開幕まであと1ヶ月!
2014年トニー賞オリジナル楽曲賞・編曲賞を受賞したミュージカル・ラブ・ストーリーがついに日本上陸。ミュージカル『マディソン郡の橋』合同取材会が開催され、山口祐一郎さん、涼風真世さんが、舞台版ならではの魅力や、お互いの“純愛ポイント”まで、たっぷりと語ってくださいました。
◆ まずは、山口さん、涼風さんがそれぞれ考えるこの作品の「魅力」から…
山口: 「この作品のここが魅力」「ぜひここをご覧ください」と、提供する感動を決めるのではなく、観る人それぞれに感じてほしい。そんな作品です。
原作小説や映画もたくさんの人に愛されていますが、この物語に出会った時期や、その時の自分の立ち位置で、みなさんそれぞれにちがうことを感じたはず。僕自身も「いったいどんな形になるのか」「何が起こるんだろう」、そんな思いで稽古をしています。
涼風: 山口さんがおっしゃったとおりで(作品から感じることはそれぞれに違う)、私としてはこれは「大人の初恋」「純愛」だと捉えています。フランチェスカは、ロバートとの出会い、あの4日間の純愛があったから、その後の人生を生きていけたのではないかなと思っています。
山口: きっとみなさんにも日常生活とは別枠の「大切な思い出」がありますよね? 僕も小学校の頃に…誰か、止めてください! 止めて…(笑)
アイオワに暮らす平凡な主婦・フランチェスカと、ナショナル・ジオグラフィックのカメラマンのロバート。それぞれの役柄の捉え方にも、役者としておふたりの個性とキャリアがにじみ出ます…!
山口: 当時はまだ「女性はこうやって生きるべき」という無言のプレッシャーや、男性との役割分担などがあった時代。とくにフランチェスカが住んでいるのは、見渡す限りコーン畑で、隣近所と家自体は離れていても、例えば朝食になにを食べたか、街でなにを買ったかなど全部がわかってしまうような、昔ながらの共同体。
一方、僕が演じるロバートは、仕事で世界中を歩きまわっているカメラマンで、一般的な社会規範のギリギリのところにいる人間。家族もいないし、地域のコミュニティのメンバーでもない。以前に結婚はしていたけれど、すぐに別れてしまい、それからずっとひとりでいる。そんな彼が、典型的な農村地帯で主婦として生きるフランチェスカにばったりと出会ってしまう…という役柄です。
物足りなさを感じつつも、いったん引き受けた「家族との人生」を生きていこうとしているフランチェスカのもとにロバートが現れてしまい、お互いに湧き出てしまった気持ちを止めることができない。でもそれをどうやって止めるか…。稽古場でもフランチェスカ(=涼風さん)に「ごめんね」と謝ってます。「僕(=ロバート)がこんなところに出てきてしまったばっかりに…」って(笑)。
涼風: フランチェスカは18年間、夫とふたりの子どものために頑張ってきた女性です。何不自由なく生活しているけれども、どこか物足りないものを抱えていて…何かがおきてほしいわけではないけれども、でも何かを待って生きている女性ということですね。誰もがきっと、日々の生活のなかでそんなことを感じることがあるのではないでしょうか。
イタリア出身で、結婚してアメリカに来たフランチェスカと同じように、私も子どもの頃から引っ越しが多かったんです。まったくちがうようで、どこか自分に似たところもある彼女に親しみを感じますし、女性としての気持ちも分かります。フランチェスカは主婦ですが、私も料理や洗濯、掃除ももちろんしますので(笑)、そういう意味では共通点があるかもしれません。見てくださるみなさんにどう捉えていただけるかはわかりませんが、舞台に立つ姿が自然にフランチェスカであればいいなと思っています。
山口:フランチェスカはナポリの人なんですよね。ミラノではなくて。海の街ナポリ。
涼風:ミラノ、ではないです(笑)。
海の街から見渡す限りのコーン畑へ…フランチェスカのこころをひも解く何かがありそうですね。それはのちほど語られる音楽的特徴にも。
原作小説、そして映画も大ヒットしたこの作品ですが、「舞台版ならではの魅力」を、山口さんは
「ロバートとフランチェスカの関係をピュアな形で見せるために、ほかの登場人物の生き方を否定したりしないところ」と語ります。
山口: 登場人物ひとりひとりが、ほんとうに誠実に生きている。フランチェスカを家族から孤立している寂しい女性として描くのではなく、家族全員が「良いお父さん」「良い息子、娘」で、それぞれ魅力的なんだけれども、どこかでちょっと噛み合わない。舞台版ではそんな描き方をしているんです。
原作では「女性はこうあるべき」「子を持ったあとの夫婦の関係はこうあるべき」といった当時の規範とそれに対する批判的な色が濃厚に描かれていて、映画版でもそういった部分を際立たせる描写があるのですが、いま、この2018年にこの芝居を上演するにあたって、そういった当時の社会規範に対する反省、批判的な気持ちはすでに僕たちのなかにある。その上で、登場人物全員が、その人なりに一生懸命に生きている人間として描かれています。それがこの舞台版の魅力だと思います。
同じく舞台版ならではの魅力として、2014年のトニー賞ならびにドラマ・デスク・アワードでオリジナル楽曲賞・編曲賞を受賞した楽曲の魅力についても(作詞・音楽は「ラスト5イヤーズ」「パレード」などのジェイソン・ロバート・ブラウン)。
涼風: やはりミュージカルですから楽曲の素晴らしさ。幕があいてすぐにフランチェスカがイタリアから来た経緯を歌うナンバーがあるのですが、彼女の不安や葛藤がイタリアの匂いを感じさせるような楽曲にのせて表現されます。フランチェスカの歌はおもに三拍子なんですよ。そんなところにも作曲家の思いが込められている気がします。でも、この三拍子がむずかしくて…(笑)。素晴らしい曲であればあるほど、日本語を音符に乗せたときに違和感が出ないよう、いま消化して、戦っているところです。
山口: 3/4拍子ではじまった曲が、4/4拍子になって、7/8拍子になったり…。7/8拍子なんて、やめてくれ! って(笑)。でも人間関係と同じで、難易度が高いほど、カチッとハマったときの一体感が嬉しいでしょ? あの感覚を稽古場で楽しんでいます。
『エリザベート』『モーツァルト!』『レディ・ベス』『レベッカ』『貴婦人の訪問』…これまで数々のミュージカル作品で共演してきたおふたりですが、意外にも(?)愛し合う恋人同士を演じるのは、これが初めて…?
<エリザベートも、貴婦人の訪問も、“普通のカップル”ではないですよね。“かつて”愛し合った、とか、“死”が“皇后”を愛した、とか…。あ、そういう意味では今回のロバートとフランチェスカも普通の恋人同士、というわけではありませんが…> 初めての
“純愛”を真正面から演じるおふたりに、お互いの魅力についても語っていただきました。
山口: 「いま」で良かったと思うんです。もっと前にこの作品で共演していたら、(涼風さんが魅力的すぎて)きっと人生をだめにしちゃったんじゃないか、と(笑)。いまはいろいろな意味でコントロールが効きますから。もうちょっと早かったら危なかったな…とつくづく思います。
みなさんにぜひお伝えしたいんですが、「良いもの」は自然に見えるんです。涼風さんはそれがもう無意識にできてしまう。気がつかないくらいに自然なんです。僕もこの年齢になったので、「あ、なるほどね」と、少しはわかりますけど(笑)。ですから女性のみなさん、ぜひ劇場で涼風さんのテクニックを盗んでください。きっと人生の色、質感が変わると思いますよ。
<このとき、恐縮しきりの涼風さんがとってもかわいらしかったことをここに報告いたします。>涼風: これまでに何度か共演させていただいていますが、こんなに(山口さんの存在を)間近に感じられることは初めてなので…ドキドキしています。
山口: 僕も、です!
(柔らかな微笑み)涼風: いま、山口さんのお顔が見られません(笑)。これが純愛なのかもしれないです。もう、照れるなあ! …という心境で毎日お稽古に臨んでいる涼風真世です。
<ちなみに、涼風さんの「照れるなあ!」の声が男役っぽくて、キュルンっ♪とした宝塚ファンです(笑)> 最後に改めて作品の魅力、意気込みを。
「パーソナルな部分が出てしまう」「自分がどうなってしまうのか、まだわからない…」…気になるキーワードがたくさん!
山口: 作品との向き合い方っていろいろありますよね。自分に引き寄せたり、あえて離れてみたり。この作品の場合は、個人的に、自分自身にフィットする部分がたくさんあるんです。それはとてもパーソナルな部分なので、できれば(取材の場では)触れたくない(笑)。それくらい個人的な感情です。稽古のあと、夜中に台本を読んでいるときなんかに気がつくんです。「なぜあのセリフで引っかかったんだろう」って。その理由はやはり僕自身ですよね。日常生活で無視していた気持ちが引き出される。「祐一郎くん、きみはこのことにこだわっているじゃないか」「あのことが、まだそんなにも心に刺さっているんですか」と自問自答できる。それがどの部分かは、ぜひ劇場で「あ、いま額から汗が流れたな」とか「なぜこのセリフで言い淀むんだ?」というところを見つけていただいて(笑)。汗の分量が増えてきたら「あ、このセリフだな」と(笑)。
涼風: 生まれて初めて、「演劇とはこういうもの」「演じるとは」「ミュージカルとは」ということから離れた場所からスタートしています。 自分がどうなってしまうのか、まだわからない…。
山口: 以下同文、でございます。
涼風: もう(笑)!
◆ お互いへの信頼と尊敬、そんなことを感じられた、山口祐一郎さん、涼風真世さん、おふたりの取材会。
「運命の恋」「大人の愛」、そして「人生の選択」を、じっくりと見せてくれそうなミュージカル『マディソン郡の橋』は、2月24日(土)から26日(月)のプレビュー公演(シアター1010)を経て、3月2日(金)にシアタークリエにて初日を迎えます。
(大阪公演は3/28(水)から4/1(日)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演)
♪ミュージカル『マディソン郡の橋』
作品詳細についてはこちらのおけぴ観劇会紹介ページもぜひどうぞ。
(観劇会は満席となりました。ありがとうございました!)
おけぴ取材班:mamiko(文)chiaki(取材・撮影) 監修:おけぴ管理人