世田谷パブリックシアター
『神なき国の騎士-あるいは、何がドン・キホーテにそうさせたのか?』、
川村毅さんによる書下ろし新作、同劇場芸術監督でもある
野村萬斎さん主演・演出の舞台の様子をレポートいたします。
野村萬斎、後方、大駱駝艦 (撮影: 細野 晋司)
スペインの作家・セルバンテスの代表作にして世界で最も読まれている物語、
『ドン・キホーテ』をもとに創作されたオリジナル作品とのことですが、いわゆる
“ジャケ買い”に近いような、まず、そのタイトルにピンと観劇アンテナが反応した作品でもあります。
左から、中村まこと、野村萬斎 (撮影: 細野 晋司)
やせ馬ロシナンテにまたがった
ドン・キホーテとロバに乗った
サンチョ・パンサ、ギュスターヴ・ドレの挿絵から飛び出すかのように登場する二人にワクワクが高まる幕開き。
そしておなじみの
“風車を巨人と思いこみ” 戦いを挑むあのシーン!
さぁ、ドン・キホーテの物語が始まった!と思ったのも束の間、これは時空の揺らぎか、はたまた世界の終りか、白い衣裳に身を包んだ人々の舞踏により表現される怪しげな気配。
そして彼らが次に目にするのはコンビニ、キャバクラ、段ボールハウス・・・そこは
現代日本を思わせる歓楽街だった。
ただでさえ、騎士道にとりつかれた奇妙な男ドン・キホーテですからね。今どきのキャバ嬢には “ウケる~、一緒に写メ撮っていい?” なんて、そんなノリです。
カルチャーギャップの中で独自の思いこみと思い違いをしながらも快進撃(?!)を続けるドン・キホーテを演じるのは
野村萬斎さん。狂言師ならではの
愛嬌と現代劇での
異質な感じ、一足踏み進むごとに心にぐいぐい迫り来る声、見事に萬斎キホーテを創り上げています。
川村毅さんによる
あてがきというのにも納得です。
中村まことさんが演じるお伴のサンチョは、とてつもない
順応力で生き抜く賢さと、いろいろとわかっていながらも「やれやれ、なんてこった」と旦那様についていく
可愛らしさで萬斎キホーテと
名コンビ!
たくさんのおかしみをもって進む舞台ですが、ドン・キホーテの中には常に
正義と夢、理想へのブレナイ志があり、その言葉は機知に富み、真っ直ぐに心に突き刺さります。
笑ったり考えたり、そんな冒険の旅の中で見えてくる
現代社会が抱える問題。
観劇後、冒頭の
“風車を巨人だと思いこむ” ドン・キホーテの姿を思い出しました。
もしかしたらあれは本当に巨人で、私たちが風車だと思いこんでいるのかもしれない。
しかも私たちは巨人であることに気付いているのに、必死に風車だと言い聞かせているのかもしれない。
野村萬斎、大駱駝艦 (撮影: 細野 晋司)
現代の日本でこそ生まれるドン・キホーテのお芝居なんだな、同時に世界、広く文明社会に向けられた作品でもあるな、じわじわとそんなことを考えました。
そのことは作品からの問いかけだけでなく、表現方法にも。
大駱駝艦のみなさんは白い衣裳に身を包み、気配や顔のない世間、マスメディアなどさまざまな言葉にならない表現を担います。うごめきが目に焼き付いています。
不思議な世界の住人ほか多様なキャラクターを
馬渕英俚可さん、
木村了さん、
谷川昭一朗さん、
村木仁さんらが演じますが、いわゆる現代劇の立ち姿、芝居がこの作品の中では一つの
異空間を作っているのがなんとも面白いのです!
深谷美歩さんの澄んだ歌声のかなしさもしっかりと耳に残っています。
そして忘れちゃならないのが、萬斎キホーテの饒舌な身体表現!言葉の力はもちろん、動きや佇まいでこんなにも惹きつけられるとは!!
そんなところも、開かれた表現、開かれたお芝居です。
手前、野村萬斎、左から、村木仁、木村了、中村まこと、馬渕英俚可、谷川昭一朗、
後方、大駱駝艦 (撮影: 細野 晋司)
一から十まで、全部わかりやすい作品ではないかもしれません。
でも、なんだかすごく食らいつきたい作品です!
そして、自分の歯でしっかり噛んで消化吸収して、いずれ血肉になるような・・・。
この例え、ちょっとわかりにくいですかね(笑)。
ただ、とてもそんなか気がしました。
ブロイラーじゃなくて地鶏!みたいな!!
噛めば噛むほど・・・な感激観劇、おススメです。
<感激観劇レポコーナー>
短めの作品にぎゅっと詰まった豊富な内容。
スピーディーで軽やかな展開ですが投げかけられるものは
かなりの重みがあって、実に「観甲斐」のある舞台です。
今日ただいまの「ほかならぬ私(たち)」の課題もしっかり見せつけられます。
役者さんがみんなすごく魅力的。特に大駱駝艦の皆さんの身体表現の素晴らしさは必見です。
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前半は爽やかに疾走感のある、痛快な風刺。さらっと笑顔で嘲けて、
言ってることはよく聞くと痛烈…なところが面白い。
後半は特に'イマ'だからこそ上演する意味があり、考えさせられてしまうような。
物質的豊かさと明瞭さを是とする現代へのアンチテーゼを掲げながら、
去り際潔く、お客ひとりひとりに考える余地を与えてくれます。
限定的な言葉で主義主張を押しつけられることのないところが好きです。
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シンプルでありながら洗練された舞台装飾が見事でした。
大駱駝艦の群舞や大道具化も興味深かったてす。
ストーリーや展開はややシュールすぎて作者の訴えたかったことが明確には分かりませんでした。
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面白いだけじゃなく、不思議な舞台でした。
動きや台詞回しが絶妙で、楽しかったです。
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紙芝居のような、敢えて手作り感満載の導入部で、
ケラケラ笑いながら入り込むといつの間にか摩訶不思議な世界に引き込まれて一緒に旅をする感じです。
表面上はあっけらかんと面白く見せながら、考え出すととことん深い。
狂言に通じるところかも。観る深度によって感じるところがいろいろ有りそうで、終わった後それを肴に「あそこは?ここは?」と連れと盛り上がりたい作品です。
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正直なところすごく難解だったのですが不思議と後味は悪くなく、心が洗われた感じです。
月の光を感じるシーン、大駱駝艦が作りだすフォルム、
そして最後のシーン、印象的なシーンがたくさんあり、しっかり心に残っています。
理解はできなかったけど、何かを感じた。それは確かです。
あと、野村萬斎さんはじめ役者のみなさんの「声」の力に圧倒されたことも書いておきます。
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皆さんが知っているドンキホーテとは少し違い、
現代の問題となっている事が盛り込まれ色々と考えさせられました。
少し難しい内容かと思いますが、演出が凝っていて冒頭から引き込まれます。
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なかなか難解で癖のある舞台、最初は????が頭でぐるぐる回っていましたが、
だんだんわかってくると、引き込まれました。これは深読みかもしれませんが、
いまこの時期に上演する意味すら感じてしまい、最後は涙が出そうになりました。
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難解な台詞が多く、あれを覚えるのは野村萬斎さんも相当大変だったろうと思いながら観劇した。
途中までは相当に面白い作品だった。映像をうまく使い、
大駱駝艦のみなさんの衣装も動きも魅力的で(体の組み合わせで顔に見えたのはすごかった)
現代日本と思われる異世界に飛び込んだドンキホーテたちの
これからの冒険劇の先の見えない不安さを絶妙に表現していた。
前半は政治や一般市民の思想など風刺と結びつけとても味わいのある作品だった。
しかしある時点から、劇作家も難解にしすぎたというか、
意味を与えようと考えすぎたというか、
深くしようとしすぎて自分でもどのように物語を進めていけばよいのかわからなくなったのではないかという、
方向が見えない作品になってしまった印象を受けた。いろいろな意味で刺激を受ける作品だったが、
見終わったあとの爽快感はなかったので、もう少し単純でいいから面白いという作品であってほしかった。
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萬斎さんはやはり素晴らしかったですが、中村まことさんのサンチョパンサも大好きになりました。
ドン・キホーテの狂気に惑わされて、途中なんの話かわからなくなった自分がまた、面白いなと思いました。
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哲学的な問いの中で現代日本の問題を描き出していく手法、正直なところ賛否のはっきり分かれる作品だと思います。
でも私はものすごく心動かされて、終盤は泣いていました。
この素材とテーマを、商業演劇で叶えてしまったということ、それじたいが大きな冒険だったと思います。たくさんの人に見て感じてもらいたいです。
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シリアスな内容なのに、さすが当代きっての狂言役者で、随所に笑いをとって楽しませてくれました。大駱駝艦の方々の肉体の鍛えられ方も素晴らしいと思いました。
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なんと書いたらいいたらいいのやら?まさに現代版のドンキ・ホーテです!
出演者の皆さんすべてが個性的でいい味出してました!!
大駱駝艦舞踏手の方々も、この劇通して、なくてはならない存在。
おかげで場面のつながりが秀逸!展開が訳も分からず早すぎる気もしましたが、その場面がそうつながったか!…と。原作を知らない友達は、「ちょっと難しかった」と言っていましたが、私は非常に文学的で楽しめました。
もっとセリフをかみしめて、再度観たい気がしました。萬斎さん、さすがの存在力です!!
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川村さんの現代社会に対しての問い掛けを、万斎さんの演出によって我々観客にわかりやすく、またダイレクトに見せてくれた作品です。とにかく考えさせられます。
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どう受け止めたら良いのか戸惑いました。戸惑いながらも逃げてはダメなんだと掴まれた気がしました。
言葉に変換できないザラザラした後味と余韻を噛み締めて、演劇として挑んだ心意気を目撃できて、良かったと思いました。
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おけぴ取材班:chiaki(文)写真提供:世田谷パブリックシアター 監修:おけぴ管理人