『四谷怪談』公演を撮影、串田さんの手で編集したのがこのNEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』です。
民谷伊右衛門(中村獅童):元は塩冶判官に仕える武士だったが、御用金を着服
お袖(中村七之助):お岩の妹。父・四谷左門を助けるために地獄宿(売春宿)で身を売ろうとする。
直助権兵衛(中村勘九郎):許嫁・佐藤与茂七のいるお袖に横恋慕して、与茂七を殺害。それを隠して、恨みを晴らしてやると言い寄りお袖と仮の夫婦になる。
【四谷怪談の魅力】
「四世鶴屋南北の本を読むと群集劇なんですよね。江戸末期、侍より町民のほうが楽だ!なんて言ってしまう人が平気で出てくる。社会の上下が逆になるような、言うなれば空から草が生えてくるような時代の話。これからどうなるのだろう…という不安な社会というのは現代にも通じる感覚。そこに魅力を感じます」【舞台と舞台中継とNEWシネマ歌舞伎】
「いわゆる舞台中継というのは、歌舞伎に限らず大変失礼ながらあまり面白くないと感じてしまうことがあります。生で観たらこうではなかったんだろうなと。もちろん、劇場に足を運べない方、記録という意味では決して悪いものではないので、否定はしないけれど。
いつも思うのは、舞台は見えるものだけではないんだろうなということ。観た人ひとりひとりが心の中で編集しているんです。好きな場面が広がり、そうでないところは忘れちゃったりしてね。自分の生い立ちに照らし合わせる人もいるだろうし、その時に何かに苦しんでいたか、ハッピーだったのか…人によって観方が違う。そうして時間が経つにつれて100人いれば100通りある“自分の作品”になっていく。
それならばと、舞台中継でもなく、映画でもなく、舞台の映像を素材にして作ろうと思い完成したのがNEWシネマ歌舞伎です。時間も2時間、カットし順番を入れ替えることではっきりとすることもあるんです。撮影は公演中に東京で2公演、松本で1公演行いました。東京では昼夜それぞれ8台ずつ、松本では3台のカメラを使用し、すべて別アングルでの撮影。膨大な選択肢の中から映像を紡ぎました。カットバックやズームアップ、ストップモーションを用いた映像ならではの見え方になっています」【質疑】
──アップを多用したように感じますが。
「なるほど。「(歌舞伎『東海道四谷怪談』ではお岩が怨霊になった後の)ケレン※が有名ですが、今回はそれよりも南北が書いた戯曲の根底にある心情、伊右衛門の脳の中、お岩の苦悩を表現したいという意識は持っていました。伊右衛門の説明できないイライラとか、どうしたらいいんだというところ。だからアップを多用した感覚は僕にはなかったんだけど、結果的にそうなりましたね」※ケレン:大がかりで見た目に派手な演出のことお岩(中村扇雀):伊右衛門の妻。伊右衛門を孫のお梅と結婚させたい伊藤喜兵衛の策略で毒薬を飲まされる
お梅(中村鶴松):伊藤喜兵衛の娘。伊右衛門に一目ぼれする
こちらは伊藤喜兵衛邸
──舞台上にいるサラリーマン(の装束をした人たち)の存在について。
「黒衣というのは面白い存在、居ないことにしているけれど確実に居るんです。歌舞伎に慣れている人は黒衣をじろじろと見ないんだけど、そうでなければ見ますよね(笑)。なんで忍者みたいな人がウロウロしているんだろうって。
そして僕が面白いと思うのは、黒衣が助けているような支配しているようなところ。この『四谷怪談』ではスーツのサラリーマンが時々通って、その人が道具を動かしたりじっと見ていたり、黒衣であり空気の役割を果たしています。現代人では黒衣のほうが目立ち、サラリーマンのほうが見慣れているでしょう。歌舞伎ととらえると変だけど、我々の見慣れたものとしてサラリーマンを登場させました」──伊右衛門という人について。
「伊右衛門を演じることに対してはだれもが緊張するんです。今回、獅童君には新しい伊右衛門を作ろうと言いました。いじめたくないけど蹴っ飛ばす、どうしていいかわからない。なんだか気にいらない。どうしようもない心の叫び、そして一番心を許す妻につらく当たる。それって悪いことだけれど切ない。いい人でいるのは余裕がないと出来ないんだよね。その叫び。表面の意識ではないけど、無意識の中で南北の筆がそう走っているような気がして。
南北は、伊右衛門を悪ではあるけど、ただそうは描かない。へそ曲がりなんだよね(笑)。でも、大体、善と悪というのはその人サイドの都合でしょう。戦っていれば両方が正義、正義の反対はもう一つの正義って言うくらいだから。文学やこういう表現ではある側から見ると悪と呼ぶものの正当性を何とか読み取ろうとすることが多い。いい人がいいことしました、おしまいって書いても、それじゃあ、ああそうですかで終わっちゃうからね」──「深川三角屋敷の場」で首藤康之さん演じる小汐田又之丞の寝床を人が動かしていくところが印象的でした。
「人が台座をどんどん動かしていくところですね。小汐田を周りが支えているのか攻めているのかはわからないけれど、台座の上から動けない彼(塩冶浪人で足腰の立たない難病にかかっている)がどんどん動かされているのが面白いと思って。それも小汐田ひとりの意志ではなくてね。
あれも映画だったらなにもあそこで人が動かさなくても出来たかもしれないけれど、舞台で出来ないことが力になるってこともあるんです。たとえばお化けが浮いているとか、映像だと何の苦労もないだろうけど、舞台だと人が押し上げたりして。そうすると観客もそこに参加して想像してくれる。「わかるよ、浮いているんでしょ!」その感情が舞台の良さ。
こうして映像と舞台、両方やることで双方の良さ、弱さが見えてきます。やっぱりあそこは舞台がイイね、映像がイイね。それぞれ楽しんでいただきたいです」 記事をご覧いただいたおけぴ会員のみなさまに
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NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』2017年9月30日(土)より東劇ほか全国公開
当日 一般2,100円 学生・小人1,500円
上映情報はこちらから人間の欲と弱さ、そして怖ろしさが渦巻く 新たな『四谷怪談』
刹那的に己の欲に生きる伊右衛門(獅童)、
執着心から罪を犯す直助権兵衛(勘九郎)、
男たちに翻弄され哀しき運命を辿るお袖(七之助)、
そして怨みをつのらせ亡霊となって復讐するお岩(扇雀)。
本能と欲が渦巻く混沌たる物語――
舞台写真提供:松竹
おけぴ取材班:chiaki(取材・文・撮影) 監修:おけぴ管理人