2014/09/18 新国立劇場オペラ「ドン・ジョヴァンニ」ご出演・妻屋秀和さんインタビュー

演劇やミュージカルをこよなく愛するみなさんに、
「オペラ」の魅力も知っていただきたい!
そんな思いから始まったおけぴオペラ鑑賞応援企画!!

『ヴォツェック(ベルク)』『アラベッラ(R.シュトラウス)』に続く第3弾は
モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』!!

3作目にして、オペラの王道のひとつともいえる、モーツァルト作品!
ヨーロッパ中の2,000人の女性と関係を持った(!)といわれる稀代の色男
ドン・ジョヴァンニの、奔放な女性遍歴と衝撃的な最期を描いた
モーツァルト円熟期の傑作です。

(あらすじはこちらの公演公式HPをどうぞ!)


今回の新国立劇場公演は、現在はザルツブルク音楽祭の芸術部門ディレクターを務める
ベテラン演出家、グリシャ・アサガロフの演出。
2008年の初演、2012年の再演に続く三度目の上演となります。

今回お話を伺ったのは、今回の公演に騎士長役でご出演の妻屋秀和さん。
『ヴォツェック』の医師役、
『アラベッラ』のヴァルトナー伯爵役でもご出演でしたので、
覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

これまでの稽古場取材の際にも何度かお見かけしている妻屋さんですが、
いまや新国立劇場のオペラには欠かせない存在。
シリアスな役からコミカルな役まで幅広く演じてこられた、
まさに名バイプレーヤーなのです!

そのスケールの大きな歌唱と
優しいお顔立ちに勝手に親近感を抱いていたおけぴ取材班、
当日は楽しいお話をたくさん伺ってまいりました!!



妻屋秀和さん

【プロフィール】つまや・ひでかず 東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、同大学大学院オペラ科修了。1989年イタリア声楽コンコルソ・ミラノ部門金賞受賞、第60回日本音楽コンクール声楽部門第3位など複数の声楽コンクールに入賞ののち、92年よりイタリア・ミラノに留学。94年から2001年までライプツィヒ歌劇場と専属契約し、数多くのレパートリーで活躍しながら、ブレゲンツ湖上音楽祭、ドイツ・ライン・オペラ、ハノーファー州立歌劇場、マンハイム国民劇場やライプツィヒをはじめとする各地でのコンサートにも出演した。02年より11年まではワイマールのドイツ国民劇場の専属として活躍のかたわら、ベルリン州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラなどへも数多く客演している。
新国立劇場では、98年の開場記念公演《アイーダ》のランフィスでデビュー、その後も《マクベス》《ばらの騎士》《魔弾の射手》《アラベッラ》《イル・トロヴァトーレ》《ラ・ボエーム》《リゴレット》ほかで、主役級のバスの役を数多く務めている。





──今回の『ドン・ジョヴァンニ』は、おけぴでご紹介する新国立劇場制作のオペラとしては3作品目なります。そのいずれにも妻屋さんがご出演されているので、勝手にご縁を感じながらやってまいりました(笑)。これまでに新国立劇場のオペラにはどのくらいご出演されているのですか?

妻屋)
開場翌年(1998年)の「アイーダ」に出演したのが最初でした。それから現在まで、公演回数でいえば120回ぐらいでしょうか。たぶん、僕がいちばん多いと思いますよ。今でも年に3〜4演目、出演させてもらっています。

──120回!誰よりもこの劇場のことをご存じなわけですね! そんな妻屋さんが今回演じられる騎士長は、物語のはじめと終わりに登場して、ストーリーのカギとなる役。この役を演じる面白さや難しさなどがあれば教えてください。

妻屋)
おっしゃる通り、この作品は騎士長がジョヴァンニに殺されることによって物語が動き出します。ただ、こういったことはバス歌手にはよくあるんですね(笑)。バス歌手が死ぬことをきっかけに物語が始まって、主人公が死ぬと幕が閉まる。プッチーニの『トスカ』なんかもそうです。

このオペラは、大きくは「喜歌劇」に分類されていて、物語の中盤にはコミカルなやりとりもたくさん登場します。そして、終盤に騎士長が幽霊(石像)になって現れるシリアスな場面があって、最後にまたお約束のような喜劇に戻るんですね。

つまり、騎士長の場面だけが“異質”なんです。だから、この場面がシリアスで、戦慄を覚えるようなものであればあるほど、それまでの喜劇とのコントラストが生まれて緊張感のある舞台になる。そういう意味で、騎士長の役割は決して小さくはないと思います。


──登場する時間は短くとも、作品全体の成否を握る、非常に存在感のある役なんですね。

妻屋)
ええ。ちなみに今回のプロダクションは、僕にとって『ドン・ジョヴァンニ』では8つ目のプロダクションです。本番回数でいうと50回を超えていますが、僕はいつも騎士長。「騎士長専門」です。それを話すと評価してくださる方がたくさんいますし、自分でも誇りに思っています。

というのも、最近、若い人がこの役をきっかけにほかの役にステップアップしていくケースがよくあるんです。でも、僕個人の考えでは、騎士長という役は、それを専門に扱う人が存在したほうがいいと思っています。主役と同等の存在感を発揮して、主役に対峙しなければなりませんから。「デュエット(二重唱)」というよりも、「デュエル(決闘)」ですね。このシーンで「何か凄いことやってる」という印象を持ってもらえるような……圧倒的な力を見せつけるような演奏がしたいと常に思っています。

騎士長の出番はそんなに多いわけではなくて、いってみればほんの一瞬です。序盤で死んでから長い待ち時間がありますから、それをどう過ごすかでコンディションが変わります。2幕の前にもう一度発声練習をする時間を確保して、最後の部分にコンディションを合わせていきます。そして、最後の短いシーンにフルパワーをぶつけるんです。


──職人的な技というか、歌い手として積み重ねた経験や知恵が必要なわけですね。

妻屋)
そう思います。もちろん物語は主役や準主役を中心に展開していきます。そんな中で僕は、ある瞬間にそこにいて、彼らのいる場所に“大玉を落とす”……そして僕がいなくなったあとに、そこに大きなクレーターができているような状態を、常に作り出したいと思っています。“短期集中型”のこの役に、大きな魅力を感じています。

──妻屋さんといえば、『アラベッラ』(2014年5月。ヴァルトナー伯爵役でご出演)でのコミカルな演技も印象に残っていますが、そちらもお嫌いではないですよね?(笑)

妻屋)
もちろん、何でもやりますよ(笑)コミカルな役というのは、ある意味、年齢を重ねていかないとできない役。若いときでも真似事はできますが、年を取れば“人生の機微”のようなものを演技に活かすことができるんです。
僕は死んだことはありませんが(笑)、死体はしっかり研究すれば演じられるんですね。でも喜劇というのは、頭の中の計算だけだとまったくの“演技”になってしまって、自然にならない。それはお客さんにも伝わってしまうと思います。

実は数年前に老眼になったんですが、それで初めて、老眼の人が近くのものを見るときにやる仕草、あれが初めて自然にできるようになりました。そういう細かな小芝居をたくさん取り入れて、組み立てていくことで喜劇は成立する。僕にもようやくそういう役ができるようになってきたのかな、と思います。



──さて、今回の公演は初演、再演に続く三度目の上演になるとのこと。妻屋さんは前回の再演からご登場ですが、このプロダクションの魅力や印象を教えてください。

妻屋)
残念ながらアサガロフさん自身が演出した初演には参加していませんが、一つひとつのシーンがすごく印象的に作られていると思います。色使いも、そんなにたくさんの色を使っているわけではないんですが、それがかえってそのときの心情やシチュエーションの内側の部分を引き出していると思います。トラディショナルな演出ではなかなか見られないような、心のひだまで剥き出しにした、非常にいい演出だと思いますね。


以下の公演写真:新国立劇場オペラ「ドン・ジョヴァンニ」(2012年4月)
撮影:三枝近志 写真提供:新国立劇場

──妻屋さん個人的に、この作品の中で好きなシーンやアリアはありますか?

妻屋)
大好きな作品なので、どのシーンやアリアが一番というのはなかなか決められません。でも僕は低声なので、レポレッロの「カタログの歌」ジョヴァンニの「シャンパンの歌」「セレナーデ」なんかは、自分の出番ではないこともあって、自然と耳がいきます。おっ!と思って、聴き入ってしまう。やっぱりいいアリアだと思いますね。

あとは、超絶技巧を駆使するドンナ・アンナやオッターヴィオのアリアも聴きどころです。でも僕としては、一番の聴きどころと訊かれれば、やっぱり「ジョヴァンニと騎士長の対決シーン」ということになってしまいますね(笑)。


──(笑)。先ほどのお話を聞いて騎士長の登場する2つのシーンが本当に楽しみになりました。この作品を「大好きな作品」とおっしゃった理由は?

妻屋)
やっぱり、僕の舞台人生を通じて、若い頃から今までずっと歌い続けている役であるということもありますし。今の自分を見つめ直すには最適な作品だと思っています。あと、騎士長は出演していない時間も長いので、ほかの出演者の演奏を数限りなく聴いているんですね。そういう意味で、『ドン・ジョヴァンニ』は僕が一番よく聴いているオペラでもあるんです。

──出演しながら作品を楽しんでいらっしゃるんですね。8回目のプロダクションともなると、若い頃に比べて歌い方も変わってきましたか?

妻屋)
どうでしょう。考えていることは変わりませんし、歌い方も自分ではあまり変えていないつもりなのですが、ほかの方からしてみれば印象はまた違うかもしれませんね。いまちょうど50歳なのですが、バス歌手として、やっと自分の声の準備ができた段階、スタートラインだと思っています。


──御年50歳にしてスタートラインとは!オペラの奥の深さを垣間見た気がします。最後におけぴをご覧のみなさんにメッセージをお願いします。

妻屋)
ミュージカルや演劇に親しんでいらっしゃる方が多いと聞きましたが、オペラも表現方法が違うだけで、やろうとしていることは同じなんです。どちらも言葉や声、身体を媒介として、お客さんに何かを届けようとしているわけですから。クラシックやオペラというと固い印象があるかもしれませんが、劇場に一度足を運んでいただければ、きっと新しい気づきや感動があると思います。

──ありがとうございました! 公演を楽しみにしています。


【公演情報】
新国立劇場オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(W.A.モーツァルト)
2014年10月16日(木)6:30
2014年10月19日(日)2:00
2014年10月22日(水)2:00
2014年10月24日(金)6:30
2014年10月26日(日)2:00

<スタッフ>
指揮:ラルフ・ヴァイケルト
演出:グリシャ・アサガロフ
美術・衣裳:ルイジ・ペーレゴ
照明:マーティン・ゲプハルト

<キャスト>
ドン・ジョヴァンニ:アドリアン・エレート
騎士長:妻屋秀和
レポレッロ:マルコ・ヴィンコ
ドンナ・アンナ:カルメラ・レミージョ
ドン・オッターヴィオ:パオロ・ファナーレ
ドンナ・エルヴィーラ:アガ・ミコライ
マゼット:町 英和
ツェルリーナ:鷲尾麻衣

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

「ドン・ジョヴァンニ」公式HPはこちらから
妻屋秀和さん公式ブログはこちらから


【おまけ:最多出演!妻屋さんが語る新国立劇場オペラの魅力】

「新国立劇場は、国立のオペラ劇場であると同時に、日本で初めてのオペラ専用劇場でもあります。

これまで、日本ではオペラを専門に上演できる劇場がありませんでした。専用の劇場ができ、シーズンごとに継続してさまざまな公演を上演することで、人気作品ではなくても、社会的、芸術的に意義のある作品も上演できます。歌い手としてはそういう作品に出演することで自らの芸術的な幅を広げていけることに大きな意味があります。

また、観客のみなさんや子どもたちに対してオペラの普及や啓蒙活動ができることも存在意義の一つ。私が暮らしていたドイツでは、子どもたちがパン工場などと同じように、劇場に社会科見学にやって来ます。いきなり楽屋に子どもたちがゾロゾロ入ってくるからこっちも気が抜けないんですが(笑)、劇場が社会の中に自然に馴染んでいるんですね。

新国立劇場が出来たことで、日本のオペラは新たなステージに一歩踏み出したと思います。この劇場が今後、“社会に組み込まれた機構としての劇場”という役割を果たしていってくれるのではないかと、大いに期待しています」(談)


おけぴ取材班:hase(文/写真) 監修:おけぴ管理人

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