期待の三十代演出家にスポットを当て、それぞれが選んだ戯曲を上演するという
新国立劇場の意欲的なシリーズ企画「Try Angle ─三人の演出家の視点─ 」。
シリーズ第1弾は日本初上演となる小川絵梨子さん演出の『OPUS/作品』。
『今は亡きヘンリーモス』翻訳・演出や “響人” での活動でもおなじみの
小川さんが見せる、シンプルかつ緻密な劇構造と
そこに横たわる人間関係のバランスの危うさへの期待を胸に
稽古場にお邪魔してまいりました!
四方を客席に囲まれた舞台上で丁寧に創り上げられる“作品”。
弦楽四重奏団Lazara Quartet (ラザーラ・カルテット)が
ホワイトハウスでの演奏が決まっているのに一人のメンバーを解雇した・・・。
そのことに端を発する嫉妬や裏切り、
露呈する人間関係のバランスの危うさを描くシビアなコメディ。
演じるキャストも演劇好きにはたまらない顔合わせです!
責任感溢れる第一ヴァイオリン・エリオットには段田安則さん
女好きでちょっと人を食ったようなところのある
第二ヴァイオリン・アランに相島一之さん
一生懸命みんなをまとめようとするチェロ・カールは近藤芳正さん
天才肌のヴィオラ・ドリアンは加藤虎ノ介さん
新メンバーとして加入した女性奏者グレイスには劇団イキウメの伊勢佳世さん
稽古場はひとことでいうと “和気あいあい” 。
新聞を回し読みしながら、前夜のプロ野球の結果について花を咲かせたり
次の場面でジャケットを羽織るか否かで、
「近藤くんが着るなら、僕も着ようかあぁ・・・(笑)」(相島さん)
などというやり取り、とてもリラックスした雰囲気です。
この日は、まず、物語のクライマックス15場から稽古でしたが、
そのまえに・・・
演出の小川絵梨子さん
演出の小川絵梨子さんから、前日の稽古を踏まえてのノート(ダメ出し)や
修正点などが伝えられます。
また、稽古全般を通して印象的だったのは感情や人間関係に基づいて
自然に動くことに加え、“四方向からどう見えるか” という点にも
しっかりと時間割いて創り上げられていたことです。
ほんの少しの意識の違いで、客席からの見え方が変わってくるんだ!
ということが何度もありました。
最善を見つけるまで「もうちょっと探らせてください」とシーンを
繰り返す小川さんとキャストのみなさん。
その作業の一つひとつが“作品”を創り上げるのですね。
若い女性の加入で嬉しそうなアランとグレイス♪
シーンが始まると、まるでそこにいるのはエリオット、アラン、カール・・・
戯曲の中の人々そのものに見え、
まるで、とある部屋の中での出来事を俯瞰しているようにも感じるのですが、
ドキュメンタリーではなく、芝居なんですよね。
“計算された自然” をさらりと見せてくれる俳優のみなさん、素晴らしい!
この座組の芝居を、小劇場という密な空間で見られることの幸せを
改めて感じます。
舞台上は極めてシンプル、
4客の椅子と譜面台、そして少しの小物ともちろんそれぞれの楽器。
それだけなのに言葉の力でそこがアランの部屋になったり、エリオットの部屋になったり
見えないものが見えてくるような不思議な感覚です。
中には・・・?!
そしてこの作品に欠かせないのは“音楽”。
タイトルの「OPUS(オーパス)」というのはまさに“作品”のこと。
クラシック楽曲などで目にする「Op.」はこのOPUSの略なのです!
たとえばベートーヴェンの弦楽四重奏Op.131のように・・・。
(登場する数々の楽曲の中でもこちらの曲は作品の軸となります。
公式サイトにて視聴できますよ♪)
戯曲のト書きにも
“対話の中の短い間は音楽における休符のように”
“四人による独白は、次々に交代していく声そのものが音楽となるように”
セリフにも音楽的指示が!
というのも、この戯曲の作者マイケル・ホリンガーは劇作家でありながら
ヴィオラ奏者でもあるのです!
彼の実体験にも基づくのかな?そんな妄想も。
音楽を奏でるように紡いできたカルテットの絆、
個の才能か調和か、楽器を奏でるハーモニーと人間関係のアンバランスが
絶妙のさじ加減で描かれる「OPUS/作品」。
芸術の秋のスタートはこちらの作品で!
【みなさんの楽器がお似合いです!】
おけぴ取材班:chiaki(撮影/文)監修:おけぴ管理人