2014/02/07 新国立劇場『アルトナの幽閉者』稽古場レポート

新国立劇場が三人の若手演出家にその力量を思い切り発揮してもらおうという企画!
「Try・Angle ─三人の演出家の視点─」シリーズの第三弾『アルトナの幽閉者』
稽古場へお邪魔してまいりました。

舞台は第二次世界大戦後のドイツ。
戦時中の心の傷から、13年にわたり自室に引きこもったままの主人公フランツと
その家族を描く問題作。

敗戦国、拷問や虐殺、その後の経済発展・・・彼らの物語は果たして遠いのか、
近いのか。今の日本の観客にどう響くのか非常に興味深い作品です。
とはいえ、展開するのは自らを幽閉する主人公フランツ、
そんな彼との対面を切に願う父、ひたすらに兄の面倒を見る妹、
そして兄の影から逃れられない弟とその妻という家族の物語

「家族」という個人的な視点と、「国」「社会」という大きな視点。
そのどちら側から見ても観劇後に心がざわざわし続けるような独特の感覚を
味わえる作品の稽古場は、声のアンサンブルが心地よい、なんとも幸せな空間でした。



フランツ役には岡本健一さん。
取材班を温かく迎えてくれた優しい笑顔から一転・・・お芝居が始まるとその表情はもちろん、
全身から醸し出す空気ががらりと変わります。
感情の起伏が激しく、果たしてどこまでが正気でどこからが狂気なのか・・・。
観ていてすんなりと感情移入できるタイプの役柄ではないのですが、
怒りや狂気のその奥にある哀しみや葛藤が感じられるので
心が惹きつけられる岡本さんのフランツです。



そのフランツですが、実際には1幕などでは人々が彼とリアルに
交わることはありません。
それでも、フランツという人物の存在は決して拭うことのできない
どんよりとした雲のように舞台中を覆い続ける。
この戯曲の世界が舞台上に立ち上がるとこうなるんだ!
演劇の力を感じた瞬間です。

長男・フランツとの対面を強く望む余命わずかな父に辻萬長さん。


辻萬長さん

ドイツ最大の造船会社のトップ、喉頭癌に侵された自身の後継者を
決める家族会議が最初の場となります。
一見柔和で人当たりの良さそうな語り口ながら、
傲慢さが端々に見え隠れする父親を辻萬長さんがゆるぎない存在感で創り上げます。
この役だけ名前はなく “父” である意味もじっくりと考えたくなります。

フランツの弟・ヴェルナーには横田栄司さん。

横田栄司さん、美波さん

美しい妻をもち、有能な弁護士でありながらゲアラッハ家に縛られるヴェルナー。
次男の柔らかさや弱さ・・・人間味あふれる人物です。

ヴェルナーの妻・ヨハンナには美波さん。
元女優という設定にピッタリの麗しき容姿
とりわけその瞳には吸い込まれてしまいそう。
2幕ではヨハンナがフランツの部屋を訪ねます。それがもたらすものは・・・。


美波さん

強さと魔性を持ち合わせる美波さんのヨハンナ。
稽古場を後にしてからもしばらく彼女の求めるものについて思いを巡らせた取材班です。

フランツの世話を焼く妹・レニには吉本菜穂子さん。


吉本菜穂子さん

生き生きと動き回り、全てを知っているように見えるけれど、
どこか実体が見えてこない・・・不思議な存在感です。
吉本さんの声のトーンも独特で、対話のハーモニー抜群です!!


決して軽い話ではなく非常に難解。でも、役者さんの肉体、肉声を通して表現されることで
現代を生きる私たちの心に響いてくるサルトルのメッセージ
そんな舞台を創り上げるのは文学座の上村聡史さん(演出)。


上村聡史さん(演出)


自らが実際に動きながら、細かな立ち位置や動きを修正する上村さん

登場人物も少なく、エネルギーの抑揚が激しい。非常に微妙なバランスの上に
成り立っている舞台を丁寧に創り上げています。

もうひとつ注目すべきは、岩切正一郎さんの翻訳。
正直、“フランスの哲学者、小説家、劇作家サルトルの最後の創作劇”
ということに構えて稽古場へお邪魔したのですが・・・。

キャラクターが発する言葉の真意や真偽にフォーカスを当てると、
やはり難しいと感じるのですが、あくまでもある邸宅の中の家族の会話なのです。
なので、耳からの情報がシャットアウトすることはなく、まず受け止めることができる。
予想以上に言葉がするすると入ってきて、そのエネルギーを感じることができました。
本番の舞台を観て、もう一歩深くその言葉を咀嚼していくのが楽しみです。



グレイッシュなセットの中で個性的な声や存在感をもつ役者さんが創り上げる人物像が浮き上がります

第一弾「OPUS/作品」で小川絵梨子さんが第48回紀伊國屋演劇賞・個人賞に輝き、
第二弾「エドワード二世」で森新太郎さんが第21回読売演劇大賞・大賞&最優秀演出家賞に
輝く注目のシリーズの最後を飾る上村聡史さん演出による「アルトナの幽閉者」。

簡単には消化できない、心に大きな足跡を残すこの作品の余韻は演劇好きには
たまらないものになりそうです!

※辻萬長さんの“つじ”は本来2点しんにょうではなく1点しんにょうです。

【公演情報】
新国立劇場『アルトナの幽閉者』
2014年2月19日(水)~3月9日(日)

<スタッフ>
作:ジャン=ポール・サルトル
翻訳:岩切 正一郎
演出:上村 聡史

<出演>
岡本健一/美波/横田栄司/吉本菜穂子/北川響/西村壮悟/辻萬長

<あらすじ>
1959年、ドイツ。喉頭癌に侵され余命6ヶ月と宣告された父親は、
自らが営む造船業の後継者を決めるために家族会議を開く。
次男で弁護士のヴェルナーとその妻ヨハンナ、長女のレニが参加する中、
父親はヴェルナーに会社を継がせ、さらに自宅に住まわせようとするが、
ヨハンナに猛反発される。
一同の心に重くのしかかっているのは、長男フランツの存在であった。
彼は13年前にアルゼンチンへと出奔、
3年前に彼の地で死んだことになっていたが、
実は第二次世界大戦中に、あることから心に深い傷を負い、
以来、妹のレニの世話のもと、
ずっと家の2階にひきこもったまま狂気の生活を送っていた。
フランツを愛する父親の最後の望みは、
長男との対面と、彼の世話を次男夫婦がすることであった。
ヨハンナの説得により、13年ぶりに待望の対面を果たした父親とフランツ。
はたして一家の辿る運命は……。

作品特設HPはこちらから




おけぴ取材班:おけぴ管理人(撮影)chiaki(文)

おすすめ PICK UP

ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』初日前会見レポート

「M's MUSICAL MUSEUM Vol.6」藤岡正明さんインタビュー

こまつ座『夢の泪』秋山菜津子さんインタビュー

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』ニキヤ役:廣川みくりさん、ガムザッティ役:直塚美穂さん対談

【井上ひさし生誕90年 第1弾】こまつ座 第149回公演『夢の泪』観劇レポート~2024年に響く!~

【公演NEWS】『デカローグ 1~4』開幕!各話の舞台写真&ノゾエ征爾・高橋惠子、千葉哲也・小島聖、前田亜季・益岡徹、近藤芳正・夏子からのコメントが届きました。

“明太コーチ”が“メンタルコーチ”に!?『新生!熱血ブラバン少女。』囲み取材&公開ゲネプロレポート

JBB 中川晃教さんインタビュー~『JBB Concert Tour 2024』、ライブCD、JBB 1st デジタルSGを語る~

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』速水渉悟さんインタビュー

【おけぴ観劇会】『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』おけぴ観劇会開催決定!

【おけぴ観劇会】ミュージカル『ナビレラ』おけぴ観劇会6/1(土)昼シアタークリエにて開催決定

【おけぴ観劇会】ミュージカル「この世界の片隅に」おけぴ観劇会 5/19(日)昼開催決定@日生劇場

おけぴスタッフTwitter

おけぴネット チケット掲示板

おけぴネット 託しますサービス

ページトップへ