2016年注目の作品、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』にてザ・フォー・シーズンズのリードヴォーカル、フランキー・ヴァリ役を演じる中川晃教さんにお話をうかがいました。デビュー15周年を迎えるタイミングで出会うこの作品、この役を“ひとつの集大成”ととらえる、中川さんの胸のうちは。
【ミュージカルで自分がなにを求められているのかがわかったときに、何かが変わった気がします】
──デビュー15周年、おめでとうございます。中川)ありがとうございます。おかげさまで15周年です。
──シンガーソングライターとしてデビューされ、その後、舞台俳優としての活動をスタート、ミュージカルやストレートプレイなど様々な作品を経験されてきましたね。これまで携わってきた作品を振り返っていかがですか。中川)僕にとって初めてのミュージカルとなった『モーツァルト!』でヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを演じたのは19歳の時です。そこから、今、33歳になるまでの一つひとつの作品が鮮明に記憶に残っています。
作品との出会いというのは、新しい自分、新しく一緒にお仕事をする人たちとの出会いなんですよね。中には再演となる公演もありましたが、それですら、最初に演じてから歳を重ねた自分だからからこそ役に対して感じられることがあったり、演じきれるようになったり、そしてそれによってカンパニーが変わってくる。僕にとってはそういうことを含めて新しい出会いなんです。どの作品に対してもそれを大切にしてきたので、それぞれが際立っているんです。
──そうなると、特に印象的だった作品というのは酷な質問になりますね。中川)うーん。
すごく大変だったな、つらかったな、楽しかったなという視点で思い出してみると(笑)。
大変だったのは天草四郎を演じた『SHIROH』(2004年、演出:いのうえひでのり)、つらかったのはチンピラ役をやったストレートプレイ『死神の精度』(2009年、演出:和田憲明)、すごく楽しかったのは…のこり全部です(笑)。
──大変さやつらさを感じたのは、役柄とご自身の距離感とか。中川)それもありますよね。あとは、やりたいことは自分の中にあるのだけれど、それがうまくできなかったことに対する苦しさです。でも、いっぱい苦しんだ先に答えを見せてくれた作品でもあるんです。演出家さんやカンパニーのみんなの手助けでね。
──自分の言葉ではない、自分のメロディではない歌を歌う、そこに対する葛藤は。中川)最初のころはあったと思います。
デビューして、いや、その前からかな、僕が思い描いていた自分自身は、ピアノに向かって曲を作り、歌うことでメッセージを届ける。そんな歌を作り続け、歌い続けるのが中川晃教だと当たり前のように思っていましたからね。
でも、いつのタイミングかは覚えていませんが、ミュージカルで、自分がなにを求められているのかがわかったときに何かが変わった気がします。
──何が起こったのでしょう。中川)ひと言で言うと、ミュージカル作品を作り上げる中で「ここはこうなんじゃないかな」という自分の感覚に自信を持てたのかな。ヨーイ、ドン!で自分が感じたもの、思ったものをバンと出す、とにかくやってみる、やって判断しよう。そこには恥ずかしいとか、照れとか、気負いはいらないんだと思えたんです。
その自信の裏付けになったのは、それまでの経験と実力、実力というとちょっと語弊があるかもしれないけど。そういうのがいい塩梅で伴ってきたんだろうな。
そこに行きつくまで、突き詰めていく過程ではもがきましたね。自分ではなく俳優として芝居の中で歌う、お客さんにその役の人間性が見えてくるよう、心が伝わるように歌うことが必要になり、そこではもはや“歌”というだけではなく、全体の“声”のアンサンブルっていうのかな、自分の歌声もひとつの楽器としてミュージカル楽曲を作るような感覚だったので。
──“もがいていた”ということに少し驚きも感じます。舞台上ではいつも自由に役を生き、歌っていて。中川さんは“天才”と称されることが多いですよね。中川)もがきましたよ(笑)。
まず、技術を磨くための勉強、そこへの努力はつねに怠らないようにしてきましたし、それはこれからも続きます。そして僕自身の人生で起きる、いいことも悪いことも表現者としての血肉にしていくということも。そこは孤独な作業だよね。
その一方で、作品を経験していく中で、最終的なゴールはみんなで描いていくということも学びました。結局は誰と何を作るかってことなんですよね。そこから生まれた素敵な思い出がたくさんあるんですよって、今は言えるけど、そう言えるまでの苦しみ、苦しみっていうのはちょっと大げさかもしれないけど、かつてはいろいろとありましたよね(笑)。
そして自分に求められていることに応えることでカンパニー全体がいい方向に変わっていく。カンパニーが目指すものが明確になる。自分がそういうピースになれることが分かったときに、ミュージカルが楽しくなってきたんです。
エンターテインメントとして、芝居、音楽、いろんな要素を含むミュージカルの世界での自分の役割がようやく見えてきたってことです。
今度は、そこで経験してきたことを音楽シーンの中で活かす番だと思っています。ミュージカルをやってきた自分だからこそできる音楽を、音楽シーンで見つけていけたらなという気持ちです。(3月9日に
アルバム『decade』発売!!)
──ご自身の音楽ライブと舞台活動、どちらも続けるってハードですよね。肉体的にも…。中川)精神的にもね。つらい時期もあったねー(笑)。
──それを経ての15年目。中川)僕の中では、ようやくここから!です。
最初はいろんな意味で恵まれていた、その中でデビューできたんだと思うんです。
よく“一握り”って言うじゃないですか、この仕事って。一握りの人たちが世に出ていくって。僕が最初に一握りの中に掴んでもらえたとして、その中で残っていくにはどうしたらいいだろうって、若い頃から考えていたんです。
僕にとってそれは、ミュージカルでの経験が大きいなと、今、思うんです。
【フランキー・ヴァリの歌を聞いた瞬間、直感的に、この作品、この役は僕の集大成になると思ったんです】
──そのタイミングで今年、『ジャージー・ボーイズ』でフランキー・ヴァリという役を演じることになりました。中川)実は『モーツァルト!』をやっていたころに、何気ない会話の中でプロデューサーさんに「ブロードウェイで『ジャージー・ボーイズ』を見てきたんだけど、これアッキーやらない?」と言っていただいたことがあるんです。
その時は僕の中でミュージカルはいっぱいいっぱいで、そこから『ジャージー・ボーイズ』を見に行こうとか、調べてみようという余裕はなかったんですよね。
そして、あの時のあの作品と、経験を積んだ僕が今こうして出会う。
やっぱり“来るべくしてくる”“やるべくしてやる”という、タイミングや縁ってあるんだと思いました。
──今回は、「即、やります!」と。中川)はじめは周りの方の「これを中川に絶対やらせたいんだ!」という強い強い想いを感じて、それに対して「やりましょう!」って感じでした。
そこから『ジャージー・ボーイズ』について調べていくなかで、フランキー・ヴァリの歌を聞いた瞬間、直感的に、この作品、この役は僕の集大成になると思ったんです。これまでの15年の経験のすべてを注ぎ込めばこの役を作りあげられる!やってきた一つひとつの仕事があったから自分はこの作品をやるんだ、出来るんだというはじめてキタ感覚にうれしくなりました。
──それはやはり“運命”ということになりますか。中川)“運命”といったらきれいですし、確かにその実感もあります。
ただ、もうひとつ実感を持って思い浮かんだ言葉があって、それは“努力”。僕自身の努力だけではなく、マネージャーはじめ、周りの努力もすごくあります。僕、いろんな失敗もしてきましたけど、その失敗も含めて見続けてくれる人たち、それでも一緒にやろうと声をかけてくれた人たちの努力、想い。そういうものが15年の中にはギュッと詰まっている、決して一人の力ではないんですよね。
そこで『ジャージー・ボーイズ』ですよ!この作品はザ・フォー・シーズンズという4人グループの物語なんです。
そして、4人それぞれの人生がひとつになったものが“ザ・フォー・シーズンズの音楽”、それがこのミュージカルの柱であり魅力です。
つまり、大事になるのはアンサンブル、ハーモニー、コーラスを演出の藤田俊太郎さんのもと、メンバーのみんなとどうやって作っていくか、そのためにどう向き合っていくかということなんです。
──音楽的な調和と人間関係の調和の両方を見せてくれるのがミュージカル『ジャージー・ボーイズ』ですよね。それこそミュージカルの醍醐味です!!中川)そう!!そこまで行かないと、つまらないんだよね!
──そして、2つのチーム、それぞれのアンサンブルが楽しみです!中川)REDとWHITEそれぞれのチームで個性が異なりますよね。共演したことのある人も初めての人もいますが、それぞれ“4人でやるべきこと”という視点で作品作りを始めようと思っています。
稽古ってもちろん限られた時間なんですけど、でも焦らずに確実にそれぞれのザ・フォー・シーズンズを描き切れるように、自分の中で余裕を持ってこの作品作りに臨みたいんですよね。
逆に言うと、それくらい、自分自身がやるべきことは明確に見えているんです。
だからこそ、ほかのメンバーが何を作ろうとして何に悩んでいるのかをキャッチできる、広い視野をもった状態でそこに居たい。お互いを感じ、理解してはじめて4人がひとつになれると思うんです。
【『ジャージー・ボーイズ』、フランキー・ヴァリ役には、運命、縁、トキメキを感じています!】
──フランキー役、中川さんにピッタリだな!でも両チームともにご出演で大変そうだなと、そのくらいの考えでおりました。中川)確かに、「アッキーそのままでいけるよ!」と言ってくれる方もいるんです。
僕が考えているようなことは気にせずに、「アッキーのフランキーをそのままバンと出して、みんなついてきて!」でいいんじゃないかって。
でも、いろんな作り方を経験し、見てきたなかで、たとえば吉原(光夫)さんとは初めてですが、お芝居への妥協のない姿勢がすごく魅力的ですよね。
そんな吉原さんとどうやって、どんなザ・フォー・シーズンズになっていくか。そのために限られた時間でお互いにどこまで深く理解しあえるか、そこを楽しまないと損だなって思うんです。だから、それって仕事なの、プライベートなのって考えたとき、僕は単純に仕事だと割り切れないと思うんですよね。そうしないとザ・フォー・シーズンズにはなれない気がするんですよね。
──今、吉原さんのお名前が出ましたが、RED、WHITE、それぞれほかのメンバーにはどのような印象をお持ちですか。中川)トミー役でいうとREDは(藤岡)マサ。
僕はマサがどういう人間かということをだいたいわかっているし、マサがこの脚本と音楽をどう表現するかということ、そして彼の実力に対して絶大なる信頼をおいているから、マサのトミーに感じるのは“安心”なんですよね。任せた!って。
逆に、WHITEの中河内(雅貴)くんは、これまで『VAMP』や『SAMURAI7』で共演していますが、藤岡マサとはまた全然違う魅力があるんです。彼のもっている内面的な強さや役のキャッチのし方、身体全体で役と向き合う姿勢は本当にすごくて。僕、そういうところが大好きなんです。
ボブ役は矢崎(広)くんと海宝(直人)くん。REDの矢崎くんは、この間『ドッグファイト』を見てきましたが、今はまだまだ伸びしろいっぱいの段階だと思うんです。変な意味じゃなくてね。でも、力のある若手俳優と注目されるだけの強い魅力を放っていたんですよね。だから矢崎くんが発信するものを受け止めてほかの二人と共有していくことがすごく楽しみなんです。
WHITEの海宝くんは、マリウス、アラジン、そしてシンバとまさに若手のホープですよね。その彼が『ジャージー・ボーイズ』に出るんです。見た人に「海宝くん、ジャージー…のボブもすごいイイね!」って言わせないと盛り上がらないと思うんだよね!海宝くん自身もしっかりと準備してくるだろうけど、さらに彼のイイ面をグッと引っ張り上げられる人たちが4人の中にいる状態じゃないといけないと思うんです。先輩である福井(晶一)さんの力、胸を借りたいなと思いますし、中河内くんに自由に思いっきりやってもらうことで生まれる面白さにも期待しています。
本当に4人一人ひとりの存在がすごく重要なんです。
──なんだか、すでにはるか上のステージにいらっしゃるんですね。中川)いやぁ、これは上とも言えないんですけどね(笑)。
僕には不器用なところもあるんです。でも、学んできたこと、少しずつ免疫を付けてきたことがあるので(笑)、なんかそういう人間としての余裕なのか、逆に言ったら人間臭さなのかわからないけど、そこも含め、現在の中川晃教で臨む『ジャージー・ボーイズ』という作品、フランキー・ヴァリ役には、運命、縁、トキメキを感じています!
【おまけ】チラシを見ながらトーク!
中川)このキャスティングって、じわじわくるよね。いやぁ、よくぞ!って感じ。
特にミュージカルを見続けているお客さんほど“じわじわ”じゃないかな。
このキャストのバランス、誰かが主演のミュージカルを作ろうじゃなくて、『ジャージー・ボーイズ』という作品を作ることを第一に考えられているよね。
だからさ、頑張ろっ!
楽しくいこう!!
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影) JB2016