共に「昭和の名人」といわれる円生と志ん生、天才噺家二人の大人気評伝劇が新キャストで甦る。こまつ座第119回公演
『円生と志ん生』の稽古場にお邪魔してまいりました。
ラサール石井さん、大森博史さん
【本当に本当に名曲揃い!】
軽妙な芸が持ち味の兄弟子の志ん生、心に沁みる人情話を得意とした円生はそれぞれの人間性もまったくそのまま(笑)。
お話はそんなふたりが、高座にかける噺にも規制がかかる内地から、自由に落語ができて、その上お給金もお酒も(?!)期待できる満州慰問に出かけた終戦年の夏から始まります。そこからの帰国を願うも、混乱のなかでロシア国境近くに足止めされた2年を描く笑いあり涙ありの音楽劇。そう音楽劇というのがグッとくるのです。
井上ひさしさんの作品ですので、そこには笑い、ことばの魅力が溢れているのはもちろんですが、この作品は本当に本当に名曲揃い!アップテンポのナンバーから、心に沁みる祈りのようなナンバーまで、なじみやすくて心地よくって、思わず鼻歌が~♪そして踊りもいい!ピアノ演奏はおなじみの朴勝哲さん。
お芝居を見ているとその威力が炸裂。明るい曲調でも、結構、悲惨なことを言っていたり、大真面目に「天ぷらそば」とか言っていたり、すっと心に入り、あれ?と気づくような瞬間が何度もありました。これぞ音楽とことばの合わせ技!
演出を手がけるのは2005年の初演、2007年の再演に引き続き鵜山仁さん。通し稽古の前に一部のシーンの抜き稽古があったのですが、自ら舞台に上がって「こんな風に」と演じて見せるその姿が印象的。この日は男性ふたりのシーンでしたが、聞くところによると女性陣にもそのように演出をつけていき、やって見せる鵜山さんの芝居が絶妙だったとのこと!作品を知りつくした鵜山さん直伝で作り上げられた『円生と志ん生』、そりゃあ面白いわけです。
【井上ひさしさんが愛を注いだキャラクター】
キャストのみなさんをご紹介しますと、お調子者の志ん生を演じるのはラサール石井さん、しっかり者の円生には大森博史さん。面立ちもどこかご本人たちに似ている(気がする)おふたりです。
“松ちゃん”“兄(あに)さん”と呼び合う、おふたりの掛け合いを見ていると、まさに役を生きているという言葉が浮かびます。「骨の髄からはなし家だ」という台詞の通り、命がけの日々の中でも、気がつくといつも笑いを追求し続けるふたりはとってもチャーミング。
そして、ふたりが満州で出会うさまざまな境遇の女性たちを4人の女優が演じるというのも、この作品の面白いところ。(大きく5つのエピソードがあるので、みなさん5役を演じられます)
大空ゆうひさんのしなやかな身のこなしから踊りになったときの腰のキレの見事さ、教頭先生や修道院長といった、ご自身よりだいぶ年配の役の見せ方。前田亜季さんと太田緑ロランスさんが演じるふたりの先生の対立からの祈りへの流れ。池谷のぶえさんの文学少女、弥生のキャラクターのもつ勢い!そして修道女たちの…。
それぞれのキャラクターに井上さんの愛を感じますが、みなそれぞれに、国家や思想、宗教など、どこか“狂信”の香りが漂うのです。戦後の混乱、周りはどこに敵がいるかわからない。そんな中ではもしかしたらそうするよりほかなかったのかもしれません。
池谷のぶえさん、大空ゆうひさん
太田緑ロランスさん、前田亜季さん、池谷のぶえさん
そんな風に、傍から見たらちょっと窮屈そうに生きている彼女たちの凝り固まった頭や心を、ときには意図せずに(笑)解きほぐしていくのが円生と志ん生のふたりの笑いなのです。
窮地に陥ったふたりの噺家を助けているようで、実は救われているのは彼女たち、そんな構図も面白い!
笑いって、心に余裕がないと生まれないのかな。でも、逆に言うと、笑うことで生まれる余裕もあるのかな。そんなことを感じました。
忙しさやストレス、一生懸命になるほど肩ひじを張って生きてしまうことは現代を生きる私たちにも当てはまること。そうすると、ことばが刺々しくなったり、傷つけあってしまったり。劇中の女性たちだけでなく、観ている人ひとりひとりの心を軽くしてくれるような作品です。
それにしても戦中、戦後の苦労の中で、それにもめげずに落語三昧、話芸を、笑いを追求したふたりはやっぱり天才!円生と志ん生の命懸けの珍道中をお見逃しなく。
<こぼれ話>
この日はなんと初めての通し稽古。休憩中も緊張感は漂う中で、4人の女優さんたちが朗らかにお話をされている姿が印象的でした。一方で男性2人は準備に余念がない様子。芝居となるとお調子者でポンポンとオモシロが飛び出す志ん生役のラサール石井さん、その裏にあるとっても緻密な役作りを垣間見ました。
【スペシャルトークショー】
★9月11日(月) 1:30公演後 樋口陽一(比較憲法学者)― 井上ひさしにとっての笑い ―
★9月14日(木) 1:30公演後 大空ゆうひ・前田亜季・太田緑ロランス・池谷のぶえ
★9月17日(日) 1:30公演後 大森博史・ラサール石井
★9月21日(木) 1:30公演後 雲田はるこ(漫画家)―『昭和元禄落語心中』ができるまで ―
※アフタートークショーは開催日以外の『円生と志ん生』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。ただし、満席になり次第ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。
写真提供:こまつ座
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人