2014/03/25 新国立劇場オペラ「ヴォツェック」稽古場レポ&制作担当・岩村雅人さんインタビュー(舞台写真&感想追記!)

【4/10】公演をご覧になった方々の感想と、今回の公演写真を追記しました。

おけぴ初のオペラ稽古場レポ!
4月に上演される新国立劇場のオペラ「ヴォツェック」
稽古場レポ&制作担当・岩村雅人さんインタビューをお届けします!

威厳のある王様、豪華絢爛な衣装、
そして、美しいヒロインが朗々と歌うメロディアスなアリア・・・
この作品には、そんな私たちがイメージする
「THE・オペラ」な要素はほとんどありません!

・・・しかし!!
「舞台は大好き!でもオペラは観たことがなくて・・・」
そんな方がこの作品を「マイ・ファースト・オペラ」にするのもおおいにアリ!
とにかく、一味違うオペラ体験ができそう!
取材を終えたおけぴ取材班はそんなことを考えました!!


この作品が作られたのは1900年代初頭。
ドイツのゲオルク・ビューヒナーという夭逝の劇作家が残した戯曲を元に作られた
無調、つまりハ長調、二短調といった調性のない「現代音楽のオペラ」。
そしてそれは、「20世紀オペラの金字塔」と呼ばれる世紀の傑作なのです!!

舞台は18世紀ドイツ。貧しい境遇にありながらも
愛する家族のために必死に生きようとする兵士ヴォツェックが
暴力的で冷酷な社会に徐々に追い詰められてゆく、悲劇のドラマ。
古典オペラのように遠い世界のお話ではなく、
ともすれば舞台を現代の社会に置き換えても成立するかもしれない・・・
そんな、私たちのすぐそばにある物語です。




ヴォツェック役のゲオルク・ニグルさんは、子どもの頃にウィーン少年合唱団の
スターソリストとして、日本各地をコンサートで回った経験の持ち主。


ヴォツェック役ゲオルク・ニグルさんと
マリー役のエレナ・ツィトコーワさん

このプロダクションはドイツの名門、バイエルン州立歌劇場との共同制作ですが、
同歌劇場の本拠地ミュンヘンでもヴォツェックを演じ、大絶賛されたとか。
豊かな表情と、眼力の強さは圧倒的!


ヴォツェックが上官である大尉の剃髪をするシーン。
ヴォルフガング・シュミットさん(左)とゲオルク・ニグルさん(右)

ヴォツェックの上司・大尉を演じるのは、
新国オペラにもたびたびご登場のヴォルフガング・シュミットさん。
恰幅のよいお体全身で表現する「小心者の大尉」、本番が楽しみです!


なぜか立場逆転・・・!?

歌い手の方たちに指示をするスタイリッシュな女性は、
再演演出を担当する、バーバラ・ウェーバーさん。
今回の公演は2009年に行われた公演の再演にあたるため、
演出家・クリーゲンブルクさんの演出ノートや当時の経験を元に、
ウェーバーさんがこまかく演出を施していくのです。
ところどころに笑い声も混じり、和やかな雰囲気で稽古は進んでいきます。


バーバラ・ウェーバーさん(左)

取材班が訪れたときに、元気な声で挨拶してくれたのは
ヴォツェック夫妻の子ども役を演じる、池袋遥輝くん。


打ち合わせをするニグルさんたち。右が池袋遥輝くん

今回のプロダクションの演出の特徴は、楽譜では数カ所にしか登場しない
ヴォツェック夫妻の子どもが、大胆にも、ほぼ全編に登場すること。
父親の足にしがみついてみたり、部屋の隅で一人遊んでみたり、
壁に字を書いてみたり・・・
不思議な行動の数々に、物語を読み解くカギが隠れていそうです!


おもむろに書き始める!!

そして、周りにいらっしゃる裏方さんにも、オペラならではの役割の方々が・・


ピアノ伴奏の指揮をする音楽ヘッドコーチの石坂宏さん(奥)と
コレペティトゥール(伴奏ピアニスト)の西聡美さん(手前)


プロンプターの城谷正博さん。本番はオーケストラピットに隠れ、
歌手にタイミング等の指示を出します。いわば歌い手たちの「命綱」


隣のリハーサル室では、指揮者のギュンター・ノイホルトさんと
東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんがオケ練の真っ最中。


ギュンター・ノイホルトさん

歌い手さんたちの立ち稽古にお邪魔した取材班が感じたのは、
言葉の発する“力”。
現代音楽なだけに、耳なじみのよい美しいメロディに乗せて・・
というわけではないのですが、かえってそのぶん、
内面から湧き上がる思いが言葉に乗ってダイレクトに伝わってくる、
そんな印象です。とにかく力強い!!

実は、現代音楽のような無調の音楽は、気づかないだけで、
テレビドラマや映画などにもよく使われています。
「現代オペラを演劇のように観る」そんな楽しみ方も面白いかもしれません!



この公演の制作を担当されている新国立劇場の岩村雅人さんに、
このオペラの楽しみ方を伺いました。


岩村雅人さん

──この作品はいわゆる「現代オペラ」ですよね。非常に「とっつきにくそう」なイメージなんですが・・・(汗)、オペラ初心者にとってはどんなところが見どころになるでしょうか?

岩村)
たしかに、オペラというときれいな洋服を着飾った歌い手さんがたくさん出てきて、
セットも豪華で、恋愛の話が中心で・・・
というイメージですよね。
でも、この作品はそういう古典のオペラとはだいぶ違います。
まず、この作品が初めてオペラを観る方にとって入り込みやすい点の一つは、
「長さが短いこと」でしょうか(笑)。

──(笑)。休憩なしの90分程度ですよね。

岩村)
ええ。それから、通常のオペラやミュージカルでは、
登場人物が突然大きな声でアリアを歌い出すシーンがよくありますよね。
でもあれって、日常生活とは少しかけ離れているというか(笑)。
もちろん、このオペラにも一人で朗々と歌うシーンはありますが、
それらに比べればかなり普通の会話に近いんです。
そういう意味では、古典オペラのような
「とっつきにくさ」は少ないんじゃないかと思いますね。


──作曲したベルクは20世紀前半の作曲家ですから、音楽は「現代音楽」ですよね。メロディアスなアリアはないけれど、だからこそ、歌が会話のように聞こえてくるというか・・・強い思いのこもった言葉が心に刺さってくる印象です。

岩村)
無調ですから、ぱっと聴いてみて「ああきれいだな」と思えるような
音楽ではないですが、
逆に「クラシックのオペラを観に行く」という固定観念から離れて、
舞台芸術一般のものとして考えれば、
とても分かりやすいし共感できる話だと思います。

──物語は18世紀にあった実際の話を元にしているそうですね。

岩村)
はい。登場人物は、いってみれば私たちと同じような社会を生きる人たちなんです。
古典のオペラのように王様や神様も登場しません。
だから、とても現代的な話なんですよ。

──悲劇的なストーリーですが、物語としてはどんなところが見どころでしょうか。

岩村)
主としてヴォツェックとマリーの関係を扱いながらも、
貧困や階層などの社会的な問題をそうした個人に凝縮させているんですね。
劇中に「私たち貧しい人間は」という言葉が何度も出てくるんですが、
個人が生きていこうとするときには、どうしても社会的な環境に
制約されてしまうということがすごく感じられます。

この戯曲が書かれて200年ほど経っていますが、
現代でも基本的に状況は何も変わっていない。
ヴォツェックは貧しい軍隊の一兵卒ですが、2世紀経った今でも、
世界中のみんなが豊かに食べられる社会にはなっていないですよね。
そういう意味で非常に現代性を持った作品だと思います。
特に今回の演出は、時代や地域を限定しない印象ですので、
今の私たちに関係のある話なんだと思いながら観ていただけるとうれしいですね。


──演出のクリーゲンブルクさんは演劇出身の方だとか。

岩村)
彼は演劇で本当に活躍している人で、オペラはこの作品が初めてなんです。
この作品は非常に演劇的な面を持っていますので、
彼の演出もすごくうまくいっていると思います。

舞台は、床一面にが張られていて、
照明がそこに反射するようになっています。
その上にヴォツェックの家が、宙に浮くように設置されていて、
前後に動いたり、上がったり下がったりします。

──裏方さんはさぞかし大変でしょうね(笑)。

岩村)
ええ。約20トンの水を張るので、準備にはそれだけで1時間ちょっとかかります。
上演中に水に浸かる人もいるので、衛生的な理由から、水は定期的に張りかえています。
上演前には歌い手の方たちが冷えないようにお湯を足してみたりするんですが、
面積が大きいのですぐに冷えてしまって・・・(笑)

今回の舞台、その水面が非常に活かされていて、
照明とも相まって視覚的にとても美しい舞台になっていますので、
そこにもぜひ注目していただきたいですね。


──歌い手やオーケストラ、スタッフ、裏方さんを含め、総勢何名ぐらいの方がこのオペラに関わっていらっしゃるんでしょうか。

岩村)
250名ほどでしょうか。
演劇やミュージカルに比べて、どうしても規模が大きくなりますね。

──それだけ多くの人たちの力が結集して、壮大なスペクタクルが生まれるわけなんですね。もう一つ、極めて初歩的な質問を・・・オペラだからといって着飾っていく必要はありませんよね?(笑)

岩村)
はい。全然大丈夫です!
世界中を見渡せば、たとえばメトロポリタン・オペラの新演出の初日なんて場合には
それなりの服装で行ったほうがいいのかもしれませんが、
特にうちはラフな服装の方もたくさんいらっしゃいますし。
周りが不快に感じるような服装でなければまったく問題ありません。

──持っていったほうがいいものはありますか? オペラグラスとか・・・

岩村)
舞台から遠い席ならオペラグラスがあったほうがいいかもしれませんね。
劇場で貸し出しもしていますが、今回の公演は休憩がありませんから、
借りる場合は公演前に借りておいてくださいね。

それから、うちの劇場はホワイエが広くて、
夜は庭もライトアップされていてとてもきれいなので、
公演前や公演後にはそちらも楽しんでいただけるとうれしいです。


──外国語のオペラの場合、舞台の左右に字幕が出ますよね。あれをうまく見るコツってありますか?(笑)

岩村)
う〜ん(笑)「勉強してきてください」とはあまり言いたくないんですが、
どんな話かぐらいは何となくわかっていたほうが、言葉もつかみやすいとは思いますね。

字幕って文字数の制限がありますから、
やっぱり全部の言葉を訳せるわけではないんですね。
ぱっと見て瞬時に意味を掴めるように、
言葉の選び方とか、漢字とひらがなのバランスとか、
いろいろ考えながら作られているんです。
ですからそのへんにも注目していただけると(笑)

──細かいところに工夫が詰まっているんですね。では最後に、おけぴをご覧になっているオペラ初心者の皆さんにメッセージをお願いします。

岩村)
オペラを観に行くというとどうしても、
先入観から教養的な要素が強くなってしまうと思うんです。
まあ悲劇的な話なので娯楽とはいえないかもしれませんが、
構えず素直な気持ちで観ていただいたほうが
楽しんでいただけるんではないかと思いますね。
そういう意味でヴォツェックは、とても入り込みやすい作品なのではないかと思います。

──ありがとうございました! 公演を楽しみにしています。

【舞台写真】新国立劇場オペラ「ヴォツェック」2009年11月
(撮影:三枝近志 提供:新国立劇場)





【4/10追記】公演をご覧になった方々から感想が届きましたので
新国立劇場さんにご提供いただいた、今回の公演の舞台写真と一緒に
ご紹介しますね!

大変劇的な舞台でとても良かったです。
特に舞台美術の素晴らしさに(水をはったステージ等)びっくりしました。
きびしいストーリーですが、歌手の歌唱力はもちろん、
演技もすごくて引き込まれました。



とても美しい舞台美術、演出でした。
でも、果てしなく暗く悲しい物語で、
オペラでこういうテーマのものもありなんだな、と、ある意味新鮮に感じました。
出演者の方々の歌や演技から迸る悲しみの表現は、切実で胸に響くものでした。
ベルクの音楽の世界も、素晴らしかったです。



主役のお二人の熱演が素晴らしかった。
歌はもちろん、演技、と言う面でもとても熱演でした。
オーケストラの演奏もよかったです。

すごく面白かったです。
私は「前衛」とか、「現代」と頭につくものは全否定してしまうくらい嫌いです。
しかも、最近は面白くないとすぐ舟をこいでしまうのですが、
今日はおもしろすぎて引き込まれました。
目に入るもの、耳に入るもの、すべてが頭の中をぐるぐるまわりながら、
飽きることなくあっという間に1時間45分が過ぎました。



とにかくヴォツェックの哀しみ、切なさが溢れていた舞台でした。
なにも持っていなかった彼がたったひとつ握りしめていたもの。
その大切な最後のひとつを失ったとき、彼がとった行動は善悪は別として抗えない運命の、
愛の強さを感じさせました。



歌声の素晴らしさは当然ですが、今回びっくりしたのはセットの奇抜さ!
水面をピアノが通ったりバンドマンたちのステージを人で支えたり、
気を抜くヒマがありませんでした。
水面にうつるヴォツェックの影、ユラユラといっときも鎮まることのない
水面のきらめきにオケの不協和音が重なって、
ヴォツェックの心理が映し出されているようで
チェコの古い絵本のようでした。
忘れられない舞台のひとつとなりました。



痛々しいヴォツェックの人生が難しいメロディでグイグイ迫って来ました。
主役のニグルさん、歌わずとも役者としてもやれるのでは?
と思うほど演技がうまく素晴らしかったです。


【舞台写真】新国立劇場オペラ「ヴォツェック」(2014年4月)
(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)


【公演情報】
ヴォツェック(全3幕/ドイツ語上演/字幕付)
2014年4月5日(土)〜13日(日)4回公演 @新国立劇場オペラパレス

指揮:ギュンター・ノイホルト
演出:アンドレアス・クリーゲンブルク
東京フィルハーモニー交響楽団

<キャスト>
ヴォツェック:ゲオルク・ニグル
鼓手長:ローマン・サドニック
アンドレス:望月哲也
大尉:ヴォルフガング・シュミット
医者:妻屋秀和
第一の徒弟職人:大澤 建
第二の徒弟職人:萩原 潤
白痴:青地英幸
マリー:エレナ・ツィトコーワ
マルグレート:山下牧子

<あらすじ>
貧しい兵士ヴォツェックは、内縁の妻マリーと子どもを養うために、医者の人体実験台になっており、そのため幻覚を見るようになっている。
一方、そんなヴォツェックとの生活に疲れたマリーは鼓手長の誘惑に負け、関係を持ってしまう。
ヴォツェックは酒場で妻と鼓手長が踊るのを目撃、酔っ払った鼓手長に殴られる。
ヴォツェックは、罪の意識に苛まれ神に赦しを乞うマリーを連れ出し・・・

公式サイトはこちらから


ネズミで人体実験!?



おけぴ取材班:hase(文)おけぴ管理人,hase(写真) 舞台写真提供:新国立劇場 監修:おけぴ管理人

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