2013/10/22 『唐版 滝の白糸』観劇レポ

『下谷万年町物語』『盲導犬-澁澤龍彦「犬狼都市」より-』に続く、
唐十郎さん&蜷川幸雄さんの黄金タッグ再び!
ふわふわと舞台上に漂う、まるで詩のようなセリフの数々。

「夢か現か幻か・・・」
唐十郎ワールドならではの浮遊感に包み込まれる
舞台『唐版 滝の白糸』!

化学反応しあう3人の表現者!
(写真左から: 窪田正孝さん 大空祐飛さん 平幹二朗さん)


宝塚歌劇団退団後、この作品が本格的女優デビュー作となる大空祐飛さん、
まだ何色にも染まっていない、真っ白な魅力を持つ若手注目俳優・窪田正孝さん、
そして演劇ファンなら一度はその演技を生でみておきたい名優(怪優!)平幹二朗さん。
まさに「異種格闘技戦」といえる、
3人の表現者の共演も話題となったこの舞台。

「いったいどんな世界をみせてくれるのか」

未知なるものへの期待と不安ではちきれそうな観客が劇場で目にしたものは、
役者の身体を通ってこちらに放り投げられる、
めくるめくイメージの洪水でした!

それぞれの役柄を簡単に説明しますと・・・
「同棲をしていた男と心中を図り、自分だけが生き残ってしまった女・お甲(大空祐飛さん)」
「死んだ男の弟で、お甲から兄に貸していた金を返してほしいと迫られる少年・アリダ(窪田正孝さん)」
「アリダが子供の頃に、彼を誘拐しようとして逮捕された謎の男・銀メガネ(平幹二朗さん)」

今にも崩れ落ちそうな長屋の前に集まったこの3人の、
それぞれの思惑、奇妙にくすぶる生き様が、
唐十郎さんによる、暴力的にリリカルな台詞に乗せて語られるのですが、
ストーリー展開を追うつもりで観ていると、
少々頭が混乱するかもしれません(笑)。
といっても、決して難しい話というわけではないのです。

乳飲み子を抱え、ミルク代にも困窮した挙句、
世話を焼いてくれる小人プロレスラーたちと巡業に出るため
旅費が必要になったお甲と、
お甲に渡すつもりで金を用意してきたものの、土壇場で迷い始める少年・アリダ、
そして金の行方が気になる銀メガネ。
異なる立場の3人の、回り道をしているようで核心を突く
言葉遊びを盛り込んだ台詞のやりとりが続き、
やがてお甲は、自分が持つ唯一の芸である水芸・滝の白糸を披露することで、
なんとか金を引き出そうとします・・・。

「それでは皆様、手首の蛇口をはずしましょう!」

崩れ落ちる世界、満開に咲くあやめの花、飛び散る水しぶき――、
その時観客は、ただ息を呑んで舞台の上を見つめることしか出来ないのです・・・!

「しかし、芸はやはり なければいけませんわ」
お甲のセリフが今も耳に残ります…

宝塚時代、役作りへの細やかなこだわりで
究極の男役芸を完成させた大空祐飛さん。
女優デビューとなるこの舞台では、
弱さと強さ、狡猾さと優しさ、美しさとおぞましさ・・・と、
お甲の持つたくさんの“色”を、
元・宝塚歌劇団宙組トップスターという肩書にしばられない、
体当たりの演技でさらけ出すようにみせてくれます。
もちろん長屋の○○○からバーン!と登場するシーンは文句なくかっこいい!
そしてあっと驚くラストのスペクタクルでは、
ゾクゾクっとするような表情で、
その凄惨な美しさを存分に堪能させてくれました。
女優としての未来を感じさせる危うげな美しさ、
きっとこれからぐいぐいと女優芸を作り上げていくであろう表現者の、
“今しかみることのできない” その魅力、必見です!

さらに嬉しい驚きだったのが、アリダ役を演じる窪田正孝さん。
舞台上での生々しい感情の発露は、
これまた “今しかみることのできない” 若き表現者の旬の魅力!
物語冒頭から出ずっぱりで、約40分にわたり、
平さんと2人きりでの台詞のやりとりがあるのですが、
その虚構と現実が重なりあうような存在感で
“名優・平幹二朗” と堂々と渡りあう姿、これがすごくいいのです。
物語の後半に向けて、舞台の上で確実に変貌していくアリダと
俳優として成長していく窪田さんの姿が
絶妙に重なりあう演劇的なマジック、
クライマックスで彼がみせる熱量には、
ぐぐっと引き込まれる快感がありました。

この未知数の可能性を持つふたりをドーンと、
そして飄々と受け止めるのが平幹二朗さん。
ダイナミックでありながらも
「演じる人物が本当に存在する」と当たり前に感じられる演技が
俳優・平幹二朗の魅力ですが、
今回は60年以上の俳優人生の中でも、ほぼ初めて演じるという
“不条理” で “前衛的” な唐十郎ワールドの住人です。
詳細な役柄設定や、それを感じさせる台詞などが殆ど無い “銀メガネ” という役。
最後まで明かされない謎だらけの役柄でありながら、
彼の存在こそが、お甲とアリダを “クライマックス” へと誘導していった…、
そんな気持ちにさせられるのは、
やはり平幹二朗さんの強固な存在感あってこそ。
そう思いながら客席でガクガクと頷いたおけぴスタッフでありました。

この3人のほか、
どこかとぼけながらも凄みのある演技で客席を圧倒する鳥山昌克さん、
コミカルなやりとりで緊張感をゆるませる井手らっきょさん&つまみ枝豆さんら、
個性豊かなキャスト。
そしておけぴスタッフの “胸震わせポイント” だった、
マメ山田さん率いる小人レスラーたちが、自分たちの影と戯れる美しいシーン、
朝倉摂さんの手によるノスタルジックな美術など、
見どころたっぷりの1時間50分。

13年ぶりにその姿をあらわした伝説的舞台『唐版 滝の白糸』は、
10月29日までシアターコクーンにて、
その後11月12日から16日まで大阪・シアターBRAVA!にて上演されます。

詩的な台詞と、演劇的マジック。
ゴツゴツとぶつかり合う表現者たちがみせる「伝説」をお見逃しなく!

<公演情報>
『唐版 滝の白糸』
10月8日-29日  Bunkamuraシアターコクーン
11月12日-16日  シアターBRAVA!

<出演>
大空祐飛/窪田正孝/平幹二朗
鳥山昌克/つまみ枝豆/井手らっきょ/マメ山田/プリティ太田/赤星満/ミスター・ブッタマン
澤魁士/野辺富三/谷中栄介/浦野真介/堀源起/砂原健佑/續木淳平

<スタッフ>
作:唐十郎
演出:蜷川幸雄

<物語>
静まり返った長屋の前の路上を、少年・アリダが歩いている。
「どうして僕をつけるのですか」
アリダが振り返って叫ぶと、そこには銀メガネをかけた男が立っていた。
十年前に幼いアリダを誘拐しようとした男である。
今日はアリダの兄の一周忌。
兄は同棲していたお甲と心中を図って死に、お甲だけが生き残った。
お甲は兄との間にできた子のミルク代にまで困り、
兄に貸した金を返して欲しいとアリダに言ってきたのだった。
銀メガネは言を弄してアリダが用意してきた金を預かってしまう。
そこにお甲が現れる。お甲は時に優しく時に厳しく。
さらに哀れを誘うように金をねだる。
明日は、お甲の隣人のアトムたちがプロレス巡業に出発する日。
彼らに旅費を渡したいお甲は、
自分の唯一のとりえである水芸と引き換えにお代をもらおうと決心する。
そしてー。
「できます。踊ります。この白糸太夫は!
万事はこの一事から!それでは皆さま、手首の蛇口をはずしましょう!」
「菖蒲はどこだ、この夜をあやして守る。ぼくらのあやめは!」
忘れ去られた町で、お甲と孤独な少年・アリダの魂が邂逅するその時
流し台が宙を舞い、水芸の水は赤く染まるー。

シアターコクーン 公演詳細

梅田芸術劇場 公演詳細


おけぴ取材班:mamiko 監修:おけぴ管理人

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