2012年7月17日(金)11:00
新国立劇場開場15周年「リチャード三世」制作発表レポート
2009年、日本演劇史に残る“事件”となった新国立劇場の「ヘンリー六世」三部作の一挙上演。全編上演は実に9時間にも及びました。その最終章ともいえる「リチャード三世」を上演するべく、キャスト・スタッフが再集結。
タイトルロールのリチャード三世の岡本健一さん、マーガレットの中嶋朋子さんをはじめ、ほぼそのまま同じ役を引き継いでの上演は本国イギリスでもこれまで数例しかなく、日本では初の試みとなります。この秋必見の舞台、「リチャード三世」の制作発表の模様をレポートいたします。
まずは芸術監督3シーズン目を迎える宮田慶子さんのご挨拶より
宮田さん) シェイクスピア作品の中でも単独の作品になるほど有名な「リチャード三世」。リチャードは個性的ですし、屈折した野心の持ち主で、人間の弱さとしたたかさを併せ持った非常に魅力的な人物です。
「ヘンリー六世」に登場した岡本さん演じる若き日のリチャード三世、彼を一生を通してみるとこうだったのかと楽しんでいただけるかと思います。スタッフは全員同じ、キャストも歴史の流れを感じていただけるようにほぼ同じキャストです。三部作プラス続編、最も魅力的な「リチャード三世」をお楽しみいただけると思います。
演出の鵜山仁さんからは
鵜山さん) シェイクスピアが400年以上前にこんなものを書いてくれたおかげで、またこの劇場で気心の知れたメンバーと一緒に、大嵐の中で格闘するという経験が出来ることをひたすら楽しみにしています。3年前にした得難い経験、自ずとその経験の蓄積がわれわれを支えてくれると信じています。
そして、このお三方には歴史があるっていうか、背後霊のようなものがついているんですよ、すでに(笑)。岡本さんはすでにグロスター公リチャード、グロってるし、マーガレットは中嶋さんの(色々と)背負っている感じがぴったり。浦井君はヘンリーの片鱗をきらめかせながら出てくるわけだし。不思議なものですね。
この発言にはご当人たちもびっくり!
でも、その後のお三方の発言には、それが腑に落ちるような言葉がたくさんちりばめられていました。
岡本健一さんからは、まず「ヘンリー六世」でのリチャードについて
岡本さん) グロスター公リチャードは生まれながらにして五体が満足でなく、道を歩けば犬に吠えられ、周りからは罵倒されながら育った人間。ものすごくコンプレックスを抱えた子供時代。そんな彼が上り詰めていったのは、父親の愛が大きく、それが彼を強くしたと思います。そして、父上のため、兄上のために命を削り、最後に兄に王冠を被らせました。その9時間上演の最後、僕は王冠を被りたくて被りたくてしょうがなかったのです。そして、遂に被るのです。
役作り以前に自然に沸き起こった王冠を欲するリアルな感情を携えての岡本さんの「リチャード三世」には期待が高まります!!
さらに……
岡本さん) 若き日のリチャードは剣で、力でのし上がり、今回は剣を言葉に代えて王に上り詰めていきます。シェイクスピアの台本を読んでいると言葉の重要性、力、言葉によって人がどれだけ簡単に動かされるかをすごく感じました。そして「ヘンリー六世」では、若さで王に向かっていく勢いがあったリチャードが、今度は死に向かっていくんですよね。
結局、自分が吐いた唾はそのまま自分に帰ってくることになり、因果応報なのかな(笑)、浦井君演じるリッチモンドに殺されるんです。(「ヘンリー六世」では最後に岡本さん演じるリチャードが浦井さん演じるヘンリーを殺害)自分を殺す役が浦井君で良かったなと思います。
終始頷きながら聞いていた、マーガレット役を引き続き演じる中嶋朋子さん。
中嶋さん) このリチャードという男がすごいんです(笑)。不器用だけど巧み、技を感じさせる人物です。今しゃべっていた健ちゃん(岡本さん)も、リチャードきてるなと(笑)。本当に言葉巧みで、その音色が素晴らしいのです。
マーガレットとリチャード、もし憎しみ合う立場でなかったなら最も似ていて、分かり合える存在だったなと。前回9時間の芝居の間、そう思いながら戦い続けてきました。ただ、今回はどこか語り部のように、生き証人として、中島朋子として、「ヘンリー六世」からの流れのリチャードを見届けたい。とても不思議な気持ちでいます。
とても興味深いお話を聞かせてくださいました。
浦井健治さんは前回タイトルロールとして作品に挑んだ心境を絡めながら
浦井さん) 「ヘンリー六世」三部作後、正直、ヘンリーから抜け出せない時期もあり、実際まだ引きずっている部分もあるくらい大きなインパクトのあった作品でした。今、こうしてここにいると、「ヘンリー六世」のときの記者会見のこと、その後の怒涛の稽古の日々、鵜山さんと二人、一対一で台本を読み込んだことを思い出します。
こうやって同じメンバーで、薔薇戦争の完結編としての「リチャード三世」の上演という夢のようなことを実現できる、こんな素敵なことに参加できることを誇りに思っています。
ヘンリーは死んでしまいましたが、今回はリッチモンドという人をどこかヘンリーの面影を持った人として作り上げたいです。僕がロンドン塔を訪れた時に感じた、歴史の暗黒時代、愚かな戦いの時代を生きたヘンリーの願いをリッチモンドに投影できればと思います。
さらに役作りについては
浦井さん) 前回の公演の中で、リチャードの独白、バックにはオーバーザレインボーが流れているシーンを舞台袖で見ていたら、涙が溢れてきました。
“この人(リチャード)は必死に生きた純粋な人、人間なんだ。”という思いが湧いてきたのです。そういうリチャードとどう対峙するかがリッチモンドの核になる部分だと思っています。
浦井リチャードと岡本ヘンリーの一騎打ち、心情的にも壮絶なものになりそうです!最後に岡本さんからの意気込みと鵜山さんの興味深いコメントをご紹介します。
岡本さん) 始まる前からキャスト、スタッフ、劇場と全てがパーフェクトに感じられます。それは怖いことでもありますが、その土台の上でリチャードとしてどう生きるか、どう死ぬか。その生きている姿、“生(なま)”の姿、“生”のエネルギーをぶつけたいです。演劇というものは何百年も何千年も前からあるもので、この先も何百年も何千年も廃れないものだと思いますので、生の醍醐味、「リチャード三世」という作品を劇場で味わってください。
鵜山さん) 吐いたつばが自分にかかるというのはリチャードだけの問題じゃなく、我々一人ひとりがそうかもしれないと考えさせる戯曲です。そういう面白さは人生後半戦に差し掛かった自分としてもまったく他人事じゃないですね(笑)。敵も味方も自分の体の中にいるということです。
この作品を観て、あなたは何を感じ、何を思うのでしょう。「リチャード三世」、その歴史の流れを目撃しましょう!!
2012年10月3日~21日 新国立劇場中劇場にて
UK15
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おけぴ取材班:chiaki 監修:おけぴ管理人