2014/08/19 現代演劇レトロスペクティヴ 壁ノ花団 第九回公演『そよそよ族の叛乱』稽古場レポート


“街”に突然現れた“餓死した女の死体”。
はたして事件の真相とは…?
1960年代から90年代にかけて発表された、日本の現代戯曲を再検証するAI・HALL(アイホール/伊丹市立演劇ホール)の“現代演劇レトロスペクティヴ”シリーズ。

安部公房作品を取り上げた sunday play日本の名作#2『友達』に続き、8月末に上演されるのは壁ノ花団による『そよそよ族の叛乱(はんらん)』です。

日本の不条理劇を確立させた第一人者でもある劇作家・別役実が1971年に芸術選奨賞新人賞を受賞したこの作品は、ある“街”のバス停留所に餓死した女の死体が落ちてくることから始まる奇妙な物語。

死体を発見した探偵・X氏と、科学博物館で働く女、死体処理係の男たちが追う事件の真相とは

公演を目前に控えた稽古場で、演出の水沼健さんにお話をうかがってまいりました。

【水沼 建さん プロフィール】
1989年、立命館大学在学時に土田英生らと共に「B級プラクティス」(現MONO)結成。以降、MONOのほぼ全作品に出演。
1998年に内田淳子、金替康博とのユニット「羊団」結成をきっかけに演出家としての活動を開始。
2004年に自身の舞台作品を発表する場として「壁ノ花団」を結成。
近畿大学文芸学部准教授 日本劇作家協会会員


【壁ノ花団とは】
2004年、MONO所属俳優の水沼健が、自身の作品発表の場として結成。第一回公演『壁ノ花団』(2004年)が第12回OMS戯曲賞大賞を受賞。第四回公演『アルカリ』(2008年)では十三夜会奨励賞を受賞。第六回公演『ヤングフォーエバー』(2011年)で佐藤佐吉賞・最優秀照明賞(吉本有輝子)、最優秀舞台美術賞(西田聖)、優秀演出賞などを受賞。その他、代表作に『ニューヘアスタイルイズグッド』(2012年:第57回岸田戯曲賞最終候補)、『ザサン』(2013年)など。今年で結成10周年。






写真左から:F.ジャパンさん、福谷圭祐さん、金替康博さん



【そよそよ族の“難しさ”】


水沼:
「別役さんの作品の中でも、あまり知られていないものに挑戦したいと思ったんです。
この作品はまだ読んだこともなかったですし、上演されている舞台を観たこともなかった。そこでひとつ挑戦してみよう、と。
登場人物の会話がおもしろかったというのも取り上げたポイントです。

でも実際にやってみると、とても難しい作品でした。
登場人物たちがそれぞれに何かから疎外された立場でセリフを喋るんですけれど、なぜ疎外されているのか、その根拠がなかなか見出しづらい。
不条理劇なんだから当たり前だろうと言われるかもしれませんが、それにしても本当につかみどころがなくて(笑)。

登場人物たちが漠然とした不安をおぼえている“街”という巨大でつかみどころのない存在が、現代の我々の感覚では再現するのが難しいんですね。
この作品が書かれた頃は、いわゆるムラ社会と言いますか、昔のコミュニティの記憶があった。
その上で、“都市生活の茫洋さ”というものを捉えようとした戯曲がこの『そよそよ族の叛乱』だと思うんです。

でも今は生まれた時から都市生活者で、地域のコミュニティという記憶がない人たちが多い。
現代のインターネット社会の中では、なにかを問いかけて、すぐに答えがこないという関係にリアリティを感じるのも難しいなと思いました。ネットワークの中ではすぐになにかしらの反応がありますから」



探偵・X氏と、博物館で働く女(内田淳子さん)が事件の謎を追う

【音が記憶を呼び覚ます】


水沼:
「なんとか作品の背景にあるニュアンスを出すために、物語を探偵Xの過去の記録として再現してみようと思っているんです。
昔の写真を見ているような感覚で芝居を包んでみたい。
現在進行形ではなく過去の記憶、記録としての提示です。
“音”というのが記憶を刺激するメディアとして有効だなと思っているので、録音でセリフが聞こえてくるというような試みをしています」



死体処理係の煩悶とは?
おふたりが並んで立っているだけでなぜかおもしろい、
福谷圭祐さん&F.ジャパンさん

【セリフがリアリティに抵抗する】


水沼:
「上演時間は2時間以内におさめたいので、台本はすこし削っています。
でもこれがまた難しいんですよ(笑)。
別役戯曲の中には最初から最後まで満遍なく、まるで地雷のように情報が埋まっている。
だからバッサリと切ったりはできないんですね。ちょこちょこと削っていく作業です。

別役さんの文体、文法というのは、言ってしまえば“不自然”ですから(笑)、その難しさにも直面しています。
書かれているセリフを、俳優がリアリティをもって再現するということに対して、セリフ自体がすごく抵抗している感じがある。
でも、そのセリフの不自然さ、おもしろさこそが別役作品の魅力ですから」


演出中の水沼さん(写真右)

【“気楽に笑える”別役作品? 】


水沼:
「別役さんの作品は“演劇としての良さ”というか、映像などでは表現できないニュアンスを前提にして書かれている。僕はそこが好きなんです。
舞台セットを作りこんで、日常的なリアリティを前提にした演劇もたくさんありますが、そういった映像でも再現できる演劇ではなくて、劇場で俳優というマテリアルを使って演劇的なレベルを構成している。
それが別役さんの作品の魅力、素晴らしいところだと思いますね。

別役作品って難解に捉えられがちですし、実際にそういう傾向もあるにはあるんですが、(作品の)裏を読もうとして、本来のセリフのおもしろさに気がつかないのがもったいない! と思っています。

今回も稽古場で実際に俳優のセリフや動きをみながら、“笑える”雰囲気で作っています。
動きや間でユーモラスな感じを出したいんです。そういう作業は僕自身も興味があるところなので、こだわって作っていきたいですね。

壁ノ花団常連の金替康博さん、内田淳子さん、F.ジャパンさんに加えて、匿名劇壇主宰の福谷圭祐くんや、ダンスカンパニー・ウミ下着の福井菜月さんにも出演してもらいます。
福井さんには身体的な強度が必要な“特殊な役”を演じてもらう予定です。派手なパフォーマンスがあるわけではないですけれど、ダンサーとしての身体性に期待してキャスティングさせてもらいました。
 
こんな感じでセリフと動きで“笑える”舞台にしたいですね。
爆笑作品にはならないでしょうけれど(笑)、劇場で気楽に笑っていただけると嬉しいなと思っています」



気楽に笑える“不条理劇”です!
                                                
現代演劇レトロスペクティヴ 壁ノ花団第九回公演『そよそよ族の叛乱』はAI・HALL(アイホール/伊丹市立演劇ホール)にて8月29日(金)から31日(日)までの上演です。

初演から40年以上を経て再構築される“気楽に笑える”別役ワールド。
餓死した女、その死の真相は? 人々を飲み込む“街”とは? そして“そよそよ族”とは
壁ノ花団×別役実! お見逃しなく!!



【公演情報】
現代演劇レトロスペクティヴ
壁ノ花団 第九回公演『そよそよ族の叛乱』
2014年8月29日(金)-31日(日) AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)

作:別役 実
演出:水沼 健
出演:金替康博 内田淳子 F.ジャパン 福井菜月 福谷圭祐

<現代演劇レトロスペクティヴとは>
2009年度からアイホールが取り組んでいる「現代演劇レトロスペクティヴ」は、1960年代以降の、時代を画した現代演劇作品を、関西を中心に活躍する演劇人によって上演し、再検証する企画です。現代演劇の歴史を俯瞰し、時代に左右されない普遍性を見出すとともに、これからの新たな演劇表現の可能性を探ります。

AI・HALL 公式サイト
壁ノ花団 公式サイト


 
おけぴ取材班:mamiko(文/撮影)  監修:おけぴ管理人

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