12月16日開幕の
新国立劇場バレエ団『シンデレラ』。プロコフィエフの音楽にのせて描かれる夢ときらめきの世界。物語は、みなさまご存知、これこそ本家本元“シンデレラ・ストーリー”でございます。
アシュトン版の見どころは、男性ダンサーが踊る迫力の?!アグリー・シスターズ(シンデレラの義理の姉たち)、かぼちゃの馬車、華やかな舞踏会…。エンターテインメント性豊かなクリスマスシーズンにピッタリの演目です。
本作にシンデレラと王子、ともに初役で登場する木村優里さん、中家正博さんのリハーサルをお二人のコメントとともにレポートいたします。
木村優里さん、中家正博さん
家では義理の姉たちに召使のように扱われながら、笑顔を絶やさずに暮らす心優しいシンデレラ。物乞いの老婆にも優しく接するシンデレラに起こる奇跡!物乞いの老婆は、実は仙女。彼女の魔法でかぼちゃは馬車に、シンデレラは美しいドレス姿に!
そして、シンデレラがやってきたのは…お城の舞踏会♪という場面です。
舞踏会には、二人の義理の姉たちの姿も。
姉娘:古川和則さん、妹娘:小野寺 雄さん
動きはイキイキ・シスターズです。
本番では奇抜なメイクにカツラでさらにパワーアップのアグリー・シスターズですが、ただシンデレラに辛くあたるだけではない、コミカルな二人の存在が作品のアクセントになります。
そして、こちらも人気キャラクターの道化。飛んで回って走って、舞台を所狭しと駆け回ります!
道化:井澤 諒さん
軽やかで爽やかな動き!
もうちょっと引っ張ります(笑)。こちらは王子の友人たちです。
4人ともすらり!さすが王子の友人たち、素敵です。
お待たせいたしました!王子の登場です。
王子:中家正博さん
「バレエ作品の王子には、『白鳥の湖』のジークフリートや『ジゼル』のアルブレヒトのようなちょっと闇を抱えたキャラクターもいますが、『シンデレラ』の王子は本当にピュアでさわやかです。王子というキャラクターをやることも少なく、ダークな僕がそれをどこまで表現できるか…難しいところです(笑)」と笑う中家さんですが、踊り出すと出会いのトキメキ、姿が見えなくなったときの動揺、そして常にまとうキラキラ王子感、ピュアな王子です。
続いては、余裕たっぷりで優雅に振る舞う王子の目の色も変わる?!、美しきシンデレラの登場。
シンデレラ:木村優里さん
本番では、ポワントで階段を降りてくるのですが、その美しさと神々しさは一度観たら病みつきになりそうなほどです。楽しみ~。
舞踏会でダンスをしながら、互いに惹かれ合う二人。
優雅な舞踏会のシーンですが、その振付は「随所でキレキレ」。プロコフィエフの音楽とアシュトンのダンスがひとつになったバレエの醍醐味がそこにあります。音をとらえて、物語を表現する。そのあたりについては…。
「全ての振付に無駄がないことを改めて実感します。音と振付、マイムが完全にリンクしているからこそ生まれる説得力。実際に踊っていても、ひとつひとつの音と動きの意味合いを受け止めることが大切になってきます。音楽に対して、ひとつでも動きが外れると、それで辻褄が合わなくなってしまう。それくらいに密接です」(中家さん) 音楽については、
「この作品、まずプロコフィエフの音楽に引き込まれます。踊っていても、同じ三拍子でも、チャイコフスキーの三拍子とプロコフィエフの三拍子ではこんなにも違うのだ…ということを感じています」(木村さん) シンデレラと言えば!のタイムリミットの12時を告げる場面など、確かに芝居にリンクした物語る音楽と振りという印象を強く受けます。また、見どころとして木村さんがお話してくださったのは。
「それぞれの幕切れの美しさもとても魅力的です。1幕では馬車が颯爽と去っていき、2幕はシンデレラが残していった靴を持ち立ちつくす王子の姿、3幕も星空を見上げる二人の姿で終わります。どれも次の展開を期待させる余韻があって素敵です」(木村さん) お互いについては…。
「木村さんが学生、研修生の頃から一緒に踊っているので、こうして組めることがうれしいです。どんどん飛躍していく彼女の成長を見守りつつ、より美しく見えるように全力でサポートしたいと思います」(中家さん)「本当にこれまでにもたくさんの作品でお世話になっていて、中家さんとは学生時代に一緒にロシアの国際バレエフェスティバルで踊ったこともあります。その頃からずっと頼りにしている、面白い(笑)お兄さんのような存在です。『ドン・キホーテ』の主役で組ませていただいたときも、私がとても緊張していると「落ち着いて」と話しかけてくださって、いつも助けられています。今回、王子とシンデレラとして一緒に踊れることをすごく楽しみにしています」(木村さん) リハーサルでも、なにやら中家さんが木村さんにたくさん話しかけていらっしゃいました。
「それは僕の特徴かもしれません。僕、すごくしゃべるんです(笑)。もちろん決められた振付があるのですが、ダンサーに任されている部分もあります。そこで僕らはどうするか。見つめ合うところから、次のタイミングでは前を見ようとかそんなことを話しています。ほかにもパ・ド・ドゥのときなど、ちょっと後ろに傾いていたり、呼吸が止まっていたり、気づいたことを伝えています。女性ダンサーはハードに踊っていたり、緊張していたりすると自分の状態を見失うことがあり、それを伝えることで我に返ることが多いんです。身体を支えている、つまり触れているからわかるんです。そこをフォローすること、それが後ろにいる人間ができることのひとつです」(中家さん) 物理的に後ろで支えているだけでなく、精神的にもサポートする。パートナーシップというものはこうして築かれていくのですね。
さて、物語に話を戻しますと。第三幕は、再びシンデレラの家。
ドレスももとの灰色の服に戻ってしまい…
(ここだけの話、それでも素敵♪)
お姉さんたちを見つめる笑顔♪
「物語をお客様に伝えることを大切に踊っています。一幕と三幕、シンデレラが箒で一人遊びするところなど、不幸な境遇ながら芯が強く、ポジティブに生きている彼女の内面がよく表れている振付です。そこをきちんと表現したいと思います」(木村さん) 華やかな場面に目が行きがちですが、シンデレラの日常も大切にされているのですね!お姉さんたちに対しても優しいですよね。
「シンデレラはお姉さんたちのことを好きだと思います。(彼女の中に)ある程度の邪気を払うフィルターはついているのかな(笑)」(木村さん) 純粋な少女の笑顔、木村さんのシンデレラはとても表情豊かで素敵です。
サイズの合わない靴を無理やり履こうとする姉。
もしや…
一連のドラマが、お写真だけでも伝わってくるような豊かな表現。ここに音楽やマイム、ダンスが加わると、さらにドキドキキュンキュンしてしまいます。
二人を見守る仙女:細田千晶さん
めでたしめでたし♪
最後に、木村さんと中家さんに今年の振り返り・来年への抱負をうかがいました。
「とにかく健康第一です。心身ともに健康に一年間過ごせたらと思っております。
実は、先日、風邪をひき声が出なくなってしまったんです。でも、声が出ないのがちょっと面白くて、その声で歌ったりして。周りに止められましたが…。ついつい、ハスキーボイスで遊んでしまいました(笑)」(中家さん) 中家さんのポジティブなところが前面に出たエピソード、ありがとうございます!
「今年はさまざまな役、それもすべて初役に挑戦する機会をいただき、踊りももちろんお芝居の部分でもたくさん勉強させていただきました。『シンデレラ』も私と中家さんは初役です。経験されている周りの方々に教えていただいたり、見て自分で研究したり、本当に日々勉強です。
また、現在、同時進行でリハーサルをしている『ニューイヤー・バレエ』も含め、一日中初めてのことに取り組んでいると切り替えが大変です。でも、誰でも最初は初役なんですよね。とにかく目の前にあるものを一生懸命頑張ろうと思います」(木村さん) ひと作品ごとに真摯に取り組み、それを糧として大きな飛躍を遂げた木村さん。いつも言葉を丁寧に選びお話してくださる姿勢は変わらないのですが、役としてリハーサルに臨む姿からは、確実に真ん中に立つ人のオーラが増しているように感じます。
互いをよく知るお二人が初役で挑む『シンデレラ』、本番が楽しみです!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人